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73:緑色の王様

 荒金靖樹ことラクォーツは「マルール」を探す前に、ファシテイト内の北海道への攻撃を主導したと思われるプレイヤーを探す事にした。

残り時間は、攻撃が開始される現実時間で明後日、ファシテイトで三日ほどの猶予のみ。

 靖樹は高校での授業をさっさと片付け、巻き込まれた夏休み前の試験も突破して北海道エリアへと出発。途中でダンジョンにてボス格モンスター「スカルベルゼルガ」と出くわす物の、何とか彼からの攻撃もかわし、ついにモンスターが占拠した北海道エリアの都市「カチプト」へと到着した―――

(文字数:11661)

ダンジョンを抜けると既に時間は夕方となり、日が暮れかけていた。

思ったよりも山のダンジョンを抜けるのに時間が掛かってしまったので、もう太陽は山の向こう側へと落ちかけていて、世界が夜を迎える準備が完了しつつある、という感じだった。

そんな時間に、ラク達はカチプトの街が見える山の中腹へと辿り着いていた。


「ここら辺からはモンスターの姿になっておいた方がいいだな」


ダンジョンを抜けて街が見える位置までやってくると、ラクはモンスター化のコマンドを使用してオークの「グンバ」となり、ここからは進む事にした。


「見えた……けど」


ルサーラと同じく、カチプトの街は周囲をモンスターからの防衛用の城壁が覆っていた。

その中に壁をも越えるような高い建物が屹立している様は、ルサーラと違って都会であるのが遠くからでもハッキリとわかった。

同時に―――巨人が歩いている姿も目に入ってきた。


「おっきい……街にやってきた奴よりもデカくない?」


センリがぷるぷるとスライムの身体を震わせながら言った。

無理もない。城壁をも越えるほどに巨大なその威容は、遠くからでもとてつもない破壊力を備えているのが地面からの地響きで確認できるからだ。

とても戦うことは不可能と言わざるを得ない。

城壁に巨人が近づいた時に、マップウィンドウを出し、それ見ながらミツキが言った。


「えー……城壁が15メートルだから……頭一つぐらいで17メートルぐらいあるな。あいつは」


「”ギガース”ってのより絶対デカイわよね? おんなじ種類のモンスターなの?」


「いや別の奴だ。あれは―――”ジャイアント”だぁな」


「ジャイアンツ?」


「それは球団の名前。ジャイアントってのはギガースよりも上級の巨人族で、身体がギガースよりでかくて頭もいい奴だぁ。あいつが普通の人間としたら、ギガースが原始人みたいなもん」


「大きな現代人ってわけねぇ」


「現代人というよりは中世のバイキングがそのまま大きくなったみたいな種族だ。好戦的で技も使えるだ。滅茶苦茶強いモンスターだぁよ」


「た、戦うんですか……?」


すっかり怯えた様子でナツナが言った。

近づきたがらない所を見ると、相当戦うことを怖がっているようだ。

無理もない。本来は熟練の冒険者であっても、戦闘は避けるべき相手なのである。

戦う事自体に慣れていない少女ならば怖がって当然だ。

ラクはあえて手を激しく振って茶化すように答えた。


「無理無理。できるわけないだよ」


「それじゃあ……」


「オラたちは隙間を縫って街に入るだ。あいつらは腕力も技の能力も持ってるけんども、ギガースと同じぐ本質的には頭が良くないだ。その上視力もいいわけじゃないから、日が暮れて視界が悪くなれば侵入は問題なく出来るだよ」


