「プリンセスストーリーは突然に」
これは一体どういうことでしょうか?
今、私の前には2人のイケメン…いや、騎士がいる。
1人はかなりの高身長、黒髪で、優しげな瞳を向けて微笑んでいる。
もう1人は私と同じ位の背丈でブロンドの髪を持ち、
冷たい青い瞳でこちらを見つめている。
えーと、ちょっと整理してみましょう。
私の名前は、ティア・ウィリアムス。16歳。
幼い頃から結構な魔力を持っていた私は、
今ではその魔法を使って街の何でも屋を営んでいる。
時に熊を狩って毛皮を売り、時に水道の修理をし、
時に飲食店のサポートで必殺技・スマイル0円を提供し…
仕事を探しに出てきたこの街で周りの人達に支えられ、
裕福とは言えないながらもそこそこ平和に暮らしてきた。
そして今日もいつものように、
頼まれていた何でも屋の仕事を終えて帰宅すると、
私の部屋の前に見知らぬ騎士が直立不動で立っていたのだ。
暗がりだったので一瞬亡霊かと思って正直ちょっとビビりました。
そう、それで何で私が困惑しているかというと、黒髪騎士がはなった一言が原因だ。
「やっと見つけました…姫様。」
はい?姫様?
私ヒメサマって名前じゃありませんじゃなくて、何この人達?怪しすぎる。
不信感を露わに逃げ腰になっている私を見て、黒髪の方が口を開いた。
「その様子だと…母君からは何も聞いていらっしゃらないのですね。
まずこの状況説明が必要かと思いますが、お許しいただけますか?」
できれば今すぐ帰って欲しいんですが。
そうも言えず、渋々家にあげることにした。
年頃の娘が男2人を入れるのはどうかと思うが、部屋の外で誰かに見られたら面倒だし仕方ないか…
そうして一人暮らしでこじんまりとした我が家で、昔話が始まりました。
「まず、あなたの母君は、この国の王妃様です。」
「いえ、うちはごく普通の平民家庭です」
バッサリ否定してみました。
だっていくらなんでも突拍子がなさすぎる。
「そう見えるよう、王妃様は苦心なさったのでしょう。
身分を隠し、あなたが大きくなるまで安全に育てたのです。
あなたも本来ならば宮廷で何不自由なく過ごすことができるご身分ですが…御労しい…」
なんだか労られちゃったので反論しづらくなってしまった。
「あれは何年も前の話です。
このセレスティナ王国はとても豊かで、国王夫妻も民に愛され、平和な日々を送っていました。
しかし、ある時その豊かさに目をつけた他国より攻め入られてしまったのです。」
「我が国の軍はとても優秀な者が集まっていますので容易に勝てるはずでした。ですが………」
黒髪は言葉を切り、目を伏せた。
「国内に国王の座を狙った裏切り者がいたのです。
その者の誤った情報や妨害工作によって、情勢が危うくなったのです。」
「戦闘のさなか、王妃様や姫様にも危険が迫り国王が避難させたのですが、
その隠れ家が追手により火にかけられ、お2人はそこから行方知れずとなってしまいました。
何とか戦闘に勝利したわれわれは、お二人を探しましたが見つけられず
…おそらく王妃様の魔術でお隠れになっていたのだと思います…。
失意にくれていた中、王妃様より手紙が届き、無事にしていること、
今隠れている場所などが記され数年後に迎えに来て欲しいと書かれていました。
しかしいざ行ってみると、王妃様や姫様の姿はなく…この辺りを探し回っていたというわけです。」
「はぁ…」
「詳しくは王妃様がお戻りになってから確認していただければよろしいかと。
王妃様はいつ頃戻られるのですか?」
どう返事をしたものか一瞬迷った。
「…母は、病で亡くなりました。数年前に。」
2人の騎士が硬直した。
「それは…本当ですか?」
頷く私をみて、「そんな…王妃様…」
黒髪は、美しい顔を悲痛に歪めて唇を噛んでうなだれたが、暫くしてこちらに向き直した。
「姫様…我々と共に城にお戻りください。国王様がお待ちです。」
「そんなこと急に言われても…いまのお話が真実かどうかも私には判断する術がありませんし。」
「何か身につける物で、王妃様から受け継がれた物はありませんか?」
「このネックレスがそうですけど…」
小さなブルーの石がついた物で、母からもらったお守りのようなものだった。
「それが御身を証明してくれます。姫様、恐れ入りますが魔力はお持ちで?」
「まぁ、多少。」
その魔力で荒稼ぎしてるとは言えない。
「では、石に魔力を込めてください。」
言われた通りにすると、石が光りだし、中に何かが浮き出た。
これは…………
それを認めた瞬間、騎士2人はその場にひざまづき、頭をたれた。
「それは王家の紋章です。
そのネックレスは、王家のみが持つことを許された、王家たる証拠。
姫様、恐れながら、お願い致します。どうぞ、一目だけでも国王様に会っていただけませんか?」
私はネックレスを見つめながら、
私は小さく頷いた。