47:”無法”の体現者(9)
荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めである「ゲダム」を探し出す為
”悪人街”の防衛戦へと参加する。
盗賊ギルドの守る中華街方面での戦いを切り抜けた後、彼はPKギルドにも協力を求める為、悪人街最大の領地を持つ商業地区へと入り、そこでマスターの「匂坂」と出会う。
ラクは彼と相談し、悪人街を防衛する為には”裏切り者”を何とかする事と”配置換え”が
必要であると言うが、マスター達が怪しいと言われ、作戦を確かなものとする為に情報ギルドの元を訊ね、そこでマスターである「シーカー」と出会う。
彼は言う。全員の罪状からして、裏切りはまず有り得ないと。
そう言うと、彼は皆が何故ここへとやってきたのか、その理由を語り始めた―――
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部屋の中は、階段状の構造となっており、縦に長い。
薄暗いのと室内に数多くの固定型のパソコンが設置されているのもあって、まるで映画館をそのままネットカフェにでもしてしまったかのようだ。
その壁の一つは、そのまま全てが巨大なモニターとなっていた。
「罪状ですか?」
ラクはシーカーと共に居た。
部屋の中には、他にも大小さまざまなモニターが多く設置されており、そこには、担当らしいギルド員が座り、画面には街の様子が写っていた。
恐らくは監視カメラの映像をそのまま投影しているのだろう。
殆どは廃墟となった場所や、瓦礫の目立つ光景だったが、動く人影が時折映るところを見ると、これも重要な情報源である事がわかる。
部屋の中が薄暗いのは、映画館などでやるようにモニターを見やすくする為に敢えて明かりを弱くしているようだった。
「あぁ~……ここに来てる奴らは、みんな犯罪者で、悪党だぁ~……じゃなけりゃ、ここに来る必要なんて全くねぇんだからなぁ」
この部屋は、悪人街の情報系ギルドの中でも最大手となる「ビッグツーリスト」が使用しているもので、”バグ領域”とも呼べるファシテイト中の特殊な空間を利用して作られていた。
ラクはその中で、ここのマスターである「シーカー」と話をしていた。
悪人街の各マスター達がここへとやってくる事となった理由である”犯罪歴”についてだ。
「でも、そんなの聞いたこと無いですよ。ここに来た理由なんて……」
「匂坂の奴ぁ、そこら辺を知らないから、マスターが裏切るかもしれない、なんて言ったんだろう。ここが無くなったら、文字通り全員、死活問題だから有り得ない事だっつうのによぉ~……」
「どんな罪状で……ここへ来たんですか? みなさんは」
ラクは”聞いてはいけない事なのではないか?”と思いつつも恐る恐る訊ねた。
ラクは今まで、悪クラスの人間は単純に悪人プレイをやりたいから、そういうプレイスタイルを決め込んでいるだけなのではないか、と思っていたのだが、ここへと来てから、どうも一律にそうではないのがわかってきたからだった。
事故のように犯罪を犯してやってきたり、様々な理由から仕方なくここへとやってきている人間も居る。
その中には、過去に触れられたくない者も多いのではないか、と思っていたからである。
「知りたいのか?」
ラクが訊ねると、シーカーはやや上ずった感じの声で訊ね返した。
”期待通りの質問”とでも言いたげだ。
ラクが首肯すると、シーカーはモニターの方を見ながら話を始めた。
シーカーは、大きく一息を吐いた後に話を始めた。
「フゥ~……まず俺は……言わなくともわかるだろうが、クラッキングが理由だ。外国の、ちょっとした機密情報を除いちまったって奴だァ~……」
「機密情報?」
「俺ぁ……自分の知らない事があると、どうしても納得できない性質でなぁ~……中々入れない所に入ったりとか、誰も知らない豆知識を仕入れるのが好きなんだぁ。で……色んな所に侵入したりしてる内に、ハックの腕前が身についたんだがよぉ……俺は、日本の政府機関の情報を粗方漁り尽くした後、外国のとある機関に侵入して、中身を覗いてたのさ。軍事機密やら諸々をな」
「ぐ、軍事機密……!?」
「某国の戦略情報とか、その辺だ。兵器の情報とか、本当にやばい奴までは辿りついてない。見つけても、見る気もないがな」
「そ、そうでしたか……」
「第一、そこまでのを見ちまったら、ここにも俺はいねぇーぜぇ……リアルで手配されて捕まっちまう。だがなぁ……やっぱり大問題にはなったみたいでよぉ~……俺が侵入してた所の国が、日本の政府に文句っつーか圧力を掛けたみたいでよ。落とし所を”俺の国内永久指名手配”って扱いで落しちまった、ってわけだ」
「永久指名手配……ですか」
賞金首には、いくつか種類が存在する。
通常の賞金指定から、”高額”、”幹部”と続いて”大物”、”ボス級”と変わって、最後が”永久指名手配”クラスとなる。
上になるほど、掛けられる賞金や副賞が増大していき、倒した時の恩恵は大きなものとなっていく。
ファシテイトで使用される”キャッシュ”と呼ばれる仮想通貨はリアルマネーに換金も行える為、こうして賞金首を倒して生活費を稼ぐ人間も居るぐらいである。
