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72:北の大地に潜む者

 荒金靖樹ことラクォーツは「マルール」を探す事を再開した。

しかし、その前に北海道にいる正体不明のプレイヤーを探さなければならない。

掃討作戦が開始されるのは、夏休み直前の休みの後であった。

 靖樹は高校での授業をさっさと片付け、巻き込まれた夏休み前のファシテイト戦闘技術の試験において学校ギルド最強の存在「久島会長」を退け、3人のモンスター達と合流し、北海道へと向かう。しかしその途中でダンジョンに入り込み、彼らの前に超強敵が現れた―――

(文字数:15638)

靖樹は歩きながら隣に居るミツキと今までの起きた事をそれぞれ話していた。

ジャッジ・バトル後の事は、どちらも話しをしていなかった為だ。


「クッソー参加したかったぜ~。悪人街でのそんな戦闘とか、滅茶苦茶面白そうじゃねぇか」


「全然面白くなかったよ……聞くのと実際に参加するのとじゃあ、天と地ほど違うんだぞ」


「まぁそうなんだろうが、でも羨ましいぜ。オレ、最近デカイ戦闘に参加してねぇからさ」


「北海道の攻略をやれば、嫌でも戦うことになるさ」


「対人戦がやりてーんだよ。モンスター討伐は装備作るんでやりまくってるからよ。いい加減ちゃんとした戦いがやりてぇのさ」


悪人街での顛末を話すと、ミツキは羨ましそうに言った。

言われてみるとギガース戦以来、ミツキは学校でもまともに対戦をしていないようだ。

ファシテイト・リテラシーのバトル・ロイヤルにも参加はしているようだったが、勝ち残る直前で辞退し、2回戦以降には参加していない。

彼は1対1の戦闘が好きなので、余り多数対多数などの戦闘には参加したがらない。


「持ってる武器もその報酬ってわけか」


「いいだろう? ああいうのがあれば寒さもへっちゃらだしな」


ラクは電想ウィンドウを開き、武器カタログをミツキの前に表示させた。

そして持っている「★火曜星の刃」を見せると、ミツキは羨ましそうにそれを眺めていた。

ナイフなので、彼の本当に欲しいタイプの装備ではないが、それでも強力な装備には間違いない。

その上、気力を注ぎこむと発熱をさせられるので、これ一つで万能カイロとでも言うべき機能も備えている逸品である。


「そんなもんをポンと出せるんだから、凄いもんだぜ」


「ああ。流石トップクラスのギルドだと思うよ。しかも前も貰ったから2本だ」


ディバルと悪人街での出来事を大方話すと、今度はミツキの方が進捗状況を話し始めた。

結局の所、センリとナツナの成長具合というか、プレイヤー的な能力は余り上昇していないとの事だった。

だが、代わりに重要な情報が一つ、手に入っていた。


「あんまり強くはなってないか……当たり前だけど」


「ひとまずメイン装備を使って脱・初心者って位には戦えるようにはした。でもよ……流石に中級者って程まではいかねェわ。付け焼刃でも」


「いや、そこは充分だよ。そもそもそんないきなり強くなれるとは思ってないし」


ファシテイトでの戦闘技術は、現実のものと似ているのだが、スキル発動のカンなどが存在するため、また違った感覚が必要とされる。

反射神経が優れていても、操作や技の感覚を掴めなければ、対戦格闘ゲームでは強くはなれないのと同じだ。こればかりは時間が必要になる。


「だが、とりあえずカチプトへ乗り込めそうな道は確定させられたぜ」


「ホントか!?」


ミツキが耳に装着されているユニオン・デバイスを操作すると、地図データがヤスへと送られてきた。

それを開くと、北海道エリアの経路図のようなものが表示された。

以前居たルサーラの町から、モンスターが落とした都市「カチプト」への移動路を示しているようだ。

ただ赤い経路線は通常の内陸側の街道をなぞらずに、海側にある山の方へと向かって延びており、そこから山側を経由してカチプトへと入るような形になっていた。


「これは……また山越えが必要なのか」


「何度か道を探してみたが、普通の道は駄目だ。ウジャウジャとボス格の奴らがいる。とてもまともに相手できねぇよ」


「山の方は大丈夫なのか?」


「一旦、ナツナちゃんに頼んでカチプトまで行けるか試してもらった。で、街が見える場所までは行けるのを確認した。ただ……」


口ごもった答えに「ただ?」とヤスは思わず返した。


「いやな、街までは強そうな相手には出会わなかったらしいんだが、街の外には巨人が立ってて、とても近づけなかったらしいんだ」


「巨人……ギガースか」


最初にルサーラに着いた時は、街に巨人型の「ギガース」というモンスターが侵入してきた。あれは巨人種ではレベルが低めで、そこまで強くは無い種類のはずだったが、武装しており、戦い方も何者かに訓練されているようだった。

おかげでカチプトへと攻め込もうとしていたプレイヤー達の出鼻は挫かれ、危うくルサーラも落とされそうになったのは記憶に新しい。

ヤス達もやられそうになったが、トップギルドの「エルミラ」が駆けつけてきてくれたお陰で、難を逃れることが出来た。


「ま、防衛に強い奴……ってのはセオリー通りだから予想はしてたけどな」


ちなみに現在、北海道エリアの情勢はルサーラにある程度のプレイヤーたちが終結していて、そこを拠点として北海道の入り口部分でこう着状態となっている。

攻め込むにも高レベルのモンスターが街道には跋扈しているため、簡単には進めず、時折町へ襲来してくるモンスター達を撃退しつつ、本格的な増援を待っている、という感じだ。


