二人の姫
大変遅くなりまして申し訳ありません…
ようやく激務が落ち着きました…
そして今回長いです……
ポツポツポツポツ……
雨が窓を叩く音で薄っすらと意識が覚醒していく。
「………っい…った」
身体中がギシギシ痛い。
手足を縛られ、石畳の床にゴロリと寝かせられていた。
なんか懐かしい感覚…
また攫われたのか、と自分の迂闊さに苦笑する。
「テ、ティア、さま…」
ふと目線を上げると、青褪めた顔で泣き腫らしたソフィーヌ姫と目があう。
そうか、一緒にあの男に連れてこられたんだ。
「ソフィーヌ様、お怪我は?あの輩に何もされていませんか?」
「っはい…だぃっ、だ、いじょうぶです。目を覚ましたらココにいただけで、何も。誰もこの部屋に来ておりませんわ。」
転がったままとりあえず安否確認をして、害がなかったことにホッとする。
手枷をはめられドレスがかなり汚れてしまってはいるけど、乱暴もされていないようで本当に良かった。
身を起こすものの、体が異常にだるい。
何だろう…目を瞑って気配を探ってはみたけど闇魔法っぽいのにそれだけとはまた違う感覚だし。
というか普通の魔法ともまた違う感じがする……
そこまで考えたあたりで自分の腕にジャラジャラと纏わりつく枷が目に入り、息を吐く。
「…なるほど」
魔力抑制の魔道具か。
前も魔力を抑えられ攫われたことはあるけれど、段違いの抑制装置だ。
さっき突然気を失ったのも、予備動作も言葉もなかったし、なにかの魔道具のせいかな。
そう思って身を起こしてよくよく周りを見渡せば、宝石や財宝に混ざって表の市場では売り買いされない代物が置かれている。
傀儡に使うとされる呪われた人形、使用者から若さを奪う鏡、魔物が飛び出るパンドラの箱、悪魔を呼び寄せると言われている魔法の笛…
うさんくさい呪いの品ばかりだけど、禍々しいオーラがあるということは、本物もあるのかもしれない。
しかも窓の外の景色を見るに、どこか森の中の塔のようなところに入れられているらしい。
足枷がないからまだマシだけど魔力を抑えられてるうえにお姫様を守りながら脱出できるかとなると…
状況は芳しくない。
まぁ街で吹っ飛ばした奴らはお縄に付いているだろうから、そこから辿れば有能なあの国の騎士達は遅かれ早かれここに着くはず。
それまで持ちこたえなくちゃね…
一通り状況確認して、固まってしまった体をコキコキ動かす私をソフィーヌ姫は不安そうに見ている。
「大丈夫、なんとかします。それに多分、すぐに助けが来てくれますから。」
魔力抑制の魔道具を持ち上げさも何でもないことのように言うと、くしゃりと顔を歪める。
「……わ、私は、お恥ずかしながらティアさまが目を覚ますまで震えて小さくなっているだけでしたわ…。」
うん、それが普通のお姫様の反応ですよね。
あまりにも冷静すぎたことに気付いて自分自身に引いた。
「でも、貴方様は違いますのね。どうしてそんなにお強いんですの?セレスティナの者は皆そうなのですか?」
「んー、どうでしょう…?私の場合は城以外で育った時間が長かったので、些細なことで動じないというのもありますけれど。」
言葉を切って、父やエド、騎士達やマリアの顔を思い出す。
「…いまは、誇りに思ってもらえる自分でありたいと、そう思わせてくれる人が周りにたくさんいるからでしょうか」
「誇りに…」
涙を溜めた瞳を見開くソフィーヌ姫。
「いくら私が城下・平民育ちと言えど、"王族たるものはこういうものだ"と皆が日々気付かせてくれますから」
「そう…ですの。わたくし、今からでもそうなれるでしょうか?」
「私だってそう思えたのはつい最近ですよ。この間までただの何でも屋でしたからね。こういう時は、気合とハッタリです!」
私の握りしめた拳を見て、くす、と彼女はようやく表情を和らげた。その表情を確認してから、おもむろに話し出す。
「ちなみに。この後、身に危険が迫った時、こうしようと思うのですが。」
説明した内容に真っ青になるソフィーヌ姫。
「そ、そんなこと、危ないですわ。本当にできますの?」
「可能か不可能で言えば……可能です。もちろんギリギリまで助けを待って、今の策は最悪の事態の場合、ですよ。セレスティナ国第一皇女として、ソフィーヌ様をお護りすると誓います。信じて身を任せていただけますか?」
真剣な瞳でソフィーヌ姫を見据える。
「…えぇ、わかりました。よろしくお願いいたしますわ。」
しっかりと頷いてくれた後、お互いの話をした。
私はエドがいかに天使か、フィルとのことなどを話しつつ、どれだけソフィーヌ姫がお兄さんのことが好きか、幸せになって欲しいかを聞いてほのぼのしたりした。
どれくらい時間がたったのだろう。
外はとっぷりと日が暮れ、雨上がりの空から満月の明かりが差し込んできている。
窓際に寄っておそらくセレスティナがあるであろう方角に想いを馳せて見たけれど、逃げる手段が思い浮かぶわけでもなく。
そんな時。
遠くから物凄い勢いで何かが近づいてくるのが目に入った。
ーーーあれはもしかして、
「誰か来るようですわ、ティア様」
ソフィーヌ姫の言葉が終わりきらないくらいのタイミングで、ガチャガチャと扉を乱暴に開ける音に続き、柄の悪い男達が入ってくる。
「おっ、起きてたか姉ちゃん達!」
「ヒッヒ、ほんと上玉だなぁ」
「おい、あいつとカシラにバレたらマズイぜ」
「バレなきゃいんだよ!」
酒盛りでもしてたのか、赤みを帯びた顔で近づいてくる男達。
絵に描いたような柄の悪さだ。
私とソフィーヌ姫は視線を絡ませたあと、その輩達に向き直る。
下卑た笑みで伸ばされた手がこちらをつかむ前に、ソフィーヌ姫がスッと姿勢を正して立ち上がった。
「貴方たち、このままでは済みませんわよ!」
あ、先越された。
一喝したソフィーヌ姫を横目で見ると、震えている。が、恐怖というよりは怒りが勝っているようだ。
「ユーレストやセレスティナで好き放題おやりになったこと、知らぬとは言え我々に手を出したこと…とくと、後悔させて差し上げますわ」
キッと睨みつける顔はまだ幼いがどこか高貴さが漂っている。
「な、なんだぁ?お前らが何だってんだ?世間知らずなお嬢様達がどう後悔させてくれんだよ!」
まさか小さな女の子に真っ向から何か言われると思っていなかったのか、戸惑いの表情の男達。
だがしかし、じわりじわりと距離を詰められる。
続けて私も。
「私達が誰かも知らずに誘拐とかホントご愁傷様!でも残念ながら、盗賊風情に名乗る名はないもので。それでは皆様、ーーーごきげんよう!」
一番近くにいた男の顎に下から掌底を叩き込み、そのまま重みのある枷ごと体重をかけて鳩尾を思い切り殴る。
よろけて後ろの仲間に倒れかかり派手な音を立てる男を見て呆気にとられる奴等を無視して、窓から身を乗り出す。
「行きますよ!」
「えぇ!」
私たちは、窓から飛び降りた。
ここからバタバタ。
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