76:ファースト・イン・ジ・アキバ(2)
夏休みまであと1週間を切った日。荒金靖樹こと
ラクォーツはファシテイト内の北海道への攻撃を主導したと思われるプレイヤー
「ルダント」というゴブリンのプレイヤーを見つけた。
しかし、彼は現実へと戻る気が全くない”現実放棄者”だった。
彼が最初に名乗った名前を元に、彼の説得材料を見つけるため
現実世界にて所属していたギルドへ靖樹たちは向かった。
向かう先は秋葉原。ルダントの現実でのゲームキャラ名は「アギレイ・ウー」。
秋葉最強と言われるギルドのリーダーの名前だった―――
(文字数:8397)
午前11時前。秋葉原の中央通り。山東我門タワー前にて。
周りには巨大な看板があり、いかにもな商業施設という場所が多く点在している。
タワーのある場所は、まさに秋葉を貫くメインストリート「蔵仲橋通り」の、
ちょうど真ん中辺りにあるビルなのだ。
まさに”アキバの中心”とも言えるビルだが、意外にも
周囲のビルにある巨大な電子看板やら
入居しているテナントを示す看板などは、掛かっていない。
濃い灰色をした無骨な外観をしていて、一見するとまるで不動産か
生命保険会社が所有している建物ような感じにも見えた。
「ここが山東我門タワー……A・フォースってのの本拠地ね」
赤みのある茶髪の少女が、入り口に向かいながら言う。
その後ろを一回り背が高い黒髪の少女がついていく。
赤茶色の髪の少女は銑里。
黒髪で高校生の身長をしている巨乳の少女が「夏奈」だ。
「あの、本当に大丈夫でしょうか? 私たちだけで行ってしまって……」
「元々、あたしらだけでって話でしょ? あいつらは別口で探すってんで、さっき決まったじゃない」
目の前にあるのはオタクゲーマーの聖地といってもいい場所だ。
ここで、何とかあのゴブリンのプレイヤーの情報を集めなければならない。
正確にはリアルが彼だと思われる人物について、だが。
「全く、女の子二人にこんな事任せるんだから。あいつらも情けないわねぇ」
銑里は愚痴っぽくいいながらも、内心はとてもわくわくしていた。
彼女にとって夏休み前の休日というと、もう頭は夏休みモードに入っていて
色々と計画を立てたり、早い時には学校から宿題が既に課されていて
それを先にやれ! と両親から言われていたりするのだが、
今日はそんな事をやっている場合ではない。
それが彼女には新鮮でしょうがなかった。
先日起きた意識不明事件の真相を知っている。
そして、それを解決するために見知らぬ遠いゲームのプレイヤーと協力している。
それだけでも、つまらなかった日常がとても心踊るものになっていた。
なのに、今日はゲームを解して会っていた3人に、直接会う事ができた。
それだけでも物凄く嬉しかった。
だって学校ではみんなが行儀良くて、みんな良い子で仲良しで
何かを演じているような、学校ぐるみの劇か何かの中で
ただただ、自分という役を演じているだけにしか思えなかったから。
「あの……ところで、ひとつだけ心配な事があるんですけど」
「え? 何よ、突然? おしっこでもしたくなっちゃった?」
「ち、違います! あの、私のキャラクターについてなんですけど……銑里さんは自分のキャラで、問題なくゲームに入れると思うんですけど、私はどうしたら……」
「ああー……そう言えば、あなたのキャラって人間キャラの姿にはなれないんだっけ」
「はい。このまま、もし対戦の手ほどきとかになったら……」
「そこは良い考えがあるからさ。まぁ、気にしないで! ドンと構えててよ」
頼りにして良いのか、よくわからないが自信あり気な返事に、
夏奈は「はぁ」と返すことしか出来なかった。
「さて……とりあえず、まずは入っちゃいますか!」
■
山東我門タワーの入り口は、建物の大きさの割には小さかった。
ギリギリ2メートルほどだろうか。
身長が女の子としては高いほうの部類に入る夏奈は、それがちょっと気になった。
(これ、外国人の人とかはつっかえちゃうんじゃないかな……)
「なんか思ったより……暗いわね。デカイ建物なのに入り口から最初の部屋まで……トンネルみたいになってる」
変な構造の建物だった。
入り口からいきなり、地下の方に階段が続いていて、
そこから通路が明かりも余り無く伸びている。
そして奥のほうで、どうやら通路が行き止まりになっているようなのだ。
扉が見当たらない。
「隠しドア……とかじゃないわよね?」
近くまで行って確かめてみても、やはり見当たらない。
入り口を間違えたのだろうか?
