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EWIG(エーヴィッヒ)――帝国騎士と病床の白髪の友が織りなす、戦乱を生き抜く長編戦記【全99話完結】  作者: 黒わんこ
第二巻 第四章 『紫星』

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第18話 最初の一手

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第四章 『紫星』

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 帝都ラウェルでは、ジェドラ伯爵の葬儀が行われてから、すでに十日余りが経過していた。そして、カリュースが皇帝の勅命を受けてから、数日が経過していた。


 カリュースは、勅命を受けた夜、リーディスに事情を話した。リーディスは、この勅命の困難さを明確に表したが、決して不可能であるとは言わなかった。

 姫が連れ去られた国が、ヒスタリク、ラヴァウインドのどちらかであると言うことは、以前の調査隊の調べで、すでに判明していた。


 だが、いままで見つけることができなかったのは、その二つの国には、無数の諸侯領《しょこうりょう》が存在し、また国王の直轄領もある。そんな領内に、他国の者がそう易々とは踏み入れることができないからであった。


 リーディスは、そんな諸侯群を、やみくもに当たることは、時間と労力の無駄であることを指摘した上で、姫のいる可能性のある諸侯領を、十数件にまで絞り上げ、それをルッカとハースランドが二分して、ハースランドはヒスタリク王国へ、ルッカはラヴァウインド共和国へ、それぞれ探索の手を伸ばした。


 その結果、ついにヒスタリク王国のアビス侯爵と、ラヴァウインド共和国のサジ伯爵の二人が、姫を拉致・軟禁しているだろう可能性の人物として名が挙がった。



 「という調べがついたのだが、どうするカリュース?」


 シャンデリアの光が部屋の中を照らす。


 部屋の大きな丸テーブルには、四人の男がそばに腰をかけていた。

 四人の内三人は、軍服姿で、後の一人は普通の服だった。軍服の男の一人は、立派な上に反った髭をのばした中年の男。

 後の二人は、若かった。


 普通の服の男は、頭髪は完全な白髪《はくはつ》で、薄い黒い服の上には、青い上着を着ており、首からは銀色の細い首飾りを下げていた。その顔は白く、繊細である。


 若い軍服の男の一人は、手に書類を持ち、それをたった今読み上げたばかりの様子であった。


 「ということは、姫君のいるところは、サジ伯爵か、アビス侯爵の所だという訳か」

 「そういうことだな」

 「ここまで絞れたら、後は突撃あるのみじゃのぉ。がはははははは」


 髭の男が大きな声で笑った。若い軍服の二人は、そんな男の冗談に軽い反応を示しただけで、再び彼らの話の中に入っていった。


 「しかし、アビス侯と言えば、ヒスタリクの大諸侯じゃないか。それに、奴の要する軍隊は、ヒスタリク軍の二割にあたる兵力数だ。もしそんな所にいたとしたら、どうやって連れ出すのだ」


 書類を持っていない方の男はそう言った。


 「それは、なんとかなるでしょう。今は、どちらを先に調査するかということが大事です、カリュース様。私の考えでは、まずはラヴァウインドのサジ伯の所に向かった方がよろしいかと」

 「そうだな、リーディス。圧倒的な軍事力を有する場所に忍び込むより、ただの伯爵の屋敷に忍び込む方がはるかに簡単だ。

 しかし、そんな大して力を持っていない人物の所に、姫君を軟禁しておくかな」

 「可能性としてはあります。サジ伯爵は、裏の話では、ヒスタリクとスィークリトとの連絡点をつとめる人物。

 そして、そのことは両国の一部の者達だけが知っていること。私たちは、そのことをグリブロー大将軍から聞きました。


 そうなると、姫を軟禁するのには、ヒスタリク国内であるよりも、ラヴァウインドという隠れみのを使用した方が、ヒスタリクにとっても、都合がいいと思います」

 「しかし、それには引っかかるところがあるな。ヒスタリク側が連れ去ったとしたら、サジ伯の所に軟禁するのは確かに都合がいい。

 しかし、サジ伯はスィークリトともつながっている。姫のことがスィークリトに伝わる恐れがないか、リーディス」

 「問題はそこです。しかし、こういう仮説を立てれば、それも納得がいきます。


 仮説とは、スィークリトの内部の者が、《《意図的に》》ヒスタリクに姫を拉致させたのだとしたら──だとしたら、両方の国の連絡点であるサジ伯爵は、うってつけの人物と言えるでしょう」


