79:ファースト・イン・ジ・アキバ(5)
夏休みまであと1週間を切った日。荒金靖樹ら4人は
ゲーム内にまだ囚われているゴブリンのプレイヤーを説得する為、
彼が元居たと思われる秋葉原の「A・フォース」というギルドへと潜入した。
銑里たち二人は初心者向けの体験入隊イベント、靖樹らは正規入隊試験を受けつつ
情報を集めようとする。
そして銑里たちは体験入隊での外部からの襲撃を経て、イベントの案内役である
「祭川満蔵」からA・フォースが内輪揉めの最中である事を聞いた―――
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2階を案内し終え、3階へと移動する最中。
A・フォースの内情を聞いた銑里は、思わず満蔵に言った。
「内輪揉めって……どういう事なの? ここ、内部争いの真っ最中って事?」
「……これ以上は、魏蘭とディズプ殿を交えて話した方がよいで候。拙者だけでは部外者にはこれ以上は話せないでござる」
神妙な面持ちで満蔵は言った。
流石に、部外者にこれ以上は独断ではまずいという事なのだろう。
銑里は思わず気が抜けるような声を漏らした。
「えぇ~……」
(しょうがないですよ、世々野さん。結構大きな問題みたいですし)
夏奈が静かに耳打ちする。
確かにギルド全体の問題である以上、彼だけでそれを話す事はできないということなのだろう。
ただでさえ部外者である銑里たちに、本来ならこんな事を話す事はまず有り得ない。
ウーの件でかろうじて話してくれる気になっただけの事なのだ。
「これから、貴殿らを4階と5階に案内するでござる。しかし、先程拙者が言った事は、聞かなかった事にしてご同行願いたい」
「聞かなかった事、って……」
「済まぬが、それだけは守って欲しいでござる。理由は、行けばわかるでござるよ」
「聞かなかった事にして欲しい」というのが銑里にはよくわからなかった。
だが念押しするのを見るに、よほど外部には漏らしてはならない内容だったようだ。
銑里たち二人が了承する返事をすると、満蔵は3階へと上がる階段に二人を案内していった。
■
3階は、2階とほぼ同じ用途で用いられる部屋との事だった。
大きな部屋の中に、沢山のプレイ用の端末が置かれている。
ただ、2階と違って仕切りが無い。
個別の部屋が並ぶように作られていた2階と違い、3階は
大きな円形の机の周りに、プレイヤーが囲むように座れるようになっており、より話し合いなどをしやすくなっているようだ。とはいえ、ファシテイトにインしている時は眠っているような状態なので、余り関係ないかもしれないが……。
「ここもプレイ用の部屋なのね。でも……」
プレイヤーの姿が見えるからか、2階ではわからない事が一つ見えてきた。
それは満蔵のような、いかにもな「オタク」然とした人間が意外に少ない事だ。
2階で会ったような、外見を派手に飾った男性ばかりが居る。
なんというか、”渋谷とか原宿に居そうな感じ”の気性の荒そうな連中だ。
「なんか……思ったよりも、入りづらい所ですね」
「そうでござろうな。きっと」
満蔵も居辛そうな返事をした。
返事だけでなく、落ち着かなさそうにしている。
ここは彼にとってはホームグラウンドとも言っていい所のはずなのに、
周りをキョロキョロと見て、まるで初めて来る場所のような様子だった。
「ここは2階とほぼ同じなので、特に言うことは無いでござる。何か見たいモノでもあるでござるかな?」
満蔵が言うと、こっそりと銑里が訊ねた。
「ねぇ、ここに居る人たちとアンタだったら、どっちが強いの? あんたも相当強いみたいだけど……」
「”1対1”ならば拙者の方が強いござる。でなければ幹部は務まらぬからな」
「じゃあ、あんたとウーならどっちの方が強いの?」
「拙者と総帥でござるか? それは勿論、総帥の方でござるな。そもそも拙者では比べられるレベルにないでござるよ」
