村へ
オレンジと群青に彩られた、夕焼け空の下。
森の中の小道を、三十余人の武装した戦士たちが、列をなして歩みを進めていた。
身に着けた武器や鎖かたびらなどが、がちゃがちゃと音を立てている。
ユニスたちが王都を出立して、およそ一日半。
昨晩は途中にあった町に宿泊し、今日は二日目の行軍となる。
しかし二日目の半ばを過ぎた頃には、すっかり音をあげていた者が一人。
「ぜひー、ぜひー……。む、村は、まだなの……二日も歩き詰めは、本の虫であるボクには、しんどすぎるよ……」
魔導士の杖を、文字通り杖代わりにして、よろよろと歩いているのは宮廷魔導士ラヴィニアだ。
そんな彼女に対して、ユニスは呆れた様子を見せる。
「まったく、だから普段から、ちょっとは運動しなさいって言ってるじゃない」
「はあ、はあ……う、運動は……ユニスの、仕事……。ボクは、頭脳労働が、仕事……だからユニスぅ~、おんぶして、ボクを村まで連れてって~」
「醜態をさらしすぎよ、宮廷魔術師ラヴィニア。兵たちの前で、あまりみっともないところを見せないように」
「うううっ……ユニスがお仕事モードだ……」
「当たり前じゃない。仕事中なんだから」
先頭を往く二人がそんなやり取りを見せていると、その後ろから兵士グランツが声をかけてくる。
「ははっ、情けねぇな、魔導士の嬢ちゃん。なんなら俺がおぶってやろうか? 尻とかたっぷりと揉んじまうかもしれねぇがな」
それを受けて、兵士たちがゲラゲラと笑う。
対するラヴィニアは「は? 死ねよ。ボクはユニスにおんぶしてもらいたいの。言わなくても分かれよ」と言って、絶対零度の眼差しをグランツに向けた。
こんなやり取りはグランツたちもすでに慣れ切ったもので、やれやれと肩をすくめる。
「大丈夫、もう村が見えてくる。ほら」
そう言って前方を指さしたのは、城で集まったときには見られなかった顔だ。
斥候として雇われた、冒険者の少女だ。
年の頃は十六、七歳ほど──ユニスやラヴィニアと同じか、なお幼いぐらい。
そんな若さでも斥候としての技量は高く、一流といっても過言でないほどだという。
褐色肌に、それよりも濃い褐色の髪、アメジストパープルの瞳が特徴的だ。
動きやすい服装の上に革鎧を身に着け、幾本もの短剣と弓矢を装備している。
斥候の少女が指さした先を見ると、木々の合間から、確かに村らしき姿が見えてきていた。
広大な畑の合間に、木造の家屋が点々としている。
それを見て喜色を浮かべたのは、ラヴィニアだ。
「よかったぁ~。ねぇユニス。もう少しだから、ボクをおんぶして村まで連れていってよ」
「逆にどうしてそうなるのよ。いい加減になさい」
「……心配。こんな連中で大丈夫なの」
斥候の少女は大きくため息をつく。
魔導士ラヴィニアは、ほがらかな笑みを浮かべる。
「あはは、フィオちゃんは辛辣だなぁ。大丈夫だよ。ユニスはこう見えて、やるときはやる子だからね」
「私が悪いみたいに言わないで。全面的にニアのせいでしょうが」
「そうとも言うね」
「はあ……国に仕える人たちって、もっと真面目な人ばかりかと思ってた……」
フィオと呼ばれた斥候の少女は、再び大きくため息をついた。
だがすぐに真剣な顔になって、こう続ける。
「ここから先は、気を付けたほうがいい。武装した集団が村に入ると、相手に警戒される。村を見下ろせる高台に、賊の一人が密かに見張りについているはず。今もいるかは分からないけど、数日前──先行偵察に来たときには、いた」
「ほう。お前、ガキのくせに有能じゃねぇか。どこぞの聖騎士様や魔術師様とは一味違う」
そう相槌を打ったのは、兵士グランツだ。
フィオのような斥候は、隠密行動や索敵、敵情視察などを得意とする者たちだ。
このような技能の持ち主は、他国では伝統的に盗賊と呼称されることもあるが、人聞きが悪いので聖王国ではその呼び名は使われない。
聖騎士団は、ユニスらの隊を派遣するよりも前の段階で、フィオを雇って現地の視察を行わせていた。
しかし褒められた当人であるフィオは、グランツに冷たい視線を向ける。
「たぶん、その二人のほうが、あなたよりはよっぽど優秀」
「……ああ? なんだとガキ」
「おちゃらけ過ぎなのは、どうかと思うけど」
「ほらユニス、言われてるよ」
「もうツッコむ気力も失せてきたわ……」
いつもの相棒による軽口に、盛大にため息をつくユニス。
そんな聖騎士の少女に、フィオが淡々と問う。
「私はまず、見張りを始末したほうがいいと思うけど、どうする。この部隊の指揮官は、聖騎士ユニス、あなただと聞いている。私はあなたの指示に従う」
それを聞いたユニスは、思案した。
少しして、フィオへと問い返す。
「相手に気付かれないように、倒せるの?」
「見張りが単独で、腕利きでもなければ、私ならほぼ確実にやれる。でも殺した後が、少し面倒。ユニス、あなたについてきてほしい。ここにいる中では、一番使えそう」
「私に……? それはいいけど、そうね……」
ユニスは兵士たち──特に難癖をつけてきそうなグランツのほうを、ちらりと見る。
するとグランツは、肩をすくめてみせた。
「見張りなんざ、先に潰せるなら潰しておいた方がいいに決まってらぁ。文句はねぇよ」
「それなら決まりね」
どうやらグランツたちは、ユニスの考えにむやみに反抗するつもりはないらしい。
納得できない命令に従うのが嫌なだけのようだ。
話がまとまったことを確認して、フィオが言う。
「じゃあ、聖騎士ユニス──ここで全部、脱いで」
「……は?」
斥候の少女からの唐突な要求に、ユニスは目を丸くして、首を傾げた。




