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87:極北の宝探しと侵攻者(インベーダー)

夏休みまであと1週間を切った日。

荒金靖樹ら4人はゴブリンのプレイヤー「ルダント」をゲーム内から救出する為に

ファシテイトの北海道地方「エゾ」の街「カチプト」へと潜入した。

そして侵攻してきているモンスター達の最高戦力「巨人」の長であるジャーバスと

総力戦を行い、これを打ち負かした。

ジャーバスは戦意を失い、街を去っていき、それに続くように有力なモンスター達も

街を去っていった。

後に残ったルダントは、ある決心を胸にゴブリン達へと口を開く―――

(文字数:8035)

「か、勝っただか……」


全てが終わると、グンバはスタジアムの中央に眠るようにして倒れ込んだ。

どうやら疲労が限界にまで達してしまったらしい。

気絶してしまったようだ。


「ダニ!? どうしたダニ……?」


「気絶したな。限界だったんだろうさ」


デアルガがグンバの鼻に手を当てて、とりあえず容態を見た。

浅くだが呼吸はしているようだ。


「気絶……ダニ?」


「まぁあんな限界ギリギリの攻防を続けてたらこうもなるわな。よく死んでないもんだぜ」


呆れたようにデアルガが言った。

キッチェも同じ調子で言う。


「ほんとよね。こいつってこの前も、学校の時だってこんなんじゃない。あんた知り合いでしょ? 昔からこうなの?」


「そこまで付き合いが長いわけじゃないが……コイツは前からこうだぜ。いつもは”のほほ~ん”と雑用にこき使われてンだが、集中するときはやばい位集中すっからな。それこそ鬼のようにって感じでな」


「だ、大丈夫でしょうか?」


ルゥリが心配そうにグンバの身体をさすった。

泥のように眠りこけているグンバは、しばらく起き上がる様子が無いようだった。


「丁度いいから、先に説明の方を済ませておくダニ。お前ら、そこのブタ野郎と一緒にスタジアムの端に寄っておくダニ」


「説明……?」


スタジアムには、まだ観客が大勢残っていた。

巨人たちはジャーバスに続いて出ていってしまったが

その他のゴブリン達やこのカチプトを乗っ取る攻撃に参加したモンスター達はまだ居る。

ルダントは彼等に言うべき事が残っていた。


「誰か、マイクを寄越すダニ!」


ルダントが観客席に言うと、何人かのゴブリンが

慌ててスタジアムの上部へと駆け上がっていき

実況席にあったと思われるマイクを奪って持ってきた。

ルダントは彼等からマイクを奪い取ると、大きく咳を吐いてから言った。


「えー……集まってきた観客の諸君。オイラダニ。市長のルダントダニ」


ルダントが言うと、大歓声が上がった。

「巨人を倒した勇者」の声に、特にゴブリン達は大盛り上がりの様子だった。


「市長! アンタは最高ダニ!!」


「アンタがあそこまで強いとは思ったなかっタ! これなら人間ドモなんて目じゃナイ!」


ルダントは、次に言う言葉を少し躊躇した。

自分が言う言葉がどういう影響を齎すのか、それを痛く知っているからだった。


「えー、大盛り上がりの所すまんダニ。オイラは……この時を持って市長の職を辞めるダニ」


一瞬の静寂。最初、何を言われたのかわからない子供のように集まっていた観客が、呆気に取られた。

やがて数人が大声で驚きの声を上げると、たちまちスタジアム内は悲鳴のような声に包まれた。


「なっ、何で!? どうしてダニ!?」


「市長! 何故そんな事を言うんダ!! 折角人間の街を奪エタのに……!」


困惑する声が上がる中、ルダントは溜息をついてから言った。

まるで「清算する時が来た」と言わんばかりの言い回しで。


「恐らく、殆どの奴等が困惑してると思うダニ。オイラも最初は……最後まで戦うつもりだったダニ。でも……オイラには、隠していたけども、帰る場所があるんダニ。こいつらと共に、オイラはその場所に帰らないといけないダニ」


