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深き森の魔女は、ただ静かに暮らしたい  作者: 篠原皐月


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24/31

(24)人の振り見て我が振り直せ

 妹達が押しかけて来た翌日。午前中、リンダが家の前で薪割りに勤しんでいる間、ソニアとライルはテーブルに書物を広げて調べ物をしていた。すると集中力が途切れたライルが、何気なく問いを発する。


「ところで姉様。あの人達、今度はいつ頃来ると思う?」

 そこで顔を上げたソニアは、怪訝な顔つきになりながら答えた。


「『あの人達』って……、殿下達のことよね? さあ……、どうかしら? 最近では五日から十日くらいの間隔を空けて来ていたけど……」

「これまでの傾向だよね?」

「そうね。あくまでも、これまでの傾向に過ぎないわね……」

 真顔で確認を入れてきた弟に、ソニアは溜め息交じりに言葉を返す。するとここで、壁に掛けてある鏡が聞き慣れた音を奏でた。ソニアがうんざりした顔つきで立ち上がり、鏡に向かって歩み寄る。ライルもその後に続くと、予想通りエリアスとアレクシスの姿が鏡に映し出されていた。


「予想以上に早かったわね」

「この場合、アレクシスさんが押しかけて、ストッパー役として殿下が付いて来たって感じかな?」

「……お茶の準備をするわ」

 自分の姿を老婆のそれに変えたソニアは、どこか疲労感を漂わせながら台所へと向かった。それを見送ったライルは、ゆっくりと玄関に向かう。そして扉を押し開けると、少し離れた所からリンダの金切り声が響いてきた。


「ちょっと!! この状況で、何を考えてるのよ!? 馬鹿じゃないの!?」

 ライルが声がした方に視線を向けると、アレクシスが一抱えもある常識外れの大きさの花束を次姉に差し出しつつ、何やら喋りまくっていた。加えて、彼から少し距離を取ったエリアスが、うんざりした表情で佇んでいるのを確認したライルは、彼らに向かって歩きながら呼びかける。


「殿下! アレクシスさん! ようこそ! 今、おばば様がお茶を準備していますので、どうぞ中にお入りください!」

 それを聞いたエリアスは、安堵したように微笑んで応じた。


「やあ、ライル。ありがとう。お邪魔するよ」

「あ、私は彼女と積もる話があるので、お構いなく」

「私は話なんかないわよっ!! ふざけんな!!」

 どうやらリンダを口説く気満々のアレクシスは、満面の笑みで断りを入れてきた。それに腹を立てたリンダが斧を放り出して家に入る気配を察したライルは、すかさずそれを制する。


「姉さん、薪割りが終わったら休憩して良いよ。それまで頑張ってね」

「はぁ!? ライル、あんた何言ってんのよ!」

「だってゆっくり休憩したいし。そういう事ですから、殿下は中にどうぞ」

「分かった。アレクシス。お前も頃合いを見て、きちんとソニア殿に挨拶するように」

「心得ました」

「この裏切り者!!」

 嬉々として頭を下げたアレクシスと、憤然として叫んだリンダを放置して、エリアスはライルに歩み寄った。そして並んで、家に向かって歩き出す。


「騒々しくて申し訳ない。朝一で押しかけて騒ぎ立てそうだったので、宥めながら付いて来たのだが」

「でもおばば様から聞きましたけど、殿下も運命の相手と思った女性を、白昼堂々往来で拉致しようとしたんですよね? そっちの方が余程問題じゃないですか?」

 ライルがさらっと口にした内容を聞いて、エリアスは思わず声を荒らげた。


「ちょっと待ってくれ!! 何だその拉致というのは!? 人聞きが悪すぎないか!?」

「あれ? 要約すると、そういう話じゃなかったのかな?」

「大幅に違うぞ……。ソニア殿は、君に一体どんな話をしたんだ……」

 がっくりと肩を落としたエリアスを見て、ライルは笑い出したいのを堪えた。しかし何とかいつもの表情を保ちながら、素朴な疑問を口にする。


「それはともかく、あんな大きな花束を抱えて馬に乗ってくるとか、大変じゃないんですか?」

「ああ、まあ……、なかなか大変だと思うぞ? リンダ殿のような女性だと、感動するより引かれそうだから止めておけと忠告したのだが、全く聞く耳持たなくてな」

 途端に渋面になったエリアスが、愚痴っぽく告げる。そんな彼を見上げながら、ライルは真顔で告げた。


「殿下。一つ失礼な事を言っても良いですか?」

「うん? それは構わないが、何かな?」

「サーフィア王女に関する事だと結構暴走していたようですし、鏡に映った自分の姿を見ているようだとか思いませんか?」

 それを聞いたエリアスは思わず足を止め、まじまじとライルを見下ろした。対するライルも真剣な面持ちのまま彼を凝視していると、エリアスの方が視線を逸らしながら控え目に述べる。


