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EWIG(エーヴィッヒ)――帝国騎士と病床の白髪の友が織りなす、戦乱を生き抜く長編戦記【全99話完結】  作者: 黒わんこ
第二巻 第五章 『諜者』

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第36話 騎士と鼠

 「よぅ、騎士さん」


 明るい、軽薄《けいはく》そうな声が廊下に響いた。声をかけられたのは、指令官室を出て、部屋に戻っている途中のジャクメルだった。


 「なんだ、お前か」


 ジャクメルは、つめたく突き放すように、そっけなく言った。


 「冷たいねぇ」


 男は、その落ちつきのない目をジャクメルに向け、口元をにやりと歪《ゆが》めながら言った。


 男は、傭兵の格好をしていた。だが、傭兵にしては小柄であり、やや曲がり気味の背中やきょろきょろと落ちつきのない目、細く薄い軽薄そうな唇、くちばしの様な鈎鼻《かぎばな》、そのどれをとっても傭兵には見えなかった。


 目もとは落ちつきなくあちこちを見回し、いかにも軽くて軽薄《けいはく》な、そんな印象を与える男である。男は、傭兵というよりは、どこかの《《こそどろ》》、と言った方がよっぽど似合っている様子だった。


 ジャクメルは、男の顔を一瞥《いちべつ》しただけで、そのまま男を無視して廊下を歩きだした。

 男は、ジャクメルの横について歩いた。


 「なぁ、これからどうするんだい。おれたちゃあ、このままここの傭兵達に混じってればいいのかよ、お偉い騎士さん」


 男は、皮肉げにジャクメルに言った。ジャクメルは、きっと男を睨《にら》みつけると、


 「そんな呼び方をするな!」


 そう怒鳴りつけた。


 「恐いねぇ」


 男は、ジャクメルの言葉に微塵《みじん》も動揺《どうよう》した様子を見せなかった。ジャクメルは、そんな男の様子にさらに機嫌を損ねた様だった。

 だが、ジャクメルのそんな感情はよそに、男は言葉を続けた。


 「小騎兵さんよ、冗談抜きでこれからどうするつもりだい。おれたちゃ、いつでもあんたの指示に従うぜ」

 「指示に従うならば、黙って待ってればいいだろうが!」


 ジャクメルは、不快感を露《あらわ》にしながら言い放った。男は、やれやれといった表情で言った。


 「だったら、あんたの指示があるまで、寝て待つとすっかな」


 男は、そう言うとその場から立ち去ろうとした。だが、くるりと振り向くと、付け足すように言った。


 「そうだ。あんたが調べておけって言ってたミュアイの動静だが、奴《やっこ》さん達、ついに動きだしたようだぜ」


 男はそれだけ言うと、そのまま立ち去っていった。

 ジャクメルは、男の後ろ姿を一目だけ見ると、そのまま黙って自室に向かった。


 (ミュアイ……)


 ジャクメルは、心の中でこれからの行動をじっと考えながら、歩いていった。



 夜の砦に鳴り響く、傭兵達の宴の声。だが、コッドの砦は、未だ経験したことのない陥落の日まで、着実に時を歩んでいるのだった。


 宴の声は夜空に吸い込まれ、砦は静かに破滅へのカウントダウンを刻み始める──



EWIG 第二巻 完

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