(47)エリアスの主張
「サーフィア姫が魔女だとすると、その魔力は母方から受け継いだと考えるのが妥当だ。代々のリベルス王族が、魔力持ちだった記録は皆無だからな」
それを聞いたエミリーが、真顔で後を引き取る。
「それで、そのマリーエ様が記憶操作の魔術などを使えたのなら、殿下の推測に合致しますわね。出奔する際に念には念を入れて、城中の者の自分たちに関する記憶を消し、記録も改竄したと考えれば筋が通ります」
そこでギデオンが問いを発した。
「先ほどの第三王女と第二王子の生誕年月日の記録が読み取れない状態になっていたという話ですが、さすがに城内の使用人も、二人の年頃は覚えていたでしょうな?」
「聞き取りをした結果、今年で第三王女は十九か二十、第二王子は十二か十三のはずだ」
「ほう? それはそれは……」
「ちょうどその年頃の姉弟を、どこかで目にしたような気がしますわね」
エリアスの話を聞いた夫婦は、含みのある笑みを浮かべた顔を見合わせる。するとアレクシスが、何かに気づいたように慌てて会話に割り込んだ。
「……え? あの、ちょっと待ってください! まさか殿下はリンダとライルがソニア殿の妹と弟で、旧リベルス王家の王女と王子だとでも言うつもりですか!?」
「それ以外にどう聞こえるというんだ」
「アレクシス。あなた本当に、殿下のお役に立てているの?」
両親から呆れ果てたと言わんばかりの眼差しを向けられたアレクシスだったが、彼はそんなことには構わないまま問いただした。
「殿下! どうして今までそのことを私に話してくれなかったんですか!?」
半ば責められたエリアスは、それに平然と言い返した。
「お前に話した後でギデオンに話すと、二度手間になって面倒だったからだ」
「ちょっと酷くありませんか!?」
「それに加えて、お前がその話を聞いて、それまでと同じようにあの二人と接することができるとは思えなかった。ギデオンが来ていろいろ言い含められたから、それ以降、少々態度がおかしくなったと周囲にそう認識されれば、面倒が少なく済むだろう」
「それに関しては、否定できませんが……」
指摘されたアレクシスは、微妙に悔しそうな表情で口を閉ざす。あっさりと側近を黙らせたエリアスは、冷静に話を進めた。
「マリーエ殿に関しては疑問がある。これまでリンダとライルから聞いた話だと両親が存命で夫婦仲が良く、共に傭兵稼業で国内外を行き来しているそうだ。話しぶりが自然だったし、まったくの嘘とも思えない。マリーエ殿が傭兵と再婚したのか、それともマリーエ殿が傭兵夫婦に子どもたちの養育を依頼したのか、現時点では不明だ。他の可能性もあるかもしれないが」
それを聞いたギデオンたちは、揃って納得しかねる顔つきになった。
「マリーエ殿が、魔術を使って傭兵をしていると?」
「側妃になっていた方が? どちらかというと、傭兵夫婦に子どもを養子に出したというほうが納得できますが」
「私もそう思う。それで魔力があったサーフィア姫に幼い頃はマリーエ殿が魔術を教え、出奔後は先代の《深き森の魔女》が引き取って魔術を教えたと考えれば、話の筋が通らないか?」
そこでエリアスが同意を求めると、二人は先ほどとは違って苦笑いを浮かべた。
「それは殿下が以前書き送ってきたように、二百年以上生きている《深き森の魔女》が、人知れず何人も入れ替わっているという殿下の仮説が正しければの話ですが」
「なかなか楽しい推測ですわね。殿下がここまで想像力豊かだったとは、予想外でしたわ」
そこでアレクシスが、少し前から疑問に思っていたことを口にした。
「殿下。今の話を、私たちに聞かせた理由は何でしょうか?」
「お前たちに事情を知らせた上で、私がソニア殿と結婚できるよう協力して欲しいからだ」
それを聞いたアレクシスが、うんざりしたような顔つきになる。
「ますます意味不明です。彼女と結婚すると言い出したから、大騒ぎになっているんですよ?」
「あくまでも便宜上の結婚だ」
「それでは、どうして便宜上の結婚をしようと思ったのですか?」
「出奔後、出自を隠して《深き森の魔女》として周囲と必要最小限の接触しかしていなかった彼女に結婚を申し込んだとして、すんなり受けてくれると思うか?」
エリアスが問い返すと、息子が答える前にギデオンとエミリーが遠慮のない意見を述べる。
「無理でしょうな。迷惑以外の何物でもありませんし、見た目が老婆の自分に本気で結婚を申し込むのは、頭がおかしいか変な性癖持ちなのかと誤解されそうです」
「一見、相手に不自由しない殿下が相手では、余計に不審がるのではありませんか? 以前会った時に一目惚れしたとか言われても、私だったら余計に胡散臭く感じますわ」
それを聞いたエリアスは、思わず苦笑いした。
「二人の言うとおりだ。それに本人に出会った時の話をしたのだが、まったくの無反応だったからな。あれはどう見ても、私のことを覚えていないとしか思えないし……」
「おやおや。殿下は子どもの頃は、それほど印象に残らない存在でしたかな?」
「自分で仰るほどの大怪我ではなかったかもしれませんわね」
「二人とも、止めてくれないか」
二人に笑われてしまったエリアスは苦笑を深めたが、すぐに真顔になって話を続けた。