「だから、カチプトの近くまで行くだけならどうにかなる。そこから問題はどうするかだ」


「会話を試みたりはしてない……よな。流石に」とラクが訊ねる。


「危険だからそれは止めろって言ってる。どうなるかわかったもんじゃないからな」


「それで正解だ。最悪捕まるかもしれないし」


現在の目的は、カチプトの中に居ると思われる「モンスター化したプレイヤーの救助」である。

今まで起きなかった都市陥落や、武装したギガースの出現などが起こるのは、何かしらの形で自分たちのようなゲーム内に囚われた人間が、その原因を引き起こしているのだろうと推測されるからだ。


「しかしこんな事までやって、助ける必要なんてあるんかね?」


「見捨てるわけにもいかないだろ。真相を知ってるのは俺達だけだし、助けられるのも俺達だけだ」


「だが、危険だぜ? 今死んだらどうなるかわかんねぇし」


「……そこは相談だな。俺は最悪一人でも行くつもりだけど、他三人には、強制させられないな」


「オレは行くつもりだぜ? 面白そうだしな。それにオレも気になったんで、他の二人も本当に行くかどうかは聞いてみたが、行くつもりだとよ」


「う~ん……わかった。それなら4人で行くって前提で作戦を立ててみるか」


「出るのは今夜か?」


「ああ。もう明後日には攻撃が迫ってるから、今夜中には出ないとまずい」


恐らく、本格的な攻撃時間は現実時間の明後日の朝方となる。

だが、抜け駆けする人間を考えると、恐らくは明日の昼前頃からもう戦闘は開始されていく筈だ。

つまりファシテイトでは現実での丸1日分ほど、つまりは3日分しか無い。

山越えの時間や、カチプトへと入り込んで色々とやる時間を加味すると、今夜中には出ておきたい。


「彼女らへの連絡は俺の方からしとく。ミッキーは前に山に登るときに使ったアレを持ってきてくれ」


「アレ? ……ああ! アレか!」


一瞬ミツキは何のことかわからなかったが、”山越えに使った”と言われて思い出したようだった。

それから自宅へと帰宅し、夕方、夕食を済ませるとヤスは自分の部屋で横になった。

既にメールにて連絡は行っているので、後は集まって出発するだけだ。


(さて……これからか)


悪人街での戦闘が終わって、一息着きたい所だが、自分たちの本当の戦いはこれからである。

夕方の今から明日の昼頃まで、おおよそ電想世界の時間で1日半ほど。それでカチプト内に潜入し、取り残されているプレイヤーを救出するだけだ。

家族には長めにファシテイトにインすると言ってあるし、問題は無いだろう。


「それじゃあ……行くか!!」


ベッドに横になり、ユニオンデバイスを回して「ワールド・イン」のメニューを選択する。途端に強烈な眠気とともに意識は暗闇の底へと沈んでいった。

世界が再び明るくなっていくと同時に目を覚ますと、ヤスはファシテイト内のアバター”ラク”こと「ラクォーツ」となって目覚めていた。


■


現実世界では夜中だが、ファシテイト内の時刻ではまだ明るい。

集合場所は北海道エリアのルサーラの街を出て、南東の外れにある大樹の根元だった。

ここは採集場所としては有名な地点なのだが、時々強力な敵と遭遇する可能性があり、通常は護衛と共に来るべき場所だ。

北海道エリアの危険度が上がった今、ここへと来るプレイヤーは皆無に近い。

通常ならば待ち合わせに選ぶべき場所ではないが、ミツキ達はモンスター化アビリティを使用して、この辺りで訓練をしているとの事だ。


「ん……?」


誰もいない大樹の下で待っていると、和風の武器と鎧を身につけた骸骨、そして雪のような白いスライムに、狼が二本足で立っているような怪物「コボルト」が同じく武装して近寄ってきた。

通常ならば身構える所だが、ラクは気さくに話しかける。


「よっ。時間前5分行動とは、キッチリしてるな」


「今回は時間が厳しいらしいからな」


3人と会うのは雪山で開発者「後藤」と出会って、それからラクがジャッジ・バトルに参加するために別れて以来だが、かなり久しぶりの再開のような気がした。


「久しぶり~! って言っても1週間とちょっとぐらいだけどさ」


スライムが触手が伸ばして挨拶をしてきた。

彼女はリアルでは「センリ」という名前の中学生だ。

モンスター体の名前が「キッチェ」で、通常プレイヤー名は「アリカ」。

ミツキと共にゲーム内にて、モンスター化して放り出された時、

最初に出会った同じ境遇のプレイヤーである。

まだ直接会った事は無いが、どこかのお嬢様であるようだ。

話し方から、相当なお転婆少女であるのがそれとなく読み取れるが。


「総攻撃の時間がもうすぐってホントですか?」


コボルトが話しかけてくる。彼女は「ナツナ」といいゲーム開発者である「後藤」の娘だ。

ファシテイト内での名前は「ルゥリ」。

ラク達のようにゲーム内でモンスター化されるプログラムを受けて、囚われてしまったプレイヤーの一人である。

ただ彼女の場合は、後藤の人質という意味合いが強いため、人工知性である「マルール」によって特殊なプログラムがかけられていて、常にモンスター体である以外は通常プレイヤーとほぼ同じようにゲームプレイが可能な状態となっている。

