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幻想と現実のパンドラ 作者:わい/三嶋 与夢

第五章

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勤勉の都

 明人が通っているフィットネスクラブ。

 シャワーを終えて帰ろうとしていると、声をかけられた。

 社会人の男性たちだ。

「あれ? 鳴瀬君だよね?」

 顔を合わせているので名前くらいは知っているが、男性たちと会うのは久しぶりだった。

「なんで怪しんでいるんですか? 僕ですよ」

 男性たちは明人を見ている。

 最近は暑くなってきたので、上はティーシャツだけだった。

 そもそもどこかに出かけるつもりもなかったので、ラフな恰好だった。

「いや、前より大きくなったと思ってさ。随分と筋肉をつけて絞り込んだ? いや、成長期だからかな?」

 明人は自分の体を見る。

(そう言えば、最近は体も痛かったんだよね)

 成長痛だと言われていたので、面倒に思いながらも身長が伸びるのも嬉しかった。

 最近、着ている服のサイズが合わなくなってきている。

 制服は大きめの物を購入していたので問題ないが、私服に関しては着られなくなった物も多い。

「頑張った成果ですかね」

 社会人の男性たちは、明人を見て羨ましそうにしていた。

「若いから元気だよね。俺なんか、仕事でクタクタだよ」
「お前は体力ないんじゃないか?」
「ほら、俺たちも行くぞ」

 男性たちは、これから体を鍛えるためにトレーニングルームへと向かった。

 明人は荷物を手に持って外へ出る。

 空を見上げれば、日差しが強くなってきていた。

「……夏か。今年はゲームだけじゃなくて、青春を謳歌したいな」

 パンドラに出会えて良かったと思う反面、高校生男子として青春も謳歌したいと思うのだった。





 純の書斎。

 スマホを片手に連絡している相手は、摩耶だった。

「摩耶ちゃん、最近の私の扱いが軽くないかな?」

『おじ様、ゲームとリアルは別ですよ』

「いや、うん……分かっているんだけどね。それはそうと、今日はどんな用件かな?」

 純に連絡を入れたのは摩耶だった。

『実は――』

 そんな摩耶のお願いというのは、夏休みの予定である。

 摩耶のようにエリートになると、夏休みというのは学園が休み――自分も休みとはならない。その期間に、普段出来ない事をやるのがエリートだ。

「――なる程、ポン助君と一夏の思い出を、ね。いいんじゃないかな」

『簡単に言わないでください。予定がどう考えてもきついんです!』

 一緒にプール? それは無理だ。

 海? 外泊? そんな余裕もない。

「そうなると……そうだね。なら、ポン助君に予定を合わせて貰えば良い」

『どういう事ですか? 家やパーティーには呼べませんよ』

 純は思った。

(家に呼んだら重く感じると思うし、パーティーもポン助君にはきついだろうね。この子、本当に優秀だけどちょっと……)

