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聖騎士少女の多難な任務  作者: いかぽん


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5/12

暗殺

 ユニスはケルト村近くの山中を、草を踏みしめ、立ち並ぶ木々をかわしながら疾走していた。


 彼女の前方には、先導して走るフィオの姿がある。


(……速いわね。命気の扱いに手慣れている)


 斥候の少女の走りは、命気を使いこなして身体能力を強化できるユニスをもってしても、追いつくのがやっとの速度だった。


 あの若さで、と舌を巻く。

 ユニス自身、命気の扱いに関して天才と呼ばれることもあるほどだが、やはり世界は広い。


 命気とは、生物の体内に存在するある種の生命エネルギーだ。

 その力を効果的に活用することで、自らの身体能力を、常人のそれを超えて強化することができる。


 命気の扱いは難しく、鍛え上げられた戦士たちの中でも、ごく一部の者しか使いこなすことができない。


「止まって」


 しばらく走ったところで、フィオが足を止め、ユニスにも制止を促してきた。

 ユニスは斥候の少女を見習って、身をひそめる。


 今のユニスは、衣服のみを身に着けた姿で、武器も防具も装備していない。


 フィオの隠密行動に同行するため、身に着けていると音が鳴る装備品を、あの場にすべて脱ぎ捨ててきたのだ。


 フィオは木の幹に隠れ、前方を覗き見ながら、言葉だけをユニスへと向ける。


「聖騎士ユニス、やっぱりあなたは優秀。この速度についてこれる人は、そうはいない」


「お褒めにあずかり光栄だけど。そっちは私に合わせてくれていたんでしょ」


「だとしても。速さならともかく、力比べをしたら、たぶん私はあなたに勝てない」


「当たり前よ。聖騎士が斥候に力で負けていたら、話にならないわ」


「それが優秀だって言ってる。私とほとんど同い年で、そこまで命気を使いこなせる人は、初めて見たかもしれない」


「お互い様ね。ここからどうするか、プランはあるの?」


「この先に、敵の見張りがいる。目論見どおり一人。私が始末してくる」


「どこ……? よく見えるわね」


「素人に見えるような状況なら、向こうからも気付かれる。そんなヘマはしない。ユニス、ここで待っていて」


 そう言い残して、褐色肌の斥候少女は音もたてずに小走りで進んでいく。


 ユニスと違って短剣などの武器を装備しているのに、ほとんど無音なのはどういうことなのか。


 やがてユニスの視界から、フィオの姿が見えなくなった。

 立ち並ぶ木々の向こうに、その姿を消したのだ。


 やがてくぐもった声が聞こえてきた。

 口をふさがれたまま、悲鳴を上げたかのような。


 少しして、フィオが戻ってきた。

 その衣服には真新しい血がわずかに付着していたが、どうやら返り血のようだ。


「交代が来る前に、死体を動かす。私だけだと少し大変。手伝って」


「了解」


 フィオに案内されるまま先に進んでいくと、そこにはひげ面の中年男の死体があった。

 首が掻き切られ、おびただしく出血した姿で息絶えている。


 そいつは革鎧を身に着け、かたわらには戦斧が落ちていたが、激しい戦闘が起こった様子は見られなかった。

 フィオの存在に気付かないまま、彼女の手で殺されたのだろう。


 ユニスはそれを見て、怖いなと思った。

 仮にフィオに命を狙われたとき、自分はそれに対応することができるだろうか。


 多少腕が立つ自覚があっても、慢心は良くない──そのことを改めて思い知らされた。


 フィオとユニスは、賊の死体をその場から運び出し、山中のにわかに発見できない場所へと隠した。

 戦斧なども隠し、地面に流れた血は土をかけるなどして痕跡を消した。


「これで交代要員が来ても、私たちの存在が気付かれにくい」


「応急的な手当てだけど、やらないよりはマシね」


「交代要員が来ても対処できるように、私はここで待つ。ユニスは戻って、部隊を動かして。村の状況も、一度自分たちの目で、見ておいたほうがいい」


「うん。フィオが味方で良かったわ」


「私もユニスとは、あまり敵対したくない」


 ユニスとフィオは、互いに平手を差し出し、ぱちんと打ち合わせる。


 そしてユニスは、ラヴィニアや兵士たちがいる場所へと戻っていった。


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