溢れる想い
※2話連続、本日二回目の投稿です。
前のページからお読みください。
兄妹と別れて3人でヤエムの宿屋での夕飯をとった後、部屋(別々にして一応各部屋に保護の呪文をかけた)で過ごしていたらロードがやってきた。
「姫様、お茶でもいかがですか?」
「あ…ありがとう。お願いします。」
ぼーっと窓の外を見ていた私は慌てて向き直る。
優雅な動作で淹れるのを見て、そういえばロードも貴族出身だと思い出す。
「貴族って自分で紅茶淹れたりもするんだ?」
「貴族でも騎士ですから。身の回りのことは大体自分でできますよ。」
他愛もない話をしながら、紅茶の香りに少しだけ心がほぐれる。
小さく息をついた私を見て、「大丈夫ですか?」と心配そうなロードに「もちろん!」と返す。
ぎこちない笑みになってしまったことはわかってる。
でも強がってないと、気を緩めた瞬間に恐怖が押し寄せてきそうだ。
「…怖いのは当然です。」
ぴくりと肩を震わせた私に、ロードは続ける。
「それは恥じることではありません。少しでも不安を和らげるために我々がいるのです。良ければ、話してくださいませんか?」
手の中のカップ見つめていたら、言葉がぽつりとこぼれ落ちた。
「………フィルは、戦争の最中、闇の精霊王の一部が取り憑いたってチェルシーに聞いた。」
「…そうです。」
「そんな強い力を私がどうにかできるのか、そもそも光の精霊王との契約自体うまくいくのか、とか、黙ってるとそんなことばっかり考えちゃって」
やるしかないと覚悟は決めたはずなのに。
黙った聞いていたロードはおもむろに側に来て膝をつき、私の手からカップをテーブルに戻す。
そのまま背中に手を回したかと思えばそっと抱き寄せられて、一瞬頭が真っ白になる。
「ろっ⁉︎ろろろ、ろーどさん⁉︎」
慌てふためき身じろぎする私の体をしっかり押さえ込み、耳元でテノールの落ち着いた声が響く。
「こんなに震えて……。
いいですか、姫様、自信をお持ちください。貴方の力は、魔力だけではありません。人のことを想い心を砕き、周囲を明るくする。騎士達皆も、…私も、貴方の明るさやあたたかな心にすでにたくさん救われています。」
ぽんぽん、と頭を撫でられ、安心したらじんわり涙がにじむ。
気付いたロードが体を離して、長い指で涙を掬ってくれる。
感謝の気持ちをこめて見上げると、触れていた手がピタリと止まる。
「?」
どうしたのかとさらに見つめるとーー
何も言わず顔を近づけたロードは、ちゅっ、と音を立てて両目の目尻の涙を吸い取っていった。
そのまま熱を持った瞳に射抜かれて身を硬くした私の頰に手を添え、再び顔を寄せる。
「………ぁ、ロードっ!」
咄嗟に体を押せば、ロードは動きを止めた。
至近距離で固まったと思ったら、バッと物凄い速さで離れ、床にひれ伏す勢いで頭を下げた。
ほぼ土下座である。
「も、申し訳ありません!こんな時にとんだご無礼を!」
「い、いえ、あの…慰めようとしてくれたのはわかってますから…すみませんビックリしちゃって…」
それを聞いて顔を上げたロードは、意を決して口を開く。
「……それこそ、こんな時に言うことではありませんが…姫様、私はあのようなことを誰にでもするわけではありません。姫様だからです。」
きょとん、としたティアを真剣な眼差しで見据え、告げる。
「…お慕いしております。守る対象として以上に、異性として」
「え…」
何を言われたのかすぐには理解できなかった。
いつも大人の対応で色々教えてくれて、みんなにもお兄さんのように慕われるあのロードが?
私のことを…好き??
脳に言葉が到達した瞬間、顔が沸騰したかのように真っ赤に染まる。
「え、いやそんなこと急に言われても、あの、えと、私は…その気持ちには応えられません。ご、ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げたら、頭に血が回ってクラクラした。
「…貴方の気持ちはわかっています。ただ、気持ちはすぐには消せぬもの。今しばらく想いを寄せることを許して頂けますか?」
優しい顔でそう言われるとダメだとも言えず、口ごもる私に、ロードは微笑んだ。
「…そういえば、先ほどの話ですが。フィリスは突然手にした闇の力に戸惑い苛まれながら、精神力で克服して己の力にしていったのです。そんなやつが、これしきのことでどうにかなると思えません。」
だから大丈夫ですよ、と笑ったロードはすでにいつものロードで、私は困惑と安堵がないまぜになって、ふにゃりと顔を崩した
読んでくださりありがとうございます。
ひとまず終着駅まであと少し…
かな?(わからないんかい!)
ロードとの決着のつけ方は悩ましい部分No.1です。




