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74:緑色の王様(2)

 荒金靖樹ことラクォーツは「マルール」を探す前に、ファシテイト内の北海道への攻撃を主導したと思われるプレイヤーを探す事にした。

残り時間は、攻撃が開始される現実時間で明後日、ファシテイトで三日ほどの猶予のみ。

 靖樹は仲間の3人と共に北海道エリアのカチプトへと辿り着き、その中で遂にプレイヤーであるゴブリンの「ルダント」というプレイヤーを見つけた。しかし、彼は街から出る気もモンスター達を率いての街々の襲撃も止める気は無く、さらには現実に戻れなくてもいい、とまで言い放ち靖樹たちは街中へと追い出されてしまった―――

(文字数:14052)

カチプトの街は夜の帳が下り、建物に灯りが瞬いている。

時折視界に映る街中に不似合いなモンスターの姿を除けば、夜の都会の町並みがただただ、眼前には広がっていた。

グンバ達4人はやっとの事でカチプトの役場から出てきた所だった。


「さて……これからどうすんだ?」


デアルガが溜息を吐きながら呟く。

ルダントと出会ってから役場を出て、4人ともが呆然とした状態だった。


「どうするって言われてんも……」


「助けようとした相手が、助けがいらねぇ、ってんだからもういいんじゃねぇのか?」


「でも、このままじゃ死ぬだけだぁ。それで良いわけ無いど」


「オレだって何も考えなしに言ってるわけじゃない。オレらだって死んだ時に、ルゥリみたいに通常のゲームルールと同じに復活できるかはわからねェんだぞ? 今は。それを踏まえて、これ以上無理をするのはヤベェだろうって言ってるんだ」


「それは……」


確かに、デアルガの言っている事はもっともだ。

これ以上無理をして街中に留まっていれば、やがて始まる北海道の討伐軍との全面戦争に巻き込まれる。

それは、どう考えても危険すぎる事だ。

自分たちはたった4人。しかも人でもモンスターとしても低レベルのステータスでしかない。

人の形態に戻れば多少はまだ戦えるが、そうなるとモンスター達の敵になるし、仮に戻ってもとても介入できる能力は無い。

どうするかと迷っていると、ルゥリとキッチェが言った。


「私も見捨てるのは反対です。何とかこんな事、止めさせないと……」


「あたしも同意見かな。せっかく来たんだし、何とか連れて帰らないとさ。ここのモンスターもものすごく強そうだけど、あんたの話聞く限りじゃ、プレイヤーの人たちはもっと強いんでしょ?」


「ああ、間違いなく全滅させられるだ。そもそもプレイヤー側は本気になれば質も量も段違いだぁよ。それはあのルダントって奴もわかってるはずだけんど……」


見た所、あのゴブリンのプレイヤーは素人ではないように見えた。

そこそこ熟練したプレイヤーなら、モンスターとなってこんな真似をするのは、どういう意味かはわかっているはずだ。


「なんで素人じゃないってわかるの?」キッチェが訊ねる。


「装備が統一されてるだ。見た目は派手で、格好だけのように見えたけんども、あいつが着けてたのは全部”魔法職”の装備だよ」


「えっ、そうなの?」


「だな。詳細はわからんが腕輪、マント、靴と……何かの補助をやる装備だ。だから少なくとも素人じゃないはずだ」


「ある程度ゲームの事をわかってるなら、モンスターのままでいるのがどれだけ危ないかわかってるはずだけど……死んでも問題ないと思ってるんだか」


「そらねェだろう。オレらと同じ状態なら、感覚がリアルと同じ状態で、痛覚とかから、死んだらヤバイんじゃないかって慎重になるはずだぜ。つうか戻りたくないってだけならともかく、モンスター引き連れての侵攻とか、全然意味がわからねェ。何を考えてんだマジで」


「出来るなら連れ戻してさっさとこの騒動を何とかしたいだよ。でも、デアルガの言う事ももっともだ。このまま留まり続けるのは危険だぁ。何か……アイツを説得する材料って言うか、戻りたくない理由がわかればなぁ」


「しかし、あいつの態度を見る限り、このままじゃ何度行っても無駄足になりそうだぜ?」


ルダントは戻る気は更々無い、という感じだった。

余程、帰りたくない理由があるのか、それはわからない。

だが、どんな理屈があろうとモンスターのままで居たい、ゲームの中に囚われたままでいいと思うはずがない。それは、一度ファシテイトの中に放り出された状況に陥った自分達だからこそわかる。


「どんな理由があるんでしょうか……?」


「”何と言われようと戻る気はない”とまで言ってたもんねぇ。ゴブリンでいるのがよっぽど気に入っちゃったとか?」


「そんなわきゃねェだろう。いきなりモンスターになったら誰だって戸惑うし、戻りたいって思うはずだ。何かよっぽどの事がリアルであったんじゃねェか。それか単に自暴自棄になってるのか」


