第28話 帝都ラウェル
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第五章 『諜者』
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明け方の帝都ラウェルは静かだった。冷たい空気が辺りを覆い、うっすらと霧がかかっている。
ラウェルは比較的温暖な地方の都市であるが、夜明け前と深夜には、辺りの気温は下がり気味になる。
朝霧が次第に薄らいでゆく頃には、扉を開ける音があちらこちらから聞こえる。
「よぉ、起きたかいお隣さん」
威勢のいい声が辺りに響いた。
まだ夜は完全には開けきっていないが、辺りは明るかった。
「今日もいい天気になりそうだな」
「おうよ」
「お互いにがんばって商売に精を出すか!」
そんな会話が、毎朝行われる。この会話が終わる頃には、夜明けの鐘の音が、市街の中を駆け抜ける。そして、都市は眠りから覚めるのであった。
「見えたぞ、ラウェルだ!」
馬上の男がそう叫んだ。
「あれが地上から見たラウェルか。わたしは地上を通ってラウェルに来るのは初めてじゃな」
「高い城壁に囲まれた、城塞都市ラウェル。幾度となく繰り広げられた帝都陥落作戦は、全て失敗に終わったという街でございます。
確かにその話も納得がいきましょう、ヴィラン様」
「そうじゃな。守るに易し、攻めるに難し。まさに完璧な城塞都市じゃ。リザルト=レイヴンも形式にこだわってばかりおると、いつかは陥落せぬとも限らぬな」
「滅相もないことを……」
馬は六体。カリュース達である。ヴァントブル街道から少し離れ、ラウェルに向かう裏街道を通っていた。
街道と言っても名ばかりのもので、実際には、少し広い道がそのままラウェルにつながっているだけであった。
道は登りの丘で、辺りは何もなく、ただ大きな岩があちこちにあるだけの殺風景な所である。
カリュース達は馬足を遅そめ、ゆっくりと帝都に向かい始めた。登りになっていた丘もいつのまにか下りに変わり、ラウェルもまた一段と近くなっていた。
「カリュース」
ヴィランは、先頭にいるカリュースに近づくと話しかけた。
「なんだ」
「お主はラウェルに戻ったらどうするつもりじゃ。サジの所ではああ言ったが、何か姫の居場所のあてでもあるのか」
「ある。俺達はサジ伯の所に向かう前に、もう一人の人物も注意すべき人物として上げていた。
サジ伯のところにいないのだとしたら、もはやあそこしかあるまい」
「誰の所じゃ?」
「ヒスタリク王国の重鎮。アビス侯爵の所だ」
「ほぅ」
ヴィランは、軽い声を上げた。その目元には好奇心に満ちた光を宿していた。
「アビスの所とは、ずいぶんとやっかいな所におるものじゃ。助け出す為の策はあるのか」
「それはなんとかなるだろう」
「ずいぶんと自信があるようじゃが、なぜ言い切れる」
「リーディスがいる」
「リーディス? ああ、後ろの白髪の青年のことか。
サジ伯の所で会ったときから気になっておったのじゃが、あの男は何者じゃ」
「リーディスは、そうだな……俺の軍師ってところだ。
イプソスの大戦の時には、あいつのおかげで、俺達はヒスタリク軍に勝てたようなものだ」
(ほぅ、あの大戦の場に、そんな男がいたのか……)
ヴィランは、カリュースに向けていた視線をラウェルの方に向けると、そのまま黙って馬を歩ませはじめた。
(イプソス草原大戦のあの包囲戦術は、カリュース独自のものではなく、後ろの白髪の青年がたてた策だったのか。あの男、ただ者ではないようじゃな。
そんな男が味方におるのであれば、アビスの所から姫を連れ出すこともまんざら不可能ではないかも知れぬ。
さて、どのような策をもってするか……見物じゃな)
「もうじきラウェルにつくのぉ。夜通し駆けてきたかいがあったわい。がははははは」
デスの様子は、ラウェルに近づくにつれ次第に活発になり、いつもの豪快な笑い声をたて始めていた。
賑やかな朝の風景とは裏腹に、彼らの胸中には嵐の予感が渦巻いていた。




