75:ファースト・イン・ジ・アキバ
夏休みまであと1週間を切った日。荒金靖樹ことラクォーツは電子知性「マルール」を探すその前に、ファシテイト内の北海道への攻撃を主導したと思われるプレイヤーを探す事にした。そして北海道エリアのカチプトへと辿り着き、その中で遂にプレイヤーであるゴブリンの「ルダント」というプレイヤーを見つけた。しかし、彼は現実へと戻る気が全くない”現実放棄者”だった。
彼が最初に名乗った名前を街のゴブリンたちから聞き出し、彼の所属しているギルドへと靖樹たちは身辺調査に向かった。
向かう先は秋葉原。ルダントの現実でのゲームキャラ名は「アギレイ・ウー」。秋葉最強と言われるギルドのリーダーの名前だった―――
(文字数:8321)
もうすぐ夏休みが開始される。
その前の休日に、靖樹は秋葉原へと来ていた。
「久しぶりだな……ここ来るの」
秋葉駅前でもっとも大きなカフェテリア「電脳サバイバル」にて、靖樹は人を待っていた。いつもは別の意味で待機している場所だが、今日は勝手が違う。
ゲーマーとして秋葉原は無視できない場所だ。
多くのゲーセンが点在し、日々、色々な対戦ゲーでプレイヤーがしのぎを削っている。
当然ながら、靖樹も秋葉原には度々足を運んで、ファシテイトの対戦を行っていた。
だが行方不明事件に巻き込まれた後、事件が重なったため、とても足を運ぶ気にはならなかった。
「みんな、そろそろ来る筈だけど……」
今日は夏休み前の休みの日。色々な意味でかなり貴重な一日となるが、この日が北海道エリアへの奪還作戦が始まる日でもある。
今頃ファシテイト内の北海道エリア「エゾ」の入り口では、プレイヤー達とあのゴブリン化してモンスターたちの指揮を執っている「ルダント」が戦闘を開始しているころだろう。
だが現実の秋葉は、そんな影響を受けるはずもなく、目の前にはいつもの秋葉原の喧騒が広がっているばかりだった。
休日なので人並みが凄い事になってはいるものの、ファシテイトで起きているピリピリした雰囲気は微塵も無い。
ここで今日、靖樹は今までファシテイトの中でしか会った事がない二人と会う事となっている。
「いよう、相変わらずお前早いな」
カフェの奥の席にて待っていると、まずはミツキがやってきた。
チャラくはないがかなりカジュアルな服装になっており、秋葉原というよりは池袋や原宿にでも居そうな格好だ。
ミツキは紛れもないゲーム系オタクだが、イケメンの部類に入る人間であるので違和感はあまり無い。
「早いに越した事はないだろ。重要な日だしな」
靖樹は待ち合わせの30分前に来ていた。
時間ギリギリに来ると事故る事が多いので、待ち合わせにはなるべく早めに来るようにしていた。
ましてや今日のこの日は、今まで殆どやった事がない女子との待ち合わせだ。
しかも初めてキッチェ、ルゥリのプレイヤーと会うのだ。
「しかし時間、大丈夫なのか? あの二人ってホントに秋葉に昨日今日で来れるのかよ? 横浜と千葉とか言ってたが……」
リアルで会う事は可能なのだろうか? と思っていたがカチプトの街で最後に会った際は、どちらも東京近郊に住んでいると言う話だった。
だから来るだけならば問題は無い、と。
(でも二人とも東京付近だったんだな……)
ルゥリこと夏奈は、北海道に囚われている父親の近くにホーム・ポイントが設定されているので、てっきり北海道に住んでいると思っていた。
東京に居ながらにして、ファシテイトの本体が北海道にあるというのは、どれだけ不便なのだろうか。想像がつかない。
常日頃からファシテイトを利用しているから、生活の密着具合が靖樹にはよくわかっていた。
「ん……?」
カフェの中でミツキと待っていると、入り口から一人の少女が入ってきた。
細身の高校生といった感じで、ふわりとした感じの長い黒髪を携えている。
メガネをかけていて、涼しげな白い上着にやや短めのデニムスカートを付けている。
おっとりした雰囲気を漂わせており、何かを探すように店内を見ていた。
いかにも「文学系」という感じの少女だ。
