(48)協力要請
「そういうわけで、まず周りから固めようかと思ったのだ。幸い、ソニア殿がサーフィア姫ではないかと疑っていた時に、リンダとライルの存在を知ってな。咄嗟にそれらしい理由を付けて、城で勤務させるように仕向けた。それで追々真相を探りながら、渡りをつけようと思っていたのだが、例のライルに酷似した人物の肖像画が明らかになったからな。あれで確信したというわけだ」
「それでまず形から入って、追々きちんと口説こうと思っておられるわけですか」
「それは分かりましたが、それはそれで先が長い話ですわね」
難しい顔になった二人に、エリアスは冷静に説明していく。
「確かにそうだが、現実として父上がうるさかったのでな。それを口実に、ソニア殿に名目上の結婚を申し込んだ。もちろんそれだけでは面倒ごとを嫌う彼女が引き受けてくれるとは思えなかったから、先にリンダ殿を巻き込んだ。更に、それを暴露した上で詳しい事情を説明せずに結婚を申し込んで、ソニア殿を怒らせた。そうすれば短慮な妹の行為の尻拭いと、話も聞かずに私を叩き出した負い目から、彼女が妥協して引き受けてくれるだろうと踏んだのだ。幸い、目論見通りになった」
そんな主君の思惑を聞かされたアレクシスは、ここで思わずといった様子で愚痴めいた呟きを漏らした。
「せめて俺には事前に話をしておいて欲しかったというのは、贅沢な望みでしょうか……」
「敵を欺くには、まず味方からと言うだろう?」
「その一言で片づけますか……」
がっくりと項垂れた息子を横目で見ながら、ギデオンが問いを発する。
「事情は了解いたしました。それでは激怒した陛下がノイエン殿と入れ替わりに私を派遣することになったのも、殿下の思惑通りだったのですか?」
「ああ。『気心の知れたお前に、性根をたたき直して欲しい』とでも言われたのだろう?」
「そんなところですね。これを知ったら、陛下がなんと仰るやら」
何とも言えない表情になった夫の横で、エミリーも考え込みながら告げる。
「微妙ですわね。陛下はお亡くなりになったジェイコブ陛下とは、親しく交流しておられましたもの。その反動で、例のラルグ子爵を蛇蝎の如く嫌っておられましたから」
「だが今回ラルグ子爵が出奔して正式に家を取り潰すことになったのだし、清々されただろう」
「ソニア殿も、内心では同様なのではありません?」
「そうかもしれんな」
夫婦でのやり取りが一区切りついたところで、エリアスが改めて申し出た。
「ソニア殿の身元を公にしないため、この事実を知る人間を最小限にしたい。その上で、全面的に私に協力する者が欲しかったのだ。どうだ? ソニア殿と首尾よく結婚できるよう、私に協力してはもらえないだろうか?」
それを聞いたギデオンたちは、一瞬顔を見合わせてから了承の返事をした。
「仕方がありませんね。今まで数多くのご令嬢を勧められても、頑として応じなかった殿下であれば、この先も彼女以外の女性と結婚するとは考えにくいです。本気で結婚する気になっていただけたのなら、願ってもありません」
「私も同じ気持ちですわ。できる限りの協力をいたします。ですが殿下。今の話を、陛下にお伝えするつもりはないのですか?」
そう問われたエリアスは、首を横に振った。
「いまのところ、その考えはない。彼女の異母兄の印象が悪すぎる上、今更亡国の王女との縁組みなど、何の益があると突っぱねかねないからな。余計なことを知らせる必要はあるまい」
「確かに、その可能性がないとは言い切れませんわね」
そこでエリアスは、沈鬱な表情のアレクシスに声をかけた。
「そういうわけだ。お前にはむしろ、感謝して欲しいのだがな。横から余計な者達にリンダ殿をかすめ取られないように、私が身柄を確保したようなものだぞ?」
「ですがこの場合、私は殿下の愛人を口説くような、とんでもない不忠者という立場になるのですが!?」
「そのくらいの誹謗中傷は甘んじて受けろ。そもそも、ぐずぐずしているお前が悪い」
「好きでぐずぐずしていたわけではありませんよ!」
憤然とした表情の息子を見て、ギデオンとエミリーが含み笑いの表情で述べる。
「ほほう? それはそれは。リンダ殿がそうなのですか……」
「ますます面白い事態になっておりますのね。アレクシス、いろいろ話を聞かせてもらうわよ?」
余人が知り得ないところで、エリアスがドルナー一家の全面的な協力を得たことで、事態はますます混迷の度を深めていくのだった。




