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【第1部完結】しるすにあたわず ー家帰ったら紫式部おったんやがー  作者: 木枯翔陽


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第17話「孤悲のあはれは世捨て人」

 前回のあらすじ


 藤原社に呼ばれた電話は、なんとプロの打診。

 『刑部の乱』の余波が残る中、私は東京へ。その前に佐藤さんにご挨拶をした。佐藤さんは思っていた以上に私の事を好いてくれていた。

 ただ、想像以上に湿り気が……どういうことだってばよ……。

 中原彰子さんの円卓尋問にもなんとかゴール。でもプロなだけあって、すごい厳しい。でも、あたいもうしごと辞めちゃったから負けない!

 全部上手くいく。上手くいっている。そのはずだ……だけどなんだろう。この空しさは。

 漫画家。なんだかんだなれてしまった。

 案外、宿世というものはあるのかもしれない。紫式部が家に転がり込んできたというお粗末な展開によって、まさか人生の方向転換を強制されるなんて。

 まだいまいち実感の湧かないまま、有給消化は終わりを告げた。あまりにも、物事がうまく行きすぎると脳のラーニングが追いつく前に全てが通り過ぎてしまう。結果的に退職金もちゃんと出た。『刑部の乱』の余波は40日のモラトリアムを過ぎた後でも、色濃く残っていたらしく、多くの社員が退職をぶら下げて交渉したり、ボイレコが流行ったりと、見事に上下関係が逆転したようだ。

 その関係で、私が辞めた後に平安商事の悪名を転職サイトとかに書かれるのが怖いようで、退職金も色を付けてくれたようだった。……これねぇ、シビアな問題よな。モラルを損なった上が悪いのか、耐え忍べない下が悪いのか、数学の未解決問題の1つに入れるべき問題よ。


 驚いたのは会社の皆が私に送別会を開いてくれたこと。言い出したのは伊勢谷さんだったけど、平安商事の若手の人がたくさん集まってくれた。半分くらいは社交辞令で出てくれたみたいだけど、半分は一緒に仕事をした人もいた。でも、酒をばかすか飲まされて半ゲロ。

 ただ、漫画家になると言ったときはみんなビビりちらかしていた。身近な人がそうなるのは、半分信じられないものらしい。

 でも、みんな漫画が単行本になった時は買うと酔っぱらいながら言っていた。たぶん半年後にはみんな忘れてるだろうけど、嬉しいよ。でも、サインをくれと無茶振りされるのは困る。しょうがないんで達筆で割り箸の入ってた袋に名前書いといた。それも、なぜか誰かの生ビールに浸かってたけどな! 酒の魔力にギンギンにやられてる。悪魔的だな。


 アホとバカのナイトロフルスロットル送別会は三次会までエントロピーを増大させ、何人かの終電を逃す社員を産み出して終わった。

 そして新たな冒険のため、中原さんとともに、読み切り連載用の原稿を作ってる最中のことだった。1番のファンと認める夕子にも報告した。


「私たちの黄金時代(オウゴン)が帰ってくる! 幻想(ユメ)じゃねぇよな!? すぐ帰郷するね!」


 スマホ越しに聞こえてくる夕子の圧に気圧される私。どこぞの暴走族神(ゾクガミ)か。この知る人ぞ知る名作を読んでいたとは……さすがは夕子。

 式部さんがいなくなってから早、二か月。時は式部さんの語る無常にも進んでいた。

 私の心に空いた大きな穴は、満ち足りた現実を前にしても、未だ埋めるには足りていなかった。


 読み切り連載用の原稿と戦う私に陣中見舞いをすると言ってくれた夕子。

 2人で集まると決めた場所は、かつて式部さんと夕子が初めて顔を合わせた居酒屋『阿国田農場』だ。今回は、お座敷に通されることになった。

 木目が綺麗なローテーブルを座布団が囲っている。夕子があまりにも急に帰郷してきたので平日の夜に集まることに。そのためか、店内の人の気配はなくなっており、店員の方が多いという状態だった。居酒屋にしては静寂が広がり、閑散としていた空間だった。

