幼き日の約束
何気なく見てみたら日間ランキングに名前があってビックリしました…!素敵な作品達の中で恋愛ジャンル日間6位なんて!
読んでもらえて嬉しいです(*^^*)
ブクマも1000件超えてました…
ありがとうございます。
ひとまず完結です
ティアです。
天国のお母さん。
私、また死にかけてます。
一瞬向こう側のお母さんが見えたかと思いました。
「ぐぅ…っ、マリ…マリアさん"ッ!くるじぃ…ギブギブギブ!」
ドレスを着ているだけなのにこれまで死にかけたどの時より苦しい。
これはもう、マリアがこの世で最恐なのかもしれない。
「ギブとかありませんわ。これくらい我慢していただきませんと」
私のウエストを締め上げるクールビューティーに抗議の呻き声を上げたけど、取りつく島もない。
なんとかドレスを着せてもらい、よたよたとソファーに座る。
今夜のドレスは淡いライトグリーン。
定番になりつつある繊細なレースがさりげなく袖口や胸元からのぞき、髪や腰は澄んだブルーの宝石で飾られている。
いつもは自分の瞳と合わせてエメラルドの宝石が多いんだけど、今回は側妃さまとマリアがあれこれ全部決めてくれたんだよね。
そして腕には、先日フィルがくれたブルーの石がついたブレスレットをはめている。
そう、盗賊に攫われたあの日、フィルの落し物だと思ってマリアが届けに行ってくれたものだ。
私に渡そうとして、なかなかタイミングが掴めなかったらしくいっつも持ち歩いてたらしい。
なにそれ胸キュン。にやにやしてしまう。
「…にしてもこのアクセサリーのブルー、どっかで見たような…」
「失礼致します。姫様、お迎えにいらっしゃいましたわ」
振り返ると、ところどころ金の刺繍が施された白い騎士の正装に身を包むフィルがいた。
王子様みたい……
って本物はエドがいるんだけど。
物語に出て来そうなキラキラした姿があまりにも格好良くて、口をポカンと開けて見惚れてしまった。
いけないいけない、フィル相手だと気をぬくといつもぽーっとしてしまう。
眼福眼福。
エドは来賓のおもてなし責任者なので、フィルが私のエスコート役をしてくれることになっていた。
そんな彼は、私を見てその瞳を小さく瞠った後嬉しそうに破顔した。
ま、眩しい…!
いつもの口元をそっと緩める微笑みの倍以上に殺傷能力のある笑顔を直視できず視線を下げると目に入る己のブルーの装飾品の数々、腕のブレスレット。
……んん?
バッ!と顔を上げると澄んだ青の瞳がとてつもなく幸せそうにこちらを見ている。
このブルーは限りなく
「同じ色、だね」
…………ぬぁぁっ!!?
そういうことかーー!
色を共有することで、"彼と私は心を寄せあっています"的なアピールになることは知識でしっていたけど
けれども!!
超 絶
はずかしいんですけど!!
しかも多めにつけてるアクセサリー全部の色をフィルの瞳と合わせるって、独占欲丸出しじゃないか!