スタジアムに集まっていたゴブリン達、そしてボス格モンスター達は彼の演説に耳を傾けて聞いていた。

余計な話をするものは居らず、不思議なほどに静かになっていた。


「だからオイラは、旅に出る為に市長を辞めるダニ。同時に……最後の仕事として、この街の占拠を解く”撤退命令”を出すダニ」


「て、撤退!?」


「み、認めんゾ! そんなモノ!!」


貴賓席に居た族長の一人と思われるゴブリンが、大声で遮るように言った。

どうやら彼は撤退に賛同しないタカ派のようだった。


「認めん、とは? タリー族のゾップ殿」


「お前は気が狂っているノカ!? 待ち望んだ土地と、人間の作った莫大な財産がやっと我らのモノになった! これを手放せるわけがないでアロウ!」


「ゾップ殿。もうここを占拠するのは無理なんダニ。オイラが言っているのは、戦略的撤退の勧めなんダニ」


「無理ではない。市長のオマエが残っていてくれれば、我らは十分戦えるダロウ!」


ゾップというゴブリンは大柄でいかにも欲深そうな見た目をしていた。

ガリガリの貧相な見た目の体格のゴブリンがほとんどの中で、いかにも「族長」という感じだ。

恰幅がよい彼は、この豊かな人間の街を手放すのに相当な抵抗があるようだった。


「悪いけど、オイラはもうそのつもりは無いダニ。帰りたい気持ちもそうだけど、オイラはもう市長の役には疲れたんダニ。それにジャーバスと巨人たちがじき居なくなる状態で、食い止められるつもりダニ?」


「う……そ、それは……」


畳みかけるようにルダントは訊ねた。


「ヴィガロ殿とフーガ殿は、きっとジャーバスが抜けるなら自分たちも抜けると言うダニ。彼等は前線に立っている魔狼族と闘熊族ダニ。この戦いの趨勢が最も見えているはずだからダニ」


ルダントが「そうだろう?」と尋ねると、額に巨大なルビーのはめ込まれている一際大きな狼は答えた。


「……ああ、ルダント殿の言う通りだ。ジャーバスが抜けるのならば我らも撤退する。元々、形勢が傾きかけているところに、彼らまで抜けられては、もう後は敗北するだけだ。結果が目に見えている」


「だが、ここを捨てるなど……」


ゾップが言葉を継げようとすると、今度はフーガが言った。


「充分取れるものは取っただろう? ここに居ても後は報復が来るだけだぞ。そして……我らも抜ける。ここに居ては我が一族と同胞の大半が、ことごとく滅されることとなろうからな。人間は強欲で、執念深い。去るときは潔く去らねばならん」