ラク達のように人の姿へはまだチェンジを行えないが、代わりにそのほかの部分は通常のプレイヤーと同一のシステムが保持されているというわけだ。


「ああ。明後日からだ。直接ディバルから聞いたから間違いないよ。だから行動するなら今からしかない」


「それじゃ、早速出発しましょ! 1日ちょいぐらいしかないんでしょ? 時間が勿体ないわ」


「その前に、ルートと準備を確認しよう」


ラクはこれからのスケジュールを3人と共に確認した。

これからの北海道攻略の手順は、大きく言うと次の三つとなる。

一つは「山越え」。本格的な攻撃が開始される1日半の時間のうちに、山を越えてしまうこと。

時間をかけずに突破すればするほど、カチプト攻略の余裕が取れる。

二つ目は「カチプト潜入」。北海道侵攻のモンスター達が根城としているのは、やはり都市カチプトで間違いないので、都市の中へと潜入する事が必要となる。

最後に「人探しと救出」だ。根城となっているカチプトのどこかにモンスター化して取り残されているプレイヤーが居る筈なので、それを探し出し、なるべく早くカチプトから離れる。

これがおおよその計画となる。


「また隠れながら山越えするのね……あれ面倒なんだけどー」


「いや、今回はカチプトの中に潜入する時に前使ったアイテムの残りを使う。山は今、モンスターが街に降りて来てるから、手薄になっているらしいから」


「そうですね。何度か山を越えて偵察に行きましたけど……強そうな相手には出くわしませんでした。ただ……」


「ただ? 何かあるのか?」


自信なさそうに話すルゥリにラクが訊ねた。

すると彼女は申し訳なさそうに言う。


「行くための道は2通りあるんですけど、私が使っている方って今日も使えるかどうかわからないんです」


「どゆこと? 消えたり出てきたりする橋でもあるの?」


「そんな感じです。洞窟を通っていく道と、凍ってる大きな湖の上を歩いていくのと2通りあるんですけど、湖の上は通れても一人だけです。それに、氷がとても薄いから何か物を持ってると抜けられないと思います」


「じゃあ洞窟を通るしかないな……洞窟ってどの位あるんだ?」


「入った事はあるんですけど、中はダンジョンになってて、私だけじゃ抜ける事は出来ませんでした。地図によると山の向こうへと抜けることは出来るらしいんですけど……」


「なら、問題はないか」


「えっ? だ、大丈夫でしょうか?」


ラクが自信あり気に答えるとルゥリは心配そうに言った。


「要するにちょっとめんどくさい通路って事だろう? それ位なら問題なく抜けれる。地図に書かれてる位なら大丈夫さ」


「はぁ……」


「それより、カチプトの近くにはどれ位モンスターが居たんだ? 街の様子が知りたい」


「そんなに多くは居ませんでした。巨人が街の外を歩き回って警備していましたけど……街の様子は、ルサーラみたいに壁でグルッと囲まれてて、ちょっと遠くからはわからなかったです。ごめんなさい」


「それだけ解れば充分さ」


計画を話し合うと、4人は持ち物の確認を済ませ、足早にルサーラの外れから更に南東の山「カムイ山」を目指して歩いていった。


■


カムイ山は北海道にある「神威岳」という山をモチーフとしている山岳エリアである。ファシテイト内での正式な名称は「カムイコムタンチネルタロイ」とか言う長い名前なので、プレイヤーは皆「カムイ山」と呼ぶ。

季節を問わずとてつもなく厚い雪で覆われるエリアで、名前が神々しいからか高レベルのモンスターが生息している危険な地帯である。

基本的に夜中には立ち入りたくはないが、運よく朝方の出発を行えたので、危険度は低い。

当面の目標はさっさとカムイ山を抜けて、都市カチプトまでたどり着く事だ。


「寒くないですか?」


ルゥリがラクへと訊ねる。

嵐というほどではないが、強風に雪が段々と本降りになり始めた事で、相当な寒さになってきた。

コボルトであるナツナことルゥリと、モンスター化コマンドを使って寒冷地に適応したモンスターへと変身しているミツキとセンリは大丈夫な筈だが、ラクは違う。

防寒仕様ではない鎧を着ていて寒そうな風貌に見えた。

事実、後藤に会いに行った時は死に掛けていたのだ。

だがケロッとしたもので、ラクは「いや全然」と平気そうに言った。


「後藤さんトコに行った時はやばかったけど、今度は”永久カイロ”があるから大丈夫さ。涼しさすらほとんど感じないよ」


ラクはそう言うと鞘からナイフを抜き出して見せた。

鞘から抜くと同時に、ナイフの刃が燃え上がり、周囲に高熱を撒き散らしていく。

高温のストーブがいきなり近場に出現したかのように、温度が急速に上がっていった。


「わぁ……きれい」


「何それ? なんか武器が燃えてるみたいだけど……」


ラクが喋ろうとするとミツキが先手を打つように言った。


「アーティファクトって奴だよ。とてつもなくレアな装備だ。この前の悪人街での騒動で手に入れたんだと」


「ええっ!? いいなぁ~、あたしも欲しい! どうやって手に入れるの?」


「簡単には手に入らないよ。俺もトッププレイヤーのおこぼれを貰ったみたいなもんだし……それにあの戦い、仮にこれが貰えるとしてももう同じようなのはやりたくないよ。最後はチートプレイヤーまで出てきやがったし」