今更ドレスや装飾品を選んだ側妃様やマリアの意図にも気付いた私は、「そんな苦悶の声を上げなくても」とくつくつ笑うフィルの横で声にならない声を上げて悶えまくった。
気を取り直すまでに少し時間を要した。
仕方ないよね、これ。
穏やかではない精神状態ではあったけど、フィルのエスコートで会場に入ると、貴族や騎士達から大きな拍手で迎えられた。
私達で最後、全員が集まったようで、お父様が王座から立ち上がる。
「皆、よくぞ集まってくれた。先日の魔物討伐に加えて、2国を悩ませる盗賊までもを追い詰めた。ユーレストとセレスティナの協力があってこそと思う。今宵は友好をさらに深め、これからの2国の発展を祈ろうではないか!そして、パーティーの始まりは、やはりめでたい話題からだな。セレスティナ王国騎士団第二部隊隊長フィリス・ディオルク!……約束を守ろう。」
急にフィルの名前が呼ばれたため目を丸くする私に対して、フィルはサッと胸に手を当てて礼をする。
「陛下。このような場をくださりありがとうございます。」
カツ、とかかとを鳴らして腰から剣を取り出し、左手を剣の腹に添えて私に捧げるように持つと、跪く。
「え?な、なに?」
「ティア・ウィリアムス・セレスティナ様。私、フィリス・ディオルクは、この剣にかけて、病める時も健やかなる時も、一生貴方をお守りすると誓います。…どうか、私の伴侶になってくださいませんか?」
多くの人がいるにも関わらず、会場は痛いほどの沈黙で静まり返っている。
「あ、え…と」
心臓がドクドク言ってるのが聞こえてしまいそうだ。
「…お迎えにあがるのが遅くなってしまいましたが、来ましたよ、ちゃんと」
くすりとそう笑った顔が、唐突に過去の記憶を思い出させた。
それは、遠い昔、幼い頃。
戦争が起こる前の話だ。
『ねぇねぇこの絵本の中のお姫様って幸せだね!大好きな人たちと一緒にいて、最後は1番大好きな王子様と結婚するのよ!』
姫といえど、生まれ持った魔力のせいでまだ5歳かそこらで王宮を出て王都で生活していた私には、それはキラキラした夢のような世界だった。
『そうですね…ティア様も憧れますか?』
『うーん………私は王子様よりも、フィルがいいな!優しいしカッコいいし』
フィルはこの時、恵まれた幸せな姫に憧れるか、と聞いたのだろうけど、乙女な幼き私は、確かそう答えた。
『そんな…俺などは畏れ多いですよ。騎士ですし歳も近くて頼りないですし』
『いいの!迎えに来てね、ちゃんと』
そんな他愛もない会話の中での約束ーーー
「守ってくれた、の?」
そうだ、そう、私は小さい頃に騎士になりたてのフィルに護衛してもらってよく一緒にいたんだ。
戦争と母の死と、色々なものを乗り越えるなかで記憶の奥底にしまいこんでいた、淡い想い出。
フィルは声には出さず、澄んだブルーの瞳を少し細める。
言葉が出ず、つんと鼻が熱くなる。
剣を受け取り、普通なら肩に剣を置いて言葉を返す、というのが公の場での騎士と姫の決まり事。
私は剣を持ちーーー
フィルに捧げ直した。
ざわめき出す広間。
国王陛下である父も、「え、作法はわかってるよね?うちの娘、大丈夫かな?」と、父親の顔で心配そうにしているのが目の端に移る。
わかってるけどこれが、私の気持ち
「病める時も健やかなる時も……闘いに出向く時も。私にも、貴方を守らせてくださいますか?それが許されるのならば、喜んで妻になりますわ」
私は愛しい人が闘うとき、ただ家で待ってるだけは嫌なのだ。隣で、闘いたい。
フィルは王子様ではないけど、私も、絵本の中のようなお淑やかなお姫様じゃない。
そうくるとは思わなかったのか、虚をつかれた表情のフィル。
小さく息を吐くと立ち上がり、
「…俺より格好良くてどうするの」と呟く。
そして剣を捧げる私の手に自らの手を添え…
「どんな時も、共に。」
蕩ける笑みで、欲しい言葉をくれた。
息を詰めていた広間のお客様達からワッとひときわ大きな歓声が沸き起こる。
お父様や側妃様は涙ぐみ、そのそばにいるエドはもちろん、ロードやシュウ、シェール公爵、フィルのご家族、ハノアちゃん、みんなが笑っている。
隣国のソフィーヌ姫も、いつの間に仲良くなったのかハノアちゃんと目をキラキラさせながら手を叩く。レオナルド王子はなんだかがっくりと項垂れてるけど。
こんなに周りの人に認めてもらえるなんて、幸せだ。
フィルにそう告げると、
「まだまだこれからだよ?」そう抱き上げながら笑うから。
涙が止まらなくなってしまった。
絵本の中のお姫様よりも、きっとずっと、私はいま、幸せだ。
腕の中の温もりを、優しい気持ちでぎゅっと抱きしめた。二度と離れないように。
こうして、突然姫となった平民育ちのお姫様は、自分だけの王子様と幸せに暮らしましたーーーー
という話は、夢のあるシンデレラストーリーとしてその後長く国民を楽しませることになる。
本当のところ結婚までにも紆余曲折あったのだけど、それは、2人だけの物語。
完
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
後日談や、別視点、他の登場人物たちのストーリーはもう少しだけ書こうかな、と思っています。
詳細は活動報告で