↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EWIG(エーヴィッヒ)――帝国騎士と病床の白髪の友が織りなす、戦乱を生き抜く長編戦記【全99話完結】  作者: 黒わんこ
第二巻 第四章 『紫星』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/45

第22話 騎士と公爵

 ヴィランは、部屋に戻ってからは、ずっと紙に向かってペンを走らせていた。


 だが、ある程度書くと、突然ペンを置き、その紙をくしゃくしゃに丸め、そばにあるゴミ箱に捨ててしまった。そして、再びペンを握り、何かを書くのにふけっていた。


そう言った状態が数時間続いていた。その様子を、何も言うことなく見ていたエレオノールだったが、数時間も続くと、さすがにヴィランの様子がおかしいと感じはじめていた。


 「何かご懸念《けねん》でもあるのですか、ヴィラン様」


 だが、その言葉に反応はなかった。エレオノールは、ヴィランに近づくと、ヴィランのそばでもう一度同じ質問をした。


 「ヴィラン様」

 「ん、ああ。なんじゃエレオノール」


 ヴィランは、椅子を横向け、エレオノールと正面で向かい合った。


 「何か、ご懸念でもあるのですか、ヴィラン様」

 「何故じゃ?」

 「ヴィラン様のご様子がいつもと違っているように、感じられましたので。皇母様のことが気がかりなのですか?」

 「……かも知れぬ。じゃが、今考えていたのは、皇母のことではない」

 「どなたのことですか?」

 「父だ。何故父が、今ごろになって、わたしと会おうとしたのか。


 会ってどうするのか。

 何を言うのか。

 わたしをどうするつもりなのか。


 そんなことをとりとめもなく考えておったのじゃ。

 そのせいで、ほらこの通り、詩を書くのにも気が入らぬ」


 ヴィランは、書き散らされた紙で埋もれている、ゴミ箱を指さした。


 「ヴィラン様は、最近どうも沈《しず》みがちのように思われます。特に、アルベラからお戻りになられてから、より一層、そう感じられます」

 「そうか……わたしにも分からぬ。何故《なにゆえ》こんな気分でいるのか」

 「ヴィラン様は、もっと生き生きとしておいででした。誰も寄せつけない気迫《きはく》があり、時には優雅に、時には荒々しく。ある意味で、リザルト=レイヴンの芸術の中心人物でいらしたのです。

 しかし、今のヴィラン様は、光の無い天界。闇神ウォルの支配する、闇の国の人物のようです。何が、ヴィラン様をそうさせたのですか」


 エレオノールは、心配そうな顔つきで言った。


 「エレオノール」

 「あ、失礼致しました。どうか、無礼のほどお許しを」

 「いや、よい。エレオノール。おぬしはどう思う?」

 「何がでございましょうか?」

 「何故、父はわたしをサジの所によこしたのだと思う?」

 「フィリッツグール公爵の監視から逃れるためではないでしょうか」

 「果たしてそれだけであろうかの……」

 「……と申されますと?」

 「父は、もしかすると、わざとわたしをリザルト=レイヴンから遠ざけたのではないじゃろうか。

 わたしをリザルト=レイヴンから遠ざけることで、何か別の思惑があっての事ではないじゃろうか」

 「まさか。ヴィラン様をリザルト=レイヴンから遠ざけたのは、お父上様の、親心かと思います。

 ヴィラン様の記憶にはないお父上様ですが、決して人道を踏み外すような方ではないでしょう」

 「だとよいのじゃがな。私の考えすぎであれば……」

 「ヴィラン様……」

 「しかし、そんなわたしはいつもと違うか、エレオノール」

 「違います」

 「どう違うのじゃ?」

 「言いたいことを言えずに、うっぷんが溜まって、だんだんイライラしてきているように思えます」

 「うむ、ふさぎがちであるとは思っておったが、端《はた》から見てもそう思うか。しかし……うん? 誰か来たのか?」


 ヴィランは、窓の方を見た。開け放たれている窓から、馬のいななきが聞こえてきた。それは、一頭だけのものではなく、数頭のものであった。


 ヴィランとエレオノールは窓に近づくと、下を見やった。

 下には馬から降りた男が三人いた。その内の一人は、先に降りた男に支えられながら馬から降りた。支えられて馬を降りた男の頭髪は、完全な白髪《はくはつ》であった。

 男達の服装は、白髪の男を除いて、軍服姿であった。


 「あの者達、どこかで見たことがあるな。どこでだったかな……」

 「スィークリト帝国の『無敵の騎士(ケントゥリア)』の両名です。デス大騎将とカリュース中騎将です」

 「ああ、イプソス草原大戦の英雄か。じゃが、後一人のあの白髪《はくはつ》の男は誰じゃ?」

 「私には分かりかねます」

 「そうか。しかし軍人でもなさそうじゃな。杖をついておる。あの男、右足が動かないのではないか?」

 「そのようです」

 「エレオノール」


 ヴィランは、微《かす》かにいじわるく微笑みながら、エレオノールに言った。


 「あの者達は、どうやらこの館の主に用があるようじゃ。何故来たのか調べてくれるか」


 エレオノールは、少し安心した表情をした。


 「分かりましたヴィラン様」


 そう言うとすぐに、部屋から出た。


 エレオノールは、部屋の扉を開けたとき、廊下に誰か人がいたように感じた。だが、廊下には誰もいなかった。

 不思議に思いながらも、来訪者達の目的を調べるため、小走りに廊下を通り抜けていった。


 思索の糸を断ち切るように、避けられぬ現実が、館の門を叩こうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。