ジャイアントはゆっくりと徒歩で城壁に沿って警備をしていた。

どうやらカチプトの防衛の主戦力があれのようだ。

一人だけではなく、少し待っていると反対側から同じような巨人族が何人か入れ替わりでやってきている事から、複数人で警備をしているのがわかった。


「入るのはいいんですけど……入ってから、どうするんですか? 誰かを探すって話でしたけど」


「侵入できたら中央の建物を目指すだ。カチプトは確か野球スタジアムと、市役所が併設されてたって話だから、そこに多分首謀者は居ると思うだ」


「野球スタジアムね! わかりやすいじゃないの」


「とにかくま、まずは侵入だな。もうちょっと暗くなったら二人ずつで入るぞ」


ミツキが二人組みで侵入する、と話すとセンリが訊ねる。


「二人ずつで? みんな一緒に行くんじゃないの」


「4人同時だとバレた時がまずい。かといって一人ずつじゃ、お前らが心配だからな。こう言うときは初心者と経験者同士で組むのが一番なのさ」


「その通りだぁ。それに二人ずつだっだら……万が一、片方が失敗すても、もう片方がその隙に街中に入れるかもしれないし、リスク分散って意味でもいいだな」


ラクが賛同し、日が完全に暮れるのを待ってカチプトの街へと乗り込むことになった。

警備のために周回している巨人モンスターの数は、おおよそ5人。

それぞれがゆっくりと一定の間隔を維持するように動いているようだ。


(完全に視界から消えるのは難しいだか)


ラクは観察していてわかったが、どうやら一人が必ず街の角から城壁の1方向を見渡せるように歩いているようで、一人が横切っていった後、曲がり角を曲がる時には既にもう一人が顔を覗かせている。

完全に視界から外れるのは難しいようだ。


「入り口は大きいのが4、小さいのが沢山あるな」


横切った後にすぐに入り口へと走れば良さそうに見えるが、ジャイアントは感覚の鈍いギガースと違って、物音などにはすぐ気づくので、慎重に走らなくてはならない。

その上、ジャイアントが歩いている城壁周りの道は、近づいてわかったのだが、6車線を越えるほどの幅があり、横切るだけでもすぐには難しい。

ジャイアントが巡回をしてから、次の相手が来るまでおよそ2分ほど。

全力で駆け抜けて間に合うかどうか……。


(……間に合う、かな?)


いざ、門へと駆け出そうとタイミングを計り始めた時、ラクは少しの間考えた。

自分たちの”足の速さ”を。

今、全員はモンスター・キャラクターの状態でここに居る。

それは、戦っても余り意味が無いこと、もしもの時にモンスターと会話できる可能性があること、そして極寒のこの地に適応していること、と理由がある。

オーク、スケルトン、スライム、コボルトとこの4人。

ステータス的には悪人街で強敵相手に揉まれたラクが一番高いのだが、歩行スピードはオークのラクが断トツで遅い。他の三人はむしろすばやい部類に入るモンスターだ。


(一応、保険をかけておくか)


「それじゃ……1、2の……さんっ!!」


武装したジャイアントの一人が通り過ぎるのを見計らって、ミツキとセンリがほぼ同時に駆け出す。

スケルトンは本気で走ると足が速く、装備を外して白い骨格だけになると雪の中に色が混じって埋もれ、見つかりにくい。

雪スライムにいたっては、雪の上を転がって移動できるのでスケルトンの走りとそう変わりない疾走力を発揮できる。

二人は特に危なっかしい場面も無く出入り口の門へと進み、中へと入った。


「お二人とも、上手く行きましたね」


「ああ。次はオラたち……なんだけども」


「?、どうかしましたか?」


言うべきか迷ったが、言っておかなくてはならないとラクは意を決した。

そして彼女へと告げた。


「オラがもし、向こうまで一緒に行けなくても、君は先に進んでくれだ」


「え、えっ!? どういう事ですか?」


「いいだか? オークってのは……足が遅いんだぁ。でっぷりしてる身体だから。だから君に、オラがついていけないかもしれないって、そういう状況になっだら、構わず先に行くだよ」