「う~ん……」


「ま、ここはリーダーの判断に任せるぜ。帰るもよし、連れ戻す為に、何かやってみるのもよし、だ。意見が割れてる以上なァ」


自暴自棄というのは良い点を突いているように思った。

しかし、それだけでは現実に戻りたくないという理由には少し弱い。

考えた末、グンバはあることを提案した。


「……まだ本格的な攻撃まで時間があるだ。一応、連れ戻す為にやれそうな事はやってみたいだ」


「わかったぜ」


「ただ、本当に危ないと思ったら離脱するだ。安全第一だぁな」


そう言うと安心したのか、デアルガはニヤリと調子良さ気に歯を並べた。


「それで、どうすンだ?」


「まずこれから分かれて、街のゴブリン達からアイツの話を聞くだ。もう街中を自由に歩いていいらしいし」


「話を聞く? 何でだ?」


「ルダントの情報をなるべく知っておきたいだ。オラが思うに、最初は……モンスター化して最初の方は、多分アイヅは混乱して現実での情報を喋ってたと思うんだな」


「ああ! なるほどな、名前とかからリアルを探してみるのか」


「直接聞いても多分教えてはくれないだろうがら、それしか無いと思うんだぁよ。とにかく、事情をまず調べたいだ」


「わかったわ。それじゃ、分かれて方々を聞いてみましょか」


キッチェが一人で行こうとすると、グンバが止めるように言った。


「待つだ! 今度は2人一緒に行ってくれ。一人だけだと今回みたいに連絡する暇もなく確保されちゃったりしそうだしなぁ」


「組みはどうすんだ?」


「オラと……ルゥリが組むだか。今度は」


「わかった。じゃあオレはスライム女とか」


「その呼び方やめなさいよ、なんか嫌」


ぶつくさ文句を言うキッチェと共にデアルガら2人はカチプトの北地区。そしてルゥリとグンバは、東地区を調べる事となった。


■


ルダントが居た役所から放り出されて、話を聞いた所、どうやらこの街は地区ごとに集まっているモンスターの系統が異なるようだった。

中央地区にはスタジアムがあるので街の要である巨人族とボス格モンスター。北には大型の狼や熊などの猛獣族、東にはミノタウロスなどの獣人族。西には氷の霊などの魔法生物、南には草食型の大型生物と妖精族達だ。

ゴブリンは、主に東地区と北地区に多く居るとの事だった。

北地区にはデアルガとキッチェが行き、グンバ達は東地区を当たる事になった。


「歩いてる人達がいなくて、代わりにモンスターが歩いてるってなんだか変ですね。私は余り街中に入った事ないですけど」


「ペットだけみたいだな。電気も点いてるし、商店もちゃんと営業してるだ。うまく出来てるもんだぁよ」


街の灯りは人だけの世界と全く変わらずに光っているし、店などの施設は、ゴブリンたちが営業をやっている。

これもルダントがうまく人手を回しているからなのだろうか。

モンスターだけの街なのに驚くべき事だ、とグンバは思った。


(いや……そうでもないか。ギラセルも同じだったな)


考えてみればこの光景を見るのは二度目の事だ。

モンスター化して迷い込んだアリの街「ギラセル」でも、同じように店などは営業していた。

元々、モンスターだけでもこういう街を運営する能力はあるのだろう。

でも……やはり違和感がある。

ただのモンスターの集落とは、やはり決定的に違うような気がする。


(ゴブリン同士で協力してるんだろうか……)