「えっ……あんたでも無理なの?」
満蔵のダパルケットは、見た所かなり強いキャラだ。
それこそ、北海道で見た巨人を剣で叩き伏せていた「エルミラ」などと互角に戦えるような実力を持っていると言っていいだろう。
それでも、彼は「無論」といった。
ウーは、靖樹などが言っているように本当にかなりの強さのプレイヤーであるようだ。
「無理どころか、拙者と他の幹部が何人も集まってようやく互角と言った所でござる。1対1では、拙者は一度も総帥には勝った事が無いでござるよ」
「う、嘘でしょ?」
「拙者どころか魏蘭やディズプどのでも、1対1では全く歯が立たないでござるよ」
「あの二人も強いの?」
「ござる。あの二人も幹部でござるからな。そんじょそこらのプレイヤーなら、瞬く間に蹴散らす使い手でござる」
そのまま3階を通り過ぎ、4階へと3人は登った。
4階は、2階や3階とは違い、寂れていた。
ゲーム機などは置かれているものの、今度は人が全く居なかった。
「なんだか……ここには人が居ませんね」
「ここ4階は幹部の部屋でござる。人が居ないのは……」
「おや~? ここにお前、来ていいって事になってたっけ?」
声が聞こえ、満蔵は身体を僅かに跳ねさせた。
「こ、”神志那”どの……でござるか」
「案内役は3階以上には上がるなって話じゃなかったっけ? 俺の記憶が間違いじゃないんならさ」
「そうでござるな。しかし今回は二人しか入隊イベントの参加者が残らなかった故。丁度良いので4階より上も見せておこうかな、と」
「ふ~ん……」
満蔵が”神志那”と呼んだ男は、暑いのに長袖の服を着ていた。
そして毛糸の帽子……のような、太い糸を編みこんだ非常に簡素なつくりの防止を被っている。
背は高く、突き刺すように見る目つきは鋭い。
2階や3階に居た人間と違い、銑里は何か、危険そうな雰囲気を感じた。
まるで目の前で刃物をちらつかされているような、そんな気分がする。
「君ら、何ていうの? 女の子がココ来るなんて珍しいねぇ」
「ご、後藤夏奈って言います」
「あたしは銑里。上は世々野よ」
「俺は”神志那照美”っての。ま、入る事になったらヨロシクね。今ここ、女の子なんて全然居ないからさぁ。来てくれるなら、大歓迎だよ。ホント」
満蔵には目もくれず、銑里たちを見ながら神志那は言った。
「で、これから上にも行くの? お前」
「そのつもりでござる。一応、マスターにも話をしておこうかと」
「ふぅん……他の幹部には話してるの? お前がここ上がってきてるってさ?」
「まだでござるが……何か都合の悪い事でも?」
「いいや、ちょっとね。他の幹部の承認なしに幹部でもない奴が上がってきたら、悪い前例になりそうだからねぇ」
神志那が冷徹に言い放つと、緊張が走った。
(な、何この空気……)
二人は同じギルドに所属しているプレイヤー同士のはずだ。
しかし、やり取りを聞いていると、まるで外から来た部外者と話をしているように聞こえる。
もしくは気に入らない相手をどうにかする為に、素性を根掘り葉掘り聞いているような感じだ。
「ま、今回は入隊イベントの延長って事でいいか。貴重な希望者の女の子だし」
「では、拙者らはこれで……」
「おい。後で恭也さんに確認は取っとけよ。俺が通したって話になったら、面倒だからよ」
満蔵は頷くと、そそくさと銑里と夏奈を連れてその場を離れた。
そして5階へと続く階段へと急いで向かった。
「ねぇ。あの人って誰なの?」
「現在のここの幹部でござる」
「あんたも幹部じゃないの? なんか……まるで子分に話すみたいな話し方だったけど」
「拙者は今、幹部ではござらぬ。前に居た者たちも軒並み同じ」
「どうしてなんですか?」
夏奈が訊ねると、満蔵は「後で話すでござる」とだけ言った。
そして5階にたどり着いた。
5階には、いやに豪華な扉がこちらを待っていた。
満蔵はノックをして、扉を開けた。
「”我門”どの。入るでござる」