「あれ……じゃねぇか? もしかして。コボルトの」
「ええ? いやそんな、まさか」
靖樹は確かに彼女の雰囲気を見て、ルゥリに似ているような気がしたが、今ひとつ確信できなかった。彼女は内気だが、覚悟を決めれば接近しての格闘戦もこなしていたので、リアルでの本人はもう少し運動系の部に所属していそうな感じだと思っていたのだ。
「声かけてみよう」
「お、おい止めとけって。違ってたらやばいぞ」
ミツキは靖樹が止めるのも聞かずに、入ってきた少女の方へと近づいていった。
靖樹はその姿勢に感服せざるを得なかった。
あれは自分には到底できない行動だ。
初対面の女の子に、気さくに声をかけにいくなんて、とても真似できそうにない。
(俺がやると誤解を招くか、最悪通報されるな……)
この辺りは、女の子と親しくできるかという男のスキルの大きく差が出てくる部分である。まぁミツキならばうまくやるだろう。
やがて話を付けたらしいミツキが、こちらへと彼女と共にやってきた。
「案の定だったぜ」
「えっ!? じゃあ……あんたが夏奈、さん?」
「はい。わたしが後藤夏奈……です。よろしくお願いします」
どうやら本当に来ていた少女が、あのコボルトの少女である”後藤夏奈”であったようだ。かなり内気な少女であるようで、おどおどした様子で訊ねてくる。
「あの、あなた達が……その……」
「ああ、始めまして。俺があのオークのほうだ。荒金靖樹って言う。公立幾島情報高校の2年生だ」
「で、オレの方がデアルガ、骨の方です。フルネームは天堂御津貴。ミツキって愛称で、憶えて下さい」
(何言ってんだこいつ)
ミツキの方はかなり上機嫌で、級に丁寧語になりながら自分のことを紹介していた。
どうやら夏奈がかなりの美少女だったので、気をよくしているようだ。
「本当にあのお二人なんですね……ゲームでしか会った事がないから」
「ま、確かに全然わからないですよね。普通はこういう風にリアルで会わないから」
「でも、声は聞いてたものと同じなので、話してると本人ってわかりますね」
「いやオレの方はすぐにわかりましたよ。いや、二人と居ない美しい声の持ち主で……」
ナンパしているかのような口調に若干引き気味の夏奈だったが、靖樹は「あ、気にしないで」と言って話を進めていく。
だが、いやおうにも一瞬彼女の胸へと目がいってしまった。
白い上着の胸元に、丸い二つの球体が膨らんでその存在を主張しているのである。
(でかい……)
夏奈はかなりの胸の持ち主だった。
彼女自身にはそのつもりがないのかもしれないが、白い上着だからか、近づくと相当目立つ。思わず靖樹は目を逸らした。
「それで、今日はどうするんでしょうか?」
「とりあえず、もうすぐ時間だから最後の一人を待とう。4人揃ったら、今日どういう事をここでしなくちゃいけないかを話すよ」
「スライム女の方はどんなんだろうな。人キャラの方と同じ感じか?」
「いや~、意外にぽっちゃり系だったりするんじゃないか。リアルとほぼおんなじって事は中々ないぞ。特にゲームだと」
ファシテイトをやっているプレイヤーは、男女半々ほどだがオンライン・ゲームとしてプレイしている人間で見ると、その多くはインドア派の人間だ。
要するにスポーツ系の少年少女よりは、ゲームやらアニメ漫画やらに傾倒するオタク型の人間が多いのだ。
そして、運動をあまりしないので、基本的には体型がやや太めである事が殆どだ。
靖樹のようなやや大柄で、少々ぽっちゃり目な体系であるのが普通なのである。
だから夏奈がいかにもな文学系美少女だったのは奇跡的なことに近い。
銑里の方も同じように、というのはまずない事で……。
「こっこかな~~~?」
「!」
時間前5分となった時、聞き覚えのある声と共に一人の少女がカフェへと入ってきた。
赤みを帯びた茶色のミドルヘアで、背が非常に低く、小学生かと疑ってしまうような身長をしている。
秋葉では余り見ない白く夏用のワンピースに、紺色のスカートで飾っていて、やけにカジュアルな格好をした小学生と言う感じだ。