ゴブリン。ザコとして有名なモンスターの一体であり、色々なRPGで序盤に戦うものとして、ゲームをやった事がある人間なら

知らない人が居ないぐらいだろう。

ファシテイトにおける彼らの特殊能力は”協力する事”である。

彼らは、オークやコボルトのように群れているのが普通なのだが、数が非常に多く、他の種族と違って統率の取れている事で知られている。

一人一人の役割をリーダーが細かく指示し、それを忠実に守るのが彼らの強みだ。


「どこへ行きましょうか?」


「聞き込みをするなら……やっぱりあそこだか」


グンバは聞き込みをどこでやるか考えた末、指を差した。

その方向には―――怪しげな、しかし夜の街の中でも、一際きらびやかな光を放つ店があった。


「何のお店ですか? あれって」


「バーだぁよ。お酒飲む所。平たく言えば”酒場”だ」


「酒場……」


「まぁ、飲食店で聞き込みをするってのは現実でも」

「ゲームの中でも一緒ってことだぁな」


酒場に入るのが始めてであろうルゥリはやや尻込みしていたが、悩んでいても仕方が無い。グンバは慣れた足取りでバーの中へと入っていった。


■


酒場の中には、多くのプレイヤーが席に所狭しと詰めていた。

カウンター内にはマスター役のNPCとプレイヤーがそれぞれ入っていて、客の注文を聞いては、カチプト名物の地酒を出している。

無論、擬似アルコール飲料であるので未成年でも飲めるものだ。

だから酒場内には子供だろうが大人だろうが同じように席を並べている。


「ここにもゴブリンだか……」


普段ならそんな風に人々がいるバーの中には、外よりも沢山のゴブリンがいるように見えた。

NPCがおらず、マスター役が全てゴブリンなので尚更だ。

客もゴブリンばかりで、あとはボス格モンスターが数種いる程度である。


「あの……ゴブリンだけなんでしょうか? ここに居るのって」


「んん? どいうことだぁ?」


「いえ、ゴブリンってなんだか小さいのとか、ちょっぴり大きいのとか居て、全部同じ種類なのかなって」


「鋭い観察だぁな。ゴブリンってのは一見同じようで、結構種類がいるだぁ。だから全部同じじゃないだ。あっちにいる小さめの奴は”イーク”で、人サイズよりちょっとでがいのが”ホブゴブリン”だぁ」


そう言ってグンバは指を差す。

一般的にゴブリン型のモンスターは、その身体のサイズで判別が出来る。

ゴブリンは丁度1メートルほどで、人の腰ぐらい、小学生ぐらいのサイズだ。

これが一回り小さくなり、膝ぐらいの身長のものが”イーク”。

逆に人より僅かに大きく、小太りなオークじみた体格なのが”ホブゴブリン”だ。

更にここから分岐するのだが、主要なものはこの3種類となっている。


「色んな種類がいるんですね」


「どれもゴブリン系の奴ばっかだけだけどなぁ。まぁ、だからこそ憶えやすいけんど」


バーの中を歩き回って話の相手を探していると、やがて一人だけカウンターの端でゆらゆらと揺れながら酒を煽っているゴブリンを見つけた。

グンバは彼に話を聞いてみるべく、隣に座ってジュースと適当に料理を注文した。

やがて手元にドリンクが来ると、グンバは意を決して話しかけた。


「なぁ、ちょっと聞きたい事があるんだけんども……」


「あ~……? な~んだ、お前サン。オークかぁ?」


「オラは最近この街に来た新入りだ。”グンバ”っていうだ。この街の市長について聞きたいだ」


一緒に注文していたゴブリン料理を挨拶代わりに差し出しつつ、ルダントのことについて訊ねた。


「市長……? あー、あいつんの事かぁ」

「何が聞きたいんだ?」


「ルダンドの……”別の名前”とかを知らないだか?」


「別の名前……?」


「ゴブリンの頭目っでのはアイツなんだぁろ? オラは思うんだけんど、ルダントってのは偽名で、本当の名前は別にあるんじゃないかって思ったんだぁ。もしかして最初の方は多分、あいづは別の名前を名乗ってたんじゃないだか?」


グンバが訊ねると、酔って赤い顔をしたゴブリンは呆けた声を上げながら何か考え事を始めた。

記憶の糸を辿っているようで、しばらく指を空中で回す動作を繰り返した後、そうだそうだ、と思い出したように言った。


「確かに~……お前サンの言うとおり、あいつぁ最初、別の名前を名乗ってたねぇ」


「なんて名前か憶えてないだか?」


「別に教えてやってもいいが、なんでそんな事が聞きたいんだ? 珍しい奴だな」


「う、いや……それは……」


グンバは言葉に詰まった。

現実世界の誰か知る材料になるから聞きたい、という事を話しても通じるはずが無い。

確かに、この町を支配しているゴブリンが封印している過去の名前を知りたがるのは、何か裏があるんじゃないか、と思われても仕方ないだろう。


「まぁいい。そこらへんは詮索しても仕方ないからな」


「じゃあ……!」


「いや、俺もわからないんだ。前は名前が違ってたのは聞いたことがあるんだが、それがなんて名前かは知らない。第一、あいつとは”氏”が違うしな」


「氏……? 氏って何ですか?」


ルゥリが訊ねるのにグンバが説明する。


「”氏族”の事だぁよ。ゴブリンってのはものすごく沢山いるんだけど、仲間を家族と考えてるだ。だから名前を一部同じにしてるだ。んで、人で言う所の姓が同じなら、みんな家族だから協力し合うべき、みたいな考え方を持ってるだ」