 「なるほどな」


 男は、髪の毛をかくと、腕を組み、目をつぶった。


 「何にしてもじゃ。アビス侯よりは、サジ伯の方が力は弱い。じゃとしたら、先にサジ伯の所を調査した方が、効率が良いのは変わらんわい。違うかの。カリュース」


 髭の男は、腕組をしている男に向かってそう言った。

 腕組をしているのは、先日勅命を受けたカリュース。そして、髭の男は、その補助官として任命されたデス。書類を手にしているのは、ラヴァウインドに調査に行ったルッカ。白髪の男は、カリュースの軍師であるリーディス。彼らは、下調べの最後の話し合いをしているところだった。


 丸テーブルの上には、レーム酒の入った大瓶に、グラスが数個。窓にはカーテンがかけられており、部屋の中は明るくはなかった。


 「そうだな。まずは、サジ伯の所に向かうとして、誰が行くかが問題になるな。ところで、ハースランドはどうした? 何日か前から、ずっと姿を見かけないが?」

 「ハースランド中騎兵には、ちょっとしたことをしてもらうために、今はヒスタリクに向かってもらっています」


 リーディスは、カリュースの言葉にそう答えた。


 「となると、動けるのはここの四人だけか」

 「わしは、行くぞ。いい加減動かんと、肩がこるわい。がはははは」

 「じゃあ、俺も行くか」

 「いえ、ルッカ小騎将には、してもらいたいことがございますので、今回は、カリュース様と、デス大騎将、それに私が行きます」

 「なんだって! リーディス、お前も行くのか!」

 「そうですが、それが何か?」

 「お前は、そんな体で満足に動けると思っているのか」

 「今回は、戦いは起こりません。どちらかと言えば、相手の心の内を読み合うことが、重要となるでしょう。そうなれば、私が行けば多少のお役にたつと思いますが」

 「それはそうだが、しかし……」

 「まぁよいではないか、カリュース。今回リーディスを参謀にしたのは、こんな時の為ではないかの」

 「うむ……仕方がない。では、俺とデスさん、そしてリーディスがサジ伯の所に向かう。で、ルッカには、何を頼むのだリーディス?」

 「小騎将には、これを」


 リーディスはそう言うと、手元に置いていた紙を、ルッカに手渡した。

 ルッカは紙を受け取ると、さっとそれに目を通した。読み終わった後、ルッカの表情に、少し変化が起きた。


 「なぁ、リーディス。本当に俺がこれをするのか?」


 ルッカは、手渡された紙を指さしながら、リーディスに言った。その表情は、あまり気乗りしたものではなかった。


 「そうです」

 「これだったら、デス大騎将の方が、よくないか? おれは、ちょっとなぁ」

 「今は、デス大騎将には、サジ伯の所に行ってもらわねばなりません。でも、なぜそんなことを言われるのですか? 別に大したことではないと思ったのですが……?」

 「いや、この人物に会うのが……な」

 「ぐすぐす言っとらんで、素直にやらんかい、ルッカ!」

 「そうだぞ。今更、嫌だから下りる、なんてことを言われても困る。頼むから、やってくれないか」

 「うーむ、仕方がないか。ではおれは、今からゲナブの森に行くか」

 「それじゃあわしらは、サジ伯の所に向かうかの。がははははは」


 デスは、ルッカの肩を叩くと、背伸びをして、扉から出て行った。カリュースとリーディスは、テーブルに広がっている書類を片づけると、すぐにデスと共に、ラヴァウインドを目指した。


 帝都を離れる彼らの背中を、運命の風が静かに押し始めていた。

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