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エロMOD

『いや、うん。なんて言うか……ごめんね。流石に、運営として特別な対応が出来ないかな。個人としてはなんとかしてあげたいけどね。でも、これは流石に無理』


 現実世界。


 明人が情報屋に連絡を取ると、状況を確認したのか困った声を出していた。


「む、無理ですよね」


『無理だね。勤勉の都の広場で戦闘とか有り得ないね。時間帯が違えば結構な頻度で起きたりもするけど』


 ゲーム内の雰囲気は、時間帯によっても大きく変ってくる。


 明人たちがプレイしている時間帯では、大きな事件になっている。


「すみません。ご迷惑をおかけしました」


『あぁ、うん。流石にNPCの設定が厳しすぎたみたいだし、そこは調整を入れておくよ』


 通話が終わると、明人は髪をかく。


「まいったな。三日もログイン出来ないなんて……まぁ、別に良いか」


 ペナルティと言っても三日間のログイン禁止である。


 それほど大きな差はないと思い、明人は学園に向かう準備を始めた。






 教室。


 明らかに不満そうな顔をしているのは、友人の陸だった。


「お前、もうすぐ最前線なのに何をやってんだよ」


 中堅ギルドを率いている陸にしてみれば、明人が同じように最前線に来るのを楽しみにしていたのだろう。


「捕まっている間にギルドメンバーが喧嘩を売るとか思わなかったんだよ」


「お前のギルドだろ。しっかり注意しろよ」


 たった三日のログイン禁止。


 しかし、ゲーム内では二十四日もの差が開いてしまう。


「お前たちが来れば、少しは俺たちも楽ができるのに」


 陸の残念そうな姿を見つつ、明人は首を傾げるのだった。


「最前線に来たギルドなんて、陸たちからすれば素人みたいなものだろ?」


 自分たちを頼りにする理由が分からないでいると。


「戦いは数だからな。色欲の世界だと、トップギルドも流石に質でカバー出来ないから中堅ギルドの育成やギルドの規模拡大に大忙しだ」


 色欲の世界の攻略は、まだあまり進んでいないらしい。


 最近はテンポ良く攻略していたが、どうやら運営が難易度を上げているようだ。


「百人規模だよ? 中堅ギリギリじゃない?」


 自分のギルドがそこまで期待されるようなギルドなのか?


 明人はそこまで考えたが、陸の反応は正反対だ。


「百人もいて基本的に全員が同じ目的で動くとか羨ましいけどな。俺のところなんか、何十人はログインしてもギルドにも顔を出さないぜ」


 冷やかしやら、興味本位のプレイヤーたちは加入していない。


 いや、加入出来なかった。


 何しろ、問題児の集まったギルドだから。


(プロモーションビデオが致命的だったな)


 すぐに削除はしたが、広がった動画は既にいくつもコピーされ、再生回数はとんでもない数になっている。


「とにかく、早く来てくれ。人手が足りないんだ。中堅ギルドは大歓迎だぞ」


「沢山いるんじゃないの?」


「いても、一時的なギルドとか多いからな。ギルドクエストを受けたかったから、大幅に人を増やして失敗して解散するギルドも多いし」


 明人は思う。


(僕たちは運が良かったのか?)


 明人たちが話をしていると、近くで別の男子グループが盛り上がっていた。


「有名ギルドにスカウトされたのか!?」

「おい、あんまり騒ぐなよ」

「だって、有名なギルドだぞ」


 騒いでいる男子たちに反応したのは女子だった。


「嘘、あそこに入れたの? 加入条件厳しかったよね!?」


 有名ギルドにスカウトされた男子は、照れくさそうにしていた。


「止せよ。二軍みたいな扱いだし、それにパーティーのリーダーが凄い人だったんだ」


 パーティーごと誘われたと説明しているが、女子たちも集まってくる。


「羨ましいわ。ねぇ、私も加入したいんだけど」

「狡い! 私も加入させてよ」

「いや、流石に幹部じゃないから決定権とかないし」


 クラス内の雰囲気を見ていると、まるで有名ギルドに加入するのが凄い事になっていた。


(最近、そういうのが流行っているのかな?)


