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深き森の魔女は、ただ静かに暮らしたい  作者: 篠原皐月


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20/35

(20)弟妹襲来

「お二方と初めてお会いしてから早いもので三ヶ月程が経過いたしましたが、どうして最近では週に一度程度の頻度でこちらに出向かれているのでしょうね?」

 例によって例の如く、山ほどの手土産持参で押しかけてきたエリアスとアレクシスにお茶を出しながら、ソニアは疲労感満載の溜め息を漏らした。それを見たエリアスが、苦笑交じりに告げる。


「厚かましくて申し訳ないが、ここに来ると落ち着くのでな」

「仮にも一国の君主たる方が、こうも頻繁に茶を飲むだけに遠出をするのはどうなのでしょう。政務が滞って、アレクシス様を初めとする臣下の方々がお困りではありませんか?」

 そこでソニアは話にならないとばかりに、視線をアレクシスに向けた。すると彼は、満面の笑みで頷いてみせる。 


「その辺りはご心配なく。必要な事はしっかり片付けてから、出向いておりますので。寧ろ気晴らしに連れ出さないとグチグチ五月蠅い上に仕事が捗らないので、最近では『さっさと行ってこい』と送り出されています」

「……そうでございますか」

「今回も色々とお礼の品を持参したが、他に必要な物があれば遠慮なく言ってくれ」

「はぁ……、いえ、生活必需品であれば、ありがたく頂きますので……」

 太っ腹なことを口にするエリアスに、ソニアは引き攣り気味の笑顔を返した。


(なんだか、なし崩し的に定期的に顔を合わせる羽目に……。かと言って、急に出入り禁止にしたら不審がられるだろうし……。どちらも、基本的に悪い人ではないみたいだしね)

 ソニアは色々と諦めながら、気を取り直して話を続けた。


「そう言えばアレクシス様、最近体調はどうですか?」

「おかげさまで快調ですし、よく眠れています。面倒な案件が、立て続けに解決しましたし。これも魔女殿のおかげです」

「それは何よりでした」

 そんな風に和やかな雰囲気で会話を続けていると、いきなり乱暴に玄関の扉が開け放たれたと思ったら、突拍子もない声が室内に響き渡った。


「おばばさまぁ――っ! 元気ぃ――っ! まさか、ポックリ逝っちゃってないわよねぇ――っ!」

「おばば様、お久しぶりです。急にお邪魔して申し訳ありません」

「…………」

 エリアスとアレクシスが何事かと振り返ると、その視線の先に二十歳前後の美女と、十代前半かと思われる少年が存在していた。彼らは思わず無言になって二人を凝視したが、それは新たな登場人物である二人も同様だった。


「……誰?」

「え? あれ?」

 怪訝な顔で二人が動きを止めたのを見たソニアは、心の中で絶叫した。


(あんた達!? よりにもよって、どうしてこんなタイミングで現れるのよっ!? あれほど、こっちに来るときは事前に連絡をよこせと、これまでに散々! いえ、そんなことよりも、この場をなんとか誤魔化さないと!!)

 内心の狼狽を必死に押し隠しながら、ソニアは玄関に立ち尽くしている二人を盛大に叱りつける。 


「リンダ! ライル! 騒々しいし、失礼ですよ! こちらにいらっしゃるのは、アルテリア王国第二王子でリベルス大公でもあられる、エリアス・ルード・アルテリア様です。それでこちらが、エリアス殿下の側近であられるアレクシス・ドルナー様です。静かになさい!」

 一気に言い切ったソニアは、次いで顔つきを改めてエリアスに向かって神妙に頭を下げた。


「殿下。お騒がせして申し訳ありません。親に早く死なれたこの二人の母親を私が引き取って育てた関係で、彼女が出産後、忙しい時などはこの子達を良く預かっておりました。それで私のことを、祖母のように慕ってくれているのです。今日は久しぶりに、顔を見せに来てくれたようですね」

 そこで一度話を区切ったソニアは、再び問題の二人に視線を向け、穏やかな口調で促す。


「さあ、二人とも。殿下達にきちんとご挨拶なさい」

(ここまで情報を与えたんだから、下手なことを口走ったりしたら容赦しないわよ!? 分かっているでしょうね!!)

 口調はいつも通りながら、ソニアは眼光鋭く二人を睨み付けた。その視線をまともに受けた女性がおろおろしているうちに、年少である少年の方が真顔で足を進めた。そしてエリアスの至近距離まで来てから、礼儀正しく話しかける。


「エリアス殿下。僕はライル・ケルトナー、こちらは姉のリンダ・ケルトナーです。先程は大変失礼いたしました。勝手知ったる場所だと思い、先客がいて歓談中などとと思いもせず、いきなり入室してしまいました。心からお詫びいたします」

「え、ええと……、リンダ・ケルトナーです。初めまして……」

(ライル、取りあえず大丈夫そうね。それにしてもリンダ……、弟にフォローして貰うとか、あなたも本当に相変わらずね)

 ソニアは冷静な弟の様子に胸を撫で下ろしつつ、弟に続いてやって来た妹に対しては頭痛を覚えた。するとエリアスが、ライルに向かって微笑みながら尋ね返す。


「確かに驚いたが、謝罪するほどではない。私達も、ソニア殿のご都合を伺わずに毎回押しかけているしな。私達は三ヶ月ほど前からこちらを度々訪ねているが、君達は久しぶりなのか?」

「どうしてそう思われるのですか?」

「君達がこの間に来訪しているなら、ソニア殿から私達の話を聞いていると思う。それなら驚かない筈だからな」

 その説明を聞いたライルは、納得したように頷いて傍らの姉を見上げた。


「そうですね。半年ぶり、くらいでしょうか? 姉さん、そうだよね?」

「え? あ、そ、それくらいだわね。確かに。色々仕事が忙しかったし」

「仕事? 失礼だが、何の仕事をされているのか、聞いても良いか?」

「傭兵です」

「……そうか。それはなかなか大変だな」

 リンダが身につけている男物の服と長剣は用心のための飾りかと思っていたエリアスは、一瞬言葉に詰まった。そこでライルは、唐突に話題を変える。


「ところで、殿下はおばば様の名前をご存じなのですね。普段は魔女殿とか魔女様とか呼ばれているので、少し驚きました」

「他にも魔女と呼ばれる人はいるだろうし、きちんと区別をつけて呼びたいと言って、教えて貰ったのでな」

「……へえ? そうですか。珍しいですね」

 事もなげにエリアスが語った瞬間、ライルが妙に思わせぶりな視線をソニアに向ける。それを見た彼女は、内心で悲鳴を上げた。


(ちょっとライル! 何、その変な目つきは!? これ以上変に事態を拗らせたりしないでよ!?)

 いきなり混沌としてきた事態に、ソニアは本気で頭を抱えたくなった。



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