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EWIG(エーヴィッヒ)──帝国騎士と病床の白髪の友が織りなす、戦乱を生き抜く長編戦記【全99話完結】  作者: 黒わんこ
第三巻 第六章 『解放』

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第41話 乞われた剣

 「俺に何をして欲しいと言うのだ?」

 「革命を、革命を成功させて欲しいのです!」

 「革命?」

 「そうです。このラムセス市の民衆は、自治領主クルゴスによって圧政を強いられています。


 あの男は、民衆をぼろぼろになるまで働かせるだけでなく、幼い子供達までを鉱山の労働者として駆《か》り出しているのです。

 

 子供達は、朝から晩まで休みなく働かされ、熱病に倒れた者ですら、鞭打ってでも働かせるのです!」


 タホスの声は震《ふる》えていた。


 「私は、何人もの熱病にかかった子供達を診《み》てきた。

 どの子も栄養失調と、過度の労働からやせ衰《おとろ》えていた……」


 そうグレーベは言った。リューベックは、ただじっと彼らの話す言葉を聞いていた。


 「こんな都市に生まれた子供達は、満足に糧《かて》を食うことすらできねぇんだ」


 ガスクは言った。


 「あたしゃ、なんとか工夫して、子供達が飢《う》えないようにがんばっているんだ。

 でもね、クルゴスが圧政さえしなければ、こんなことをしなくても子供達は幸せに暮らせるんだよ……」


 あの元気なバラコアでさえ、この話題では表情を曇らせていた。

 それだけに、一層彼らの苦しみが伝わった。


 「そういう訳です、リューベック殿。どうか、我々を助けて下さい」

 「……事情はよく分かった。

 だが、革命となると人数も必要だし、武器もいる。それは大丈夫なのか?」

 「お恥ずかしいことながら、我々は革命などというものは初めてでして、そのあたりのことはほとんど……」

 「そうか……」

 「だが、俺達にゃあ、民衆がいる。やつらと力を合わせればクルゴスなんざぁ、すぐにつぶせるだろうよ!」


 ガスクは、より一層大きな声で言った。だが、周りの者達の表情は、暗いままであった。


 「だから、こうしてお前さんに頼んでいるって訳だよ」


 そう言ったのは、扉の前に座っている小男である。


 「この人物は?」


 リューベックはそう尋ねた。


 「ああ、まだ紹介してなかったかい?

 

 この人は、パーパ。火薬師パーパ。

 鉱山で使う火薬を作っている人だよ」


 バラコアは、そう小男を紹介した。パーパは、軽くリューベックに向かって手を振った。


 パーパは、通常の人の半分ぐらいの身長しかなかった。先程小窓から覗いたときは、今座っている椅子の上に立っていたようである。

 

 年は、はっきりとは分からなかった。体が小さいため、年をとっていても妙に子供っぽく見えるからである。

 だが、落ち着いたその様子や、しわの多い手などから推測すれば、優に老人の年にはなっているように思えた。


 「わしが思うに、まともにクルゴスの軍に当たれば、勝ち目はないと思うのじゃ」


 パーパは、その小さい手を擦《こす》りながらそう言った。


 「だとすれば、何がいいと言うのかな、パーパ殿」

 「そうじゃなぁ……何かクルゴスの弱みを握れれば一番効果的だと思うのじゃが。

 

 どうじゃろう、タホスじぃ」

 「弱みか。いい考えかもしれん。


 だが、どうやって弱みを握るのか。

 どんな弱みを握るのか。


 難しい問題じゃ」

 「そうじゃのぉ……」


 グレーベは、自分の小さな眼鏡を拭《ふ》きながら考え始めた。


 ガスクなどは、元々このような頭脳を駆使《くし》して手を打つというのが苦手なタイプだけに、議論が始まるといつも暖炉《だんろ》の側で寝ているのであった。


 今回もまたその例にもれず、テーブルの椅子から立ち上がると、暖炉の側に歩いていき、そのまま座り込んでしまった。

 バラコアは、じっとタホス達の様子を心配そうに見ているだけである。


 こんな状態が何時間か続いた。この状態を破ったのは、扉を大きく叩く音であった。


 ドンドンドン

 