扉を開けると、部屋は大きな広間となっていた。
このビルが昔、銀行か何かで使われていた時に社長が恐らくは居た場所なのだろう。
右側の壁一面には本棚が置かれていて、奥には大きな机があった。
座る者の前半分ぐらいに大きく広がるそれは、いわゆる「社長机」という奴だ。
机の上に座っている人間は、髪を金髪に染めた男だった。
「どうした。今日は何も用事はなかったはずだが?」
満蔵が”我門”と呼んだ男は座っていても上半身だけでわかるほど、かなり筋肉質な身体をしていた。
アロハシャツ……ではないようだが、紺色の地に花と釈迦像の描かれた夏用のシャツを着ている。
どうやら仏教をモチーフにした服のようだ。
「いえ、今日は入隊イベントにて事故が起こったのでござる。それで殆どが辞退してしまったのでござるが、少しだけ残った者がおり、イベントを最後まで続けたく……そして折角だから各部屋を案内したいと思い、参ったでござる」
”我門”と呼ばれた男は、品定めをするように満蔵と、そして銑里と夏奈を見ると、静かに言った。
「満蔵。残ってくれた参加者に、手厚くしたい気持ちはわかるが、4階とここは、規則で部外者が立ち入り禁止だろう?」
「わかっているでござる。しかし、あれだけの事が起こっても残ってくれるのなら、とつい連れてきてしまったでござるよ」
「……本来、お前は4階にも立ち入れないはずだ。それは理解しているな?」
満蔵は黙ったまま、頷いた。
だがその顔には、憤りの表情が張り付いているように見えた。
(”前は幹部だった”って言ってたけど……)
満蔵は元幹部であった、と確か言った。
ならば4階以上にも当然、入って何も問題は無いのではないのだろうか?
と、思わず銑里は口走りそうになったが、ここへと入る前に「話を聞かなかった事に」と言われていた事を思い出し、止めた。
何かここへと入る資格が無くなる様な事が起きたのだろう。
自分達はそれを今回、知る為にやってきたのだ。
ここで話をこじらせてはいけない。
「それは勿論。今の拙者は、ただの端役に過ぎない故、出過ぎた真似であった事も承知しているでござる」
「なら―――お前は今日、ここに居る資格を完全に喪失した」
「……!」
「下っ端の役すら満足にこなせない奴に、やれる仕事もここのメンバーである資格も無い。即刻ここを抜けてもらう」
銑里が満蔵を見ると、彼は黙って俯いたままそれを聞いていた。
想定していた結果なのだろう。
一瞬、驚いた様子こそ見せたが、後は静かに受け入れていた。
「他に言う事はあるか?」
「いや。ただ……案内は最後までやりたいでござる。それと少し、魏蘭たちと話をしていきたいでござる」
「5時までには出て行け。それを越えたら、どうなるかわかってるな?」
「ござる」と短く返事をし、満蔵は二人を連れて部屋を出た。
大きな溜息を吐き、階下へと降りていく中、夏奈は言った。
「あの……すみません。私たちのせいでこんな事に」
「いや、貴殿らに何も責任は無い。案内しようとしたのは拙者の独断でござる。それに……こうなるかも、とは思っていたでござるよ」
「どうして何ですか? 満蔵さんは、前はここの幹部だったんじゃ……?」
「今は幹部ではないでござる。今はただそれだけのこと」
「それも内輪揉めの結果って事?」
銑里が訊ねる。
「ござる。とにかく一度、魏蘭たちと落ち合うでござるよ。今は外部からの正規入隊希望者への試験をやっているはずでござる」
「あっ……やっば! そっち、あたしらの仲間が居るわ!」
銑里が満蔵の言った事を聞いて、靖樹たちがそちら側の試験を受けていることを思い出した。
「んッ!? それはまずいでござるな……魏蘭らは入隊試験でも手加減はしない故、危険でござる」
3人は試験の方へと向かう為、1階にあるファシテイトのワールドイン用端末へと向かった。
■
昼を過ぎた14時のA・フォースのオフライン空間の中。
