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深き森の魔女は、ただ静かに暮らしたい  作者: 篠原皐月


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37/37

(37)説得、もしくは丸め込み

「ノイエン。私が結婚相手に望む条件は何だと思う?」

 唐突に問われたノイエンは、本気で困惑しながら思うところを述べた。


「そう言われましても……。殿下の相手として相応しいと思われる出自であり、見劣りしない容姿をお持ちの、同年代の女性でしょうか?」

「普通に考えればそうだな。だが生憎と、私はそのようなことを重要視してはいない」

「そうでございますか。すると、どのような事を基準にお考えなのでしょうか?」

「一緒にいると心地良いというか、安らぎを感じる相手だな。そういうものは、出自とか容姿などとは関係があるまい」

 主君の主張を認めつつも、ノイエンとしては到底「そうですか」と素直に納得できるはずもなかった。


「それは確かにそうでしょうが、それでどうして相手が魔女殿になってしまうのでしょうか。最近、良く魔女殿のお住まいに通われているのは存じていますが、まさか魔女殿に変な魔法でもかけられたわけでは」

「ノイエン様。今の発言は、おばば様に対して失礼です。第一、こんな唐変木を誑かして、おばば様に何の得があると仰るんですか」

 自分の台詞に被せながら非難の声を上げたライルに、ノイエンが溜め息交じりに告げる。


「ライル……。言葉遣いは丁寧かもしれないが、言っている内容に容赦がないぞ」

「暴言を吐かないだけ、自制していると思ってください」

「確かに先程のノイエンの台詞は、ソニア殿に対して失礼極まりなかったな。部下に代わって謝罪しよう」

 ここでエリアスが、神妙な面持ちで会話に割り込んだ。しかしライルは、主君の台詞を容赦なく切って捨てる。


「結構です。それよりも、おばば様と結婚するとかの妄言を撤回していただければ、事は済みます」

「随分と風当たりがきついな。ソニア殿の結婚相手として、私はそんなに不服か?」

「……不服とか満足とか、そういう話をしているんじゃないんですがね!?」

「だから落ち着けと言ってるだろ!」

「気持ちは分かるが、もう少し冷静に!」

 再び苛ついて声を荒らげかけたライルの両側から、同僚達が腕や身体を押さえにかかる。彼の周囲で一気に緊張感が増す中、エリアスは落ち着き払ってノイエンに問いを重ねた。


「それほど、悪い話でもないと思うのだがな。ノイエン、考えてもみろ。私が高齢の魔女と結婚すると宣言したら、本国の父上はどう考えると思う?」

 そこでノイエンは、必死の面持ちで主君に訴えた。


「どうもこうも! 殿下の気が触れたか、何か怪しげな術でもかけられたのかと思って、激怒されますよ!! 殿下の補佐役として付き従ってきた、私の監督責任も問われます!」

「それだ」

「何がです!?」

「恐らく、お前は事情聴取のために本国に召還されて、最悪役職を解かれる。しかし職務上で失態を犯したわけではないので、あからさまに責任を問われる事態にはならないはずだ。お前はこの間、本国に帰還したがっていただろう?」

「いえ、あの……、それは確かにそうですが」

 さり気なく言及されたノイエンは、若干怯みながら言葉を返した。そんな彼に、エリアスが畳みかける。


「今年に入ってから国元で初孫が生まれて、細君が帰国したがっていると言っていたではないか。先日も、遠回しに父上に他者への交代を申請しても、『もう少し私に付いていてくれ』と断られたと言っていただろう?」

「ですが、それとこれとは……」

「私に付き従って、もう軽く二年は過ぎた。領内でも大きな軋轢はなくなっているし、この辺りで戻っても良いだろう。この間、本当にご苦労だった」

「…………」

 真摯にこれまでの苦労を労い、頭を下げたエリアスを見て、ノイエンは困惑しきった表情で口を噤んだ。そんな部下に対し、エリアスはなおも言い聞かせる。


「それにお前の処遇については、兄上が配慮してくれるはずだ」

「はい? どうして王太子殿下がそのような事を?」

 兄弟間の微妙な距離感を熟知していたノイエンは、本気で戸惑った顔つきになった。しかしエリアスは、淡々と話を続ける。


「私が高齢女性との結婚を望んでいると知ったら、兄上やその周囲が爆笑するのに決まっている。そして真相を知るために、お前の身柄を確保するように動くはずだ。だから父上を宥めて、間違っても投獄などさせないだろう」

「お待ちください。その場合、王太子殿下にはどのようにお話すればよろしいのですか?」

「何も悩むことはなかろう。私が本気でそう望んでいると告げれば良い。私が本格的におかしくなったと思えば、向こうは私が脅威にならないと安心だろうし、相手が高齢であれば後継者を望めないから尚のことだ。違うか?」

「確かに、その通りでございますね……」

 真剣な顔つきでノイエンが考え込み、他の者達も迂闊に口を挟めずに事の成り行きを見守る。しかしライルだけは、このまま傍観するつもりはなかった。





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