頭には淡いピンク色をした髪留めを付けていて、顔立ちは幼い。
まさか……と声をかけにいくのを戸惑っていると、少女は何かに気付いた様子で
こちらへと近づいてきて言った。
「もしかして、グンバにデアルガに……ルゥリの人? ファシテイトの、モンスターに変身でき―――」
「ちょっ……!」
慌てて靖樹が少女の口元へと手をかざし、同時に人差し指を立てて「静かに」とのポーズを送った。
すると、少女のほうも言っている事がどういう事だったかに気付いた。
「あ、ごめんごめん。そうだったね~」
「お前が……スライム女の方か」ミツキが確信めいた目で言った。
「そ。あたし、世々乃銑里。キッチェの中の人ね」
■
時間は開店してそこまで時間が経っていなかった。
10時を少し過ぎている、と言う感じだろうか。
カフェの中には、男女がそれぞれ2人ずつ。
自己紹介を簡単に済ませると、改めて本題へと入る事となった。
だがその前に、靖樹には確認しておかないといけないことがあった。
「ところで……二人とも、今日は何時ぐらいまで出ていいのかな?」
「へ? 何聞くの、いきなりさ」
「可能な限り、今日中に全部を終わらせておきたいんだ。だから、最悪この秋葉のゲーセンが空いてる午後9時近くまで出れるんなら、そうしたいと思ってさ」
「おいおい、そんな今日いっぱい秋葉にいるつもりなのか?」
ミツキが呆れたような感じで訊ねる。
おそらく、二人と親睦を深めるため、とか言って秋葉で遊ぶのは勿論のこと、それ以外のこともやりてぇなぁ、とか思ってるんだろう。
カラオケに行ったり、近場のボウリング場に4人で行ったりとか、だ。
しかし―――現状を考えると、今日この1日は非常に重要である。
「いや。どうしても今日この1日で、勝負を決めたいんだ。なぜなら今この瞬間も、北海道エリアの奪還作戦が開始されてる」
「それは、確かにそうだが」
ルダントがA・フォースのアギレイ・ウーではないか、との情報を得た後、靖樹たちは街の外へと移動して、雪山のとある洞窟の中でキャンプを張り、ワールドアウトを行った。
街中でゲームから出てしまうと、アバターがそこに居る状態となってしまうので、街が万が一落とされてしまった場合、巻き込まれて死亡となってしまう。
そして今日、この秋葉ではある目的のために、モンスター形態でいるわけには行かない。
「モンスター側は昨日見てきたようにかなりの戦力がある。だからすぐにはカチプトは落とされないと思う。少なくとも、今日一杯ぐらい、ファシテイト内時間で3日ぐらいはなんとか余裕があるだろうと思う。でも―――時間がたてば経つほど、プレイヤー側が物量と質で圧倒していくはずだ」
「時間がそんなないって訳か……」
「そう。だから今日で全てを決めたいんだ」
「わたしは8時ぐらいまでは大丈夫です。父は納得していませんでしたが……」
「あたしも大丈夫よ。替え玉置いてきたし」
「替え玉?」
聞きなれない単語に靖樹が聞き返すと、銑里はさも当たり前のように言った。
「あたしんち、すっごい厳しいのよ。門限とか色々と。でもそれじゃいざって時に何もできないから、緊急事態のときだけ、家に居るお手伝いの人と協力して替え玉を置いてんの」
「えっ……?」
一瞬、場が固まり、言葉にし難い空気が流れた。
反応に困る言葉が彼女から出てきたのが原因だろう。
お手伝いがどうとか替え玉とか、もしかすると銑里は……アレなのかもしれない。
靖樹は単刀直入に聞いてみることにした。
「なぁ銑里……さん。もしかして君って、家が凄いところだったりする?」
「さん付けとかなくていいから。ウチは結構でかい方だと思うわ。警備の人とかもいるし」
「警備員なんているんですか?」
夏奈が物珍しそうに家のことを訊ね始めると、ミツキが靖樹の耳元で言う。
(おいヤス、もしかしてコイツっていわゆる”お嬢様”なんじゃ……)
(そうっぽいな。服もよく見たら高そうだし、凄い所みたいだ)
(いいのか? そういう子を夜まで連れ回しちゃってよ。面倒なことになるかもしれないぜ?)