 このために仕事を昼で切り上げてきた夕子のバイタリティーには頭が上がらない。オマケに旦那を置いて一人で子供連れて帰ってきたという……マジで強い。

 旦那は仕事終わったら、夕子を拾って、実家に合流だそうだ。夕子、半端ないって。


「葵の新たなる門出にカンパイ!」


「カンパーイ」


 私と夕子はグラスを鳴らしながら、半分ほど飲む。仕事を辞めた身で、人ともあまり関わらない生活をしたせいか、お酒に対しての耐性が減った。営業の時よりは酔いやすくなった。

 仕事終わりなのにも関わらず、綺麗に仕上げた綺麗な顔とすらりとした長髪は乱れていない。空色のブラウスと、濃い藍色のタイトパンツに包まれたスタイルはいつ見ても綺麗だ。15年経っても、綺麗な奴は綺麗。

 夕子は飲み干した焼酎のグラスの口を指でなぞりながら、しっとりと話す。


「しっかし、葵。夢叶えちまったんだー。漫画を編集部についでに送ってみたら、漫画家になれちゃうとか。やっぱ葵はなんか他と違うなぁ」


「……たまたまだよ。今でもぶっちゃけ実感沸いてない。今まで趣味でやってたことでお金を稼いで生活していくのは想像できないよ」


「けど、読み切り連載が決まったんでしょ? 私らからしてみれば、そこに行くまででも想像できないよ。もう葵は天の上の人ですよ」


「まだ夕子とは同じ次元にいたい。だえ~とか、鼻水垂らして、変な球体で顔を覆いたくない。私はまだ人間です。断頭台で人間宣言するには、まだ早い」


 生ビールを飲みながら語る私。テーブルに並んだ小皿の料理に手を伸ばしながら、夕子に話していく。

 どこか気分はまだふわふわタイムしてんのよな。


「それに読み切り連載が決まったところでその先はまだ戦いだから気がらくってわけでもないんだよな……」


「厳しいなぁ……正直、好きな事してるから幸せそうには見えるけどねぇ」


「それ言うなら、夕子だって。結婚して、子供がいて、マイホームがあって。幸せそうに見えるよ」


 枝豆を頬張りながら語る私。夕子は驚いたように口を開くと、笑いだした。


「あはは、そっか……案外、お互い、ちゃんと幸せなのかな。私も30になろうとしている節目で、いまさら自分が何者かと考えだしてきたのかなぁ」


「……隣の芝生は青く見えるっていうし、道が違うだけで、幸せの質は均等なのかもね」


「なるほど! 刑部先生は深いこと言いますねぇ?」


「やめち!」


「あはは、あっ、そうだ! 葵にプレゼント買ってきたよ」


 そういうと、夕子は両手で大きな箱を見せる。その箱は、赤い包装紙でラッピングされており、コングラチュレーションと英語で書かれたシールが貼られていた。

 予想もしなかったプレゼントに私は思わず手に取っていた枝豆を落とした。


「こ、これ、どうしたの!?」


「私と旦那から。葵のこれからの活躍を祈ってね。さぁさ、お納めくださいな。お代官様」


「賄賂なの? 賄賂なら貰わないよ」


「あはは、今のうちに、将来の売れっ子作家に恩を売っとこうってのバレたか」


「よしなさい。でも、ありがとう。あけていい?」


「思いっきり破ってやりなさいな!」


 言い方よ。私は受け取ると、包装紙を破いていく。すると———。


「これって? 液タブ!? オマケに結構いいやつじゃん!」


 プレゼントはなんと21.5インチの大画面の液晶タブレットだった。漫画を生業とする人間にとって液晶タブレットは必要な道具。紙で書く人もいるが、私はデジタルネイティブ世代。もはやパソコンやタブレットでイラストを描く時代の漫画家だ。

 正直、本格的に道具を買い揃えていこうと考えていただけあって、思わぬ幸運だ。

 だけども、それ以上に奮発してくれた夕子に申し訳なさが生まれた。


「こ、これ、結構したよね?」


「そんなことは気にしないの! 普段から家事と育児に粉骨砕身してる上に、お前の接待という趣味に全部目を伏せてるんだから半分出せって言ってるから。そうしないと別居だからねって。いやぁ、有刺鉄線のハチマキと迷ったんだけどねぇ……」