しかし、夏奈が何かに気付いて言った。
「世々野さん、何か上にあります」
「えっ? 上に?」
夏奈が近くにあった取っ手のようなものを引くと上へと円形状の穴が開いた。
どうやら……”ハッチ”のようだ。
「ここが入り口みたいです」
「……届かないんだけど」
ハッチに入るには、どうやら身長がそこそこ必要らしく
夏奈は余裕で届くのだが銑里は小さいため、手を伸ばしても
ギリギリで届かないようだ。
夏奈は銑里を抱き上げて、先に上へと上げた。
「あ、ありがと……」
「大丈夫ですよ。こういう事ぐらいならお安い御用です」
丁度、上へと銑里が登ったところで、やけに甲高い声が上がった。
「おっ!? おやおやおやおや!? もしかして体験入隊希望者ですかなっ!?」
「え……」
登ろうとしていた夏奈は、背後からの声に銑里と共に振り向いた。
その先には、やけに鼻息を荒くした男が立っていた。
鉢巻をしており、アニメのキャラクターがプリントされたシャツを着ている。
普段から運動していないのか、腹にはぜい肉がたっぷりとついており、
シャツに印刷されているアニメキャラの顔は、真ん中からやや膨らんでいた。
いかにもな”オタク”という感じの姿をした人間だ。
「いやー! 今日は普段よりも多い希望者が来ていて、拙者、すこぶる気分がいいですぞ!」
「あ、えっとその、私たちはある方の事を聞きにここへ……」
登ってきた夏奈が聞こうとして、慌てて銑里が口を塞ぐ。
(何言ってんのよアンタ!)
(え? でも、この方なら直接聞けそうな感じが……)
(ダメでしょ! まだ内情がどうなってるか全然わかってないのよ!?)
「んんん?? ど、どうかなされましたかな? まさか帰りたくなったとか……」
「い、いえいえいえ!! 大丈夫! 今日は有名なギルドだって言うんで、ここでたっぷりレベルアップして帰るつもりだから!」
「そ、そうでござるか! ううむ、これは久しぶりにやる気がみなぎった入隊希望者でござるな! あ、そうそう自己紹介が遅れたでござる」
オタク然とした格好の、やや小太りの男は自分に親指を差して言った。
「拙者、祭川満蔵と申す者。ここA・フォースのギルド内の案内役を任されているでござるよ!」
満蔵は胸を張って自信げに言った。
なんというか……とてつもなく子供っぽい感じだ。
そして鬱陶しい感じがする。とても”ウザい”オーラに塗れている。
(なんか……人気が今ひとつって言ったのが、もうわかる気がするわ……)
「あの、まだなんでしょうかね? 体験入隊コースって」
「おっと、済まぬでござる! 今日はまだ担当者が拙者だけの故、色々と遅れてしまっているでござるな。では……えーっとお二方」
「あ、私は後藤夏奈って言います」
「あたしは……世々野でいいわ」
「では後藤殿! 世々野殿! あちらの台に準備して並んでくだされ。15分後に入隊コースの開始でござるから、トイレに行くなり、何か食べてくるなりしてくるとよいですぞ」
満蔵はそう言ってそそくさと奥の方へと引っ込んだ。
「ふぅ……どうなる事やらねぇ。それにしても……」
銑里が改めて建物の中を見渡す。
山東我門タワーの中は、入り口こそ妙に入り組んでいるものの
中へと入ってみるとかなり広々としている。
現在、銑里と夏奈がいるのはこの建物のロビー部分のようだ。
まるで体育館のように天井が広く、
天井からは大きなシャンデリアがぶら下がっている。
「なんかホテルみたいな豪華さねぇ」
「でも中にはゲーム機が一杯ありますよ」
”ゲームセンター”と聞いていた通り、確かにあたりには
昔ながらの筐体型の機器や、ファシテイトをプレイするための
チェア型の設備が設置されていた。
半々ぐらいの数で設置されているようだが、相当な数が置かれている。
流石有名ギルドの本拠地と言った所だろうか。
「入隊コースの参加者も多いわね……」
「A・フォースの人たちって何人ぐらい居るんでしょうか?」
「ん? わかるっしょ。あれとあれと、あれで……4人ぐらいかな?」
「えっ、何でわかるんですか?」
「いやわかるでしょ……服とか、なんか雰囲気とかで。こうもハッキリ区別できちゃうと、なんかなぁ……って感じがするわね」
夏奈はそこまではわからないようだが、銑里にはすぐにわかった。
確かに、やってきている体験入隊コースの参加者も多い。
今はファシテイトにインせず、付近にあるゲーム筐体に座っていたりするが、
銑里には外部の人間が誰だ、というのがわかる。
なんというか……服装でハッキリと違いがわかるのだ。
普通のジャケットやら、カーディガンなどを着ている
お洒落な人と、アニメキャラのプリントがされたシャツやら
身に付けているもの全てに缶バッチがついている人。
それが、すぐに区別できる。
色が白黒でハッキリとわかるように、
服装で人種の違いのようなものがわかってしまう。