本拠地である山東我門タワーの周囲を再現したワールドにて、A・フォースへの入隊希望者が集まって試験を受けていた。
靖樹の「ラクォーツ」とミツキの「セイグンタ」も参加しているそれは、今まさに地獄絵図といった様相を呈していた。
「しかし、何が起こってんだあれは……」
試験官の二人「魏蘭」と「ディズプ」が現れると、すぐにラクとセイグンタはその場から離れた。
結果から言うと、その選択は正解であったという他ない。
「うわあああああ!!」
「たっ、助け……」
助けの声を上げようとしてグシャ、とプレイヤーが潰されていく。
魏蘭が何かのスキルを発動させると、地面に黒い紋様が描かれていった。
それも相当に広い範囲に。
黒い不気味な紋様が地面に走ると、円などの閉じた模様になった場所から
異形の腕や巨大な鬼の指のようなものが現れ、試験の参加者を次々に貫いていった。
「”地獄フィールド”だな。アレは」
ラク達は、今は遠く離れた建物の内部に避難していた。
ビルの窓から外の様子を伺い、これからどういう風に戦うかを考えていた。
「地獄フィールド? なんだそりゃ?」
「属性エリアを作り出すスキルだ。属性に耐性を持ってない奴は色々不利な効果を受ける。例えば炎フィールドなら燃えるものが発火して持てなくなったり、氷なら身体が凍り付いて動きが鈍ったりとかする。で、強力なやつになると……ああなるってわけ」
「つまり”地獄耐性”が無いとダメって事か?」
「そういう事。俺は……多分今なら大丈夫だろうと思う。一応離れたけど、考えて見れば今の俺にはアーティファクトがあるしな」
「『火曜星の刃』か。確かに、それなら問題無さそうだな」
アーティファクトは、持っているだけでも耐性が付与される。
火の武器である『火曜星の刃』は、低温や氷などにも強くなるが同時に魔を払う力もあり、地獄や邪悪な力に対しての防御力も上昇する。
フィールドの力は強いが、今のラクならば問題なく戦えるはずだ。
「今オレは地獄耐性、あんまねェからなぁ……出て行ったら他の奴らの二の舞になっちまう」
「幻妄耐性はあるか? 一緒に居た方は狂気の魔法使いだぞ」
「そっちはあるが……もう一人は何なんだ? ”キシュアスの舌”とか言ってたが」
「”キシュアス”ってのは、クトゥルフ神話系RPGに登場する”旧支配者”つまり邪悪な神のひとつだ。蜘蛛の頭に、ゴキブリの足のようなトゲトゲの触腕が口から生えていて、豚のような醜く巨大な身体には、食った生物の記憶と形状が浮かび上がる……って奴だ」
「気持ち悪ィなぁ……」
「邪悪な人間の精神が主食で、『邪悪な意識を持つ者の視界を共有する』って力を持ってる。彼の信奉者には精神に関連する超能力が与えられていて、それを使ってキシュアスに食事を献上する役割が与えられるのさ。で……使徒にはもっと強い能力と大事な役割が与えられていて、”腕”とか”目”とか部位の名前が付けられてる。その中で、キシュアスの口に入る前の供物を選ぶ重要な役割を持ってるのが”舌”だ」
「じゃあ、かなり強い神官みたいな感じか」
「ああ。魔法使いの方、絶対に直に見るなよ。かなり鋭い”視線感知”を持ってるはずだ」
「そんなもん持ってるのか!?」
「俺が知ってる限りなら、舌クラスなら絶対に持ってると思う。信者でも敵意を持ってる相手の視界ジャックとか出来るんだからな」
「めんどくせェ~~~……」
ラクは魏蘭の方を見つめ、作戦を練った。
とりあえず、この戦闘を生き残らなければならない。
現在はオフラインの空間で、死亡した時のペナルティなどは無い。
だから危険度は低いはずだが、一応だ。
「よし、こうしよう。いいか……」
ラクはセイグンタに、思いついたこれからの作戦を話した。
「ディズプ。何人こっちを見ている?」
「三人、三人三人」
山東我門タワー前のフィールドでは、ほぼほぼ掃討が完了した魏蘭が次の相手がどこかを探っていた。
地獄フィールドの中に居たプレイヤーは、今しがた全滅した。