「液タブと有刺鉄線って迷う要素ある? 私がマジで暴走族神(ゾクガミ)なるじゃん。やめて」


 漫画のコツ? 簡単(イージー)っスよぉ~とは言えねぇよ。


「あはは、さすがにね? それに葵が漫画家になったんだから、それなりいいものを送ってあげたかったし」


 頬杖を突きながら、ウインクをする夕子。

 お前って奴は本当によ。意外と夕子は旦那を尻に引いてる系か……

 私は液タブの箱を指でなぞりながら、決意を述べる。


「こんなの貰ったら、もう簡単には道を投げ出せないね」


「……葵には私の夢を乗ってけてもらわないと、それに、式部ちゃんの思いも、ね」


「あ」


 そう語る夕子は、テーブルのとある場所を見る。私も釣られて見る。

 テーブルの私の横には、日本酒の熱燗が置かれていた。

 哀愁漂う優しい笑顔で夕子は口を開いた。


「……随分あっさり帰っちゃったけど、今どうしてんのかな」


「今ってのも変じゃない? 紫式部は過去の人。きっと元の時代で『源氏物語』を書き終えて、多分死んでるよ」


「身も蓋もないなぁ。意外と葵さぁ……寂しいとか」


「ぶはっ!?」


 私は思わず生ビールを噴き出した。恥ずかしそうに口を拭く私。


「……夕子ぉ~」


「ご、ごめん! いやさぁ……葵、なーんか、漫画家になってもあんま嬉しそうじゃないじゃん? まだ、今起きてる現実にはっきり出来てないって言うか。なんだか、また一人なったらどっか行きそうな感じしてる。葵はいっつもなんか大事なことを言わないんだよね」


「大事なことって……式部さんがいなくなったこと? 別に何とも……」


「いる時はなんとも感じなかったけど、いなくなると急に寂しさが浮き彫りになって実感しちゃうようになったこと?」


「うぐ!」


 私は胸を押さえる。すると夕子はニヤニヤと続けていく。


「万葉集って読んだことある? 昔の人はよく『恋』をさぁ、孤独に悲しむって書いて『孤悲(こい)』と呼ぶらしいのよ。近くにいると見えなくて、いなくなってから初めて見えることがある。相手の事を大切に思っていたから、いなくなった事が愛情を浮き彫りにするっていうか」


「孤独を悲しむ……それはそうかもね」


 平安人の感性には驚かされるな。

 確かに式部さんがいた時は、まったく感じなかった。でも、いなくなってから、どうしても彼女のいた輪郭をどうにかして残そうとしていたような気がする。

 一人の部屋で『行ってきます』と言ったり、関心も持たなかった式部さんのネット小説を見ようと思ったり、式部さんの考えを自分の事のように言ったりと。

 近くにいた時は何も感じなかった。だけどいなくなってから、やっと彼女の事を

 よく思うようになっていた。言葉にならない、このもどかしさ。

 ———そうか。これが、『孤悲』か……。


 私はやっと思い立った。自分にとって式部さんが大きな存在だったことに。

 そういうと残りの生ビールを一気に飲み干した。


「ぷはぁ……案外、私って『あはれ』なのかな」


 しみじみと天井を見る。すると、夕子は鼻で深く息をつくと、呟いた。


「大丈夫。『あはれ』なのは、葵だけじゃないよ。昔から。1000年経っても人間変わらんて」


 ●


 夕子との飲み会を終えて帰途に就く私。あまりにも嬉しかったのか、年端も無くオールをかましてしまった。夕子はアラサーだというのにカラオケで大はしゃぎして、後半は寝ていた。旦那に怒られながら、車に乗り込む彼女の背中は哀愁が漂っていた。

