第41話 乞われた剣
「俺に何をして欲しいと言うのだ?」
「革命を、革命を成功させて欲しいのです!」
「革命?」
「そうです。このラムセス市の民衆は、自治領主クルゴスによって圧政を強いられています。
あの男は、民衆をぼろぼろになるまで働かせるだけでなく、幼い子供達までを鉱山の労働者として駆り出しているのです。
子供達は、朝から晩まで休みなく働かされ、熱病に倒れた者ですら、鞭打ってでも働かせるのです!」
タホスの声は震えていた。
「私は、何人もの熱病にかかった子供達を診てきた。
どの子も栄養失調と、過度の労働からやせ衰えていた……」
そうグレーベは言った。リューベックは、ただじっと彼らの話す言葉を聞いていた。
「こんな都市に生まれた子供達は、満足に糧を食うことすらできねぇんだ」
ガスクは言った。
「あたしゃ、なんとか工夫して、子供達が飢えないようにがんばっているんだ。
でもね、クルゴスが圧政さえしなければ、こんなことをしなくても子供達は幸せに暮らせるんだよ……」
あの元気なバラコアでさえ、この話題では表情を曇らせていた。
それだけに、一層彼らの苦しみが伝わった。
「そういう訳です、リューベック殿。どうか、我々を助けて下さい」
「……事情はよく分かった。
だが、革命となると人数も必要だし、武器もいる。それは大丈夫なのか?」
「お恥ずかしいことながら、我々は革命などというものは初めてでして、そのあたりのことはほとんど……」
「そうか……」
「だが、俺達にゃあ、民衆がいる。やつらと力を合わせればクルゴスなんざぁ、すぐにつぶせるだろうよ!」
ガスクは、より一層大きな声で言った。だが、周りの者達の表情は、暗いままであった。
「だから、こうしてお前さんに頼んでいるって訳だよ」
そう言ったのは、扉の前に座っている小男である。
「この人物は?」
リューベックはそう尋ねた。
「ああ、まだ紹介してなかったかい?
この人は、パーパ。火薬師パーパ。
鉱山で使う火薬を作っている人だよ」
バラコアは、そう小男を紹介した。パーパは、軽くリューベックに向かって手を振った。
パーパは、通常の人の半分ぐらいの身長しかなかった。先程小窓から覗いたときは、今座っている椅子の上に立っていたようである。
年は、はっきりとは分からなかった。体が小さいため、年をとっていても妙に子供っぽく見えるからである。
だが、落ち着いたその様子や、しわの多い手などから推測すれば、優に老人の年にはなっているように思えた。
「わしが思うに、まともにクルゴスの軍に当たれば、勝ち目はないと思うのじゃ」
パーパは、その小さい手を擦りながらそう言った。
「だとすれば、何がいいと言うのかな、パーパ殿」
「そうじゃなぁ……何かクルゴスの弱みを握れれば一番効果的だと思うのじゃが。
どうじゃろう、タホスじぃ」
「弱みか。いい考えかもしれん。
だが、どうやって弱みを握るのか。
どんな弱みを握るのか。
難しい問題じゃ」
「そうじゃのぉ……」
グレーベは、自分の小さな眼鏡を拭きながら考え始めた。
ガスクなどは、元々このような頭脳を駆使して手を打つというのが苦手なタイプだけに、議論が始まるといつも暖炉の側で寝ているのであった。
今回もまたその例にもれず、テーブルの椅子から立ち上がると、暖炉の側に歩いていき、そのまま座り込んでしまった。
バラコアは、じっとタホス達の様子を心配そうに見ているだけである。
こんな状態が何時間か続いた。この状態を破ったのは、扉を大きく叩く音であった。
ドンドンドン
と急いで扉を叩く音が部屋に響く。タホス達は、さっと扉の方に目をやった。
扉の前の椅子に座っていたパーパは、立ち上がると、小窓を少し開け、合言葉を呟いた。
「自由にすべきものは?」
「子供達だ! 急いでいるんださっさと開けてくれ!」
扉の向こうにいる者は、そう大きな声で怒鳴った。
パーパは、小窓を開け外を見た。そこには、若い男がノブに手を当てながらイライラとした表情で立っていた。
「なんじゃ。トスか」
「トスか、じゃないよ、パーパ。いい情報が入ったんだ。
はやくここを開けてくれ!」
「分かった分かった、すぐに開けるから待っとれ」
パーパはそう言うと、ぴょんと椅子から飛び降り、腰に下げていた鍵を取り出し、リューベックが入ってきた時と同じように、部屋の扉を開けた。
外の男はよほど急いでいたのであろう、パーパが扉を開けるよりも先に扉を押し開け、中に入ってきた。
パーパは勢いよく開けられた扉に押され、尻もちをついた。
「どうしたんじゃ、トス。そんなに急いで」
「タホスじぃ! いい情報が入ったぞ!」
トスと呼ばれた若い男は、タホスの肩を揺らしながら言った。
そして、その側にリューベックがいるのに気がつくと、さっと目つきを変えた。
「誰だこいつ」
トスは、タホスの耳の側でそう尋ねた。
「ビトラの恩人だ。敵ではない。我々の協力者だ」
「ビトラ? ビトラがどうかしたのか?」
「ほれ、あそこにおるよ」
グレーベは、ベッドに寝かされているビトラを指差した。
ベッドを見たトスは、血相を変えてベッドに駆け寄った。
「どうした、ビトラ!!」
トスは、ベッドに寝かされているビトラの肩を揺らした。
「これこれ、まだ動かしてはいかん。安静に、安静に……」
グレーベはトスにそう注意した。
トスは、はっと我に返ると、ビトラをそのまま寝かし、テーブルの方に駆け寄った。
「で、何がいい情報なのかな?」
タホスは、トスにそう尋ねた。
「クルゴスの館に三日後、どこかの貴族が来るらしい。それも随分と身分の高い奴だ。
館にいるファエラの情報だ。間違いない!」
トスは、息を切らせながら言った。
そして、テーブルの上に置かれてある冷めたレーム酒を一気に飲み干すと、息を整えながら椅子に座った。
「それはおもしろい情報ではないかな、タホスじぃ」
グレーベは、希望に目を輝かせながら言った。
「そうだな。その貴族の方をどうにかここに連れてこれば、交換条件にクルゴスの圧政を止めさせられるかも知れない」
「で、その貴族の名前は何というのじゃ?」
パーパは、立ち上がりながらそう言った。
「いや、そこまでは分からないらしい」
「そうか。だが、これはチャンスだな」
タホスは、その知的そうな目を輝かせ、リューベックの方を向いた。
「そういうことです、リューベック殿。
どうにかして、この貴族の方をここにお連れしたい。
協力をお願いできないでしょうか……?」
リューベックは、無言のままであった。
だが、タホスはリューベックが自分達の計画を話しても態度が変わらない姿を見て、少し安心した様子で、これからの計画をグレーベとパーパと話しはじめた。
彼らの会議は、このまま深夜まで続けられるのであった。
夜更けまで続く密議は、やがて訪れる変革の朝を静かに手繰り寄せる。