もうそれこそ情けないほどに。
「とりあえず、準備しちゃおっか。もうすぐ始まるみたいだし」
「はい。でも……私はどうしたらいいんでしょうか? このまま入っちゃったら……」
「あー、そうだったわ。確かにこのままじゃまずいわね……聞いてみましょっか」
銑里が耳に身に付けているユニオン・デバイスを操作する。
そして仮想ウィンドウを開き、靖樹に電話をかけた。
「あ、聞こえてますか、ドーゾ」
『ん? どうしたんだ? もうすぐこっち、入隊試験が始まるから、手短に頼むよ』
「えーとね、あたし達の方も体験入隊コースってのが、始まるみたい。でね、それをやろうとしてんだけど、あたしは問題ないけど、夏奈の方がコボルトのままだから、どうしよかなって」
『そう言えばその対策してなかったな……えー、じゃあ装備を……弄れるのは知ってるか? ゲームに入らなくても』
「え? あ、それは知ってるけど……なんかゲームのメニューから、キャラの衣装とか変更するやつだよね?」
ユニオンデバイスには、ファシテイトの中へと入らずとも装備を
現実世界のほうから変えられるメニューが存在する。
基本的にはワールドインしてから、ゲーム中で着替える事が殆どなのだが、
外からでも装備を弄るだけならば可能である。
これを使ってネット上で装備品を売ったりする事ができるようになっているのだ。
『そうそう。それでローブとかコートとか、とにかく肌がなるべく隠れるものを着てくれ』
「それは、あたしが持ってるから渡すだけでいいけどさ。頭とか手足とか、全部隠すのって無理だよ?」
『全部隠れてなくてもいい。頭は被り物、手足もオーダーメイドの手袋とか靴を履いてるって言えば通るよ。衣装として、獣人の格好をしようって作られてるものはあるから』
「わかったわ。コスプレしてるって言えば良いのね」
『ああ。ただ……全身見えてると、作り物として作れない細かい部分や特徴が見破られるかもしれない。だからなるべく、魔法使いみたいな格好をして、じっとしてるんだ』
「細かい特徴って?」
『例えばしっぽの動きとか、胴体の特徴とかさ。そういう細かい部分は再現できなかったと思うから、見えてるとどうやってるのか、って怪しまれると思う。あと……喋らない方が良い。俺たちはマルールから貰ったパッチで、彼女とファシテイトでも言葉が通じてるけど、モンスター状態の夏奈ちゃんは多分、吠えるような声か”コボルト語”ってのしか出ないはずだ』
「コボルト語……? 何それ?」
『モンスターには隠し要素として、人間で言うところの日本語や英語みたいな”独自の言葉”が設定されているらしくて、それで話をしてるらしんだ。設定上は、それでコミュニケーションをとってる。だから同じ種族同士でも、住んでいる地域の差で方言があって言葉が通じなかったりする』
「へぇ……細かいわねぇ」
『ん? そろそろ始まるみたいだ。通話を切るけど、他に聞く事は無いか?』
「他は大丈夫。あとは何とかやるわ」
『それじゃ……くれぐれも気をつけてな』
靖樹との通話が切れると同時に、満蔵からも
周囲にいる”体験入隊希望者”たちに声が掛かった。
「それでは体験入隊のプログラムを開始するでござる。各自、ワールドインを5分以内に済ませて欲しいでござるよ!」
満蔵からの声が掛かると、A・フォースの体験入隊希望者たちは
それぞれがファシテイトをプレイする為の大きめの椅子に体を預けた。
そしてワールドインの操作を行っていく。
銑里も夏奈に先ほど、靖樹から貰ったアドバイスを伝えて装備を変えてもらった。
「それじゃ、準備はいいわね?」
「はい。行きましょう!」
二人も椅子に寝転がるように座ると、ワールドインの操作を行った。
全身が暗い闇の底へと沈んでいくような感覚に包まれる。
そして、意識が完全に消え去った。
■
「んん……」
身体に再び力が込められるようになると、
銑里はファシテイト内の自キャラである「アリカ」となっていた。
同じように隣で夏奈もコボルトである「ルゥリ」として目覚めた。
ただ全身がほぼローブで覆われており、手足から少しだけ
毛深い四肢が見えているだけだ。
「世々野さん、起きましたか?」
「あと5分だけ……」
「そ、そんな事言わずに起きて下さい! わ、私だけじゃ……」
「なんか犬みたいな声が聞こえね?」
ルゥリはハッとして思わず口を押さえた。
周りの意識がはっきりし始めたプレイヤーが、コボルトの声に気付き始めたのだ。
思ったよりも大きな声を上げてしまっていた。
ラク達は彼女と接しても、自動翻訳が働いているため、普通に話せていた。
しかしマルールのパッチが掛かっていない他のプレイヤーから見れば、
ルゥリはただの雑魚モンスターと同じだ。
それに気付いた彼女は、口を閉じて大焦りでアリカの胸倉を掴み、揺すった。
(起きて下さい! お願いです!)