 2人とも末永く幸せになってくれ。


 夕子を見送った私は、飲み会の締めであるカップラーメンを買いにマックスバリューへと寄り、我が城ワンルームマンションへの帰途に就いた。

 もうすでに朝の5時だ。夏の朝にもなれば日の出も早い。この時間はうっすら涼しいくらいのどこか褪せた太陽の光が見えていた。

 寝ぼけ眼をこすりながら、我が城ワンルームマンションの一番隅っこの扉に手をかける。

 鍵を開けて、扉を開けた。


「ただいまー」


 何度やっても学ばない私。もう式部さんはいないのに、ね。

 ———なんで。

 私はマイバッグを床に放り投げて立ち尽くす。


「なんで……」


 全てが上手くいっている。桓騎将軍がいれば、思わず上手くいきすぎて妖艶な笑みを浮かべるほどに。

 仕事を辞めた。

 ハゲ上司と生意気な後輩の搾取から抜け出した。

 やっと満足いく漫画が描けた。

 それが編集部に認められた。

 ———そして、夕子が言ってたように、『世捨て人』になれた。


 世俗に塗れることなく、己の善意と悪意に向き合い、他者の陰の感情を掬い上げ、形にしていく人々。決して他者に触れられない聖域。

 それを守る人・『世捨て人』。正直、ニートって言われても仕方ない。

 でも、好きなことをして、誰にも左右されないように生きていたいって思ってたんでしょ?

 紫式部、あなたは。でも一人は寂しかったんでしょ?

 若人の一番楽しい時期を過ごせなくて、やっと結婚して幸せになれたと思いきや、それを奪われて、今は『源氏物語』に苛まれているあなた。

 俗世の幸せはきっと合わなかった。狂うことにした。でも———。


『孤独を悲しむ』


 その感情はぬぐい切れなかったんでしょ。いかれてても、狂ってても、それでも孤独にだけは耐えられなかったんでしょ?

 その孤独の辛さを知ってるあなたが———。


「今さぁ、式部さんのおかげで、全部うまく行ったんだよ。こんなのもう他にないくらい」


 あなたは人を『あはれ』っていう。だけどそれは。


「今が一番いい時だよ。今が一番楽しい時だよ」


 あなたにも言えること。


「今、ストゼロ決めなきゃ、いつ決めるんだよ……」


『この雪明りのたおやかな逢瀬に』


 私は玄関だというのに、座り込んだ。その両目には、涙が零れていた。

 蓋を開けて———、開けっぱなしでどっかいった式部さん。どうして———。




「こんな一番楽しい時に……なんでいないんだよ……!?」




 会社の飲み会も夕子にも喜ばれたことも、佐藤さんとも新しい関係を築けたことも、全部お酒の肴にしたら絶対面白い。

 でも、式部さん、あなたはいない。


 ———どうせならいてよ。一緒に喜んでよ。ざまぁみろって言ってよ。


 『これであなたも晴れて世捨て人ね! 今日はいとうれしきね!』


 とか……馬鹿みたいに飲んで、一緒に二日酔いになってよ。

 お願いだからいてよ。

 ———いてよ……。


 嘆く私。

 だけども、宿世は無常であり、無情。願って叶うなら誰も悲しまない。

 ———。

 ——。

 —。


 はらり。

 一瞬、耳に入る物音に、私は『はっ』と意識が戻る。

 ———誰か、いる?

 ゆっくりと、顔を上げる。そして、キッチンの向こうの部屋を見た。

 誰もいない。いないと思った。

 その時だった。


「葵、帰ってきたのね。おかえり」


 私はしばらく茫然としていた。

 えっ? なんで? いや、なんで? 帰ったのでは? スランプ解決してるんじゃ? はっ? えっ? はっ? なんでいる? なぜ?

 でもそこには、十二単を着た女性が1人。平均的な人より小柄な体型で、まるで一つの羽織のような黒漆の髪。

 間違いなく、あの平安の世捨て人。

 状況を呑み込めてきた私は、ぞわぞわと表情を変えていき、そして叫んだ。


「なんでいるの!?」


 驚愕の表情で、式部さんを指差す私。すると、式部さんは恥ずかしそうに頭を掻いて答えた。


「いやぁ~、また行き詰りましてねえ。人間、上手くいかないものね。『源氏物語』最後まで書けるやろ~とか思い立って、記してみたものの、あれやこれやの有象無象でまた物語の行く末が見えなくなってしまったのよ……」