「へぇ……名前で仲間だって考えてるんですね」


「だがら一人が傷つけられたら、みんなが傷つけられたと思っで、一斉に攻撃を仕掛けてくるだ。マフィアとかギャングとか、ああいうのと同じような行動形式だから、注意するだよ」


「言ってくれるなアンチャン。まぁ……的確な所を突いてるけどよ」


「気分を害したならすまないだ。こう言う風に説明した方がいいかなと思っで……」


「まぁそれはもういい。俺は……”キリ族”のペクラダって言う。ルダントは”カチ族”ってのの長なんだ。だからカチ族の誰かに聞いたほうがいい。奢ってもらって悪いがな」


「いや、それだけでも助かるだ。そいつらに当たってみるだ」


「カチ族は東の大倉庫でいつもタムロってる。そこに行くといいぜ。一番奥のほうに、デカくて真っ赤なホブゴブリンの”ヌラノラ”ってのがいるから、俺の紹介だと伝えれば話を聞けるだろうぜ」


■


都市や大きな街には、倉庫街というものがある。

倉庫がいくつも並んで建っていているエリアであり、大抵は商人が何人も商売のため、列を成している。

倉庫というのは大きな道具を飾っておくことができるので、商売の場として非常に適した場所であるのだ。

だから倉庫街は別名をバザー街という。

カチプトの東にもそれがあり、今はゴブリン達が主に食料などを売買しているようだった。


「なんだか物騒な感じになってきましたね……」


倉庫街エリアへと入ると、最初は八百屋のようなものばかりが並んでいたが、奥に入るに連れてゴブリンの姿がだんだんと武装したものやフードで姿を覆い隠したものなどに変わり、明らかに不審そうな格好が増えてきた。

どうやら並んでいる商品が武器やら科術道具、手榴弾などの火器に変わってきたのが原因らしい。

どうやら倉庫街の奥に行くほど物騒なものを売っているようで、客層もそれに相応しいものへとなっていく、という事か。

なんというか、悪人街を彷彿とさせる雰囲気になってきたように感じる。


「確かに。でもなんか懐かしい感じもするだな」


いつもなら尻込みしてしまうような場所だが、グンバは悪人街で鍛えられた事もあって、大して動じずに進んでいった。

そして倉庫街の奥、一番巨大な倉庫の中にて。


「あれでしょうか? 言っていた人って」


天井がとても高いため、ある種の洞窟のような雰囲気になっている

カチプト一の倉庫は、一番奥にてキャンプファイアーが行われていた。

大きな焚き火を囲んで、沢山のゴブリンが円陣を組んで話をしているのだが、一人ドシンと座っている赤いゴブリンが居た。


「確かに赤い……わっかりやすいな」


確かに言われた通りの姿をしている。

奥に座っているホブゴブリンは、周りのゴブリン達の倍ぐらいの大きさがあり、更に武者鎧のような赤い甲冑を着込んでおり、非常に目立つ姿だ。

なんというか、角の無い鬼のような姿だった。

近づくとオークが珍しいのか、ホブゴブリンは話しかけてきた。


「なんだぁ~~~お前はぁ……?」

「ここがどういう場所かを知ってて来たのか?」


「あんたがヌラノラだか? オラはちょっと聞きたい事があって来たんだ」


「聞きたいことぉ~~~?」


「カチ族の長ルダントの昔の名前を聞きたいだ。ペクラダって奴に聞いてきたんだけど……カチ族の奴らじゃないとわからないって聞いただよ」


グンバがそう言うと、ヌラノラは立ち上がり、拳の関節を鳴らしながら言った。


「確かにヌラノラはオレだ。だがお前らは何モンだ? 全く事情を知らない奴に話す気なんか起きねぇぜ。第一、”建国作戦”にオークやコボルトなんざ入ってなかったはずだぞ」


(建国……?)


「いや、それは、えーと……」


ルゥリはヌラノラから疑いの目を向けられたのに動揺し、取り乱しているが、グンバはすぐに問い返した。


「オラ達は最近街に来たんだぁ。ちょっとした事情があって、ルダントの昔の事を調べてる。どうしたら、話してくれるだか?」


「ヨソモンか……なら、テメェの実力を見せてもらおうじゃねぇか。最近、人間の街からここに攻撃が来なくなって、なかなか前線に立たなくなったからな。身体がなまってしょうがねぇんだ」


「わかっただ。勝ったら教えてくれるだな?」


「勝てたらな」


「お!? やるんですかい!」


ヌラノラが言うと周囲のゴブリン達は一斉に場所を移動し始めた。

そして焚き火から離れてぐるりと広く周囲を囲み、口々にヌラノラを応援する台詞を放ち始めた。


「お頭ぁー! がんばってくだせぇ!!」


「豚野郎なんてノシちまえ!!」


丁度、焚き火を中心に10メートルほどの外周部分が何も無くなり、そこが戦闘用の空き地として急遽出来上がったようだ。


「2対1で構わねぇぜ」


「ど、どうしましょう!? グンバさん……」


(ランクは……F+ぐらいか。まぁまぁだな)


