消えない炎
森の中。
現れた五人の黒服。
誰も笑っていない。
誰も慌ててもいない。
まるで
私たちを探していたみたいに。
ルークの表情が変わる。
昨日までの優しい顔じゃない。
鋭い。
怖いくらいに。
「お前たちか。」
低い声だった。
黒服の一人が笑う。
「久しぶりだな。」
その瞬間。
ルークの魔力が揺れた。
私は思わず息を呑む。
怒ってる。
ものすごく怒ってる。
◇ ◇ ◇
アレンさんが前に出る。
「知り合いか。」
ルークは答えない。
代わりに。
黒服が言った。
「白猫の生き残り。」
静かな声。
「まだいたとはな。」
空気が凍る。
ミルちゃんが不安そうに私を見る。
私は動けない。
胸がざわざわする。
嫌な感じ。
すごく。
嫌な感じ。
◇ ◇ ◇
黒服は続けた。
「探したぞ。」
「始まりの白猫。」
その言葉に。
レオンさんの目が細くなる。
アレンさんも警戒を強める。
でも。
私は意味が分からない。
「始まりの白猫?」
黒服が私を見る。
そして。
笑った。
気持ち悪い笑顔だった。
「覚えていないのか。」
「……。」
「まあいい。」
そして次の言葉。
それが全ての始まりだった。
「お前たちの里はよく燃えた。」
静寂
風が止まる。
鳥の声も聞こえない。
「何百もの悲鳴。」
「逃げ惑う獣人。」
「実に――」
「黙れ。」
ルークだった。
今まで聞いたことのない声。
怒り。
殺気。
悲しみ。
全部混ざっていた。
でも。
黒服は止まらない。
「泣きながら逃げる子供もいたな。」
私は固まる。
「白い猫耳の。」
ドクン。
心臓が鳴る。
『走れ!!』
頭の中。
誰かの声。
炎。
煙。
泣き声。
『ティナ!!』
ルークの声。
『振り返るな!!』
◇ ◇ ◇
「やめて。」
気付いたら呟いていた。
誰も動かない。
黒服だけが笑う。
「思い出したか?」
「やめて。」
胸が苦しい。
息が出来ない。
怖い。
悲しい。
苦しい。
全部。
全部。
戻ってくる。
◇ ◇ ◇
ドクン。
地面が揺れる。
ミルちゃんが顔を上げる。
「え……?」
風が吹く。
いや…
風じゃない。
私の魔力だった。
木々が揺れる。
地面に亀裂が走る。
空気が震える。
レオンさんの顔色が変わった。
「まずい。」
アレンさんも気付く。
「ティナ!」
◇ ◇ ◇
私は止まらない。
止められない。
涙が出る。
『助けて』
誰かの声。
『怖い』
誰かの泣き声。
『逃げろ』
炎。
崩れる家。
知らないはずの景色。
なのに。
悲しい。
苦しい。
◇ ◇ ◇
「やめろぉぉぉ!!」
その瞬間。
空が光った。
ゴォォォォォ!!
炎。
風。
雷。
氷。
土。
水。
光。
聖。
八つの魔力。
全てが暴れ始める。
黒服たちの顔から余裕が消えた。
「なっ……!」
「なんだこれは!?」
地面が崩れる。
木々が倒れる。
誰にも止められない。
◇ ◇ ◇
その時。
ルークは敵を見なかった。
ティナを見た。
「ティナ!!」
叫びながら走る。
敵ではなく。
私の方へ。
アレンさんも同時だった。
「ティナ!!」
二人とも。
敵なんて見ていない。
守りたいものは一つだった。
◇ ◇ ◇
私は泣いていた。
子供みたいに。
いや…
子供だった。
まだ六歳。
本当は。
強くなんかない。
怖かった。
ずっと…
怖かった。
その時。
ぎゅっ。
誰かが抱き締めた。
ルークだった。
「もういい。」
優しい声。
震えていた。
でも。
優しかった。
「もう終わった。」
アレンさんも頭を撫でる。
「大丈夫だ。」
「ここにいる。」
「一人じゃない。」
◇ ◇ ◇
暴れていた魔力が少しずつ静まる。
風が止む。
雷が消える。
光が薄れる。
私は泣きながら二人の服を掴んだ。
離れたくなかった。
怖かったから。
◇ ◇ ◇
少し離れた場所。
黒服たちは恐怖した顔で私を見ていた。
「まさか……」
震える声。
「本当に……」
誰かが呟く。
「始まりの白猫……」
その瞬間。
レオンさんの表情も変わった。
初めてだった。
王国最強の魔法使いが。
恐怖ではなく。
確信した。
ティナはただの獣人じゃない。
何かが始まろうとしていた――