「チートプレイヤー? なんだそりゃ? オレ初耳だぞそれ」


「あれ? そうだっけ?」


「悪人街のギルドマスターが全員出てきて、攻撃をかけてきた親玉とお前が戦ったって聞いただけだぜ?」


なるべく詳細を話したつもりだったが、そう言えば最後のクエイとの対決の所までは話せていなかったようだ。

ラクは件の洞窟まで着くまでは暇だろうと考え、ついでなのでセンリとナツナの二人にも悪人街に行くまでの話と、その顛末を話して聞かせた。

学校でのギルド・ポイントの納入が遅れた、というちょっとした事からディバルに目を付けられ、ジャッジ・バトルを介して悪人街へと送り込まれたこと。そして、そこで悪クラスの面々と付き合いながら「ゲダム」というプレイヤーを探していた。

そして彼を探している最中に、横浜悪人街へと賞金稼ぎたちが攻めてきたこと。そしてそれは彼ら自身も知らないままに、政府の人間に仕組まれていたこと。

その首謀者が「クエイ」と呼ばれる者で、彼の目的は目の上のたんこぶであった有名賞金稼ぎの「エクスクモ」というプレイヤーを屈辱の果てにキャラデータごと消去(デリート)させて始末する事だった、という一部始終を話した。


「……とまぁ、そんな感じかな。顛末は」


最後に、クエイが管理者権限でチート行為を行い、こちらを一気に倒そうとしたが、何故かクエイの攻撃は、殆どキャラチェンジしてオークとなったラクには効かず、そのまま殴り倒す事が出来たことも、話した。


「チートが効かなかった……か」


全てを話すとセンリとナツナは興味津々、といった風に目を輝かせていたが、ミツキだけは最後の”チートが効果を発揮しなかった”という部分を聞いて神妙な面持ちになっていた。

骸骨となっているので表情はわかりにくいが、アゴを弄りながら目を泳がせるのは彼の考え込む仕草なのですぐにわかる。

ラクも同じような気持ちだった。


(やっぱり、このキャラチェンジ能力は……)


ラク達が持っている力は、ファシテイトを作り出した電子知性体が作り出したものだ。

彼らは自分たちをこの世界の主「ワールドマスター」と名乗っており、

後藤の話では実質的にプログラミングを行ったのは彼らであるといわれている。

クエイの”管理者権限”を跳ね除けたのは、本当の開発者であるのがワールドマスター達である事を如実に物語っていた。


「悪人街ってどんな所なんですか?」


「あたしもさー、盗む能力、勉強してみたいんだけど!」


「わかった、わかったから二人同時に聞かないでくれ」


ナツナは逆に街の事を知りたがっているようだった。彼女は後藤の人質も兼ねて雪山の頂上付近にホーム・ポイントが固定されていたので、殆どファシテイトの都市・街の事を知らないからだろう。

センリは”盗み”の技術に興味津々で、新しい能力への興味が見て取れた。新しいことへと挑戦したがるのは、初心者を脱しようとしている証拠である。いい傾向である。

ラクは二人の質問に丁寧に回答して行った。

そしてセンリに今はクラス・チェンジの関係で盗みの能力は習得できない、と伝えた所で吹雪の中に黒い口のようなものが見えてきた。


「ここが洞窟か……」


近くまで寄るとかなり大きな洞窟の口が見えてきた。

人が10人ほどは縦に並べられそうなほどに天井は高く、奥へと行くにつれて洞窟は天井が低くなっているようだ。典型的なダンジョン型の洞窟の入り口だった。


「確かに公式マップだとここを通って出れるようにはなってるな」


北海道の官公庁が発行しているファシテイトの街々を回るマップでは、確かにここを通ればカチプトまで出ることができるようになっている、と書かれている。

しかし肝心の洞窟内の順路などが記載されていない。

一言「ランダム生成(10階層)のため注意して下さい」とだけ書かれていた。


「何も書いてないでしょう? どうしたらいいか全然わからなくて……」


「ランダム生成……って事は”ランダムダンジョン”になってるのかな?」


「何ですかそれ?」


わからない言葉にナツナが訊ねると、ラクが説明する。


「文字通り、ダンジョンが適当に出来上がるんだ。入る度に形が変わる」


「ええっ!? そ、そんな所だったんですか……」


「その代わり、階段が部屋の中にあって比較的迷いにくい構造にはなってる。まぁこれなら1、2時間もあれば抜けられるよ。中に居る奴らのレベル次第だけど」


「10階か……広くなけりゃいいんだがな」


「ドンと来いっての! さぁさっさと行きましょ」


不安げなナツナをよそに、そこそこの修羅場を潜り抜けてきたセンリは乗り気のようだ。

ラクとミツキはランダムダンジョンについては数えられないほど入り込んできたので、全く気にも留めていなかった。

事実、ダンジョンに入り込んでは見たものの、難易度は有名なダンジョンと違って大したものではなく、またモンスターも山地にいる者達同様出払っているのか、初心者でも相手が出来そうなザコしか出てこなかった。