グンバはヌラノラのステータスを確認しつつ、戦闘の準備を整えた。


「ルゥリは出ててくれだ。オラが戦……いや、待てよ」


武器と手持ちの攻撃アイテムの確認をしながら、タイマンで戦う事を考えていたグンバだったが、ふと気づいた。

この戦闘は、訓練をするには丁度いいのではないだろうか、と。


(本気で戦うだろうけど、殺し合いにはならないだろうし、丁度いいだな)


あたふたとするルゥリに、グンバは確認を取る。


「ルゥリ。ひとつ聞きたいだけんど……戦う訓練はちゃんとしてきたんだぁな?」


「え? は、はい、デアルガさんとしてはきました。で、でもあんな大きなモンスターと戦うなんてやった事ないです……」


「オラだけで戦ってもいいんだけんども、丁度いいから参加してくれだ」


「ええっ!? だ、駄目です! 出来ません、あんなのとなんて……」


「戦う能力は、こうやって攻略をしていく以上は絶対に必要になるだ。今のうちに慣れておいた方がいいだよ!」


女性は基本的に戦う事に消極的であるプレイヤーが多い。

実際に慣れ始めると、男と同じか、それよりも好戦的になる場合も多々あるのだが、とにかく最初が肝心なのである。なので粘り強く説得していく。

どちらにせよ、マルールを探す中で、ルゥリも戦う必要が出てくる場面が必ずあるはずだ。

目の前のヌラノラは強くはないが、決して弱い相手でもない。

そして恐らくは殺し合いの対決にはならない。

まさに戦闘に慣れるのに絶好の相手であるのだ。


「……わかりました」


危なくなったらすぐに離脱してもいい、また近くで戦闘に直線参加せずに、相手のターゲットを撹乱するだけでもいい、という条件でルゥリも渋々参加する事になった。

その間、およそ3分ほど待たされたからか、ヌラノラはかなり機嫌が悪くなっていた。


「いい加減、話は付いたのか?」


「ああ! 大丈夫だぁ、それじゃ早速……―――!」


始めよう、と言おうとした瞬間、こん棒が飛んできた。

小さな丸太サイズであり、慌てて避ける。

身をかわしてからヌラノラを確認すると、彼の表情は怒りに染まっていた。


「ふざけやがって……一気に沈めてやらぁっ!!」


待たされてかなりイラついたらしく、肉厚の刀を振りかざしながら、こちらへと一気に突進してくる。ルゥリは距離を離し、グンバはナイフを構えて攻撃を受け止めた。


―――ギィン!!


刃と刃が当たる音が響き、金属同士がこすれて火花が散った。

グンバは持っていたナイフ2本で相手の両手持ちの刀を受け止め、鍔迫り合いのような格好で耐えていた。


「くっ……ぐぐぐ……!」


(あれ? グンバさん、あの炎のナイフを使ってない……?)


グンバが持っているナイフは、2本とも前々から使用しているものだった。

★火曜星の刃も腰には差していたが、使うつもりは無かった。

これは喧嘩であり、殺し合いではないのだ。


(思わず使いたくなっちまうけんど、これは封印だぁ……!)


★火曜星の刃は強力だが、余りにも強力すぎる武器である。

ヌラノラに対して使用して、万が一相手を殺してしまったら、それで何もかもおしまいだ。

それに、仮に使用して武器を破壊でもして勝ったとしても、武器の力でゴリ押ししただけであり、決して納得はしないだろう。

だから、普通の装備で相手に正々堂々と勝つ必要があった。


「ナイフ使いか。よく止めたな……!!」


そのまま斬り合いが始まった。

大振りの刀の攻撃を、うまくグンバが受け流し、また防御しながら反撃の機会を伺っていく。

そしてその間、グンバにターゲットが集中している時に、ルゥリが背後から寄っていく。


「いやぁっ!!」


そして背後から飛び掛っての飛び蹴りを見舞った。


「うっ!? くっ、挟み撃ちの形かッ!」


ルゥリの戦闘スタイルは、デアルガから聞いた所によると武器を使うのではなく、”格闘”のスタイルにしたと言う話だった。

コボルトは元々、武器をうまく使える獣人族の代表的な存在だが、肉体での攻撃もそこそこ強く、また柔軟性も兼ね備えていることから

意外に格闘能力への適性を持っている。

そのため、ルゥリには魔法攻撃と格闘攻撃を担当してもらう訓練をしていた、とのことだった。


(意外だな、しかし)