「で、でもそうしたらラクさんだけが……」


「オラは一人でも何とかなる。逆に、君まで居ると逃げ辛くなるから、オラの事は考えなくていいだ。いいだか?」


「そうまで言うなら……わかりました」


ナツナが意を決したように言うと、準備が出来たものと判断し、カチプトの中まで入り込むためのタイミングを計り始めた。

そして、巨人が通り過ぎたのを見計らい、二人は駆け出した。



余り知られていない事だが、コボルトは意外と足が速い。

ただそれは4本足で居る時に限られる。

彼らは低級のモンスターであり、基本的には戦うために武器を持って二本足でフラフラと徘徊している為、その姿を見る事は中々無い。

装備品だけを上手く弾き飛ばし、彼らを恐怖させる事で見る事が出来る姿だ。


「それじゃ……行くだぁっ!!」


「はいっ!!」


ラクの掛け声で二人は同時に飛び出した。

背の高い草むらを抜けて、巨人が歩いていた場所を通っていく。

地面は巨人が歩いて地ならしを済ませているせいか、硬くなっており、アスファルトこそないものの、道路のような状態になっていた。凄く走りやすそうだ。


「はぁっ、はぁ、はぁぁぁ……!!」


全力で走っていくが、ラクはどんどんナツナと距離を離されていく。

コボルトと違って、オークの足は比較にならないほど遅い。

ザコ敵として最低ランクの強さしか持っていない上、身体的にも太っていて重い設定なので、オークは走るのが大の苦手なのである。

その上で多めの荷物を持っている為、全力疾走しても、コボルトの半分程度のスピードしか出なかった。


「着きました! ……あれ?」


「急げラクッ!! もう向こう側から顔が覗いてるぞっ!!」


ナツナが門の前へとたどり着いた時には、ラクは丁度、道のど真ん中でへばっていた。

汗まみれになり、相当力を振り絞って走ったのがわかるのだが、それでも道の半分程度までしか動けていない。

とても危険な状態だった。


「戻らないと……!」


ナツナが戻ろうとした時、ラクは手を広げてこちらへとハンドサインを送った。

片手を全て広げたそれは「来るな」の合図だった。


「えっ……?」


「ヤバイ!!」


ミツキは急いでセンリとナツナの手を掴んで、門の中へと逃げ込んだ。

向こう側から急激に巨大な気配が迫ってくるのを感じ取ったからだ。

門の真下、窪んでいる場所へと急いで身を隠し、顔だけを僅かに出して外を見ると、もうジャイアントはすぐそこまで来ていた。

異常を察知して駆け寄ってきたのだろう。


(見つかちゃった……!!)


そわそわして様子を伺っていた3人だったが、ジャイアントの兵士は周囲を不審そうに見回っているだけだ。なぜかラクには気づいていない。

やがて頭を傾げて、「気のせいだったか」とでも言わんばかりに頭を掻くと、そのまま通り過ぎていった。

ジャイアントが過ぎ去ってから、すぐにラクの姿を確認する。


「あ、あれ? どこにも居ない……」


しかし、ラクが居た場所を見ると人影が無い。

あんなに汗まみれで息切れした状態だったというのに、どうしたのだろうか?