 摩耶の将来を心配しつつ、純は話をする。

「ほら、例の高級リゾートだよ。私も呼ばれているが、摩耶ちゃんたち家族も招待されているよね? 思い出作りに丁度いいと思わないかい?」

 オープンする高級リゾートホテルがある。

 観光地として整備が進んでいるのだが、その高級ホテルの一つがオープンするので招待されていた。

『……夜までは自由でしたね』

「自由だね。近くには学生でも泊まれるリーズナブルなホテルもあるね。……チケットいる?」

『いります!』

 こうしていくつか話をしてスマホを置いた純は、椅子に座り直して小さく溜息を吐いた。

「まぁ、高校生の男子なんて女の裸で頭の中が一杯だからね。成功するとは思うけど……大丈夫かな?」





 廃ビル。

 初老の男性がお土産を持ってくる。

「いや~、ここも暑いね」

 ライフラインが止められており、下手に電気を使えるようにしては怪しまれる心配があった。

 そのため、パンドラの元幹部を匿う廃ビルはいくつか存在し、出来るだけ留まらないようにしている。

 部屋の中には持ち運べる冷却器が置かれているが、それでもないよりはマシという程度だ。

 今日は女医が来て、元幹部の健康をチェックしている。

 元幹部が少し怪しんでいた。

「……元大臣のあんたに色々な人脈があるのはおかしくない。けど、いったいどういう事だ? 全員、接点らしい接点なんてない人たちだ」

 元幹部もそれなりに色々と調べているのだが、元大臣の独特な人脈には驚きを隠せなかった。

 護衛をしてくれる男性にしても女性にしても、前から知っている信頼出来る人物とは言えないからだ。

 全員、リアルでの接点など皆無と言える。

 元大臣は不敵に笑う。

「なに、同士という奴でね。それに、全員信用出来る仲間だ。さて、今日はどんな話を聞かせてくれるのかな?」

 元大臣が椅子に座ると、元幹部はお土産のアイスを手に取った。

 健康状態には多少の問題もあるが、命に別状はないと女医が診断した。

「私は仕事があるから帰るわね」

 元大臣が笑顔で見送る。

 部屋からいなくなると、元幹部が小さく笑った。

「まったく、こんな状況じゃなければ彼女のいる病院をかかりつけにしたいくらいだ。理想の女医さんじゃないか。少し冷たい雰囲気だが、逆にゾクゾクするね」

 ご機嫌な元幹部を見つつ、元大臣は否定する。

「それは止めておいた方がいい。君はどうみても“こちら側”だからね」

「こちら側? まぁ、いい。冗談はここまでにして、今調べたことを話しますよ」

 元幹部は手元の資料――紙媒体を見ながら告げる。

「ハッキリ言います。セレクターの多くは現状をちゃんと理解しているとは言い難い。だが、事実を知ってもこちら側に味方するとは思えません」

 元大臣がアイスを食べ、それが当たりだったのを確認しつつ話を進める。

「孤立無援、か。まぁ、仕方がないのかも知れないね。そもそも、セレクターというのはいったいどんな存在なのか気になるね」

 元幹部との話し合いの中、必ず出てくるのがセレクターである。

 ただし、元幹部も運営もセレクターの存在を当初は知らなかった。

 運営が故意に用意した訳ではないのだ。

「アバターの種族ごとにランダムで選ばれると最初は思っていました。バグだと思っていたのですが、次第に種族やアバターも関係なくプレイヤー自身にセレクターとしてなんらかの干渉があると分かりました」

 アバターではなく、セレクターとはプレイヤーに与えられた称号のようなもの。運営は最初にそう結論づけた。

 元大臣が気になる点を聞く。

「そこだよ。そこが分からない。選ばれたのに、選ぶ側のような呼び名だ。なぜ、セレクターなのかだ」

「自分たちもそこまで詳しく調べていませんでした。何しろ、計画に予算と人員を回していて調べる余裕がなかったんです。ある種のバグだろうと、調べるように命令を出しましたけどね」

 そして、ここで大きなミスが発生した。

「事情を知る幹部は計画で忙しく、出来れば外部に触らせたくなかったので社内で調査を進めるように依頼しました。ですが、どの部署も忙しかったんでしょうね。現場の判断で子会社や孫会社に仕事を丸投げしていたんです」

 急激に増える予算。

 しかし、運営の規模はそこまで大きくなかった。

 現場も忙しく、重要度が低いと思ったのか外部に依頼してしまったらしい。

「それが“情報屋”か」

「……あいつは、そこでセレクターの真実に気が付いたんだと思います」

 元大臣が手を組む。

「真実が何か分かるかね?」

「……そこまでは調べられません。ただ、やつらがこれからやろうとする事は理解出来ています」

「それは?」

「表向きは禁止しつつ、セックスなどを解禁するんです。以前、ログアウト出来ない運営も干渉出来ない場所がありましたよね? あれ、あいつらが故意で用意しているんですよ。プレイヤーたちはそこに集まるはずです。『ここなら、何をしても運営にバレない』ってね。違法データという形で色々と出回っていますが、随分作り込んでいますね。素人が予算もなしで作ったとは思えないレベルですよ」