だが―――順調には行かなかった。


■


10階のフロアにて。時折襲ってくるザコを蹴散らしながら、4人は進んでいた。


「弱い奴しかでねぇなぁ……」


拍子抜けだった。

雪山特有の白色の狼モンスター、イノシシやら雪球のようなスライム、そして時折出るとしても小型の熊型モンスターが出てくる程度で、中堅以上のモンスターが全く出てこない。

しかしある部屋へと出た時にラク達の顔色が変わった。


「ん……?」


突然、大きな部屋へと出た。今までは小さな部屋ばかりで、大きくても倉庫のようなレベルの低い道具が積み重なっている部屋ぐらいにしか出なかったのだが、今度の部屋はちょっとした広場のような広さがあった。

内部は真っ白な大理石で覆われており、天井は逆に青色と銀色を混ぜたような不思議な輝きを有している。

明らかに何か雰囲気が違っていた。


「なんか大きい部屋だね。あれ……? あ、宝箱!!」


中央には巨大な宝箱が置いてあり、いかにもレアそうな物が入っていそうだった。

すぐさま入っていこうとするセンリを、ラクが掴んで静止させた。


「待った! この部屋は普通の部屋と違う。まだ入っちゃダメだ」


「ええ? でも、凄いものが入ってそうじゃない」


「部屋の広さが戦う場所にも見えるだろ? 宝箱にだけ目を取られちゃダメだよ」


ラクから窘められ、センリが悩んでいるように声を漏らす。

入って行きたい気持ちを、中々抑えることが出来ないようだ。

しかし―――この手の部屋は何かしら仕掛けがある。

ラクの言うとおり、基本的に何も考えずに入ってはいけなかった。


「”特殊部屋”だなこりゃ。オレも同意見だ。すぐには入らん方がいい」


「特殊部屋?」ナツナが訊ねる。


「ランダムダンジョンには、一定確率で生成される特殊な構造の部屋があるんだ。宝物庫だったり、モンスターがたくさんいるモンスターハウスだったりなんだけど……今回の奴は、多分”ボス部屋”じゃないかな」


「ボス部屋……って。ボスなんて居ないじゃない。なんかガイコツが転がってるけど」


「ガイコツ?」


「ほらあそこ。部屋の隅に居るでしょ?」


センリがスライムの身体を伸ばして矢印を作る。

その方向を見ると、白い大理石に紛れてなのでわかりにくかったが、確かにガイコツが一体部屋の隅に転がっていた。

戦いに疲れて倒れたような感じで、鎧を身に纏っている。

ボロボロのような感じにも見えるのだが、それは背中か首かについている布切れだけで、装備品は大して痛んでいるようには見えなかった。


「あれだな……”スカルベルゼルガ”だ。多分」


今まで気楽そうにしていたラクとミツキの表情が一気に険しくなった。

不安そうにナツナが訊ねた。


「危ない敵なんですか?」


「危ない所じゃない。オレらじゃ絶対に勝てない相手だ」


「A++ランクの超強敵だよ。でも、入らなければ大丈夫さ」


「入らなければって……他に道あったっけ?」


センリが言うと「あれ?」と3人ともがマップを確認した。

恐らくここ10階が最後のフロアだが、道が中々つかめず、方々を探してこの部屋へとたどり着いたのだ。

他に道らしい道はどこにもなかった。

そして、部屋の中を改めてみると、奥の方に外へと続いているのだろう階段が見えた。


「参ったな……ここを通らないといけないのか」


「戻りますか? 危ないなら湖の上を一人ずつで通れば……」


「いや。荷物を持っている以上、何とか洞窟を通らないといけない。かといって一度洞窟を戻って、再度ダンジョンが生成され直すまで待つのはちょっとなぁ」


ランダムダンジョンである以上、一度ここから出て再生成が行われるのを待てば問題なく通れる。しかし、そうするとなると戻る時間と再生成を待つ時間とで、軽く4、5時間は掛かる。