「……えっ?」


ナツナがラクを探していると、道路の中から突然人の形をした影がこちらの方へとやってきた。

ただし本当に土と同じ色をしており、近くまで寄ってきてやっとそれがラクであるとわかった。

夜の闇と相まって判りにくく、相当近くまで寄らないと判別できない。


「ふぅ~~~……使っちゃったな」


土くれ色の人影は段々と色付いていき、やがて完全に人の姿をハッキリと取ると一人のオークが姿を現した。


「ど、どうやったんですか?」


「前に雪山に上る時に使った”インビジブルパウダー”を使って透明化しただ。なるべく使いたくなかったんだけんども……」


ジャイアントの肉体的な能力はギガースよりも高く相当なものだが、逆に魔法能力や探知に関しては同程度で貧弱だ。

目で見える物しか探知できず、鼻が利いたりするわけでもない。

その視覚も鳥のように良いわけではなく、普通の人間と変わりない。

透明化していれば気づかれる事はない……のだが、なるべくアイテムを使っての回避はしたくなかった。何故なら―――


「あと何個だ?」


「8個。パウダーとグリスがセットであるだけだ」


雪山を登った時のアイテムは、追加する為の時間もお金が足りず、少量しか持ってきてなかったのだった。

残りはパウダーとグリスがそれぞれ4個ずつあるだけで、つまり4人では、あと1回だけしか姿を隠す事が出来なくなってしまったという事だった。


「全員だとあと1回分しか無いって事ね……」


「これからどうなるかわからないだから、後はみんなが一つずつ持っておいてくれだ」


そう言うとラクは他の3人に持っていた消耗品を配った。

そして、念を押すように言った。


「いいだか、みんな。これから入り込むのは普通の街じゃない。モンスターに占領された街だ」


そう言うと3人は黙り、これから行う事の重大さを知った。

更にラクは続ける。


「最悪、どこかではぐれるかもしれないだ。バラバラに一人ずつになるかもしれない。でも最初に言った作戦通りに必ず行動して欲しいだ。そして……」


数拍置いてからラクは力強く言った。


「絶対に死なずに戻る。それを第一に考えてくれだ!」



門を通り抜けて街中へと入り込むと、人間は一人もおらず、街中をモンスターが闊歩していた。


「すげ~~……」


街中をモンスターが闊歩している光景は、かなり異様だった。

特にミツキとラクのような、ゲームに慣れているプレイヤーにはそれ故に新鮮に映ったためか、二人はその様子を見て、感心したような声をしきりに上げていた。


「色んなのがいるな。それだけでも驚きだけど……店まで開いてるよ」


街中にはかなり多種多様なモンスターが歩いていた。

肉食の魔物、草食の魔物が共存しているというだけでも驚きだが、それに加えて商店なども機能しているのが信じられなかった。

食事やら装備品などを売っている店が、普段どおりに開いており、その中では雪男がこん棒を買っていたり、草食の「ブルカスオックス」という白い体毛を持つミノタウルスが緑色のハンバーガーらしきものを食べていたりと、不思議な光景が繰り広げられていた。


(信じられないなぁ……)


どうやら姿を隠す必要は無さそうだ、と判断して4人はパーティの形を維持しつつも目立たないように街中を歩き始めた。

案の定、雑多な種類のモンスター群の中では、さほどラク達の姿も目立たなかった。

しかしよくよく観察していると、一つ突出した点がある事に気づいた。


「ねぇ、な~んかちっこい生き物がたくさん居ない? 色がちょっとずつ違うけど」


「確かに。ゴブリンがやたらといっぱいいるな」


小鬼ゴブリンが沢山いる。

それは小さく、1体1体は大した事の無いザコの代表のようなモンスターなのだが、それが店番をしていたり、固まって歩いていたりと、大量に目につくのだ。

どうやら都市の機能の中心部分を、率先してやっているようで、どうやらカチプトの主要な人口の多くはゴブリンが占めているようだった。


(そういえば……)


ここを追われてルサーラへと逃げてきたプレイヤーも「ゴブリンが襲撃してきた」という風な事を口にしていた筈だ。

やはり自分らのようにモンスター化したプレイヤーが、彼らを率いていると思って間違いは無いだろう。

どういう風にこんな多種多様なモンスターの軍団を作ったのかはわからないが……。


「とりあえず動き回るだけなら問題なさそうだが、どうする? さっさと役所の方に行ってみるか?」


「いや、動けるなら先に街の状況を見ておきたいだ。手分けして街の状況を見てきて欲しいだよ」


「わかったわ」


「今から1時間後に市庁舎の前に集まってくれだ。何かあったら通信コールを開いて、誰でもいいから連絡すること。くれぐれも無理だけはしないように頼むだよ」


3人にそう伝えると、ラク達は4方向へと別れた。

それぞれ北から南までの4方向の様子を探る為だ。

無論、目的は逃げるルートの下調べをする為だ。


(時間はあるようで少ない。しっかりといかないとな……)


これから夜が深まっていく。

ファシテイトの時間で明日の昼を過ぎた辺りから、攻撃が始まるのでなるべくなら夜のうちに全てを終わらせておきたい。

しかし―――このままいきなり市庁舎に入り込み、目的の相手を見つけても、何事も無く全てが終わるとはとても思えない。

町の外へと逃げるルートを探しておくのは、とても重要だ。



1時間後。ラクは一足先にカチプトの市庁舎へと来ていた。


「ここか……」


夜になって建物の灯りが連なる道路は人影が無い所を除けば普段通りと言って遜色が無い。

事情を何も言われないまま街を見渡せば、問題など全く無いだろう。

しかし、ふと人通りの多い場所へと目を落とすと、そこには普段ならまず見ない大型の猛獣がうろついていて、異様さがすぐにわかる。


「ホントにスタジアムと併設されてるのな」


カチプトの市庁舎は、町の中央にあり、丁度大きな競技場に道路を挟んで建てられている。

人件費の抑制のため、市役所がスタジアムの管理所を兼ねて作られているのである。

もう夜も更けてきた所だが、役所には明かりがついたままになっており、ゴブリンが何人も出たり入ったりを繰り返している。

あそこが根城になっているのは間違い無さそうだ。


(さて、入るのはいいんだけど、問題は説得する段階か……)