「またスランプかよ! でもなんかそれはちょっとわかる!」


 作家だもんね。一回スランプ直っても、また必ずスランプにはなるものだ。

 いや、そんなことはどうでもいい———。

 私は靴を脱ぎ捨てると、式部さんの小柄な体を思いっきり抱きしめた。高級そうな絹の着物のおかげがすごく滑らかな抱き心地。

 式部さんは豆鉄砲を食らったかのように硬直していた。


「あ、葵?」


「この平安陰険ラノベ作家め……勝手にどっか行きやがってさ……式部さんのせいで、私仕事辞めて、漫画描くことになったんだよ! 世捨て人になっちゃったんだから……」


 式部さんを抱きしめて泣く私。すると式部さんは全てを悟る様に私の体を抱きしめ返して、そっと微笑んだ。


「よかったじゃない。なれたんでしょ。漫画家。案外、世捨て人も慣れると悪くないわ」


「やだ、腐りそう。式部さんみたいに」


「随分と非礼な言葉ね……でも、げにーわ。葵。私が千代ったことも無駄ではないということね。おめでとう。葵」


「ありがと……それよりさ」


 私は式部さんから離れて告げた。


「式部さん、なかなか渋い匂いするね。畳の匂いというか、線香の匂いというか」


「……お香って言いなさいな。葵も負けてないわよ。お酒を浴びた匂い。相変わらず葵はいとをかしだわ。せっかくまた会えたのに、その話題だなんて」


「ふふ、興ざめかな。じゃあ気を取り直して、カンパイでもする?」


「……それもそうね。このいとうれしきのめでたき日に、飲まないなんて罰が当たるものね。スサノオがアマテラスに岩戸の間で粗相を犯したように」


「相変わらず分かりづれぇな」


「……この機に葵も日本書紀を嗜むべきよ。後で一緒に読みましょ」


 式部さんの日本書紀ネタには相変わらず理解が追い付かない。というか、なんでもかんでも日本書紀にしないでくれ。

 私は冷蔵庫にあるストゼロを2つ取り出す。そして片方を式部さんに渡した。


「はい。開けられる?」


「ふふ、あまりあなづらないで。一度平安に帰ったとしても、記憶までは無くならない」


 すると式部さんは器用にストゼロの缶を開けた。どうやら現代の知識はまだあるようだ。

 缶を持つ私と式部さん。そして。


「この朝ぼらけの、いと涼やかにたおやかなる逢瀬に」


「乾杯」


 私と式部さんはストゼロ缶を重ねた。

 見事に仕事を辞めた現代のOLと行き詰る宮中で生きていた平安OL。一緒にお酒飲んで、一緒に創作して、一緒に人を『あはれ』と言って可愛がる。

 ———まぁ、何がともあれ、まずは酒を飲む。酒が飲める酒が飲める酒が飲めるなぁ。

 お決まりの文句だけど、私達の世捨て人ライフはこれからだ!




 そういえば、返歌してなかったな。式部さんは覚えていないようなので、心の中でこっそり返しておく。

 ———夏空の 雲なき如く この心 君のせいにと 開けてしまうか。


 エピローグに続く。


式部さん豆知識


孤悲こひ』。これは万葉集に書かれている和歌で多用された『恋』の当て字とされていて、現代における『恋』の概念は両想いのハッピーな状態を示しているが、奈良時代に生まれたこの言葉は、「会えない相手を想って身を焦がす、一方通行の苦しみ」を示す言葉である。今の時代でいうところの恋を言い換えた言葉で他にも『恋』を普通に使ったり、『濃恋』というより深く思う言葉。『心実まこと』という嘘偽りのない本気の想いなどバリエーションがいくつもある。ちなみに紫式部は『孤悲こひ』などの直情的な言葉の使い方には、否定的。わずかな動作から感情を使う手法をよく使ったとされる。源氏物語の中で、『意味も知らずに古臭い言葉を使うやつなんて、ちょっと痛いオタクだろ』とキャラに言わせたりしている。『にわかオタク』のしったかに紫式部も結構怒り散らかしていたそうな。……そういうあなたが割と孤独な自分に苛まれたという話はオフレコで。うーん、書いてる作者が頭痛くなってきた。

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