初めてのお祭り
「ティナちゃーーーん!!!」
朝から家の中に元気な声が響く。
私は布団にくるまりながら小さく呻いた。
「んん……?」
バンッ!!
勢いよく扉が開く。
「今日お祭りだよ!!」
ミルちゃんだった。
目がキラキラしている。
私はまだ半分寝ぼけながら聞き返した。
「……お祭り?」
「そう!!年に一回のお祭り!」
ミルちゃんはぴょんぴょん跳ねる。
「屋台いっぱい出るし!夜は花火魔法もあるんだよ!!」
「花火魔法……?」
なにそれ気になる。
すると後ろからアレンさんがため息をついた。
「朝からうるせぇ……」
「だって楽しみなんだもん!」
ミルちゃんがむっと頬を膨らませる。
私は少し笑ってしまった。
◇ ◇ ◇
夕方。
街はすっかりお祭りムードだった。
色とりどりの布が飾られ、屋台が並び、人の声で賑わっている。
「わぁ……!」
私は思わず目を輝かせた。
すごい。
いつもの街なのに全然違う。
「ティナちゃんこっちこっち!!」
ミルちゃんが手を引っ張る。
「あっ、待って!」
屋台からはいい匂いが漂ってくる。
焼き串。
甘いお菓子。
色の付いたジュース。
全部初めて見るものばかりだ。
「な、何これ……!」
「食べるか?」
アレンさんが焼き串を差し出してくる。
私は恐る恐る受け取った。
一口食べる。
「……!!」
おいしい。
すごくおいしい。
思わず耳がぴこんっと動いた。
ミルちゃんが固まる。
「……動いた。」
「え?」
「耳!!」
「へっ!?」
ミルちゃんが大爆笑する。
「ティナちゃん耳ぴこってした!!」
「うそっ!?」
私は慌てて耳を押さえる。
すると今度は尻尾までふわふわ揺れていた。
「し、尻尾も!?」
「わははは!!分かりやすっ!」
アレンさんまで笑ってる。
「も、もう!笑わないでよ!」
恥ずかしい。
でも二人が楽しそうで、なんだか私も笑ってしまう。
◇ ◇ ◇
「次あれやりたい!!」
ミルちゃんが指差したのは、“魔法すくい”と書かれた屋台だった。
水の中を光る小さな玉が泳いでいる。
「魔法で動いてるんだ。」
私は興味津々で覗き込む。
「ティナちゃん絶対得意じゃん!」
「いやいや、絶対壊すって。」
私の魔法は加減が危険だ。
店のおじさんが笑う。
「大丈夫大丈夫!壊れても気にすんな!」
「それ余計怖い!」
私は恐る恐る網を持つ。
そっと。
本当にそっと。
「……ミニアクア。」
ぽちゃん。
水が優しく動く。
光る玉がふわっと集まった。
「おおー!!」
周りから拍手が起こる。
私はほっと息を吐いた。
「成功したぁ……」
アレンさんが小さく笑う。
「ちゃんと調整できてるじゃねぇか。」
その言葉が少し嬉しかった。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
街の中心へ来た時だった。
人が多い。
少し息苦しい。
その時。
ドンッ。
誰かと肩がぶつかった。
「っ……!」
男の人だった。
一瞬で身体が強張る。
怖い。
頭の中がざわざわする。
知らない男の人。
大きな手。
低い声。
「悪い。」
ただそれだけ。
本当にただぶつかっただけなのに。
身体が勝手に震えた。
「ティナ。」
隣から声がする。
アレンさんだった。
私はハッと顔を上げる。
「大丈夫か。」
低くて落ち着く声。
私は少しだけ息を整える。
怖い。
でも。
大丈夫。
「……うん。」
まだ少し怖いけど。
前みたいに呼吸ができなくならなかった。
アレンさんは何も言わず、そっと私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
その優しさが嬉しかった。
◇ ◇ ◇
「ティナちゃん!!」
今度は女の子たちに捕まった。
「髪結んでいい!?」
「耳かわいい!!」
「えっ!?ちょっ……!」
気付けば私は椅子に座らされていた。
リボン。
小さな花飾り。
白い耳の横に可愛い飾りが付けられていく。
「わぁ〜!絶対似合う!」
「や、やめてぇ……」
恥ずかしい。
でもみんな楽しそうだ。
最後に鏡を渡される。
「どう!?」
私は鏡を見て固まった。
「……えっ。」
結構可愛い。
白い髪に小さな青いリボン。
耳にも花飾りが付いている。
すると。
後ろからアレンさんの声。
「……似合ってる。」
「っっ!!」
私は一気に顔が熱くなった。
「アレンさんまで!?」
ミルちゃんが爆笑する。
「ティナちゃん真っ赤ー!!」
「うるさいっ!!」
周りまで笑い出す。
恥ずかしい。
でも。
嫌じゃなかった。
◇ ◇ ◇
夜。
祭りも終わりに近付いていた。
人々が空を見上げる。
次の瞬間。
ヒュゥゥゥ……
ドォォォンッ!!
夜空に光が広がった。
「わぁ……!!」
私は目を輝かせる。
赤。
青。
金色。
魔法で作られた花火が空いっぱいに広がる。
すごい。
綺麗。
耳や尻尾に色んな光が映る。
私は夢中で空を見上げた。
すると隣から声がした。
「……楽しそうだな。」
アレンさんだった。
私は笑いながら答える。
「うん!!すっごく楽しい!」
その瞬間。
アレンさんが少しだけ目を細めた。
まるで安心したみたいに。
私はまた空を見上げる。
この世界へ来た時は怖かった。
一人だった。
でも今は違う。
隣には大切な人たちがいる。
私は夜空の花火を見ながら、小さく笑った。




