(23)姉弟達の意思統一
「そういうわけで、私の偽者を見破るのを頼まれたから、無事に役目を果たしたのよ。それを契機に、殿下はあの傍迷惑な元国王一派を、徹底的に粛正したところみたいね。これまでの出来事を掻い摘まんで話してみたけど、何か質問はある?」
かなりの時間を要したものの、ソニアはエリアス達と遭遇してから現在までの一部始終を、妹と弟に語って聞かせた。話の途中から平常心を保つのが困難になった二人は、姉に問われても半ば呆然としながら呟く。
「ごめん、姉さん……。情報量が多すぎて、何が何だか……」
「姉様が王女時代に殿下と面識があって、それが相手は運命の相手だと思っていて、異母姉が殿下に迫った挙げ句に嵌められて、実は異母兄が母さんを手籠めにしようとして返り討ちにされていて、そんな奴に愛想を尽かした有力貴族の皆さんに侵攻を手引きされて、殿下が姉さんを諦めてなくってお触れを出して、その結果偽者が現れて、それが異母兄の手下の仕業とか……」
唖然としている二人を眺めたソニアは、思わず感じたことをしみじみとした口調で告げる。
「それにしても……、私達が全員、別系統の見た目で助かったわ。二人が私と激似の容姿だったら、さすがに殿下に怪しまれたと思うし」
そこで二人は我に返ったように、真顔で頷いた。
「確かにそうよね。顔立ちもそうだけど、髪と目の色も見事にバラバラだし。並んで立っていても、血の繋がった兄弟って思われないものね」
「親に一番似ているのは、姉さんだよね。顔立ちは母さんで、髪は父さんと同じ赤銅色だし。姉様の紫の瞳は父方の祖母譲りとは聞いているけど、銀髪は誰に似たのかな? 僕は父さんと同じで目は緑だけど、髪は金髪だから違うし顔立ちも似てないよね?」
「二人とも、話を戻して良い? 今まで話した内容について、聞きたいことがあれば答えるけど」
さり気なく再度ソニアが確認を入れると、リンダが真顔で問い返してきた。
「それじゃあ、姉さん。これからどうする気? まさか今更『実は元王女です』とか、名乗り出ないわよね?」
「当たり前でしょう。そんなことをして、私にどんなメリットがあるのよ?」
「だって殿下はなかなかの筋肉の持ち主だし、顔は良いしお金も持っているだろうし、結婚してあげても良いんじゃない?」
どこか茶化すように笑顔で促してきた妹に、ソニアは冷ややかな視線を向ける。
「……それなら、あなたが結婚してあげたら?」
「魔術で姉さんの姿にして貰ったら、それもありかしら?」
姉達の、どこまで本気か分からない台詞に苛立ったライルが、面白くなさそうに苦言を呈する。
「姉様、姉さん。この状況下で冗談は止めてくれないかな。ちょっとイラッとしてきた」
「え? 半分本気だけど?」
「ね え さ ん?」
「……はい、ごめんなさい」
へラッと軽く笑ったリンダを、ライルが眼光鋭く睨み付けた。同時に恫喝してきた弟の気迫に圧されたように、リンダがしおらしく頭を下げて謝罪の言葉を口にする。そんなやり取りを目の当たりにしたソニアは、一瞬目を見張ってから、笑いを堪える口調で尋ねた。
「あら? ライル。暫く会っていない間、攻撃魔術の精度を上げたの?」
その問いかけに、ライルは淡々と言葉を返した。
「攻撃魔術は大して上達していないけど、防御魔術に分類されるものでも、運用次第で敵にダメージを与えるのは可能だよ? 姉さん相手に実践済みだから」
「有効活用しているようね。自学自習は大事だわ」
「そういうこと」
「姉さんったら、他人事だと思って……」
「それはともかく、姉様がここまで対応を誤るとは思わなかったな。そもそも最初の時に、殿下とアレクシスさんの記憶操作をすれば済んだ話だったんじゃない?」
脱線しかかかった話を元に戻しつつ、ライルが冷静に指摘してくる。それにソニアは、溜め息を吐いてから答えた。
「それは考えないでもなかったけど、記憶操作は不得手だから、積極的に行使する気にはなれなかったのよ。下手に精神に働きかけて、異常をきたしたらまずいでしょう。何と言っても、今現在、この国の君主だもの」
「まあ確かに万が一の事態になったら、絶対騒ぎになるよね」
「相談を受けるうちに、城の中でも《深き森の魔女》の名前が出るのは必至だし、その時点で殿下達の記憶をいきなり消したら、怪しまれるのは確実だもの」
「それも良く分かる。だから惚れ薬云々の話を持ち込まれた段階で、何も知らぬ存ぜずで押し通して、追い返せば良かったのに。怪しげな縁談をでっち上げる策なんか出すから」
「だって……、一応、血縁関係がある人間が迷惑をかけていると聞いて、何となく申し訳ない気分になってしまって。それに加えて、子どもの頃散々いびられた相手だから、全く庇う気も同情する気にもなれなくて、余計に腹が立ったものだから……」
自分から微妙に視線を逸らしながら弁解する長姉を見たライルは、小言を言いたいのをぐっと堪えて話を続けた。
「起こってしまったことは仕方がないよ。問題はこれからどうするかだから。まず第一に、母さんに連絡が取れるようになったら、十二年前に何かしなかったか確認してみよう。それから多人数相手の記憶操作ができるかどうかも、確認した方が良いよね」
「そうね……。もし可能だったら、殿下の《サーフィア姫》に関する記憶や、城にいる大勢の人間から《深き森の魔女》の記憶を無くしてしまえば、事は簡単よね」
「ライル……、あんたやっぱり冷静ね」
ソニアは難しい顔で考え込みながら、弟の言葉に頷いた。リンダが感心したようにライルに声をかけたが、彼は素っ気なく首を振る。
「そうは言っても、これは成功の可能性は低いからね。さすがに関わっている人が多すぎると思う。そうなると、今後の《深き森の魔女》がどうするかにかかってくるんだけど」
「『どうする』というのは?」
「姉様が、サーフィア王女本人であるのを公表しないのは決定事項だけど、殿下達とこのまま交流を続けていくつもりなのかを聞いてる」
真顔で問われたソニアは、幾分迷いを含んだ口調で告げる。
「それは、まあ……、少しばかり困った事態になるような可能性はあるけど、別に害はないし、今更拒絶するのも怪しまれそうだしね……」
常日頃とは異なり、妙に神妙に述べるソニアを見て、リンダとライルは一瞬目を見交わした。しかし余計な事は言わずに、結論を口にする。
「分かった。それなら、これからもそのつもりでいるよ。殿下達が来る時には、完璧に《おばば様》への接し方をするから安心して」
「全く……、こうなったら仕方がないわね。色々心配だから、しばらくの間ここにいて様子を見ることにするわ。勿論《おばば様》への対応で通すから大丈夫よ」
「ライルに関しては信頼しているけど、リンダは戻って良いわよ?」
「酷っ! 姉と弟を心配しているのに、面と向かってそんなことを言うわけ!?」
「日頃の行いって大事だよね」
「ライル! あんたねぇっ!」
そこで堪えきれずにソニアとライルが笑い出し、釣られてリンダも苦笑の表情になる。そんな風に三人は結構深刻な話題を、最後に笑顔で締めくくった。