「んん……んんん……」
だがアリカは中々起きない。ワールドイン自体はもう終わっているようだが、
寝起きが悪いのだろうか、なかなか起き上がる気配が無い。
やがて異変を察知したのか、一人のプレイヤーが近づいてきた。
鼻の平たい、まるで豚の頭蓋骨のような兜を付けたプレイヤーだ。
全身が乾いた茶色の石のようなプレート鎧で覆われている。
ジェスチャーを交えながら何かを話してくるが、
ルゥリには何を言っているかわからない。
ルゥリが涙目になりながら、自分の正体がばれてしまう、と
後ずさりすると、慌てた様子でアリカが言った。
「あ! その子ってば内気だから、あたしが代わりに話しますっ!」
(世々野さん……!)
どうやらやっとの事で起き上がったらしく、
目をこすりながらアリカが鎧の人物との間に割り込んだ。
「ぬ? そうなのでござるか……珍しい手と足の装備だと思って、誰のハンドメイドか訊ねたかったのでござるが」
「ござる……って、もしかしてさっきの満蔵って人?」
「さよう。拙者、A・フォースの案内係を務める”ダルパケット”と申す。”ダルパ”と呼んでくれでござる」
なんか名前の付け方がダサいような気がする……しかし、なんというか。
見た目と名前こそ地味な感じだが、強そうな感じがした。
ごつごつした装備品をつけていて、彼よりも大柄なプレイヤーが
回りに沢山居るものの、装備がスマートにまとまっているせいだろうか?
「では、さっそく体験入学のプログラムを……」
「ちょっと待てや」
ダルパが持っていた用紙の内容を読もうとすると、
突然、参加者の中から数名が前へと足を踏み出した。
アリカ達よりも遥かに大柄な鎧を着た男、
逆に背丈が夏奈の半分ぐらいしかない、小柄な魔法使いらしきプレイヤー。
そして最後に赤い鉱石で出来ている鎧を纏った剣士の三名だ。
「なんでござるか? 質問タイムは後で取るでござるよ」
「そうじゃねぇ! 俺たちはな、お前らをぶっ潰しに来たんだよ」
彼らがそう言い放つと、途端に周囲の空気が張り詰めた。
どうやら彼らは初心者ではなく、ここへと戦うためにやってきたようだ。
リーダーらしい赤い鎧の剣士が言う。
「俺はヘールズ。後ろのデカイのがガンガラ。小さいのがチャルドだ。短い間だが、よろしくなぁ?」
「……」
ダルパは黙って彼らの方に向き直った。
「お、そろそろ来たか」
ヘールズが天井の方をを見て言うと、周囲に赤い光と共に奇妙なノイズが流れた。
そして、頭の中に一瞬鋭い痛みが走った。
耳の奥、鼓膜の中に高音が直接流されたような、不快音。
「痛ッ!」
アリカがうずくまると共に、周囲に居る体験入隊コースの参加者たちも
同じようにうめき声と共に頭を抱えて座り込んだ。
中には倒れてしまった者もいた。
「これは……ハッキングであるな?」
「そうさ。ここのロビー・ルームをオンライン環境と同じく、痛覚が存在するフィールドに書き換えた。あとは……中央ルームに入るパスワードを教えてもらうぜ。嫌とはいわねぇよな?」
「盗みであるか? 目的は」
ダルパはノイズにも動じず、淡々と彼らに言った。
「言う必要はねぇな。俺たちが聞きてぇのはパスだけ。そして、斬る前に答えてくれるかどうかだけだ」
「それはできぬ相談。ギルド中央へ入るためのパスワードは、正規メンバー以外には通達できない事になっているでござる」
「じゃあ力づくで聞くまでか」
「これは……”ディオンズ”の差し金でござるかな?」
ダルパが訊ねると、一瞬ヘールズの動きが止まった気がした。
だが「答える必要は無い」と再び言い放つと、武器を構え始めた。
ダルパは顎の辺りを引っかきながら呟いた。
「図星……かどうかはまぁ、野暮でござるかな」
