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もう隠さなくてもいい

朝。

窓から入る光で目が覚めた。

「ん……」

私はゆっくり起き上がる。

昨日は久しぶりによく眠れた気がする。

怖い夢も見なかった。

……少しだけ。

私は小さく息を吐いて、部屋の隅に置いてあるフードを手に取った。

白い耳を隠すための、大きめのフード。

この街へ来てから、ずっと被っていた。

私は鏡を見ながら耳を押さえる。

「……よし。」

そう言って被ろうとした時だった。

コンコン。

「ティナ、起きてるか。」

アレンさんの声。

「起きてるー!」

扉が開く。

アレンさんは私の手の中のフードを見ると、少しだけ目を細めた。

「……もう被らなくていい。」

「……え?」

私は固まった。

「で、でも……」

「もう皆知ってる。」

その瞬間。

心臓がドクンッと大きく鳴った。

「っ……」

知られてる。

獣人だって。

白猫だって。

私は一気に顔が青くなる。

(どうしよう……)

怖い。

嫌われるかもしれない。

気持ち悪がられるかもしれない。

私は無意識に耳を押さえた。

するとアレンさんが静かに言う。

「誰もお前を嫌ったりしねぇよ。」

「でも……!」

「大丈夫だ。」

低い声。

でもすごく落ち着く声だった。

「……俺が保証する。」

私は不安のまま、小さく頷いた。

◇ ◇ ◇

「ティナちゃん早く行こー!!」

ミルちゃんが元気よく手を引っ張る。

今日は久しぶりのお出かけだ。

でも。

私はずっとそわそわしていた。

耳が見えてる。

尻尾もある。

街の人に見られる。

怖い。

私はアレンさんの服をぎゅっと掴んだ。

するとアレンさんが少しだけ歩く速度を落とす。

「緊張してるか。」

「……うん。」

「無理なら戻るぞ。」

私はその言葉に首を振った。

「……行く。」

怖いけど。

逃げたくない。

アレンさんは小さく「そうか」と呟いた。

そして街へ入る。

いつも通り賑やかな通り。

人が多い。

声が響く。

私は反射的に耳を伏せた。

すると――

「あら、ティナちゃん!」

パン屋のおばさんが笑顔で手を振ってきた。

私はびくっとする。

でもおばさんは普通だった。

「もう体調大丈夫なの?」

「え……あ、うん……」

「よかったわぁ。」

おばさんはにこにこ笑う。

耳を見ても。

尻尾を見ても。

何も変わらない。

私は目をぱちぱちさせた。

その時。

「ティナー!!」

子供たちが走ってきた。

「耳ほんとに白い!」

「ふわふわ!!」

「尻尾もあるー!!」

「わっ!?ちょ、ちょっと!」

一気に囲まれる。

私は困ってアレンさんを見る。

でも。

アレンさんは少し笑っていた。

「人気者だな。」

「他人事!?」

ミルちゃんが大爆笑する。

「ティナちゃんモテモテ〜!」

「違うからぁ!」

恥ずかしい。

でも。

怖くない。

誰も嫌な顔してない。

むしろみんな楽しそうだった。

◇ ◇ ◇

その後、私たちは冒険者ギルドへ来ていた。

ガヤガヤとうるさい。

大きな男の人たちがたくさんいる。

私は少し緊張してアレンさんの後ろへ隠れた。

すると。

「おっ。」

ごつい冒険者のおじさんがこっちを見る。

私はビクッと肩を震わせた。

でも次の瞬間。

「お前がティナか!」

「っ……!」

大きな声。

怖い。

私は尻尾を丸める。

するとおじさんが慌てて頭を掻いた。

「あー!悪ぃ悪ぃ!怖がらせたか!」

周りの冒険者たちが笑う。

「お前声デカいんだよ!」

「泣かすなって!」

私はきょとんとする。

すると別の冒険者が腕を組みながら言った。

「アレンの嬢ちゃん攫った奴ら、もうかなり捕まってるらしいぞ。」

「次来ても今度は俺らがぶっ飛ばしてやる。」

「安心しろ。」

「ちゃんと守ってやるからな。」

私は目を見開いた。

守る。

その言葉に胸が熱くなる。

でも。

同時に少し不安になる。

私は小さな声で聞いた。

「……怖くないの?」

「ん?」

「その……耳とか……」

周りが一瞬静かになる。

やっぱり変だったかな。

そう思った瞬間。

おじさんが本気で不思議そうな顔をした。

「何が?」

「え……」

「耳だろうが尻尾だろうが、ティナはティナだ。」

その瞬間。

胸の奥がぎゅっとなった。

あったかい。

涙がじわっと滲む。

「お、おい!?なんで泣く!?」

「お前絶対また怖がらせた!」

「だから声デカいって!」

周りが慌て始める。

私は涙を拭いながら笑った。

「ち、違うの……!」

嬉しかった。

すごく。

私はずっと怖かった。

知られたら嫌われると思ってた。

隠さなきゃいけないと思ってた。

でも。

ここには――

受け入れてくれる人たちがいた。

すると。

ぽんっ。

頭に手が乗る。

アレンさんだった。

私は少しだけビクッとする。

でも。

怖くない。

アレンさんの手だって分かったから。

「……よかったな。」

優しい声。

私は涙を拭きながら、小さく笑った。

「……うん。」

帰り道。

私はフードを被らなかった。

風が吹いて、白い耳が揺れる。

でも今日は隠したいと思わなかった。

隣にはアレンさんとミルちゃんがいる。

街の人たちが笑って手を振ってくれる。

その光景が嬉しくて。

私は小さく呟いた。

「……なんか、あったかい。」

その声に、アレンさんが少しだけ笑った気がした。

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