(11)運命の出会い
「いきなりこんな事を言われても、困惑するだろう。順序立てて説明しよう」
「是非ともお願いします」
「私が誕生時に予言を受けたのが、事の発端だ。王家に連なる者が、誕生祝いの会に魔術師を同伴してな。そいつが『この王子は十歳までに命を落としかけるが、運命の相手に命を救われるだろう。王子がその女性を妻にすれば、その国は末永く繁栄するだろう』と予言したんだ」
淡々と語り始めたエリアスだったが、ここで早くもソニアが片手を上げながら申し出る。
「殿下……。お話が始まったばかりで誠に申し訳ありませんが、幾つか指摘してもよろしいでしょうか?」
「ソニア殿、早くも突っ込み所が複数あるのは重々承知している。だが取りあえず、一通り話をさせてくれ」
「……分かりました。拝聴いたします」
微妙に困った顔つきで懇願されてしまったソニアは、神妙に頷いて口を閉ざした。
「それで私は幼少期から、周囲の期待を一身に浴びて成長した。命を落としかける病気や事故などを回避する必要もあったので、衆人環視の中で育ったな」
「それは……、色々と大変でございましたね……」
「それで成長するに従って、更に状況が複雑になってな。単刀直入に言うと、王太子である兄上より私が即位した方が国が繁栄すると、本気で信じるような連中がボロボロ出てきてしまったのだ」
そこまで話を聞いたソニアは、先程懇願されたのにも関わらず、つい疑問を呈してしまった。
「一応、確認させていただきたいのですが。殿下と王太子である兄上とは、生母が異なるのですか?」
「いや、父上には側妃などはいない。同母兄弟だ」
「それであれば、普通なら順当に兄上が後継者と目されると思いますが……」
ソニアが怪訝に思っていると、ここでアレクシスが口を挟んでくる。
「遠慮のないことを言わせていただければ、エリアス殿下の方が判断力、統率力、人望、学力、武術、体格、容姿、全ての点において勝っているんですよ。王太子殿下は悪い人ではないのですが、平々凡々な方なので」
「アレクシス、不敬だぞ」
「なるほど。兄上やその周囲に、妬まれておいでなのですね」
「ソニア殿、少しは遠慮してくれ……」
ソニアが思わず正直な感想を述べ、それを聞いたエリアスは溜め息を吐いて項垂れた。しかしすぐに気を取り直して話を続ける。
「そうこうしているうちに、私は大きな怪我も病気もせずに十歳になった。そんなある日、父と共にリベルス国を表敬訪問することになったのだ。サーフィア姫の父親であるジェイコブ王と父が、互いに即位前から交流を続けていたからな」
「そうでしたか……。因みにその時、兄上は同行されたのですか?」
「国元に残っていた。万が一の時、王家を継ぐ者が絶えてしまう危険性を排除するためにな。他の視察の場合なども同様だった」
「そういう事も、兄上に妬まれた要因なのでは?」
「……否定はしない」
ソニアの指摘にエリアスは気が重くなったが、そのまま説明を続けた。
「リベルス城で盛大に出迎えて貰った後、父上達は早速会談する事になって、私は晩餐会まで部屋で待機するように言いつけられた。しかし一人で大人しく待っているのも退屈で、こっそり窓から抜け出して城内の探索に出かけた。勿論、城内の使用人達に見つからないように、慎重に身を隠しながら奥へと進んで行った」
「窓から抜け出し……、身を隠しながらとか……」
「魔女殿。些細な事は、聞き流しておいた方がよろしいかと」
「些細な事ですか?」
ぼそりとソニアは独り言を呟き、アレクシスが突っ込みを入れる。それには構わず、エリアスは淡々と語り続けた。
「そうしたらいつの間にか、奥のかなり広さがある中庭に到達したのだが、物珍しさで周囲を見回しながら歩いているうちに、何かに躓いて盛大に転んでしまったのだ。更に運が悪いことに、咄嗟に前方に手を伸ばして地面に手をつこうとしたが、その前に大きめの石で額を強打してしまったらしく、意識を失ってその場に倒れ込んだ」
その情景を想像したソニアは、さすがに顔色を悪くしながら問いを発した。
「殿下……、それは本当ですか?」
「にわかには信じられませんし、本当だとしたら間抜けすぎますよね?」
「アレクシス、一々五月蠅いぞ」
顔を顰めながら側近を一瞥したエリアスは、ソニアに視線を戻しながら話を続ける。
「そうしたら、少女が大泣きしている声で意識が戻った。するとその子が『大丈夫? 額が割れてたから、これで治したの』と言って、ペンダントを見せてくれたんだ。それがこれだ」
そこで一旦話を区切った彼は、首筋からネックレスを引っ張り出し、留め金を外して前に押し出した。テーブル上のそれに手を伸ばして軽く触れたソニアは、そこに微かな魔力の残渣を感じ取る。
「これは……、僅かに魔術の痕跡がありますね。おそらく、このペンダントの持ち主が大きな怪我をした場合、回復させるような魔術を仕込んでおいたのでしょう。それがサーフィア姫だったと?」
その問いかけに、エリアスは深く頷いて応じた。
「ああ。その時、彼女も『怪我したときに使うように、お守りとして貰った』と言っていた。それで『他の人に使ったと言ったら怒られるかも。これは無くしたことにするから、内緒にして』と懇願されたので、怪我のことも彼女に会ったことも口外しないと約束して、彼女と別れて部屋に戻ったんだ」
「はぁ……、なるほど」
「その後、晩餐会で国王夫妻と王妃腹の王子と王女と一緒に、当時五歳だった彼女とも顔を合わせたが、お互い初対面の挨拶をして大して話もしなかった。だが、その時に確信した。彼女が私の運命の相手だと」
「そうでございますか……」
すこぶる真顔で語り続けるエリアスとは対照的に、ソニアは顔が引き攣りそうになるのを必死に堪えていた。
(何なのよ、この最初から突っ込み所満載の話は!? 当人の私の記憶が皆無って、どういうことよ!! だけど魔術絡みだし、どう考えても母さんが関わっている筈! この人達が帰ったら、即行で問い詰めないと!!)
詳細な事情は未だ不明ながらも、諸悪の根源が母親だと早くも見当をつけたソニアは、彼女を追及するのを固く決意していた。