 元大臣も男である。

 VRでそういったサービスを提供する事は、今も研究が進んでいるのも知っている。

「本当に可能かな? 運営が放置すれば、然るべき対処が必要になってくるんだが?」

 パンドラには子供もログインしている。

 悪影響が出ないようにするのも、運営の仕事であった。

 元幹部が真面目な顔をする。

「あいつらは、そもそも年齢という事を気にしていません。いかにリアルからパンドラ中心の世界にするかを考えているだけです。そのためになら、なんだってやる連中ですよ」



 海賊の宝を手に入れたポン助たち。

 全員が新たな世界に踏み込むと、そこは【勤勉の都】だった。

 都市の雰囲気は一言で言うならば時計が多い。

 オマケに、街並みは綺麗に整理されていた。

 道もほとんどが真っ直ぐで、建物の多くも高さの違いこそあれ綺麗に並んでいる。

 おかげで、よりゲームらしい世界に見えた。

 ポン助が感心する。

「時計塔が中心なのか」

 時計塔周辺が広場になっており、都市の外周と中央を電車が走っている。

 他のメンバーたちも興味津々だ。

 アルフィーが時計塔を見上げる。

「随分と生真面目そうな都ですね」

 マリエラは、走っている電車の中に蒸気機関車などもあるのを見つけていた。

「なんかクラシックなのか、普通なのか分からないわね。建物とかコンクリートも多いし。リアルとも違うのよね」

 現代風――ファンタジー要素が少し薄れている都にも感じられる。

 ナナコが周囲をキョロキョロと見ていた。

「NPCの人たちもなんていうか……普通ですね。少し古いというか。なんていえば良いのか分かりませんね」

 アルフィーがナナコに教える。

「レトロ、って感じがしっくり来ますけどね。しかし、ブラウン管のテレビとか置いてありますよ。凝っていますよね」

 オークたちは早速、NPCたちに近付いて調査を行っていた。

「お姉さん、これから我々と遊びませんか!」

 プライが通行人であるNPCを遮る。

 他のオークたちもNPCを囲み、どんな反応をするのか見ていた。

 だが。

「――ちょっと君たち、話を聞かせて貰えるかな?」

 警察官――とは微妙に違うが、そう見えるNPCたちがオークたちに近付く。

 プライが焦っていた。いや、少し嬉しそうだ。

「な、なんだ君たちは! 我々は声をかけただけだぞ!」

 NPC【都市警備隊隊員】は、話を聞くとメモを取りつつ無線機で確認を取っていた。

 空を見れば、飛行船が横切って影が出来ていた。

「……とにかく来て貰おうか」
「や、止めろ! 国家権力になんか屈さないぞ! 一度言ってみたかった」
「分かった。話は署の方で聞くから。抵抗するんじゃないぞ」

 オークたちは手錠をかけられると興奮しているように見えた。

 嬉しそうに随分とレトロな車に乗せられたプライたちは、そのまま連行されるのだが――。

「おい、待ってくれ。僕は何も関係ないぞ!」

 隊員が溜息を吐く。

「オークはみんなそう言うんだ。大人しくしないと解放されないぞ」

 ポン助は荒ぶる。

「何もやっていないのに逮捕とかどういう事だよぉぉぉ!」

 仲間も混乱する中、オーク十一人が連れて行かれてしまうのだった。

「ポン助さぁぁぁん!」

 ギルドメンバーが車を追いかけてくるが、ついて来られるわけもなくポン助たちは連行されてしまった。

(ちょっと待って。僕って何もしていないよね!)





「もう来るんじゃないぞ」

 解放されたオークたち。

 しかし、ポン助を始め多くの面々は悲しい顔をしていた。

「ふざけるな。新撰組みたいに罵倒や暴力がないなんて聞いていないぞ!」
「なんだ、あの淡々と仕事をしていますという感じは! 牢屋を舐めてんのか!」
「もっとこう……お前らオークは人間様の家畜なんだよ! くらい言えよ!」

 次々に文句を言うオークたちを悲しい目で見つつ、ポン助は迎えに来てくれたイナホと面会する。

「ポン助さん、ずっと待っていました」

 涙ぐむイナホ。

 ポン助に抱きついてくる。

「イナホちゃん……遊んでいることを悪いけど、他のみんなは?」

 お勤めを終えた人を待っている女性、というのを演じてみたかったイナホがポン助から離れると笑顔を向けてくる。

 だが、その笑顔は非常に困っていた。

「いや、その……みなさん、捕まってしまって」

 ポン助は警備隊の建物に振り返った。

「マジかよ」

「いや、最初はアルフィーさんとマリエラさんが納得出来ないと暴れてしまいまして。そうなると、武装した警備隊の隊員さんたちが出て来て……そのまま街中で戦闘になってしまいまして」

 とにかく酷い状況だったらしい。

 全員が捕まったのだが、イナホは警備隊員に撃たれてそのまま神殿送りにされたようでお咎めなしらしい。

 イナホが両手で顔を覆う。

「もう、最後の方で戦争みたいになって、他のプレイヤーさんたちがそれを見て撮影とか……それで、迷惑行為だからって通報されて。僕が戻ったときにはどうしようもなくて」

 ポン助に運営から通知が来た。

 迷惑行為についての厳重注意、そして……三日間のログイン禁止を言い渡されたのだった。

 その場で膝から崩れるポン助。

 嫌な予感がしてゲーム内の掲示板を見てみれば……。

『あいつらまたやりやがった!』
『マジかよ。警備隊員と戦争とか頭おかしいだろ!』
『馬鹿、元から頭がおかしい連中なんだよ!』
『警備隊員、結構な数がやられたってよ。あいつら強いのか?』
『まともなプレイヤーなら、そもそも警備隊員とは戦わないから分からないね』
『攻略組ならもっと倒せるだろ。倒せたとしても、なんのメリットもないからそもそも戦わないのが普通だけど』
『頭おかしいよな。広場で大爆発が起きたときは何事かと思ったぜ』

 きっとライターたちが持っていた爆弾だろう。

(あいつら何をやってくれたんだ)

 建物からゾロゾロとギルドメンバーが出てくる。

 ポン助は運営に連絡を入れるも、情報屋とは繋がらないためにそのまま強制的にログアウトとなるのだった。
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