そういうとフーガは吠えを天へと向けて放った。

人間が唸るような声よりも、更に低音のある種の楽器のように鳴らした。

すると会場内に居た熊型、また大型のトラなどのモンスターが同じように空を一瞥し、スタジアムから出ていく。

彼等が出ていく姿を確認すると、フーガもスタジアムから出ていった。


「ふむ、しかし……美しい」


ヴィガロも同じように天を仰ぎ、遠吠えの姿勢になったが、その前にスタジアムの中へと降り立った。

そしてルゥリの傍まで近寄ると、彼女に向けていった。


「貴方は……そこのオークやらスケルトンやらの仲間かな?」


「えっ、あ……そ、その……はい。そうですけど」


「この辺りでは見ない顔だが、狼人(ウェア・ウルフ)というものですかな? 良ければ一緒に行きませぬか」


「ええっ!?」


どうやら魔狼の王は、コボルトのルゥリを狼人(ウェア・ウルフ)と勘違いしているようだった。

いきなりの高レベルモンスターの誘いに戸惑うルゥリだったが、丁重に断りの返事を返した。


「す、すみません。私は……その、彼等の仲間なので。ご同行は出来ません」


「そーそー、それにその子はウェア・ウルフじゃなくてコボルトよ」


キッチェがコボルトだというと、ヴィガロは「まさか」と口ずさんで改めてルゥリを見た。

舐めるように足元から頭のてっぺんまでを見回すと、唸りながら言った。


「これがコボルト……? 信じられないな。世界はまだ広いという事か」


「はぁ。すみません、がっかりさせてしまって」


「何を仰る。貴方のような美しき人とお話しできて光栄ですよ」


ヴィガロはそういうと遠吠えを空へと響かせた。

すると会場内に居た狼型のモンスターと、犬型のモンスターがそそくさとスタジアムから出ていった。

彼等が出ていくのを見届けると、ヴィガロもそれに続き出ていく。


「貴方も……ここには残らないように。くれぐれも人間にはお気を付けを。彼らには貴方のような美しさがわかりませんからな」


ヴィガロも出ていくと、キッチェが面白そうに呟いた。


「もしかして口説かれてたのかなぁ~? 罪なオンナねぇ、アンタって」


ルゥリは複雑な気分になりながら、なぜか恥ずかしい気分になった。

そしてゴブリンたちだけがスタジアムに残り、演説は続いた。


■


「では、どうしても出ていくという事カ……」


狼狽した様子でゾップが言うと、ルダントは無言でうなずいた。

スタジアムの中央、頷いたとしてもその動きが見え辛いが、

無言の肯定はスタジアムに居たゴブリン達には伝わったようだ。


「申し訳ないとは思うダニ。でも、これがきっとオイラの正しい道なんダニ」


「市長……!」


ゴブリン達の泣く声が湧き始めると、思わずルダントは目を伏せた。

こうなるとは予想できていた。

頼れるリーダーが居なくなる、というのはギルドにとっては辛い事だ。

単純に勢力的にも一気に弱くなるし、精神面でも支えになった者が無くなるのだから。


「済まないダニ……最後の命令ダニ。カチプトの全軍に、ここを撤退するように命じるダニ。命令を無視して立てこもる意地の悪い奴は、間違いなく死が待っているダニ。それでもいいなら、残るダニ」


数拍置いて、小さく溜息を吐いてからルダントは言った。


「死にたくない奴等は、今から1時間以内に荷物をまとめて、故郷の山へ戻るダニ」


反対の声を上げる者はもう居なかった。

まるで敗北した後のような沈痛な面持ちで、ゴブリン達はスタジアムから出ていく。

市長を辞すると言った彼の言葉は、正確には市長としての権限を持たない命令だったのだが、

ゴブリン達にとってはそれもどうでも良い事のようだった。

頼れるはずのリーダーが、自分たちの前から居なくなるその衝撃の方が大きかったようだ。


(皆……悪いダニ。でも、やはりここに立て籠もっていてもダメなんダニ。仮に今日のような事態を起こさずに、ジャーバス達と戦っていても、これは訪れる未来ダニ……)


ルダントが肩を落としていると、肩を叩く手があった。


「お前の……せいじゃないだよ。これは」


「グンバ……! も、もう復活したダニ?」


振り向くと、いつの間にかグンバが起き上がってきていた。

あれだけボロボロになっていたというのに、なんという回復力か。

思わずルダントは驚いた。


「の、残ってた回復薬で何とか立ち上がれるぐらいにはなっただ。まぁだ身体中が痛いけんど……」


「頑丈なヤツダニ。ゴキブリみたいな生命力ダニ」


「まぁタフなのはいい事だぁ。それより……秘書の人だか? 一人待ってる奴がいるだぁよ」


言われて彼の指さす方をルダントは見た。

するとそこには、正装の姿をしたルダントの秘書「ジャビーノ」だった。


「お待ちしていまシタ。ルダント様」


「様なんて付けなくてもいいダニ。もうオイラは市長でも何でも無いダニ」


「ですが、最後に書類の整理と……これを持って行って頂かないと、と思いまシテ」


「最後に……お土産か何かダニ?」


ジャビーノは「これを」と言うと両手でルダントにカードのようなものを渡してきた。

銀色のプレートには星のマークに「A」のロゴが乗っていて、何かの会員証のようだった。


「ダニ……!? これは……!」


「あなたがカチ族の村にやってきて、一月ほど経って私を雇った時に、ゴミ箱に捨てておられたものデス。大事なものなのでは、と思い、持っていまシタ」


震えた手でルダントはカードを持つと、予想外の様子でジャビーノに「いつの間に……」と言った。

キッチェがカードが何かを訊ねた。


「それ、何なの?」


「A・フォースの会員証ダニ。最初のころにだけ作った、初期メンバーだけが持ってるものダニ……」


どうやらそれはA・フォースの会員証のようだった。

それも手が込んでいる作りなので、ギルドのマスターが恐らくは持っていたものだろう。

それこそが、彼がアギレイ・ウーである何よりも証でもあった。


「我らの住んでいる場所では見た事が無いもの。それを持っているアナタは、いつかどこかへ出ていくと思ってオリマシタ。帰る場所には……それが必要なのではないでショウカ?」