(かもな。ま、でも彼女も仲間だよ。できるなら外したくない。後で面倒ごとが起こったら、俺が責任を取るさ)
靖樹の答えを聞き、ふぅん、と納得したのか呆れたのか判断し辛い溜息を吐き、ミツキは後はじゃあ判断を任せる、といった感じに手を振った。
それを確認すると、今日、ここで何をするかを靖樹は話し始めた。
「A・フォースってギルドの事を、調べればいいんですね」
注文されてきたジュースやらパフェやらがテーブルに並ぶ中、夏奈が確認するように呟いた。
靖樹は「まぁ、総括するとそういうことだ」と間を置いてから言った。
「A・フォースについて説明すると……ここ秋葉にはゲーセンがいくつもあって、そこでファシテイトと連動した対戦ゲームをできるんだ」
「ステータスとかをそのまま使ってやれるってヤツ? 聞いた事あるわね」
「そうそうそれだ。この電想世界全盛の時代、ゲーセンではどこでも主流になってる。で、大抵のゲーセンはギルドがいくつも根城にしてて、地区ごとに覇権を争ってるんだ。だが―――ひとつだけ、ゲーセン丸ごとをたったひとつのギルドが占領してるところがある」
「そんな所があるんですか?」
「それがこの……」と靖樹が電子マップを4人の前へと表示させた。
マップには秋葉の大動脈である蔵仲橋通りの中央付近にある、巨大なビルディング「山東我門タワー」というものが表示されていた。
「ここだ。ここが秋葉原最大のゲーセンにして、A・フォースの縄張り。ここへ今日は行く。そして、リーダーの”アギレイ・ウー”の事を可能な限り調べる。なるべくリーダーのリアルについて、だ」
「な~んだ、簡単じゃないの。ただの聞き込みって事でしょ?」
銑里が気楽そうに言うと、釘を指すようにミツキが言う。
「違う、事はそう単純じゃねぇ。そうだろ? ヤス。第一聞き込みぐれぇで終わるんなら、この4人でわざわざリアルで、しかもあのクソ危ないカチプトの近くに、人型の状態でキャンプ張って落ちねェよ」
「そう。事はそう単純じゃないんだ。何しろ……A・フォースだからな」
「A・フォースだからな、って……なによ、ゲーオタの集まりでしょ? 要するに」
銑里がどことなく適当な風に呟くと、ミツキと靖樹が頭を抱えた。
プレイヤーとして熟練になればなるほど、どういう事をやろうとしているのか、その危険度がわかる事がある。当然、ライトなプレイヤーにはそれがわからない。
そのギャップがこれほどのものなのか、と二人は狼狽していた。
組織の凄さを理解してもらうためには、なんて説明すればいいか……。
考えた末、靖樹は切り出した。
「銑里。アレだ、北海道に居たときに俺たちを助けてくれた凄腕の女剣士が居たのを憶えてるか?」
「え? あー……居たわね。エルミラ、とか言ってたっけ」
「あの人の所属してるのは、”坤輿皇国烈鬼軍”ってギルドで、剣士系クラスのプレイヤーが多く所属してるんだ。で、そこもここ秋葉での戦いに支部を置いて参加してる。でも、A・フォースには遥か及ばないレベルなんだ。エルミラさんほどではないけど、彼女に負けず劣らずのレベルの人間が揃ってても、まるで歯が立たない」
「……それって強すぎじゃない?」
「その通り。強さを求めるギルドの中でも、一際強者中の強者が集まる場所。正式名称は”アキバ・フォース”」
「お二人よりも強い人たちが居るんですか?」
夏奈が訊ねると「とんでもない」と言った風にミツキが答えた。
「オレらじゃ比較にならんですよ。レベルも強さも、知識も。俗に”ゲーム廃人”なんて呼ばれるようなやつらが集まってる場所なんですから」
靖樹の話とミツキの言い方で、さすがに女子二人もその凄さを理解したようで、感心した風に声を漏らす。
だが、まだ銑里には今ひとつわからなかった。
「まぁすごいのはよくわかったけど、聞き込みをするだけなんでしょ?」
「そう。”対戦を避けながら”な」
「えっ?」
「”リーダーの居場所を教えて下さい”って言って”はいそうですか”って教えてくれるわけないじゃないか。ましてやファシテイトのキャラの場所じゃなくて、リアルについてだから尚更」
靖樹が言うと、銑里は「言われてみれば」と言葉を詰まらせた。
確かに、赤の他人から例えば「この知り合いの方について聞きたいんですけど」と言われたら警察か何かでもない限り、ホイホイと話したりはしない。
無関係の人間が身辺調査なんて、明らかに怪しいとしか言いようがない。
「さて、じゃあ質問だ。対戦アーケードゲームが盛んな場所で、その内情を知るにはどうしたらいいと思う?」
「……それは……」
銑里には答えられない。考えてもいい案が出なかった。
赤の他人、しかも完全に外部の人が、内情を教えてくれと言って話すような気になること。そんな事などあるのだろうか?