これから3人が集まってくるのを待ってから、市役所の中へと突入する。

問題のプレイヤーがいるのは、ゴブリンが集まっている場所である市役所内部だろうというのは想像に難くないので、そこで出会う事が出来たら説得を試みる、と言う感じだ。

仮にここに居なくても、何か手掛かりになるような物があると思われるので、それをとにかく探さなければ。


(アイテムの効果時間とかがあるから、2人だけの方がいいかな……)


ラクがどう潜入するか、と考えを巡らせていると、鐘の音が響いてきた。

カチプトの市役所近くにある時計台の鐘が鳴る音だった。


(あれ? もう20時か……)


どうやら約束の時間が来たようだ。

だが―――誰もやってくる気配が無い。


「なんか遅いな……どこかで詰まってるのかな」


時間を確認し損ねているのかと、時間を過ぎてもしばらく待っていたが、20分ほど経っても全く誰も来ない。

何かあったのか? と通信を行ってみることにした。


「こちらラクォーツ、みんな、今どうしてるんだ?」


妙だと思い、通信コールを打ってみたものの―――

誰もウィンドウに出ない。

画面が砂嵐の状態になったままで、こちらの呼び掛けは空しく響くばかりだった。


(何かあったのか……?)


探しに行こうかと迷っていると、やがて役場の中から一人のゴブリンがこちらへと歩いてきた。


「あ~んたがこの街へとやってきた”来訪者”の方かねぇ?」


「!」


その言葉を聞いてラクは身体を僅かに跳ねさせた。

見破られている。見た目ではそこまでおかしい所は無いはずだが、ハッキリとこちらが侵入者であると知られていた。

そのまま逃げてもよかったが、もしかすると、と思いラクは身構えたまま訊ねた。


「どういう意味だか? オラは面白そうだから、この街に入ってきただけだんども」


「こ~の街へは、選抜された者しか入って来れないんだ。その中に、オーク、スケルトン、スライムは入ってない。だ~から、すぐに不審者だな、ってバレてたのよ」


(そうだったんだか……)


かなり雑多なモンスターが街には居たが、どうやら選び抜かれた者がやってきているようだった。

適当に強そうなヤツが集まってきているとばかり思っていたが、そういう訳ではなかったようだ。


「他ーの三人は陛下の下に連れてきてる。あ~んたも連れて来い、と言われた。だから来て貰おうか」


(三人とも捕まったのか……)


どうやら最初から目を付けられていたので、散開した後でそれぞれ捕まってしまった、という所のようだ。

どうしようか迷ったが、思ったよりも話が通じそうなので、彼の話に乗ってみる事にした。

”閣下”と言っているのが少し気になったが。


「ど~うするか?」


「わかっただ。ついていくだよ」


そのままラクはやってきたゴブリンの一人に連れられ、市庁舎の中へと入っていった。

市庁舎の中はゴブリンばかりが歩き回っており、付近で何かしらの作業に没頭していた。

そして市庁舎の一番奥へと入っていくと、散会した3人が待っていた。


「みんな! 無事だっただか!」


「ああ、オレらはな」


「やっと全員集まったダニ?」


「!?」


3人が待つ市長の机には、よくよく見ると緑色をしたものが座っている。

何かと思って目を凝らすと”それ”は机の下から顔を出した。


「オマイラはちょっと他の奴らとは違うみたいダニ。だからここへと呼んだダニ」


「だ、誰だか……?」


「オイラは―――ここの総大将にして軍団の王。最強のゴブリン”ルダント”ダニ!」


顔を出したのは、豪華な刺繍を施したマントを着た、緑色のゴブリンだ。

どうやら―――北海道での騒乱を起こしていた張本人と出会う事ができたようだった。



「さて、それで早速本題ダニ。おまいらは結局、何者ダニ?」


ルダントは人払いをして、早速話を始めた。

ラクがそれに応える。


「オラ達はれっきとしたファシテイトのプレイヤーだぁ。ある事件に巻き込まれて、こんな状態になっちまったけんども」


「ファシテイトの……?」


「まず、単刀直入にまず聞きたいだ。あんたは……このゲームのプレイヤーの一人だか?」


「……」


陽気そうに話を聞いていたルダントだったが、ラクから話題を振られると突然静かになった。

そして、しばらく考え込んだ後に言った。


「そうダニ。おいらは、ファシテイトの元プレイヤーだったダニ。それじゃ、おまいらもそんな姿で、どうしようもなくなってここへ来たダニ?」


「それは違うだ。オラたちはもうその戒めからは抜けてる。他のプレイヤーも、恐らくは抜けられてるだ。オラ達は……”最後に何故か残ってるだろうプレイヤー”であるアンタを、連れ出しにきただよ。同じく、最後の攻撃が始まる前になぁ」