 ゲームの影響も考えた明人だが、陸が溜息を吐いている。


「女子は有名ギルドに入れば、ゲーム内でも自慢になるから入りたいんだと。そういうノリの奴、俺のギルドにもいるけどまったく役に立たないぜ。お前も気を付けろよ」


 明人は苦笑いをする。


「うちは色物扱いだから、人なんて集まってこないよ」






 アルバイト先。


 基本、コンビニと違って小型スーパーである店内だが、雑誌を置くスペースが作られていた。


 小さいスペースに置かれているのは、ゲーム関係の雑誌。


 パンドラの攻略関係の雑誌である。


 ただし、ターゲット層は主婦層やら、中年男性向け。


 内容は基本的な事が書かれており、後はゲーム内の観光スポットやら初心者の向けの内容となっている。


「……なんか、この手の雑誌が増えましたね」


 どれもパンドラ関係の雑誌だ。


 八雲はコンビニで一冊購入しており、バックヤードで読んでいた。


 表に出ているときは流石に読まない。


「人気があるし、ゲーム以前に少ない時間でノンビリ出来るのは大事よね。そう言えば、VRマシンを置いている店が増えたらしいわよ。サラリーマンがお昼に押し寄せて、そこで休憩するんだって」


 以前からあったのだが、今は特にそういった傾向が強いという。


(大人は大変だな)


 いずれ自分も大人になるのかと思うと、同じように昼休憩でパンドラにログインする光景が目に浮んだ。


(……なんか、パンドラの中より外の方が劇的に変化している気がする)


 気が付けば高校二年生だ。


 資格取得や、色々と今後の事も考えなければいけない。


「将来か」


 自分の将来を考えるが、漠然としていた。


 選べる選択肢は多いだろうが、人が憧れるかと言えばそうではない。


(現実はゲームのようにはいかないか。いや、ゲームの中も同じかな)


 今日も真面目に仕事をする明人だった。






 その頃。


 薄暗い部屋は地下にあるため窓がない。


 連れてこられたのは、勤めていたスーパーをクビになった栗田だった。


 周囲には柄の悪い入れ墨をした男性が数名、ソファーに座って監視をしている。


 スーツを着た男性が、栗田に指示を出す。


「もうすぐ交代だ。二番の椅子を仕え」


 座らせられているのは男性がほとんどだ。


 中には中年女性や、お年寄りの姿もあった。


 栗田が冷や汗をかいている。


「あ、あの、本当にやるんですか?」


 そんな栗田の胸倉を掴む男の目は真剣だった。


「お前が作った借金を返済するためだろうが。嫌なら沈むか?」


 首を横に振る栗田は、震えながら時間を待っていた。


 ゾロゾロと集まってくるのは、栗田のような借金の支払いが困難となった人たち。全員、顔色が悪い。


 柄の悪い男が、スーツ姿の男に報告する。


「見てくださいよ。たったの二時間でこれだけ稼いでくれましたよ」


 スーツ姿の男もニヤニヤしていた。


「効率が良いな。これなら、すぐに返済も終わる。まったく、パンドラってゲームは稼ぐのに困らないな」


 時間が二十一時を過ぎると、今まで椅子に座ってVRマシンを使用していた半数の人間が目を覚ました。


 ほとんど全員が汗だくで、掃除をする男性が入ってくると椅子を拭き始めた。


 スーツ姿の男が顎で椅子に座るように促してくる。


 栗田が慌てて椅子に座り、ヘッドセットを着用するとそのまま意識が遠のく。



 勤勉の都に入り組んだ場所がある。


 昭和の雰囲気を出している街並みの中、NPCたちが立ち寄らない場所。


 運営の監視の穴がある通りには、プレイヤーたちが作った小さな歓楽街があった。


 娼婦のような姿をしたプレイヤーたちが並んでいるのだが、全員が作り込まれたアバターを使用している。


 中には、有名人のデータを使ったアバターもあった。


 素人が作ったのではなく、プロの仕事で細部までこだわっている。


「い、いらっしゃいませ~」


 ぎこちない笑顔をするアバター【ゼイン・カークス】――いや、今は【ホタル】だ。


 人気モデルを再現した細身のアバターは、鼻の下を伸ばしているプレイヤーに手を振っている。


「おい、まさか人気モデルの子じゃないか?」

「馬鹿。アバターだぞ」

「けど、あそこまでリアルなんて本人かも知れないだろ!」


 周囲にある建物は、MODで作られた建物だ。


 パンドラのデザインに似せてはいるが、周囲の雰囲気はネオンがないだけで歓楽街そのものだった。


 中には、タバコやら酒――ドラッグ関係も売られている。


 次々にプレイヤーたちが相手を決め、建物の中に入っていく。


(ど、どうしよう。このままだと……)