ルゥリの現実での性格は、見た感じではどう見ても内気そうで、余り格闘を得意とするような感じには見えなかった。

だが、いざ攻撃を始めると見事なヒット&アウェイで連続での攻撃をヌラノラへと見舞っている。

思い切りが足りないのか、一発一発の威力は大した事が無いようだが、動き自体はかなり早く、その上で相手の攻撃をそれなりに見切ってはいるようだ。


「きゃっ!」


(ん? なんだ、突然動きが……)


ヌラノラが避ける動きを読み始め、深く踏み込んでの一撃を放った。

そして、その刀の一撃が掠めると、一気に形成が悪化した。


「あ、う……」


ルゥリの攻撃頻度が一気に減り、いきなり消極的な動きに変わった。

どうやら相手の闘志に気圧されてしまったようだ。

攻撃も相手へと当たらなくなり、ついに避けきれなかった斬撃を喰らい、倉庫の中に詰まれていた木箱へと吹っ飛ばされた。


「ああっ!!」


(なるほど……探索とか、一人旅をやってたからそこそこタフなんだな)


ルゥリは父が雪山の頂上付近に囚われている為、いつも敵モンスターがうようよいる場所を経由して色々な場所へと行っていたのだろう。

だから戦闘をするタフさは持っている事は持っている。

しかし―――強敵やボス格の相手と戦う時に必要不可欠なもの。

諦めない心、最後まで戦い抜く、いわば”闘志”と呼べるものが絶対的に欠けているようだ。

これは戦闘の経験不足から来るもので、仕方の無い事であった。


「あ、あ……!」


追い詰められ、トドメの攻撃が振り下ろされた瞬間、ルゥリの前にグンバが躍り出た。

振り下ろされた刀を受け止め、一気に相手を押し返す。


「離れてるだ! 後はオラがやるッ!!」


「やるな、お前のほうはちっとわァッ!!」


大振りの強烈な一撃が何度も見舞われるが、どれも頭やら単調な袈裟斬りやらで、グンバにとって読むのは至極単純だ。

受け流すのも楽勝だ。だが……問題は相手への反撃だ。


(くそう……鎧が厚すぎる)


ヌラノラはかなり厚く甲冑を着込んでいる。

そのため、どこをどういう風に狙えばいいのか、検討が付かないのだ。

下手に反撃するとその隙を狙われてしまうし、かといってこのまま防御と受け流しをしているばかりでは、やがてパワーの差で打ち負ける。


(どうするだか……ん?)


ヌラノラと打ち合っていると、彼が左からの攻撃をするときに、何故か右手を少し開きながら斬り掛かってくる事に気づいた。

まるで右手は押さえるためだけのような感じで、よく見ると握られていない。

それを見て、グンバはある発想にたどり着いた。

ヌラノラは……確か、最初にこう言っていたはずだ。

”前線に立たなくなった”と。


(もしかして、その通りならっ!)


グンバは攻撃を受け流すと、そのまま攻撃に転じた。

右手に対してナイフの背で当身を放った。


「ぐッッ!?」


右手にナイフの刀身が命中すると、ヌラノラの右手が痺れたようになり、左手だけで刀を持つ形になった。

更に追撃のスキル攻撃をグンバは放った。


『フォー・スティンガー!!』


すばやく4連続の突き攻撃を左手へと放ち、それが手の甲、手首、前腕部へと命中するとヌラノラは武器を落としてしまった。


「し、しまった!」


「トドメだぁ!!」


グンバはヌラノラが怯んだ隙を見逃さず、そのまま身体へと突っ込むように踏み込み、半身になって身体を僅かに屈めた。そして、スキル攻撃を放った。


『ヒルトストライク!!』


「ぐおぉぉッ!!」


スキルを放つと同時にヌラノラが激しく後方へと吹き飛ばされた。

そして積み上げられていた荷箱へと突っ込んだ。

その強烈な一撃で勝負は決まり、ヌラノラはそのまま立ち上がれなかった。


「な、何をしたんだ今……!?」


(すご……強い……!)