何名かが耐性を持っていたため反撃に出はしたが、魏蘭に歯が立たず、そのまま倒されていた。
「3か……という事は、残り2人は君の事もわかってるってわけだな」
「そうだなそうだな」
魏蘭は少しだけ顔を綻ばせた。
余りにも弱すぎる相手ばかりで、退屈していたからだ。
ただこちらの様子を伺っているだけでは、ディズプの能力で居場所はわかる。
視線感知の事もわかっているとなると、多少は手応えがある相手という事だ。
「さて……どうするか」
「とりあえずとりあえず位置のわかってる奴、わかってる奴を処理しに行く。お前、お前は、どうするんだ?」
震える声でディズプが訊ねた。
「自分はこっちで敵を待とう」
「わかった、わかった」
ディズプは驚異的な跳躍力で飛び上がると、建物に張り付いた。
そして自分に向けられていた相手の方向を見つめた。
(動揺、動揺している)
使徒に与えられた力の一つを使い、相手の心の内を見る。
そして動揺している事を確認すると、そのままビルの合間をサルのように移動しながら敵へと向かった。
「うっ!?」
ビルの中からディズプ達の姿を見ていたプレイヤー達3人は、
いきなりディズプがこちらへとやってきた事に驚き、迎撃しようとした。
しかし、身構えようとしたその時、ディズプがビルの中へと入ってきた。
「な、なんだこいつ!?」
「試験官の、魔法使いの方だ! 一気にかか―――」
攻撃しようとした瞬間、ディズプの足元から昆虫の足が突き出した。
そして周囲のプレイヤーたちを薙ぎ払った。
突き出した足は毛だらけで、まるで蜘蛛の足のようだった。
「ぐっ!! くっ……稲妻斬り!!」
剣士らしいプレイヤーの一人が、剣に帯電させ、ディズプへと斬りかかった。
ディズプはそれを回避しようとしたが、もう一人が持っていた鎖鎌を巻きつけ、彼の動きを止めた。
そして鎖ごとディズプを切り裂いた。
「勝ったッ!!」
「クリティカル!」のシステムコールと共に一気にディズプの体力ゲージが赤色となり、ゼロを割った。
そして彼の姿が光の粒のようになって、消えていった。
ディズプを思ったよりも簡単に倒せ、安堵の表情で他の二人が剣士のプレイヤーの元へと駆け寄ってきた。
「ふぅ……うまくクリティカルが決まってくれて助かった」
「思ったより大した事ありませんでしたね。魔法使い職なのに近づいてきましたし」
「はい! あとはあなたを殺すだけです!」
「え」とディズプにトドメを刺した剣士が答えようとした瞬間、他の2人の仲間が、胸に剣を突き立てていた。
「なっ、なん……だ……!?」
刺された剣士は「催眠術か何かか?」と逡巡した。
しかし周りの風景がぐにゃりと歪んでいくに連れて、何も考えられなくなっていった。
死亡時特有の強烈な眠気に、思考が塗りつぶされていく。
やがて、何故か斬り倒したはずのディズプが起き上がるのを見て、意識は途切れた。
「何故、だ……」
「幻、幻だね。これ、これが『幻惑の海』だ」
ディズプを中心として、周囲にはいつの間にかガス状の空間が出来上がっていた。
最初に蜘蛛の足で薙ぎ払いを掛けたときに、同時にこの空間を展開したようだ。
どうやら、これによって3人は幻を見ていたらしい。
「さて、後は後は残り二人―――」
ディズプが外を見ようとすると、銃声と共に肩に強烈な痛みが走った。
「う、ぃっ!?」
ディズプが肩を押さえ、慌ててビルの外に出る。
そして隣にあったビルの屋上へと降り立つと、後を追うように
エスニック風の格好をした剣士のプレイヤーが現れた。
セイグンタだ。
「流石に一撃とはいかねぇか。もうちょい動き止めててくれれば、即死狙えたんだが」
「お前……誰、誰だ?」
「A・フォース入隊希望者の一人さ。セイグンタ・オードウって言う」
(残り、残り二人のうちの片方か)
セイグンタは刀を構え、ディズプと向き合った。
(さてヤス。オメェーの方もうまくやれよォ……!)