「最後……? おいらが最後ってどういう意味ダニ? それに攻撃ってのは……」


「もうすぐここカチプトには、賞金稼ぎやら治安維持ギルドやらが、大挙して押し寄せて来るだ。それも今までのような中途半端な奴らじゃないだよ。世界から集められたトップクラスの奴らが合同で攻撃を仕掛けてくるだ。そうなったら、あんたは確実に死ぬだ。だから救出する為に、オラ達はここまで来ただぁ」


”助けに来た”と言う言葉に何か戸惑っているような様子のルダントだったが、更にラクは続けてキャラクターチェンジのコマンドを発動させて、人間の姿へと戻った。


「!?、なっ、何ダニ!? 変身魔法ダニ!?」


「違う、元の姿に戻ったんだ。俺達は”ワールドマスター”ってものに出会って、元に戻してもらった。その時の副産物みたいなもので、こういうコマンドが使えるようになったんだ」


ラクはこれまでの自分たちが遭遇してきた事をルダントに話した。

意識不明事件に巻き込まれ、それからワールドマスターに出会い、元の姿に戻ってから今回の北海道侵攻事件が起こり、それに対処する為にひと悶着あった事。そして対処できるようになってから、残っているだろうプレイヤーを救出する為にここへとやってきた事。

一通りの事を話すと、オークの姿へとラクは戻り、話を続けた。


「そ、それじゃあこのままお前らについてけば、元に戻れるダニ……?」


「ああ。それは頼むつもりだよ。もう一回ワールドマスターに会わないといけないけんども、頼めばあんたも元には戻してもらえると思うだぁ」


「一人だけモンスターの姿のままなのはどうしてダニ?」


「彼女は……ルゥリは元に戻るプログラムを使った時に居なかったんだぁ。事件に巻き込まれたときに3人で、彼女とはその後に会っただよ」


「う~む……なるほど。どうやら話自体は本当みたいダニ」


「それに、俺達は仲間ができれば欲しいだよ。でも……この事情を知っている奴以外で組むわけにはいかないだ。ワールドマスターの件は危険すぎるだ。全く知らない人間には、関わらせるわけにはいかないだよ」


「つまり、助けるからおいらに仲間になって欲しいと?」


「そういう事だぁ」


ラクは話し切ると、短く溜息を吐いて、彼の返事を待った。

言うべき事はすべて言った。

これで彼が「わかった。ついていく」と言ってくれれば、後は街のモンスター達をどうにかしてここから退去させれば丸く収まる。

ラクは色よい返事が返ってくるとばかり思っていた。

意識不明事件に出くわして絶望的な状況の中で、救助が来てくれれば、と何度も思っていたのだから。しかし―――返ってきたのは意外な言葉だった。


「……おいらはここからは出ないダニ」


「えっ!?」


「なんでだ? モンスターのまま、ファシテイトの中で生きるってでも言うのか?」


意外な返事に、ミツキが言うと首肯してルダントが応える。


「そうダニ。オイラはこの街の市長、そして……王様ダニ。ここから出て行くわけには行かないダニ」


「馬鹿な! ここに残ってても、全滅させられるだけだぞ! 今度来る奴らは今までのとは全くレベルが違う! 悪人街の腕利きも混じってるんだぞ!?」


「死んで消えるなら、それも運命ダニ。でも……負ける気は無いダニ」


「ここに居る奴らが強いのはわかる。ボス格モンスターも結構居るからな。だがそれでも……無理がある。いくらなんでも」


「フン、丁度いいからついて来るダニ。いいものを見せてやるダニ」


そう言うと彼は市長室から出て行った。

意味がわからぬまま、4人も”ついてこい”と言われた以上、仕方なく彼の後を追った。


「何考えてんのかしら? 助けちゃるっつってんのに」


「オレもよくわからん……こんな話に乗らない訳が無いと思ったんだが」


市役所を出て、道路を渡ると彼は役所に併設されているスタジアムへと入っていった。


(競技場? 何かあるんだか……?)


