迷子と黒ローブ
王都に来てから三日後。
「暇。」
私は宿のベッドに転がっていた。
ミルちゃんは朝から王都観光。
リリアナさんは貴族のお仕事。
アレンさんはレオンさんと話があるらしい。
結果。
暇。
「暇だなぁ。」
ごろごろ。
ごろごろ。
ごろごろ。
そして五分後。
「出かけよう。」
即決だった。
◇ ◇ ◇
王都の大通り。
「おぉぉぉ!」
何回見ても凄い。
人がいっぱい。
店がいっぱい。
食べ物もいっぱい。
私は串焼きを買った。
美味しい。
幸せ。
「王都最高。」
その時だった。
「ティナちゃーん!!」
遠くから声が聞こえた。
私は振り返る。
ミルちゃんだった。
「ミルちゃーん!」
手を振る。
すると。
ドンッ。
誰かとぶつかった。
「あっ!」
私は慌てて謝る。
「ごめんなさい!」
しかし。
相手は何も言わなかった。
黒いローブ。
深く被ったフード。
顔が見えない。
なんとなく嫌な感じがした。
私は一歩下がる。
相手は静かに私を見ていた。
いや。
見られている気がした。
数秒。
沈黙。
そして。
「……やっと見つけた。」
低い声。
私は首を傾げた。
「誰?」
相手は答えない。
ただ。
私を見ている。
不思議だった。
怖いというより。
なんだろう。
初めて会った気がしない。
そんな感じ。
「知り合い?」
聞いてみる。
すると。
黒ローブは小さく笑った。
「お前は覚えていないか。」
「?」
ますます分からない。
その時。
「ティナ!!」
今度はアレンさんの声だった。
私は振り返る。
アレンさんが走ってくる。
珍しく焦っていた。
レオンさんまでいる。
「どうしたの?」
私が聞いた瞬間。
二人の顔色が変わった。
黒ローブを見たからだ。
レオンさんが低い声で言う。
「離れろ。」
「え?」
「ティナ。」
今度はアレンさん。
「こっちに来い。」
いつもより真剣だった。
私は少し戸惑う。
黒ローブを見る。
アレンさんを見る。
レオンさんを見る。
「……?」
私だけ何も分からない。
黒ローブはため息をついた。
「相変わらずだな。」
「知ってるの?」
私は聞く。
すると。
黒ローブはゆっくり手を伸ばした。
私は反射的に身構える。
でも。
その手は優しかった。
頭を撫でようとするみたいに。
「大きくなったな。」
その言葉に。
なぜか胸が少しだけ苦しくなった。
知らないはずなのに。
知らない人のはずなのに。
懐かしい。
そんな感覚。
そして次の瞬間。
レオンさんが魔法陣を展開した。
「それ以上近付くな。」
周囲の空気が張り詰める。
王都最強の魔法使い。
その本気の警戒。
周囲の人たちも異変に気付いて離れていく。
でも。
黒ローブは全く動じない。
ただ静かに言った。
「安心しろ。」
そして。
初めて。
ティナへ向けて微笑んだ。
「私は敵じゃない。」
その言葉と同時に。
風が吹く。
フードが少しだけめくれた。
見えたのは。
白い髪。
そして――
ティナと同じ…
猫の耳。
「……え?」
私は目を見開いた。
黒ローブの人物は…
私と同じ獣人だった。




