見舞われ日和
次の日は朝からバタバタだった。
まず部屋に飛び込んで来たのは、ソフィーヌ姫。
「ティア姫様ぁぁー!!申し訳ありませんでしたわぁぁぁぁうわぁぁぁん!」
ベッドサイドでひたすら謝りながら泣き散らしていたのを少しあとに来たエドに「いい加減にして下さいね。姉上は病み上がりで疲れていらっしゃいます。これ以上貴方の相手をするとまた倒れてしまいそうですから早く出て行ってください」と腕を引きずられ、泣いたまま部屋を出て行った。
エドが持ってきてくれた見舞いのフルーツを食べていると、今度はロードがハノアちゃんを連れてきた。
翌日の戦勝会が盗賊退治の祝いも兼ねるということで、功労者の1人にエドが名前を挙げたハノアちゃんも城に招かれたそうだ。
城の案内をロードが担当しているらしい。
「姫様、無事」
「うん、ありがとう!ハノアちゃんの弓のおかげだよ」
フッと笑んだハノアちゃんは随分大人びた雰囲気を纏うようになった。
凛とした空気とあいまって、より美人に磨きをかけている気がする。
明日初めてドレスを着せてもらうとキラキラ
した目で話している姿はまだまだ幼くて可愛らしいけれど。
と言っても、実は年齢は私とそこまで大きな差はなかったんだよね。ハノアちゃんが少し下ってくらい。
見た目は、もう私と同じくらいに見える。ノームアンセスタの成長ぶり、恐ろしや。
うーんしっかりしないと、美形兄妹のお姉ちゃんポジションに居られなくなってしまう!
美しいものを愛でられる美味しい立ち位置を守らねば…頑張ろう。
そんなことを考え胸を熱くしてると、レオナルド王子がウィンスレットさんを伴ってやってきた。
「このような姿で申し訳ありません。」
「構わん、休んでいるところをこちらが無理を言って邪魔をしたのだから。」
ベッドで身を起こした私にそう言って、マリアが用意した椅子に腰をかけ、落ちる沈黙。
………えーと、私が話題提供した方がいい感じ?
「本日はソフィーヌ様もお見舞いに来てくださいましたわ。エドワードと仲良くなられたようですわね」
「む、そうだな。あいつはお転婆だからユーレストでも中々相手をする者がいなかったのだが、エドワード殿は違うようだな。言い合いをしながらもキチンと見てくれている…」
本来なら私がもっとしっかりしなくてはいけないのだがな…
彼がそんな言葉が続けて、驚いた。
「ティア・ウィリアムス・セレスティナ殿。此度はソフィーヌが多大なる迷惑をかけた。誠に申し訳ない。」
立ち上がり、頭を下げて。
あの嫌味な王子が私に対してこんなことするなんて。
「…頭を、お上げください。」
しっかりとあった目は、これまで見た王子とは違う光がある気がした。
「わたくしが勝手にしたことですから。…ただ、妹想いのお兄さんからの謝罪、ということでしたら有り難く受け取らせていただきますわ。」
国としての謝罪だと、大事になることもあるけど、個人的なものなら問題ないよね。
そう思い笑うと、レオナルド王子はポカンとした後、はにかむように笑みを返してくれた。
「…そろそろ退室させて貰うが、ひとついいか?」
「何でしょう?」
「その……あの時の、白銀の乙女は「失礼いたします」
「あ、フィル」
言葉をぶつぎられガックリと項垂れる王子。
じとっとフィルを見てウィンスレットさんが唸る。
「ディオルク、お前…この時間殿下がいらっしゃるのを知っていただろう、敢えてか?」
「何のことだか」
ぐぬぬぬ、と聞こえてきそうなウィンスレットんに対してフィルは涼しげな表情を崩さない。
「…相変わらず仲が良さげですわね、お二人様」チクリと言ってしまった。
「なに⁉︎そうなのか、ウィンスレット!」
慌てる王子。
「「んなわけないでしょうが!」」
2人がレオナルド王子と私、それぞれに凄む。
「ハモってるし…」
「で、殿下!ディオルク殿も来られたことですし、お話はまた後日にしては?」
汗だくになったウィンスレットさんがレオナルド王子を追い立てる。
「あ、あぁそうだな。ではな、ティア姫。また明日よろしく頼む。」
「楽しみにしておりますわ。」
なんか、レオナルド王子、前ほど嫌なヤツじゃなくなったかも。
淑女らしく微笑みを返して会釈する。
2人が出て行った後、「レオナルド王子と何話してたの?」とフィルが尋ねてきた。
「別に、何も」
「ふーん…?それにしては親しげだったけれど」
「フィルとウィンスレットさんに言われたくない」
元々敵とはいえ、手を組むことが増えた今、好敵手と言えなくもない。
「………嫉妬?」
「!!」
言われてドキドキする。
そ、そうか、ウィンスレットさんとフィルが二人でいるのを見る度にモヤモヤするこの感覚が、世に言う「嫉妬」…!
初めての体験でわからなかった…!
動揺しまくる私にフィルはそれはそれは嬉しそうに笑い、そっと耳打ちした。
「俺はティアしか欲しくないから、安心して。…今すぐ食べてしまいたいくらいにね」
甘く囁きそのままカプリと耳をかじられ、私は思わず悲鳴を上げた。