 と急いで扉を叩く音が部屋に響く。タホス達は、さっと扉の方に目をやった。

 

 扉の前の椅子に座っていたパーパは、立ち上がると、小窓を少し開け、合言葉を呟《つぶや》いた。


 「自由にすべきものは?」

 「子供達だ! 急いでいるんださっさと開けてくれ!」


 扉の向こうにいる者は、そう大きな声で怒鳴った。

 パーパは、小窓を開け外を見た。そこには、若い男がノブに手を当てながらイライラとした表情で立っていた。


 「なんじゃ。トスか」

 「トスか、じゃないよ、パーパ。いい情報が入ったんだ。

 はやくここを開けてくれ!」

 「分かった分かった、すぐに開けるから待っとれ」


 パーパはそう言うと、ぴょんと椅子から飛び降り、腰に下げていた鍵を取り出し、リューベックが入ってきた時と同じように、部屋の扉を開けた。


 外の男はよほど急いでいたのであろう、パーパが扉を開けるよりも先に扉を押し開け、中に入ってきた。

 

 パーパは勢いよく開けられた扉に押され、尻もちをついた。


 「どうしたんじゃ、トス。そんなに急いで」

 「タホスじぃ! いい情報が入ったぞ!」


 トスと呼ばれた若い男は、タホスの肩を揺らしながら言った。

 そして、その側にリューベックがいるのに気がつくと、さっと目つきを変えた。


 「誰だこいつ」


 トスは、タホスの耳の側でそう尋《たず》ねた。


 「ビトラの恩人だ。敵ではない。我々の協力者だ」

 「ビトラ? ビトラがどうかしたのか?」

 「ほれ、あそこにおるよ」


 グレーベは、ベッドに寝かされているビトラを指差した。

 ベッドを見たトスは、血相《けっそう》を変えてベッドに駆《か》け寄った。


 「どうした、ビトラ!!」


 トスは、ベッドに寝かされているビトラの肩を揺らした。


 「これこれ、まだ動かしてはいかん。安静に、安静に……」


 グレーベはトスにそう注意した。

 トスは、はっと我に返ると、ビトラをそのまま寝かし、テーブルの方に駆《か》け寄った。


 「で、何がいい情報なのかな?」


 タホスは、トスにそう尋ねた。


 「クルゴスの館に三日後、どこかの貴族が来るらしい。それも随分と身分の高い奴だ。

 館にいるファエラの情報だ。間違いない!」


 トスは、息を切らせながら言った。

 そして、テーブルの上に置かれてある冷めたレーム酒を一気に飲み干すと、息を整えながら椅子に座った。


 「それはおもしろい情報ではないかな、タホスじぃ」


 グレーベは、希望に目を輝かせながら言った。


 「そうだな。その貴族の方をどうにかここに連れてこれば、交換条件にクルゴスの圧政を止めさせられるかも知れない」

 「で、その貴族の名前は何というのじゃ?」


 パーパは、立ち上がりながらそう言った。


 「いや、そこまでは分からないらしい」

 「そうか。だが、これはチャンスだな」


 タホスは、その知的そうな目を輝かせ、リューベックの方を向いた。


 「そういうことです、リューベック殿。

 どうにかして、この貴族の方をここにお連れしたい。

 

 協力をお願いできないでしょうか……?」


 リューベックは、無言のままであった。

 だが、タホスはリューベックが自分達の計画を話しても態度が変わらない姿を見て、少し安心した様子で、これからの計画をグレーベとパーパと話しはじめた。

 

 彼らの会議は、このまま深夜まで続けられるのであった。


 夜更けまで続く密議は、やがて訪れる変革の朝を静かに手繰り寄せる。


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