「……ダニ。これは、必要なものダニ。よく回収しておいてくれたダニ。礼として、オイラの部屋にあるものはお前に全部やるダニ」


「良いのですか?」


「オイラには必要のないものダニ。お前が全部自分のものにしてもいいし、次の長になる為に適当に配ってもいいダニ。処分は任せるダニ」


「わかりました。デハ……お元気デ」


ジャビーノはそう言うと踵を返し、スタジアムの外へと向かうゴブリン達の後を追っていった。

スタジアムの中には、グンバ達とルダントだけが残った。

デアルガが街の様子をうかがいながら、言った。


「それじゃあ……オレらもそろそろ出るか。モンスターはみんな街を出る準備をしてるっぽいし、ウダウダやってると人間側の夜襲が来るかもしれねェ」


「……本当にいいダニ?」


「あン? 何だいきなり?」


外へと出ていこうとするグンバ達に、ルダントは足を踏みとどまった。

もう彼には自信を縛る鎖は何もない。

だが、それでも戻る事を躊躇していた。


「本当にこんな……無責任な奴が、戻ってもいいダニ? 一時的にでも、お前らの仲間になってもいいダニ?」


「帰るのに失敗したら、オラ達のパーティに入ってればいいだよ。丁度、アンダみたいな魔法使えて強いヤツを探してただし」


グンバは快く彼を迎え入れる言葉を告げた。

それに続いて、デアルガ達も言う。


「オレも賛成だな。まぁ役割は被らねェみてェ~~~だし、オレらの他は素人の女の子二人だから、経験者が入ってくれると滅茶苦茶助かるゼ」


「何よ! 素人素人って……あたしらだってちょっとは役に立ってるでしょ?」


「まァ囮ぐらいにはなってるが……」


「しょうがないですよキッチェさん、わたし達はまだ経験浅いですし……」


ルダントは、腕でいつの間にか目に溜まっていたものを拭った。


「オイラは……オイラは……!!」


「そろそろ行こうだよ。ルダント……いや、”ディック”だか?」


「ダニ……そうダニ。オイラはゴブリンの”ディック”。よろしくダニ……!!」


スタジアムをグンバ達は出ていく。

その4人の後ろには、一人の緑色の小鬼の姿が加わっていた。


■


その一部始終を、スタジアムの高所から二人の人間が見ていた。


「……すげぇ~~~にゃあ。まさか巨人と渡り合うとはねぇ? びっくりだよ」


匂坂とK.Kは、グンバ達とジャーバスの戦いに見入っていた。

K.Kが怪訝そうにジャスチャーを見せた。

匂坂を指差し、感動するようなポーズを取ってから、人差し指を眉間のあたりで立てる。

最後のは手話でいう「疑問」のポーズだ。


「お前、簡単……? ああ”オレ様なら簡単に勝てたか”って事?」


匂坂が言うとK.Kは頷いた。


「微妙なところだな。タイマンで負ける気はしないけど……力比べじゃ絶対勝てねーだろうし、下手打つと一気にやばくなりそうだしなぁ。オレ様一人だと勝率は4割届くか届かねーかぐれーかな」


K.Kが顔だけを前へと僅かに出し、驚いた様子になる。

その後で、手を下へと押し込むような動作をした。


「そんなに、低いのか? いや、そんな低くは無いと思うけどね。だってあいつ下位とはいえBランのモンスターだぜ? 本当ならオレ様クラスだけでパーティ組んで戦うヤツだっての。ボロボロになってたとはいえ、アイツらすげーよ。普通のプレイヤーなら100パー瞬殺のレベルさ」