ヘールズたちが完全に戦闘状態に入ると、
ダルパはアリカたちに言った。
「コース参加者の方々、しばらく、お待ち頂きたいでござる。不遜な輩の相手を、拙者、少しやらなくてはならなくなったで候」
ダルパは、腰についていた大型の円形のアイテムを両手に持ち込んだ。
円盤のように見えるが、それにしては太さがある。
まるで輪切りにした丸太を持っているようだ。
「おいおい仲間が来るまで待たなくていいのか?」
「拙者一人で充分でござる。主ら程度なら」
「何……?」
最後の言葉に、ヘールズたちは鶏冠に来たようだ。
彼が剣を振るうと、巨大な刃のエネルギーが発射された。
それはダルパのすぐ横を通過し、ロビーにあったテーブルやら椅子やらを
一直線に切断し、壁に大きな裂け目を開けさせた。
ちらりとダルパは攻撃の後を見て、再度ヘールズたちを見た。
「てめぇ絶対殺す……!! じわじわと切断して、斬り殺す……!!」
「……」
アリカは、やっと彼ら3人のレベルが表示されたので、その表記を確認した。
≪クリムゾン・ナイト 『ヘールズ・リトマンディ』 -Crimson Knight-『Hales Ritomandy』≫
≪大地闘士 『ガンガラ・ダンガルード』 -Earth Fighter-『Ganghara Dangarood』≫
≪闇大魔法使い 『チャルドー・イットー』 -Darkness High Mage-『Tualdor Ittor』≫
(うええっ!? め、滅茶苦茶強いじゃない……!)
それぞれレベルは50手前。かなり強めの相手だ。
少なくとも、確実に中堅以上と言えるレベルである。
思わずアリカは言った。
「ね、ねぇちょっと! 1人相手に3人なんて卑怯じゃない! せめて1対1で戦いなさいよ!」
アリカが言うと、ヘールズ達は笑った。
馬鹿じゃねぇの、流石初心者だな、と場違いの台詞をネタにしながら
彼女に言い返した。
「おい、これは戦いなんだぜ? ルールなんてあるわけないだろ。勝った方が正しいんだよ!!」
「で、でも……」
アリカが言おうとすると、ダパルケットが遮って言う。
「そこまでで良いでござる。かたじけない。拙者の身を案じて頂き……しかし、心配はご無用。確かにそこの不届き者らは”そこそこ”強いようだ」
ダパルケットが言うと、三人は一斉に彼へと戦意を向けた。
そして今度は何も言わずに攻撃を仕掛けていく。
ヘールズが切りかかり、ガンガラがシールドを構えてタックルを追撃に仕掛けていく。
しかし、突撃中に”何か”がガンガラに巻きついた。
「うっ……う、お、おわぁっ!!」
「ぐっ!?」
そして見えない強い力で引っ張られ、そのままヘールズへと激突した。
「な、何しやがるガン……なっ!?」
壁に叩きつけられたヘールズが見たのは、
不自然な格好で持ち上げられていくガンガラだった。
突撃の体勢のまま空中に飛び上がり、今度はそのまま、呪文を詠唱しようとしていた
チャルドーへ落ちていく。
「う、うわ!! 来るなぁぁぁっ!!」
チャルドーは逃げようとしたが、呪文の詠唱に集中していたので
その場から逃げるのが遅れ、そのまま下敷きになってしまった。
両者の体力ゲージが一気に半分以下へと落ち、チャルドーに至っては
当たり方が悪かったのか、そのまま危険域になり「戦闘不能」となってしまった。
「強いが、しかし―――」
「なっ!? な、何をしやがったんだ……!?」
「拙者は更に上で候」
アリカは、その姿を呆然としたまなざしで見ていた。
そして、すぐ心配無用と言っていた意味を知る事となった。
秋葉原最強のギルドのメンバーが、どういうものなのか。
その力を知ることとなるのだった。




