村の様子
ユニスはラヴィニアや兵士たちと合流すると、ケルト村へと入った。
そこで村の惨状を目の当たりにすることとなる。
「ひどい……」
そうつぶやいたのは、ラヴィニアだ。
ユニスもまた、拳を強く握りしめる。
彼女らの前には今、村人たちの墓があった。
簡易なものだが、その数は数十にも及ぶ。
すべて賊どもに殺された者の墓だという。
村のいたるところには、地面に大量の血がしみ込んだ跡があった。
この村でどれだけの惨劇があったのかは、想像するに難くない。
二人の隣で、年老いた村長が、苦しげに語った。
「殺されたのは、ほとんどが男です。女子供も何人か殺されました。多くの若い女は、いずこへか連れ去られました。今この村に残っているのは、老人や子供ばかりです」
「……許せない。絶対に」
ユニスは拳と声を震わせていた。
連れ去られた女たちがどんな目に遭っているかは、火を見るよりも明らかだ。
殺された男たちの無念も、いかほどか計り知れない。
一家団欒、幸せに暮らしてきた家も少なくないだろう。
それを賊どもは、めちゃくちゃにぶち壊したのだ。
悪党どもは、いつもそうだ。
力なき人々から大切な日常を奪い、理不尽な暴力ですべてを踏みにじっていく。
初心を思い出す。
そんな理不尽な世界を、少しでも良くするために、ユニスは聖騎士になったのだ。
たとえそれが、いつも本質的に手遅れであったとしても、次に起こる不幸を減らすことにはきっと意味があると信じて──
力なき村人たちを虐殺し、自らの欲を満たそうとする賊徒への怒りが、ユニスの胸になみなみと満ちあふれていた。
「で、許せないのはいいとして。ここからどうするんだ、隊長さんよ?」
後ろで様子を見ていた兵士グランツが、ユニスに声をかける。
彼を筆頭として、三十人の兵たちがそこには集まっていた。
ユニスは彼ら、兵たちのほうへと向き直る。
賊どもへの怒りによって、すっかり据わった目で、グランツらを見る。
「私が指揮をしてもいいんですか」
「ま、今のところはな。気に入らなけりゃあ、そんときに言うさ」
「いい加減なものですね」
「そう怒るなよ。悪いのは俺たちじゃねぇ。賊どもだ。そうだろ?」
「正論です。その賊どもを倒すために、協力してください」
それからユニスは、兵たちの前で、ここに来るまでに考えていた作戦を伝えた。
といっても、情報が限られているので、かなりざっくりとしたものではあるが。
「これより私たちは、フィオと合流して、敵のアジトに襲撃を仕掛けます」
「今からか? ここから敵のアジトまでは、山中に入って一刻ほどって話だろ。すぐに暗くなっちまう。たいまつに火をつけて山道を登ったら、上にいる敵に今から攻めますって知らせてやるようなもんだぜ? 朝になってからのほうがよくねぇか」
グランツからの異論。
ユニスもそれは考慮済みだ。
「一理あります。でも賊のアジトに連れ去られたという女性たちは、今このときもずっと苦しんでいます。少しでも早く解放してあげたい」
「だから、そういう綺麗事に付き合って、命を落とすのは御免だと──」
「それに私たちはすでに、敵の見張りを殺しています。時間を置くほど、敵に私たちの存在が気付かれるリスクが上がります。朝を待つ前に、アジトから逃げられてしまう可能性もあるでしょう」
「チッ、なるほどな。今の段階で見張りを潰したのは、早計だったか。とはいえ今さらだな。あのときにゃあこの絵が見えてなかったんだ、仕方ねぇ」
ここにおいてユニスは、独断で決めなくてよかったと安堵した。
グランツらにあらかじめ方針への同意をとっていなければ、ぐちぐちと落ち度を責められていたに違いない。
人は自分で決めたことには、納得をするものだ。
グランツは少し考える素振りを見せた後、ユニスに向かってこう言った。
「分かった、お嬢の言うとおりでいい。だが攻める前に、これだけは約束しろ。敵が人質を取ってきたときは、見捨てろ。全員助けるなんて甘えたことは抜かすんじゃねぇ」
「……そうですね。そのような事態はできれば避けたいですが、やむを得ない場合は、仕方ありません」
ユニスは沈痛な面持ちでそう返して、うつむいた。
少ししてから、隣にいる相棒に問いかける。
「ニア。今から攻めるとして、たいまつを持って夜に進軍すると目立つのは事実だけど。そのあたりは魔法でどうにかできない?」
宮廷魔術師の少女は、少しの間思案してから、こう答えた。
「難しいね。一時的に暗視能力を付与する魔法はあるけど、一人ずつしかかけられない。この人数にかけるとなると、ボクの魔素を全部使い切っても全然足りないよ。認識疎外の魔法を使えば気付かれにくくはなるけど、それも夜にたいまつだと心もとないね。使わないよりはマシ、ぐらいかな」
「魔術師様っつっても、万能じゃあねぇんだな」
そうケチをつけたのは、いつものごとく兵士グランツだ。
ラヴィニアは、少しイラッとした様子を見せながら、言葉を返す。
「当たり前でしょ。魔術師が万能なら、ボク一人で全部を片付けられることになるじゃん。キミたち兵士はいらない子になって、明日から職探しをしないといけなくなるよ」
「違ぇねぇ」
グランツはガハハと笑う。
そうしたやり取りを見たユニスは、このグランツという兵士は、悪気はなくて単に無神経なだけかもしれないなと思い始めていた。