匂坂は謙遜した様子でそう言うと、スタジアムを出ていく5人を見ながら言った。


「まぁでも何て言うか……なんだろうなぁ。戦いもだけど、あいつらって、本当にモンスターと話せてんだな。まるで……」


言葉が途切れ、K.Kが手を挙げて訊ねた。

「お手上げ」のポーズを片手だけやったような格好だ。

それに少しだけ笑ってから匂坂は答えた。


「いや、まるで……”物語の一場面みたいだな”って思っただけさ。自分でもロマンチックな事言ってるなぁ、って思うよ」


匂坂のその口調には呆れるような、しかしどこか憧れるようなものが含まれていた。

自分には無い何かを見た時の、不安定そうな受け答えにK.Kは不穏なニュアンスを感じた。

その時、小さく電子音が鳴った。


「ん……? なんだろ。呼び出しはかけてくんなって言ってたのに」


匂坂のアドレスに通信用コールが掛かって来たらしい。

仮想電子ウィンドウを開き、誰からの通信か確かめる。


「はいはいこちら匂坂。誰だい?」


『申し訳ありません、ボス。俺です。ガンテスです』


「何だ、おいちゃんかよ。どうしたんだよ?」


開いた画面に映っていたのはガンテスだった。

申し訳なさそうに、直立不動の姿勢で匂坂に言う。


『はい。実は賞金稼ぎの奴等の何名かが今日俺らの夜襲担当をやるって話を掴んだみたいでして。それで”支援をするため”と称してそちらに向かっています』


「はぁ? おいおい、止めらんなかったの? 今日はこっち、邪魔入っちゃダメだからって言ったじゃん」


『そ、それがその……申し訳ありません。出ていった後に気付きまして。抜け駆けしてるのを掴んだ時には、もう止めるには無理な状態でした。こちらはもうすぐ街を出て、全速力で追いつくつもりですが、多分攻撃には乱入されます』


「攻撃に乱入っつっても……オレ様たち、全然攻撃なんかしてないよ? もうすぐここ、モンスター出ていっちゃうみたいだし」


『ええっ!? そ、それは……何故ですか?』


匂坂は通信しながら街の外壁の外側にまで移動し、遠くにやってきている人間たちの部隊を発見した。

丁度、モンスター達が出ていっている北門の反対側。

南門の遠くに僅かだが人影が見える。

遠目ではまるでアリか何かが動いているだけにしか見えないが、匂坂は「人間っぽい動き」だと見抜いた。

その目は捕食者が獲物を発見した時のような、冷静さを感じさせる”冷たい光”を帯びていた。


「話すと長くなんだけど……って、アレか。見つけたわ。ご丁寧に明かりまで消して行軍してやがる。ハイエナする気満々だな」


匂坂は敵のプレイヤー達を確認して少しすると、見つけた時とは違う笑みを浮かべた。

それは口元を釣り上げて、まるで新しい玩具を見つけた子供のような、

”いいものを見つけた”と言わんばかりの表情だった。


「むかつくなぁ……な~んか、むかつくなぁ……!」


グンバから「今日は攻撃を止めていて欲しい」と頼まれている。

賞金稼ぎ達をカチプトの街に入れるわけには行かない。

そしてもう、どうやらカチプトは攻撃せずとも占拠から解放されるだろう。

だとすると、おのずと出てくる答えがあった。

それは匂坂としては自然な答えだったが、常人からすればかなり歪な”答え”が。


「なぁ、オレ様がさぁ、賞金稼ぎどもの位置を教えるから……お前らはそこに集合してくんない?」


今日は攻撃を止めていなければならない。

そしてそれは文字通り「今日一日」だけで良い。

目の前には手柄を横取りしようと賞金稼ぎ達がやってきている。

彼等は自分たちの説得では相当に粘らないと攻撃を止める気はないだろう。

でも、そんな面倒な手順を一気に省略する手段がある。

それは、とても簡単な事だ。


「これから”ギルドマスター命令”も出すからさ」


それは―――”もう自由にしてもよい”というものだった。


『えっ、その権限で何を……?』


「今からオレ様は……カチプト攻略連合軍を抜けて”裏切る”。それに全員ついてこい。まっ、希望者だけで構わないけどね。それであいつら全員”ぶっ殺しに行くわ”」


『なっ……!? 抜ける……!?』


「面白いだろ? いきなり途中で頼りにしてる戦力が裏切ったらさぁ……! で、そのまま横浜に帰る! サバイバル行軍の開始さ! それを”レッド・フリーク”の奴等に伝えてから、悪人街から来た戦力全員にも伝えろ」


匂坂が言うと、ガンテスは呆気に取られた風だったが

やがて同じように笑みを浮かべると、「了解」と短く答えて通信を切った。


「さて、K.K。お前もついてくる?」


匂坂が訊ねるとK.Kは別段慌てる様子もなく、こくりと頷いた。

彼もまた、荒事には進んで参加する気のようだ。


「よしよし。それじゃあ……”裏切り”ますかねっ!」


透明化を解除すると、二体の獣は駆け出して行った。

何が起こるのか、全く知らずに集まってきている賞金稼ぎ達の拠点へと。

その光景は、これから食材にされると知らずに呑気に集まっている

無防備な小鳥やら警戒心のまるでない小魚を連想させた。


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