表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/34

猫の里

翌朝。

私は少し早く目が覚めた。

窓から朝日が差し込んでいる。

「……。」

昨日のことを思い出す。

ルーク。

白猫の里。

『妹』

そして。

なぜか懐かしかった声。

「なんなんだろう……」

私はベッドから降りた。

◇ ◇ ◇

朝食後。

私たちは昨日と同じ丘へ向かった。

風が気持ちいい。

王都が遠くに見える。

ルークはすでに待っていた。

「おはよう。」

「おはよ。」

少しだけ自然に言えた。

ルークも少し驚いていた。

たぶん。

昨日までの私なら、

もっと警戒していたから。

◇ ◇ ◇

全員が揃う。

ルークが静かに話し始めた。

「白猫の里は王国の地図には載っていない。」

私は首を傾げる。

「秘密の場所?」

「ああ。」

「白猫の獣人は珍しい。」

それは知っている。

街でもほとんど見たことがない。

「だから外から隠れて暮らしていた。」

私は静かに聞く。

「小さな里だった。」

ルークの目が少し遠くを見る。

「春になると花が咲く。」

「夏は川で遊ぶ。」

「秋は皆で果物を採る。」

「冬は暖炉の前で話をする。」

その話を聞いているだけで。

なんだか温かかった。

まるで。

本当にそこにいたみたいに。

◇ ◇ ◇

「ティナは。」

ルークがこちらを見る。

「毎日何かやらかしていた。」

「えっ。」

ミルちゃん

「今もだよ。」

「違うよ!?」

アレン

「いや。」

レオン

「同意する。」

「なんでみんなそっち側なの!?」

◇ ◇ ◇

ルークは笑った。

「木に登って落ちたり。」

「うっ。」

「川に落ちたり。」

「うっ。」

「迷子になったり。」

「うぅっ。」

ミルちゃん爆笑。

「今と全く同じ!!」

「成長してるもん!!」

全員。

「どこが?」

ひどい。

◇ ◇ ◇

しばらく笑った後。

ルークの表情が少し変わった。

「でも。」

静かな声。

「皆、お前が好きだった。」

私は顔を上げる。

風が吹く。

ルークは優しく笑った。

「よく笑う子だったからな。」

胸が少し温かくなった。

知らないはずなのに。

なぜか嬉しい。

◇ ◇ ◇

そして。

ルークの表情が曇る。

私はすぐに分かった。

大事な話になる。

「ある夜。」

誰も喋らない。

「里が襲われた。」

風の音だけが聞こえる。

「炎だった。」

「悲鳴だった。」

「誰も何が起きたか分からなかった。」

ルークは拳を握る。

少しだけ。

震えていた。

「俺はお前を連れて逃げた。」

私は黙って聞く。

「本当は。」

「皆を助けたかった。」

「でも無理だった。」

その声は。

今までで一番苦しそうだった。

◇ ◇ ◇

その瞬間。

私の頭の奥で何かが揺れる。

暗い夜。

炎。

誰かの声。

『走れ!』

『ティナ!』

『振り返るな!』

一瞬。

本当に一瞬だけ。

映像が浮かぶ。

「っ!」

私は頭を押さえた。

「ティナ!?」

ミルちゃんが慌てる。

アレンさんも近付く。

私は呼吸を整える。

大丈夫。

大丈夫。

でも。

涙が少しだけ出た。

「なんで……」

覚えていない。

はずなのに。

悲しい。

とても悲しい。

◇ ◇ ◇

ルークはゆっくり近付いた。

でも。

触れない。

ただ少し離れた場所で止まる。

「無理に思い出さなくていい。」

優しい声だった。

「忘れたなら。」

「それでもいい。」

私は顔を上げる。

ルークは笑った。

少しだけ寂しそうに。

でも。

どこか安心したように。

「今のお前は笑っている。」

「それで十分だ。」

◇ ◇ ◇

帰り道。

私は少しだけ考えていた。

覚えていない。

でも。

一つだけ分かる。

ルークは嘘をついていない。

そして。

本当に私のことを大事に思っている。

だから。

私は小さな声で言った。

「……ルーク。」

「ん?」

私は少しだけ照れる。

なんだか恥ずかしい。

でも。

言いたかった。

「また話聞かせて。」

ルークは一瞬固まった。

それから。

本当に嬉しそうに笑った。

「ああ。」

「いくらでも。」

その時だった。

レオンの表情が変わる。

アレンも同時に振り返る。

「……?」

私が首を傾げた瞬間。

ルークが前に出た。

いつもの優しい顔ではない。

鋭い目。

張り詰めた空気。

「隠れているのは分かっている。」

低い声。

森の奥へ向けて。

「出てこい。」

風が吹く。

そして。

木々の間から。

黒い服を着た人影が現れた。

その人数。

一人じゃない。

二人でもない。

五人。

私は思わず息を呑む。

ルークの目が細くなる。

そして小さく呟いた。

「やはり来たか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