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聖騎士少女の多難な任務  作者: いかぽん


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7/12

賊徒のアジトへ(1)

 ひと通り方針を固めたユニスらは、村を出立しようとした。


 するとそのとき、一人の少年が声をかけてきた。


「待って! お姉ちゃんたち、あいつらの居場所が分かるんだろ。だったら俺も行く。父ちゃんと村のみんなの仇を討って、母ちゃんを助け出すんだ!」


 まだ七、八歳ほどと見える子どもだった。

 手には(なた)を持っている。


 そればかりではなかった。

 その少年に向けて、彼の後方から声が掛かる。


「下がりな、キー坊! お前は村で留守番だよ。戦いに行くのは、あたしらだけで十分だ。あんときゃあ何もできなかったが、今度こそ一矢報いてやるよ!」


 それは老婆の声だった。

 見れば年かさの男女、二十人ほどが、武器代わりの農具を手に集合していた。


 ユニスは隣にいたラヴィニアと、顔を見合わせる。

 こんな事態は、想定していなかったのだ。


 一方で、頭をばりばりと掻いた後に、少年のもとに歩み寄った者がいた。

 兵士グランツだ。


 大柄な兵士は少年の前でしゃがみ込むと、その大きな手で、少年の頭をくしゃくしゃになでた。


「おう坊主、いい心掛けだ。だがお前は村にいて、あのジジイババアどもを守ってやれ。お前の父ちゃんの仇は、俺たちが討ってやる。お前の母ちゃんも、俺たちが救い出す。だからこの村で待ってろ。いいな」


「で、でも……!」


「俺たちを信じろ。分かったか」


「…………。……分かった。でも、絶対だぞ!」


「ああ、絶対だ」


 その様子を見て、ユニスは少し微笑ましい気持ちになった。

 あんなやつでも、いいところがあるじゃないか、と。


 そしてユニス自身は、集まった高齢の村人たちに向け、声をかける。


「皆さんの心意気はいただきました。ですがここは、私たち聖騎士団に任せてください。大人数になることで、逆に部隊が混乱する可能性も考えられます」


 足手まといになる、という直接的な言葉は使わなかった。

 集まった村の人たちは、しぶしぶといった様子でユニスの言葉に従った。


 グランツをはじめとした兵士たちも、このユニスの判断に反対することはなかった。


 ユニスたちのような国に雇われている者たちの生活は、領民が国に収める税によって成り立っている。

 このような場面で命を懸けて戦うのは、ユニスたち戦闘のプロの仕事だ。


 村人たちが自ら武器を取って戦うべき局面もあるかもしれないが、今はそのときではないとユニスは判断したし、それをグランツたちも指示したのだ。


 部隊は村を出て、フィオが待っている場所へと向かった。


 その道すがら、ラヴィニアがグランツのもとに行って、からかうような調子で声をかける。


「あの子のお母さんを、絶対に救い出すって約束しちゃってたけどさ。人質に取られたらどうするの? 見捨てるんじゃなかったっけ」


「……チッ、嫌なことを言いやがる。そんときゃしょうがねぇだろうが。だいたい俺は、あのガキの母ちゃんの顔なんざ知らねぇんだ」


「ふーん。じゃあ、あの子に嘘をついたんだ」


「まだ嘘と決まったわけじゃねぇだろうが。全員救い出しゃあいいんだよ」


「ま、そうだね。約束を果たせなかったときには、ボクたちが泥を被るしかないか」


「あ? あのガキと約束したのは俺だ。お前らは関係ねぇだろ」


「あー、そういう感じ」


 その後、ラヴィニアはユニスの隣に戻ってきて、「ボクさ、あいつのことクッソ嫌いだったけど、少しだけ感じ方が変わったかも。少しだけ、だけどさ」と言った。


 ユニスはそれに「同感ね」と答えた。


 やがて部隊は、フィオとの合流場所までたどり着いた。


 斥候の少女が待っていた場所には、さらにもう一つ、賊のものらしき死体が転がっていた。

 やはり首を掻き切られ、おびただしい血を流して絶命している。


「交代が来たから、始末しておいた」


「……おっかねぇガキだな。敵じゃないことに、心底ホッとするぜ」


 フィオの淡々とした言葉に、グランツが感想を漏らす。


 もはや死体を隠す必要はない。

 兵士三十人を連れた部隊は、そのまま賊徒のアジトに向かって山道をのぼっていく。


 斥候のフィオは一人、部隊から離れて先行した。

 一足早く敵のアジトへとたどり着き、状況を探ってくるのだ。


 フィオは夜目が利くらしく、灯りをつけずに夜の山中を進むこともできるという。


 ユニスたちが、山中の道なき道を登っていくことしばらく。

 やがて夜が深くなり、あたりが真っ暗闇に包まれていく。


 数本のたいまつに火をつけ、兵士たちが持つ。

 ラヴィニアがそこに、認識疎外の魔法を行使した。


 この魔法は、対象の存在が認識されにくくなる効果を持つ。

 魔法の対象となった人物や物品は、まるで路傍の石ころのように、気に留められにくくなるのだ。


 しかしその効力にも限界がある。

 不自然だったり、目立ったりするものは、やはりどうしても認識されやすくなる。


「夜にたいまつの灯りがあるのは、どうしても目立つからね。気付かれるかどうか、良くて五分五分ってところじゃないかな。敵がぼんくらだといいけど」


 とはラヴィニアの言葉だった。


 しかしそれ以上にできることもない。

 ユニスは、敵に早々に見つかることのないよう祈りながら、兵たちを率いて行軍を続けた。


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