今は時間が惜しい。何とかここを突破したい所だった。

悩んでいるとミツキが言った。


「よし、オレが入ってみる」


「大丈夫か? 危険だぞ」


「通らなきゃいけないってんなら強制戦闘にはならねぇだろ、多分。それに同じ骸骨キャラだから、もしかすると話でも通じるかも知れねぇ」


しばらくラクは悩んでいたが、経験の浅い二人ではなくミツキが入ると言うので、渋々了解した。

ミツキは一人でも戦えるように道具を持ち直すと、部屋の中へと入っていった。


「通れるかだけ見てくれ。話しかけるとか、宝箱を開けられるかとかは調べなくていい」


「そこまで命知らずな事をやる度胸はねェよ。安心しとけ」


ミツキは用心深く、床や天井などに仕掛けがないかを調べながら部屋を抜けられるか歩いていく。

宝箱には手すら触れず、なるべく骸骨の方にも近づかず。

こういった部屋は、入った瞬間や宝箱に触れた瞬間などの”トリガー”で仕掛けが起動することが多い。

中にはとてつもなく危険な罠もある。油断はできない。


「あんなに用心しなくても……」


「”警報機”とか”マジックバースト”とかがあるかもしれない。アレぐらい当然さ」


「警報機って何?」


「警報機が鳴ってモンスターが部屋の中になだれ込んで来るんだ。その後に大抵は出入り口が閉じられてモンスターを全滅させるまで出られない」


「あ、危ないですね……」


「マジックバーストはもっと危険だ。魔法系の罠が全て一気に起動するって奴で、魔力系のゲージ3本全部が吸われてから召還の罠やテレポート、石化とかが発動する」


「そ、そんなのまであんの? やばすぎでしょ」


「高難度のダンジョンにしかないよ。ただ……こういう特殊な部屋は高難度ダンジョンと同じ仕掛けがある時もある。慎重に行かないと行けないのさ」


部屋の外に残った3人は、中へと入ったミツキの一挙一足を見守っていた。

やがて中央を縦断する感じで宝箱の近くへ、そしてそのまま入り口を目指して横切って行く。

しかし宝箱から離れようとした時点で、何かの音が部屋内に響いた。

何が起こったのかを確認して、ミツキは青ざめた。


「ヤバイ、戻れっ!!」


ラクの声が響くと共に、部屋の入り口が閉じていく。

慌てて部屋の入り口へと戻ろうとしたミツキだったが、滑るようにして上から氷の扉があっという間に閉まっていき、部屋の中へと閉じ込められてしまった。

”止めてくれよ”と思いながら、部屋の隅の骸骨の方を振り向くと―――


「おいおいマジかよ……」


骸骨は起き上がり、武器を構えてこちらへと首を向け始めていた。


■


モンスターの戦闘力というのは、おおよそだが”どれ位のレベルの冒険者が何人ぐらい集まって戦えるか”という物差しで例えられることが多い。

レベル50ほどの中堅クラスの人間がソロで勝てる限界が「DN」ランク。60なら「C--」ほどで、大体だがCランク位までのモンスターならばギリギリソロで勝てるかもしれない、という感じだ。

Cの上位ランクやBランクに入ってくると、基本的に対多数を想定したものになるので、世界ランクのプレイヤーならばソロで戦える位である。

そしてAランクとなると「討伐された例があるか」という指標になってくる。

とてもではないがソロで戦えるようなレベルではない。


(死ぬか、こら……)


ましてやミツキの前へと迫ってきていた「スカルベルゼルガ」は、Aクラス上位のモンスターで、まだ討伐された例が世界中で見ても数度ほどしかなかった。

それも、完全に倒せたと呼べるようなものはなく、相手を追い払う事ができたものをかろうじて撃破と数えているようなレベルだ。

まず―――負けるだろうとミツキは感じていた。


「……」


死んでいる存在と感じさせないような、ずっしりとした歩みでスカルベルゼルガは、ミツキの前へとゆっくりと歩み寄った。

そして武器を抜き出すと、こちらへと向けた。

喋らないものの”剣を抜け”と言っているように見えた。


「ま、斬り合いが最後にやれるってんなら、悪くはねェ」


ミツキも持っている侍用の両手刀を抜き出し、武器を構えた。

戦う意思を見せると、相手も武器を構え―――”姿が消えた”。


「ッ!!」


背中からさっきを感じ、とっさに刀を背へ構えると強烈な振動と共に前方へと吹っ飛ばされる。

今の一瞬で背後へと跳躍し、斬りかかってきたのだ。

ミツキも完全に戦闘モードとなり、背後を振り向くなり、二の太刀を浴びせようとしていた相手に刀を振りぬいた。


―――ギィン!!


スカルベルゼルガは持っている剣でミツキの攻撃を受け止め、受け流そうとする。

しかしそれを読んでいたミツキは、すぐに武器を取って返し、鎧へと一撃を入れた。

刀は脇腹に命中し、鎧がわずかに揺れたが相手のHPは殆ど減らない。

レベルの差がありすぎるのだ。


(まじぃな、クソ……!)


アンデッド・タイプの特性の一つに「裂傷では簡単に致命傷を与えられない」というものがある。

通常の生物は部位ダメージや欠損ダメージを受けると、どんどん体力が消耗し、動きが鈍くなっていく。

しかし、アンデッドは血液などが無いからか、単純に部位を傷つけた程度では動きが遅くなったりはしないのだ。

ダメージ自体は入るのだが、多少のかすり傷などでは、殆ど影響が無い。


(どうする……ただでさえレベル差がありまくるってのに)


ミツキはラクが言っていた言葉を思い出す。


「アンデッドの弱点?」


「そう。魔法とかじゃなくてゾンビとかあんのクソリッチとかを素早く倒す方法ってねぇのかな」


「そりゃ……そうだな。頭を潰すぐらいしかないんじゃないか」


「頭?」


「手を切り落としても、足を砕いてもアンデッドってのは時間が経つと再生する。でも頭だけは再生させられなくて、破壊するとどんなヤツでも活動を停止する」


「頭ねぇ……」


「完全に破壊する必要は無いんだ。一番ダメージが蓄積するのが頭ってだけだから」


魔法を基本的にミツキは使用しない。

だからアイテムでレイスやゾンビなどは倒していた。

だが、それすらも無くなったらどうするかと考えていての質問だった。

思考の逡巡を終わらせて、改めて目の前の「スカルベルゼルガ」を見る。


(頭か……)


敵は頭には何も被っていない。裸のドクロが剥き出しになっている。

しかし―――実力差があるからか、ミツキはとても頭を破壊できる気がしなかった。

勝てる可能性があるとすれば、”首”を狙うことだ。


(頭をカチ割るのは多分無理だな……)


兜を被っていないのは、恐らく視界が悪くなるのと、スピードを活かす為だろう。

鎧も着ているが、全身を覆っているわけではなく、急所になるような間接部分のみを重点的に覆っている。

凄まじいパワーを持っているのだが、防御力自体はそこまでではないのだろう。


(なら、”アレ”しかねぇ……!!)