「わかんないわよ! どうやったらいいの?」
「そこが今回、どうしようかと考えていた所なんだ。いくつか、手を考えていたけど……どれも正直、難度が高そうな作戦だった。対戦で勝ち進んで幹部級に勝って、情報を引き出すとか、仲間に入れてもらう、ギルドに入隊して内情を調べる……とか、でもどれも欠点があるから、実行は難しい」
「だな。オレもそう思う。勝ち続けるのはここじゃ無理に近いし、かといってギルドに入って中で調査するなんて時間が掛かりすぎる」
そう。時間がない以上、どうしても情報をすぐに集める事は難しい。
ましてや、場所が場所である。
「……で、どうすんだ結局よ? オレも正直、どうしたらいいか全ッ然思いつかねぇぞ」
「……ひとつだけ、確実な手があるんだ。正直あまり取りたくない手だったんだけど、もうこれしかないかな、と」
「どういう手なんですか? もしかしてものすごく危険な手だったり……」
「いいや、危ないことはない。ただ”辛抱がいる”のと、”俺達には無理”なんだ」
「俺たちには無理って……どゆこと?」
そこで靖樹は言葉に一瞬詰まった。
歯にものを詰まらせたような、何か言い辛そうな内容のようだ。
だが数拍して、迷っていてもしょうがないと二人へと言った。
「少し言い換えると、”男の俺たち”には無理なんだ」
「男だと無理……? 意味わかんないんだけど。女のあたし達なら出来る作戦ってこと?」
「そう。A・フォースのギルドには”1日体験コース”ってのがあって、そこで色々とゲームの手ほどきをしてもらう事が出来るんだ。で、俺たちはそれに入る。でも”本格的な調査”を君たちにお願いしたいんだ」
「せ、潜入しろってこと? あたしたちに? ウソでしょ!? とてもじゃないけど、勝つなんて無理だっての! あんた達と同じか、それ以上の強さなんでしょ?」
「そうです。わたしたちじゃとても戦うなんて……」
「いや、それが出来るんだよ。確実にさ。それに戦って勝つこととか、まったく必要ない」
「え……?」
「A・フォースは……少し資料を見るとわかるんだけど、メンバーの男女の割合がものすごく偏ってるんだ。男に」
靖樹は公開されているA・フォースのギルドステータスを他の3人の前に表示させて見せた。メンバー数がそこには記載されており、正規メンバー数120人と書かれている。しかし、女子はたったの”1人”となっていた。
「120対1……なるほど、女子メンバーに飢えてるってことね」
「だから女子の体験入隊者は、かなり手厚く指導してもらえる。前に一度、クラスの女子が行った事があるのを聞いたんだけど……親切すぎるぐらい、それこそお姫様みたいな待遇で、色んな事を教えてもらえるんだってさ。ウーの居場所や、彼についてのこともかなり楽に聞きだせるはず……なんだけど」
そこまで言って、靖樹はため息を吐いた。
嫌そうな顔をして、申し訳なさそうな雰囲気が表情からも読み取れる。
「だが、君たち次第だ。これをやるかどうかは。正直言うと気は進まない。ファシテイトの中で会った事こそあるけど、ほぼ初対面の女の子に、こんな事を頼むのは……」
「ま、情けないとしか言えんよな。バトルで勝ちまくって情報を引き出せれば一番話が早いんだが、あそこじゃあなぁ」
ミツキもうんざりした感じで言った。
確かに実力で全てなんとか出来れば一番なのだが、相手が相手である上、今は時間がないのである。イレギュラーな作戦で行くしかなかった。
しばらく女子二人は考えていたが、やがて夏奈が言った。
「わたし……やります!」
「!、いいのか!?」
「時間がないんですよね? この方法で、あの人を助けられるかどうか決まるかもしれないなら……やります!」
「しゃーないわね。あたしもいくしかないか」
夏奈が行くと決めた後、銑里も同じように作戦に参加してくれる事になった。
「でも女の子にそんな手厚く親切に色々してるなら、女の子のメンバーも結構いるんじゃないの?」
「それがな……行った奴らが口々に言うんだよ」
ミツキが怪談の始まりのように二人へと言う。
顔を少し近づけ、どことなくおどろおどろしい口調で言った。
「いい所だけど―――”絶対に所属したくない”ってな」
この作戦は危険ではない。だが、大きな問題のある手でもあった。
”オタクの巣窟”。その内部がどんなものであるか、それを彼女らはこの一日で知る事となるのだった。




