(18)発覚
「二人を待たせているのは、この謁見室だ。私は奥の扉から入るので、ソニア殿はこちらの扉から中の様子を窺って欲しい。ここからは判別が困難で二人に近づきたいのなら、そう言って貰えればアレクシスに合図させる」
一つの扉の前で足を止めたエリアスは、振り返って告げた。それにソニアは真顔で頷く。
「分かりました。それではアレクシス様は、私と一緒におられるのですね?」
「はい。よろしくお願いします」
それでソニアはアレクシスとその場に留まり、エリアスはそのまま廊下を進んだ。そしてすぐに角を曲がり、姿が見えなくなる。そのまま少し待機してから、頃合いを見計らってアレクシスが動いた。
「そろそろ良いですね。少しだけ扉を開けます」
「お願いします」
彼が慎重に細く扉を開け、ソニアに場所を譲る。その隙間から彼女が室内を覗き込むと、まず二人の男女の後ろ姿が目に入った。その奥には、三段上に据えられた豪奢な椅子に座ろうとしているエリアスが目に入る。
(あれか……。確かに銀髪よね。目は紫色だろうし、さて、どうかしらね)
頭の中で算段を立てたソニアは、アレクシスに視線を向けて一応断りを入れた。
「それでは、できるだけ慎重に探ってみますが、気取られたら実力行使でよろしいですね?」
「全面的にお任せします。要所要所に人員を配置しておりますので、ご心配なく」
「助かります」
力強く頷き返したアレクシスを見て、ソニアは安堵しながら視線を室内に戻した。そしてローブのポケットから、用意しておいた五本の縄を取り出す。それと同時に、彼女はゆっくりと自分の魔力を床に這わせるようにして展開させていった。
その間に椅子に座ったエリアスは、目の前に立っている男女に声をかけた。
「ケイオン殿、ユリア殿、お待たせして申し訳ない」
「滅相もありません。お呼びとあらば、いつでも参上いたします。しかしながら城下での滞在がこうも長引いてしまっては、幾ら滞在費が大公様持ちだとしても色々と支障がございまして。そろそろ地元に戻りたいと思うのですが……」
「ああ、それは尤もだ」
神妙な面持ちながらも、ケイオンがどこか上目遣いで探るように告げた。それを受けて、エリアスが真顔で頷いてみせる。次いで隣に立つユリアに視線を向けた。
「ユリア殿にも、ご迷惑をおかけしている」
「いえ、迷惑とは思っておりません。ただ、私のような銀髪に紫の瞳の人間を探している理由は何かと、不思議に思っておりまして。その辺りをご説明いただければ幸いです」
「そうだな。確かに当事者としたら、知りたいのは当然だ」
ユリアも控え目に頷きながらも、さり気なくお触れを出した理由に言及し、あわよくば元王女だとの言質を取りたいのがうっすらと察せられた。それを不快に思ったエリアスが、僅かに眉根を寄せる。そして二人には分からない程度に、彼らの背後に見える扉に視線を向けた。
一方のソニアは、この間慎重に二人の魔力や魔術の有無を探っていたが、顔つきを険しくしながらアレクシスに報告する。
「アレクシス様、やっぱり魔術師です」
「殿下の勘働きは、本当に無視できない……」
アレクシスは半ば呆れ、半ば感心しながら溜め息を吐く。その直後、ソニアは焦り気味の声を出しながら、手にしていた縄を扉の隙間から室内に放り投げた。
「っ! 気付かれた! いきます!!」
「誰だ!? うおぁっ!?」
何やら異常を察したらしいケイオンが、血相を変えて背後を振り向いた。しかしソニアが勢いよく放った縄が、蛇のように滑りながら瞬く間に彼の首、両手首、両足首に絡みついて締め上げる。
「大人しくしなさい!! 抵抗するなら窒息死させますよ!?」
「ぅぐぁぁっ!」
「えぇえぇぇぇっ! 何っ!?」
扉を大きく開け放ちながら、ソニアが大声で警告する。それと同時にケイオンが呻き声を上げ、自らの全身が淡い光を放ち始めたユリアが狼狽した声を上げた。その直後、光が薄れていくと共に、彼女の髪と瞳の色が褐色と緑色に変化していく。
「……あらあら、見事に変わりましたねぇ」
「魔術で外見を変えているとはいえ、堂々と殿下の前に出てきて嵌める気満々とか、なかなか肝が太い女だな」
彼女の変化を目の当りにしたソニアとアレクシスは、落ち着き払って室内に足を踏み入れた。
「それでは行きますよ?」
「はい。魔女殿、念のため警戒してください」
「ええ」
悶絶して床に転がっているケイオンと、驚愕のあまりへたり込んでいるユリアの所に、二人が警戒しながら足を進めた。エリアスも同様に椅子から立ち上がり、ソニア達に向かって歩み寄る。
「ソニア殿、助かった。ご足労いただいた甲斐があったな」
それを聞いたソニアは、憮然としながら言葉を返した。
「本心を言えば、無駄足になった方が良かったのですが。このような一部の不心得者のために、善良な魔術師が世間から色眼鏡で見られるのが、本当に腹立たしいです」
「お気持ちは良く分かる。ところで、これはどういうことになっているのだ?」
「………っ、ふぅっ、………うぐっ」
足下に転がっているケイオンを見下ろしながら、エリアスが淡々と尋ねた。それにソニアが真顔で答える。
「この男の魔力を封じつつ、窒息をギリギリで回避する状態にしてあります。尋問をご希望なら首の拘束を緩めますので、ご指示ください」
「そうか。因みに、この魔力封じはどの程度持続する?」
「私が解除しない限り、半永久的に持続します。私以上の魔力保持者が解除魔術を施せば、解放されるとは思いますが」
「なるほど。それではソニア殿。話をできる程度に首のあれを緩めてくれ」
「畏まりました」
頷いたソニアが、早速ケイオンの首の拘束を若干緩めた。エリアスはその間に二人を見下ろしながら、周囲に集まってきた騎士達に命じる。
「さて、お前達には色々と聞きたい事があるのでな。こいつらを牢に連行しろ。後で尋問する」
「はい。お任せください」
「さあ、立て!」
「くそ! もう少しだったのに! 貴様のせいで!」
「ちょっと! 何するのよ! 離して!」
問答無用で引きずられて行く二人を、ソニアは呆れ気味に見送った。