ミツキは接近し、刀での連続斬りを一気に繰り出していく。

スタミナが尽きるのも構わず、何も考えずに。

ただスピードだけを重視して攻撃を放っていく。

やがて慣れてきたのか、ベルゼルガが攻撃を剣ではなく鎧を使って捌いていくようになった。

斬りつけを手甲で受け流し、突きを胴鎧を使い、身をよじる動きだけでかわし始めた。

その学習スピードに、ミツキは思わず背筋を寒くした。


(単純な攻撃にこうまで早く慣れやがるか)


単純な突撃。このまま行けば、いずれカウンターで攻撃をクリティカル・ヒットさせられてしまうのは明らかだった。

だが、それが狙いだ。

最大の隙は、相手が勝負を決めようとする一瞬に生じる。

1対1での剣闘を好み、極めているミツキには、それが良くわかっていた。


(まだか……?)


段々とスタミナが切れ、ミツキの攻撃速度が下がってくる。

途端、それを見越してか相手の防御がそのまま攻撃に転じていく。


「うッ!!」


やがてカウンターの一撃で刀を大きく弾き飛ばされ、刃が下へと大きく向けさせられてしまった。

両腕を下げられ、大きく胴から頭にかけてが無防備にさせられる。


(やべッ……!)


そして頭を割る一撃が、ミツキへと振り下ろされた。

しかし剣が命中した瞬間―――ベルゼルガの動きが止まった。


「ッ……!」


何故なら、剣が受け止められていたからだ。

刀の”束”によって。

金属で出来ている柄の頭部分、握り拳よりも小さい面積しかない部分で

武器が受け止めていたのだった。


「こういう防御方法もあるんだぜ?」


柄の部分は微妙にへこんでおり、刃を白羽取りの要領で掴めるようになっていた。

恐らくは細工して”奥の手”として使えるようにしてあったのだろう。

そのまま、ぐるりと武器を回転させて、逆にベルゼルガの武器を大きく横へと弾き飛ばす。


「貰ったッ!!」


相手の腕が外へと逸らされたのと同時に、ミツキは刀を素早く持ち替え、振り上げた。

そのまま相手の首へと刃は向かっていく。

だが刃は相手の首元のわずか手前を通過して、相手の首を刎ねるまでには至らなかった。

ベルゼルガが半歩だけ身を後ろへとかわした為に、切っ先が届かなくなっていた。

攻撃は読まれていなかった。ただ相手の反応がこちらを上回っていたのだ。

強力な存在であるが故の”本能”とでも言うべき部分で、及ばなかったのだった。


「う……おッ!?」


今度は相手の隙を突いたこちら側が最大の隙を晒した格好となった。

そこを逃すわけもなく、ミツキの両腕は次の瞬間、宙を待っていた。

骸骨の腕は、なんとも頼りない細い腕であるのが自分から離れると良くわかった。


■


両手がもう無い以上、反撃の余地は本当に無い。

目の前で、武器を振り上げてトドメを刺そうとする相手を

ミツキは苦々しく見上げていた。


(クソ……ここまでか……)


だが相手は武器を下ろすと、落ちていた腕を拾ってこちらへと差し出した。


「?、な、なんだ……?」


「勝負 は 着いた。さっさ と これを 着けて 立ち去る が いい」


「はっ……!?」


スカルベルゼルガは、そう言うと宝箱の傍まで歩いていき、丁度箱を背もたれにして座り込んだ。

相手が話し始めた事に、ミツキは目を丸くして訊ねた。


「お前……しゃ、喋れるのかよ!? だったら最初に言ってくれよ……戦わなくてもよかったじゃねェか」


「戦いたがっていた ようなので 受けてやった だけだ」


「ちぇっ、こっちは死ぬかと思ってヒヤヒヤしたってのによ……」


「いい戦いぶり だった 久しぶりの戦いだ 本当の戦士とは」


「本当の戦士?」


「ただ強いだけの 相手ではない 戦うことに悩む 戦士との戦いだ そういう戦い が 一番面白い 駒として感情を捨てて 戦う者よりも 私は そういう相手と戦いたい」


「……悩む、か……」


とりあえず殺される危険は無くなった事に安堵するミツキだったが、ベルゼルガは顔を上げると言った。


「お前 は 純粋な死者ではないな 一体どういう 風の吹き回しで ここへ来た」


「オレは……」


ミツキはベルゼルガに簡単にだが事情を説明した。

ワールドマスターによって今のような姿になっていること。そしてこの世界はゲームであり、電子知性体達が起こした事件によって、まだゲーム内に取り残されているプレイヤーが、いる可能性がある北海道の都市に向かっているという事を、だ。


「ゲーム か ここは作り物の 世界という事か 少なくとも お前たちに とっては」


「なぁ、丁度いいや。あんた協力してくんねェか。あんた位強い奴がいたなら、あっという間にカチプトも攻略できる」


「それは できない 私の役目 は 戦うこと ここで 戦士を待ち いずれ倒される事 のみだ」


「でもよ、ゲームの中なんだぜ? そんな使命、誰に言われたわけでもねェだろう」


「お前達に とっては 作り物かもしれない だが 私にとって は 今感じる全て が 真実の世界だ そして 私が創造主に 与えられた 使命は 戦うことだけだ それ以外の事を する気は 無い」