グンバが放ったスキルは、身を屈めつつ相手の胸元へと武器の柄での突きを放つスキルだ。

単純な攻撃なのだが、傍目からでは何をしたか殆どわからない位のモーションで、高威力かつ相手へのクリティカルを狙える強力なスキルである。

使うタイミングが難しいので、ある程度ナイフでの至近距離戦に慣れたプレイヤーでないと使うのが難しいスキルでもある。


「ん……?」


無理に立ち上がろうとするヌラノラだったが、手をかけた荷箱が、今にも崩れそうになっているのにグンバは気づいた。

うず高く積まれている箱の中身は、どれも金属の武器であるようで、これが崩れて中身が降り注げば、ただでは済まない。


「危ないだッ!!」


やがてその懸念は現実となり、箱の山は崩れ、中から剣やら斧やらがヌラノラに向かって崩れ落ちた。グンバは彼の前にすばやく回りこみ、★火曜星の刃を抜いた。


「でやぁっ!!」


気を注ぎ込むと刃は真っ赤に染まり、それを振り抜くと、落ちてきた武器はバターのように全てが一線に切り裂かれた。


「な……」


溶けた武器は液体となって周辺に散らばり、地面に落ちると冷めた細かい金属片となって放射状に広がっていった。


■


戦闘後、崩れた荷箱が片付けられる中、ヌラノラは手下らしいゴブリン達に介抱されていた。

彼に勝った事でグンバ達も客として認められたのか、簡単な飲み物が出されており、それを飲みながらルダントの事情を聞く事となった。


「なんか変な味ですね、これ……」


「ゴブリンが作る料理やら飲料は、どれも独特な味があるだ。材料がグロテスクなものが多いがら、あんまり一気に食べない方がいいだよ」


「はぁ」


茶色の麦茶のような物体は、やけにいい香りがしており、喉越しは甘くジュースのような味がした。


「さっきの武器、お前何モンだ……?」


「グンバって言うだ。さっきの武器は……ちょっと命懸けで、えー……ある任務をこなして手に入れただ。これはやれないだよ」


「いや、お前つええな……正直見た目で舐めてたぜ。そんなものまで持ってるぐらいなら、さぞかし腕が立つんだろう。試すような真似をして悪かった」


「いやいや、すぐに信用するなんて無理だろうがら、しょうがないだよ」


「……どこで、俺の左手が使い物にならねぇって気付いた」


「えっ?」


ヌラノラは左手をさすりながら訊ねた。

ルゥリがそれに驚いたようになってグンバを見る。

グンバが手を狙って攻撃を仕掛けたのは、単純に鎧に包まれた身体を攻撃しても大きな効果がないと思っていたのと、もう一つ理由があった。


「アンタは……戦闘前にこう言っただ。”人の街からの攻撃が来なくなって、前線に立たなくなった”って」


「ああ。確かにそう言った」


「それって良く考えるとおかしい事じゃないだか? 戦いたいなら街の外に出て行って、そのまま戦えばいいだぁ。これだけ防衛戦力がいるんだから、それぐらいのワガママは通りそうなもんだど。それでここで溜まってるって事ば……”戦えない”もしくは”戦力になれない”理由があったんじゃないか、と思っただよ」


「……その通りだ。俺はこの街の侵攻作戦のときに左手を負傷したから、しばらく休養って事でここの防衛と武器倉庫の管理をやらされてるんだ。それで最近、腹が立ってしょうがなかったんだ」


(それがオラ達の力を試した本当の理由だっただな……)


全てを話すと、ヌラノラは気が済んだように大きく息を吐いた。

そして、改めてグンバに訊ねた。


「それで……何が聞きてぇんだったか。おまえさん。だいぶスッキリした事だし、なんでも話してやるぜ」


「オラは市長の昔の事をちょっとした事情で調べてるだ。ルダントの昔のこと……特に名前とかについて、何か知ってる事がないだか?」


「ルダント……ああ、”ディック”の事か」


薬が染み込んだ包帯が巻かれ、ヌラノラの手当てが完了すると彼も食事を摘みながら話を始めた。


「ディック?」グンバが訊ね返す。


「俺らカチ族は……ここエゾの奥地に村を構えてたんだ。ずっと昔からな。ルダントは丁度、今から半年……ぐらい前か。その位に村へとやってきたんだ」


(意識不明事件が始まったのと同じ位だな、やっぱり……)


「あいつは何もかも物珍しそうにしてたから、とんでもねぇ田舎モンかと思ってたんだが、村へ来て俺たちの仲間になってから、やたらと外へ出て行くようになってな」


「外へ?」


「俺達は基本的に、村の外へは必要なものの調達に出るだけだ。外へやたらと出ると人間共に見つかって襲われるからな。だが、アイツは村に来てから頻繁に外に出ては、変な奴らを連れて帰ってきた。猛獣やら魔族やらと何かをやっていては、村の奴らから不審がられていたよ」


「いつもそんな取引をやっているんですか?」


「いいや。俺達は別にそんな危なそうな奴らとは関わらない。だがディックの奴は、俺達でも言葉がわからない奴らと話せたみたいなんだ」


「猛獣やら悪魔やらと交渉をしてたって事だか?」


「ああ。とにかく色んな奴とだ。やがて……巨人が村へとやってきた。並の巨人じゃなく、ちょっとした小山みたいなサイズで、見たこともないような大きな武器を持ってたな」


「タイタンですね……カチプトにいる」


「そいつが来てから、あいつは今までつるんでた奴らと、いつの間にか説得してた他のゴブリン族を引き連れてカチプトへと攻撃を仕掛けに行ったんだ。”王様になるんだ”とか言ってな」


「王様……?」


王様になる、というのはどういう意味なのだろうか?