 あざとい感じでホタルはプレイヤーにしがみつく。


 MODが使用されたアバターは、露骨すぎても警告表示が出てこない。


「お兄さん、私新人でお客さんがつかないと困るの」


 すると、新人と聞いて周囲のプレイヤーが唾を飲み込む。


 中身は違うのだが、外見はモデルだ。


 そんな女性に言い寄られては、男たち――中身も男であるプレイヤーの反応も大体似たようなものになる。


「お、俺で良いの! な、なら、これでいいかな!? 二十個まで出せるけど」


 プレイヤーが取りだしたのは課金アイテムだった。


 イベントがあれば大量消費されるアイテムは、まとめて売れる商品である。


「え~、これなら三十は欲しいよ。サービスするよ」


 あらかじめ、どうすれば良いというのを聞いている。


 実際に体験していたので、それをぎこちなく真似ていたのだが……。


「な、なら、すぐに用意するから」


 効果は抜群だった。


 リアルマネーで購入するなら三千円と少し。


 数時間で数千円だが、一日で一万円を稼いだとしてもリアルでは二時間で八万円ほどの稼ぎになる。


 実際、それだけ稼ぐのは難しいが、短時間で数万を一人が稼ぐのだ。


(これをあいつらが割り引いた価格で売り捌く。俺の方にはたいした金額なんて入ってこないけど……凄く簡単に稼げるな)


 ホタル――栗田は、内心で笑っていた。


(アレだけパンドラに課金してきたんだ。これくらい返して貰っても問題ない。問題ないんだ)



 アルバイトが終わって夜。


 アパートで明人はギルドマスターに必要な事を調べていた。


 椅子に座ったまま背伸びをする。


「やっぱり目的がハッキリしていないときついかな」


 明人のギルドの目標は【中堅ギルド】である。


 最前線を目指しつつも、ある程度の余裕は持ちたい。


 そんなプレイヤーたちの集まりだ。


「ライターたちの要求は少し下げないと駄目かな。ログインしたら五日は……いや、四日が良いかな? まぁ、ノルマは下げないとね」


 基本的なルール、マナーなどを考える。


 あまり厳しいというのも問題だ。


 あくまでも楽しくプレイをするのが大事だ。


「フランさんとノインさんからのプレゼントもどうにかしないと。課金アイテムを貰っても困るって」


 一個や二個ならともかく、数が多くなると問題だ。


「アルフィーやマリエラの問題も……とにかく、ブレイズさんは少し休んで貰わないと。新しい人たちもボス戦をこなしてポイントを集めたいだろうし……」


 考えてみると、やることが多かった。


(なんでギルドマスターなんかやっているのかな? もっと自由なギルドに入れば楽だったのに)


 そう思うが、手に入れたギルドアイテムがとても優秀だった。


 エルフの女王の杖と盾。


 思い出もあって、他のプレイヤーに渡すのも躊躇われる。


「まぁ、片意地張らない程度のギルドを目指しますか」


 一通り調べ終わると、気になる項目を見つけた。


 それはMOD関連だ。


 明人も男だ。


 気になったのでクリックしてみるとMODにも色々とある。


 アバター作成が苦手な人のために、有名人などを参考に完成させたアバターのデータを繁栄させるもの。


 こちらはグレーゾーン扱いになっていた。


 他には、ステータスやら武具やら道具の性能を変更するものに関しては、問答無用でアバターの初期化。


 オマケにブラックリスト入りの注意書きがされている。


 こちらは許すつもりもないのか、酷い場合は垢バンとログイン不可の処分が待っていた。


 その中で、比較的というか――処罰が甘いのはエロ関係だ。


「うわぁ……凄い」


 アバターが過激な下着を着用しており、そのままスクロールさせ続きを見ていると最後に中身のプレイヤーが目線を隠し映っていた。


 男で、しかも中年男性だ。


 ブログのコメントには酷いコメントが並んでいる。


「……最悪だ」


 しかし、男性は。


『こういう事が多いから注意して欲しいと言う気持ちでアップしました』


 などと書き込みを入れていた。


「実際多いのかな? 多いだろうな」


 外見が美人などパンドラ内では溢れている。


 明人のようにわざとオークを使うようなプレイヤーも多いが、それでも美男美女が多い。


「でも……少し気になるな」


 ただし、MODの使用を見てみると、ある程度の知識が必要となっていたので諦める。


(待てよ? プログラム関係の資格を取れば、この当たりの知識も手に入るよな?)


 明人は資格取得にどれだけの時間と予算がかかるのかを確認する。


 エロ関係……人の熱意は加速するのだ。


 調べてみると、流石に今の段階では少し難しかった。


(駄目か。まぁ、もう少ししたら考えるか)


 MOD関係は諦め、素直にパンドラを楽しむことにする明人だった。


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