「……そうかよ。お堅い野郎だぜ。見た目ひょうきんそうなのにな」


話すことがなくなると、ミツキは腕をくっつけて見て、意外にも簡単に腕は元の通りに繋がったので、部屋を出ることにした。


(アンデッドってのはこういう再生力はあるのな)


しかしHPはしっかりと減っている。

何度もこういうダメージを受けてよいというわけではないようだ。

「ま、そううまい話はないよな」と、扉のほうを向くが、開く気配が無い。


「なぁ、もう戦わねぇんならここから出てもいいんだろ? どうやったら扉が開く?」


「案ずる な 私が眠りに つけば 扉は開く だが その前に 勇気あるもの よ 一つ忠告 しておこう」


「はん? 何だ……まだ何かあるのか?」


「お前は この先どこかの戦い それも ”最も大事な戦い” で 負けるだろう」


「……何? どういう事だ」


「私は 予言者ではない が 死ぬまで戦ってきた 戦闘者だ だから 戦いに飢えた者 の 行く果て が なんとなくわかる お前 の 心の中に 悩みの雲 の ようなものが 見える」


「雲?」


「お前は 戦ってその先に 得るもの を 見ていない ただ戦うこと いや ”破滅する事” を 望んでいる の ではないか?」


「……!」


心の中を見透かされているようだった。

自分が武器ひとつ、魔法などの能力を余り使わずに戦う理由。

それを見透かされているように思えた。


「図星 だろう? そういう者は 最も 大事 な そう ”絶対に負けられない戦い” で 負けて死ぬ お前 は 今受けている ”仮初の死” ではない ”完全なる死” を どこか で 迎えることに なるだろう」


「はっ、な、何を言ってやがる。そんなの、解るわけねェだろ」


「信じるか は 自由だ だが 戦い は 結果では ない 過程でも ない その理 が わからぬまま ただ 身を投じて いるだけ ならば いずれ身を 滅ぼす この 私のようにな」


「……」


「良く 憶えて おくことだ ”先を見よ 戦いの遥か 果てを” それが 出来ない の ならば 剣を 捨てる事 だ それが 唯一 の 救い だ」


そういい残すとベルゼルガの身体が、糸の切れた人形のように地面へと倒れこんだ。

そして力が抜けたような気配を感じると、氷の扉が開き、ラク達がなだれ込んできた。


「だ、大丈夫か、ミッキー!!」


「心配いらねェぜ。ちょっと手傷は食らっちまったがな」


「倒したんですか!?」


「いや……ちょいと話し合いができて、それで解決できた。通るだけなら問題ねェから行こうぜ」


そう言うとミツキは出口の階段まで歩いていき、他の3人を待った。

事情を知らないラク達は、再び閉じ込められるのではないかとおどおどしていたが、堂々としたミツキの様子を見て、一人ずつ出口へと向かい、そして出て行った。


「宝箱って……やっぱ取れないよね」


「止めとけ。アイツはねぼすけだから今度起床されたら、ホントに全滅するぞ」


ミツキが冗談めいた風にセンリに言うと、小さい悲鳴を上げて彼女も出て行く。

ラクも出て行き、最後にミツキは宝箱を背もたれにして眠っている強者の姿を見た。

そして彼に言われた言葉を頭の中で反芻していた。


『いつかお前は―――最も大事な戦いで負ける。絶対に負けてはならない戦いで、負けて死ぬだろう』


(ハッ、馬鹿らしい。何だってんだ。そんな訳、あるわけがねェ……)


そんなわけはない、と思いつつミツキはグンバ達の後を追った。

■スカルベルゼルガ

骸骨モンスター。ランクA++。唯一存在、超級不死者属性。

戦いの中で死す事を望み、戦い続けた戦士の成れの果て。

その戦闘能力から推し量るに、ただの戦士ではなく英雄と呼ばれるような存在であったのかもしれない。

もはや純粋な戦闘欲と、力の渇望者としての魂のみで動き続ける存在であり、強き者を求めてひたすらに彷徨い、戦い続けるだけの存在と成り果てている。

大きさは170~190センチ程度で、人間と同サイズだが凄まじい戦闘能力の持ち主で、筋肉など一欠けらも持たないクセに筋肉の塊のような最上級の巨人族ですら易々と葬るほどである。

その戦い方は、戦闘欲だけの存在でありながら、決して機械のような単純なものではなく、意思や美学を残したままの、芸術性さえ感じるほどのものである。

弱い相手とは戦おうとせず、一定以上の実力がないと現れない。また殆どが戦闘を回避可能なシチュエーションで出現するため、危険自体はそこまで高くない。

ただ倒そうとすると、その難易度は一気に跳ね上がる。

倒すとレアリティの非常に高いものをドロップすると言われているが、まだ誰も倒したものは居ない。

狂戦士の名を冠しているが、魔法攻撃も達人級の能力であり、遠隔でも至近距離でも、隙らしい隙が全く無い。その上、特殊攻撃全般が効きにくい。

出現する度に持っている武器が変化し、時折、”鉄破壊剣”を持っているとされている。

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