グンバはそこが聞いていて引っかかった。


「俺らは村の奴らが大勢こっちに参加しちまったから、成り行きで侵攻に参加したんだが、それが楽しくてなぁ……」


「あの、それでディックって名前は……」ルゥリが訊ねる。


「ああ、言いそびれてたな。その”ディック”ってのが今のルダントが村に来て名乗ってた”2番目の名前”だ。ルダントってのは生まれ変わるって意味で、また付け直した名前らしい。だからアイツは今、”3番目の名前”を名乗ってるってワケだ」


「一番最初はなんて名乗ってたんですか?」


「えー……確か……”なんとか、ウー”とか言ってなかっけな。誰か、憶えてるやついるか?」


ヌラノラが周りに訊ねると、かなり前の事だからか、誰も名前を答えられず、うなるような声が続くばかりだ。

ヌラノラも思い出せず、”えー”と上を向いたまま詰まっていたが、やがて一人のゴブリンがハッとしたように答えた。


「思い出した! 思い出しましたよオヤビン! 確か……”アギレイ・ウー”とか言ってた筈です!」


「あ~……そうだそうだ。そんな名前だったな。俺の事を知らないか、とか言いながら口走ってたっけか」


「”アギレイ・ウー”……!?」


名前を聞いてグンバは”まさか”という風な声を漏らした。

ルゥリは変に思い、訊ねた。


「聞いた事があるんですか?」


「ああ、ある。かなり有名なプレイヤーだ。で、でも……同一人物とはとても思えないな」


とりあえずは有力な情報をつかめたので、グンバはデアルガ達を街内通信を使って呼ぶ事にした。

次の行動をどうするか、というのが決まったからだ。


■


やがてキッチェ、デアルガの2人が倉庫街奥までやってくると、ゴブリンたちがたむろする中、4人で円を組んで話を切り出した。


「それじゃあ、これからどうするかを話したいと思うだよ」


「まだ聞き込みを続けるんじゃないの?」


「いや、ルダントの本名がわかった以上、実を言うと次に取るべき行動は決まってるだ」


「次に取るべき行動……ですか?」


「ああ。リアルで彼の所属ギルドを調べて、本人かどうかを確かめるだ。それで本人だっだなら……その所属ギルドの周辺を調べるだぁ。そこから何か、あいつが戻りたくない理由がわかるかもしれない」


「所属ギルドって、どこなのよ? 第一名前だけでどこ所属とかわかるもんなの?」


キッチェが訊ねると、グンバが言った。


「わかるだ。あいつが本当に”アギレイ・ウー”なら……」


「その……本当なのかよ、その名前はよ」


「確かにそう言っていただ。だから嘘ではないかな、と……」


グンバが話す内容を、デアルガはいちいち驚いた風にしていた。

それを不思議に思い、ルゥリは訊ねる。


「誰なんですか? その……ウーさんって」


「秋葉原は知ってるか?」


「え? 秋葉原って……東京の、あの電気街とか、アニメの街って呼ばれてる所でしょうか?」


「そうだ。あそこは、電気街でもあり、アニメの街でもあるが、ゲームの街でもある。ファシテイト内でも強豪ギルドが、その本部をいくつも置いている。超激戦区として有名な街なんだ」


「へぇ……でも、それが何か関係あるの?」


デアルガが交代するように言った。


「そこに”A・フォース”って名前のギルドがある。秋葉原最強って言われている超有名ギルドだ。そこのリーダーが……”アギレイ・ウー”って名前なんだよ」


「えぇっ!?」


「最近姿を見せてなかったから、事件にまだ巻き込まれたままだって事ならぁ、辻褄も合うし、それにそんぐらいの実力者ならゴブリン達のリーダーを務めてたり、巨人の奴らと対等に渡り合ったり出来てるのもわかるだな」


「って事は……次は秋葉に集合しなきゃならんって事か?」


「んだ。”リアル”で、だぁな。話を聞くなら」


ここでグンバは話を切り出した。

これ以上、ここで情報を集めても恐らくはルダントをどうにも出来ない。

だから、次は秋葉原に一度、集まらないか、と。

そんな訳で休日の明日、というか既に明日となっている今日の昼ほどに、”リアルの秋葉”にて集まる事となったのだった。

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