「…………反省するべきところは、反省しようと思う」

「さすが殿下。ご立派です」

「君のような少年に面と向かって意見されると、少し情けなくなってくるな」

「別に馬鹿にしていませんよ? 本当にそう思ってますからね?」

「ああ、分かっている。ありがとう」

(こんな年下に失礼な事を言われたら、大抵の人間は怒らないまでも気を悪くすると思うけど、なかなか度量が広い人みたいだな)

 微笑んで頷いてみせたエリアスに対して、ライルは心の中で好感度を上げた。


「殿下、どうぞお座りください。今、片付けますから」

 二人が家の中に入ると、ソニアがテーブルの書物を閉じて重ねているところだった。それを見て、エリアスが何気なく尋ねる。


「申し訳ない。何かしていた最中だったのか?」

「ちょっとライルに、計算や測量や帳簿の付け方などのおさらいをさせておりました。この子は基本的に、一度頭に入れたら忘れない賢い子ですから大丈夫かとは思いましたが、本格的に職探しをする前にきちんと身についているか確認しようと思いまして」

「は? どうしてそんな事を?」

「自活のために働きますので。いつまでもおばば様の世話になるわけにはいきませんから」

 当惑顔になったエリアスは、ライルの説明を聞いて慌て気味に問いを重ねた。


「ちょっと待ってくれ。確か昨日『当面ここに滞在する』とか言っていたが、自活するとはどういうことだ? 第一、君は今現在何歳だ?」

「十二歳です。それが何か?」

「いや、それが何かって……、少々自活するのが早すぎないか? 親はどうした。もしかして亡くなられたのか?」

「どちらもピンピンしています。元気が良すぎて、正直ウザいんですよ」

「はぁ?」 

 益々困惑を深めたエリアスに対し、ライルは両親の身元を綺麗に隠しつつ、これまでの放浪癖と傍迷惑なバカップルぶりを語って聞かせた。ついでとばかりにソニアには報告しなかったエピソードの数々もぶちまけると、ソニアは勿論、エリアスまで額を押さえながら溜め息を吐く。


「あの二人は……、本当に未だに、行く先々で何をしているのやら……」

「なるほど……。それで早期の自立を目指して、日々努力していたのだな」

「物心つく前から頻繁に国外に出ていましたので、三カ国語は読み書き会話に不自由していません。計算とかも隊商を両親が護衛する時に、担当者に教えて貰って大体の所は分かります。親が時々ご領主様に雇われた時には、難しい税収の計算とか測量とかも教わって手伝ってましたし」

 ライルの説明を黙って聞いていたエリアスは、ここで鋭く問いを発した。


「二人とも。今、頭に入れた内容を確認していたと言ったな? どんな内容だ?」

「どんな、と言われても……。例えば、このような内容ですが……」

 一気に顔つきを険しくした彼に、ソニアは(何事?)と訝しく思いながらも、手元にあった本を差し出して広げた。その内容をざっと目にした彼は、真剣な面持ちのまま再度尋ねてくる。


「随分と難易度の高い算術書だが、これはソニア殿の持ち物か?」

「ええ。長く生きておりますと、色々な分野に興味を持つものでしてね。これは暫く前に手に入れて、ある方に手ほどきをして貰ったのです。それをライルが小さい頃に教えて、偶に来る度に徐々に難度の高い内容を教えていたら、これくらいはできるようになりまして」

(本当の事を言うと、これを入手したのは何代か前だけどね。私は前半くらいしか理解できなかったけど、ライルは独学で、しかも最後まで内容を理解してしまったし)

 しらばっくれながらソニアが告げた瞬間、エリアスが勢いよく立ち上がった。そして踵を返しながら声高に叫ぶ。


「二人とも、少し中座する! すぐに戻るから待っていてくれ!」

 そのまま外に走り出て行く彼の背中を、二人は呆気に取られながら見送った。


「何事?」

「さあ……」

 弟と怪訝な顔を見合わせたソニアは、何となく嫌な予感を覚えた。





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