「ここって野球場? やけに中が騒がしいけど」


「確かメインはサッカー場のはずだ。国内でも広い事で有名なスタジアムだったはずだぜ」


スタジアムは入り口がやけに広いような気がした。

この競技場では、サッカー以外にもいろいろなイベントが開かれる為、重機を使用してグラウンドの土砂を弄ったりするという話だ。だから大きな機械も入れるようにしてある、と言う事で不自然には思わなかったのだが、中の光景を見ると、この入り口は最初から必要だった為に作られたのだろうと思った。

”通常サイズ”では彼らが通るにはとても足りなかっただろうから。


「なっ、なんだこりゃ……!?」


中に入るなり、普段見るスタジアムの姿とは違うのに驚いた。

観客席は全て取り払われ、テントのようなものがいくつも備え付けられている。

それも一つ一つがサーカスのテントのような巨大さを持っていた。

それぞれで何かのバザーでもやっているのだろうか? と思ってみていると、ルダントが中央の方へと歩いていく。

そして、芝生の上に立てられている一際大きなブルーのテントへと声をかけた。


「ジャーバス! ちょっと話があるダニ!」


「なんだ?」


地響きかと間違うような声が開くと共に、テントの中から人影が現れた。

見上げるような巨大な人間の姿。

ギガースや、街の外で警備を担当していたジャイアントよりも更に大きい。

恐らくは彼らの長だろう「上位巨人族」だった。


「た、た……”タイタン”だ……!」


目の前に居たのは、筋骨隆々の身体に、逞しいヒゲを蓄えた戦士の姿だ。

武装しているのはジャイアント達と変わらない。

だが身に付けているものが彼らよりも上級の装備品で、磨かれている。

そして何よりも見上げなければいけないほどに大きい。

5階建て……いや6階建てのマンションと同じぐらいはあるだろうか。

俗に言う「巨大ロボット」というジャンルに入るぐらいのサイズだろうと思った。


「どうしたルダントよ。しばらくは休暇という話ではなかったのか?」


「それがタレ込みに来た奴がいて、その話だと、もうすぐここへ総攻撃が来るらしいんダニ。だから迎え撃つ準備をして欲しいダニ」


「なるほど。後ろの者がその情報提供者か」


腰を下げ、頭を近づけて”ジャーバス”と呼ばれたタイタンは言った。


(なんて威圧感だ……)


巨人族は人間が発熱して体温を維持しているように、彼らも熱を発している。

ただ彼らは消費するカロリー量などが段違いなので、近づいただけでも暖かく感じるほどだ。

それがこの巨人の場合は、頭が近づいてきただけでも、まるで真夏のような暑さを感じた。

スタジアムの中だけ雪が全く積もっていないのも、この影響なのだろう。


「感謝する。これで準備を整える事が出来る」


「あ、あんたは一体……コイツの友達か何かなのか?」


「我が名は”ジャーバス”。ルダントの友である」


「すっご……」


「マジかよ……」


巨大なタイタンの姿に、ミツキとセンリは感嘆の声を漏らしながらその姿に見入っていた。


「ジャーバス、いつも通りの手筈で頼むダニ。こっしはおいらからも手を回しておくダニ」


「承知した」


そう言うとジャーバスは別のテントの中へと入っていった。

彼らが戻っていくと、ルダントは得意気に言う。


「おいらはこうやって軍隊も持っているダニ。ここはオイラの王国。だからここから動く気は無いダニ」


「しかし……いつかは負けるだよ!」


確かに巨人を始めとした軍勢がいれば、簡単にそう街が落とされる事は無いだろう。

だが、ここに篭っていたところで先などあるわけがない。

攻撃も最初を止められても、どんどん激しい物になっていくだけだ。


「何と言われようと戻る気は無いダニ。おまいらこそ、ここに居ると危ないんじゃないダニ?」


「それは……そうだけんども」


「おいらの方から街の奴らに話は通しておくダニ。街の中を自由に歩き回れるようになるはずだから、適当な出口から出て行くといいダニ」


そう言うとルダントは市役所の方へと戻っていった。

どことなく、その後姿は寂しげな雰囲気を漂わせているように見えた。


(なんでそう、頑ななんだ……?)


ラクには彼の行動が理解できなかった。

自分も同じ境遇に置かれた事があったからこそ、助け舟が出てきたなら、それに絶対に乗る筈だと思っていた。


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