「ああ。仮に捕まってペナルティ喰らっても、二度と免罪される事は無い。ハンター側に捕まったら、ほぼキャラロストと同義の状態さ。悪党ってぇ奴等からすると、この永久手配は最高の栄誉らしいが、全くこっちとしちゃ、迷惑千万も甚だしいってもんだぜぇ~……。秋葉にも満足にいけねぇしよ」
「そりゃ、大変でしょ……」
”悪人”となったプレイヤーのファシテイト内での大変さはラクにも良くわかる。
街の外へと一歩出れば、その途端に狙われる可能性が出てくるので、安心できる瞬間など全く無い。
たまに、掃除屋の仕事で出て行くことがあったが、その度にいちいち外見を偽装しなくてはならないので大変だった。
「まぁ……おかげで俺は、ここに居れるとも言えるんだがな。ここなら普通の街と違って、チートコードもおおっぴらに使えるから色々と試せるし、そこまで悪くはねぇがよぉ~……」
「戻りたい、って思わないんですか?」
「別に思わないなぁ……少々面倒ではあるがよぉ~、ここもそこまで居心地は悪くねぇ~……手に入らない物は、基本的にないしよぉ」
「……」
ラクから聞く事がなくなると、それを見越したようにシーカーは続けて、他のマスターの事を話し始めた。
「さて、次にシエラだがよぉ……アイツはファシテイトの中で盗み行為を働いてた泥棒だ。それも超一級の、な。だからぁ~……来た理由もやっぱり、盗みなんだ」
「って事は……何万人も被害にあったとかですか?」
「違う違う。あいつぁ……今は盗賊クラスだがよぉ~……元は……企業データとかを盗み出して、実際に金を儲けてたのさぁ。モノホンの”企業スパイ”なんだよ。アイツは」
「ええっ……!?」
「ここファシテイトは~……普通にゲームだけやる場所じゃない。”電子仮想世界”だからぁ~……ビジネスの場としても、多く使われてる場所だ。当然、そこで取引されてるモンや開発してるものを盗み出す奴もいるのさ」
「そんな事をしてたんですか……!?」
「あの女は、元々そういう事をやってるのってので、リアルでも名前が知られてる存在だったらしい。特許のデータとか、電子製品、工業製品生産のコア技術を盗み出してたってので名前が通ってるとか。で、案の定、ファシテイトでも動いてたんだが……一度、仕事に失敗しちまった時に現場を押さえられて、指名手配喰らった、ってわけだ」
「だから……盗賊ギルドに居るんですね」
「いや、あれはな。自然に盗賊クラスになったんだよ。ただ単純に”美術プログラム”とか”才能の塊”とかを集めようとしてる内によぉ、”盗賊クラス固定のままがいい”って事になったから、そのままギルドを立ち上げたんだ」
「美術プログラム……? って、なんですかそれ?」
「要するに、完成品のプログラムのことだ。ファシテイト内でのプログラムは、物体化してて、見た目は幾何学的な、水晶の塊みたいになってるだろ? それが美術品みたいだから、完成したプログラムは美術品と同じ扱いをされてる」
「じゃあ……塊は”スキルデータ”の事ですか?」
「そうだァ~……どっちも、アイテムのカテゴリ上は”プログラム体”って奴になる」
「確か、レアリティの滅茶苦茶高いアイテムですよね。作る事も買う事もできないから、一部の場所で出現するのを待つしかないって言う……」
ファシテイトは仮想世界であるので、実際には見えないものがシステムの補正によって見えている事も多々ある。
”スキルの塊”もその一つだ。
これは、使用すると新能力が使用可能になったり、技能のレベルが上がるというもので、要するに”才能”や”能力”がアイテムとして扱われているのである。
現実では有り得ないが、ゲームではよくある事で、使うだけでいきなり魔法が頭に思い浮かんできたり、新しい技能が覚醒したりなどがあるが、そんな仕様を再現した結果のようだ。
「シエラはどうにも、ああいう物を集めるのが趣味らしい。なんでも”形の無いものにこそ、本当の価値がある”とか、んな事を前に言ってたから、信条みてぇなもんでもあるんじゃねぇか?」
「へぇ……」
「そういやぁ、プログラムって言えば……アズールの奴ぁ、やばいプログラムを作って、その件でここに来た奴だぜ」
「やばいもの?」
「これだ」
シーカーが目の前にウィンドウを出し、その中へ操作を加えると、スクリーン画面いっぱいに、奇妙な映像が映し出された。
それを見た途端、ラクは強烈な感覚に襲われた。
「う……っ!?」
余り聞きなれない鈍い音楽と共に、激しく明滅する映像が視界いっぱいに広がると、ラクは突然、眠気と目眩が入り混じったような感覚に全身を包まれた。
まるで徹夜後に、倒れ込む寸前まで起きていて、それから全力疾走を続けさせられたような、激しい脱力感が全身を覆った。
ラクの身体がふらつくと、シーカーの指示で映像はすぐさま消された。
「な、なんですかこれ……?」
「”電子ドラッグ”って奴だぁ~……視覚と聴覚を使って、人の快楽神経をかき回して、意識を激しく狂わせるってシロモノだ」
「電子ドラッグ……!?」
「アズールの野郎は、どうにも何処かの大学の教授らしくてよ。そこでプログラミングして、作ったのがこれらしいんだぁ~……とてつもなく深い陶酔感を引き起こさせて、プレイさせた奴から思考能力を奪うやばいシロモノさ~……本人は、人間の意識がどうなってるのか、とかそういう研究目的で作ったらしいんだが、効能が相当に強力だったから、これを使って金儲けを始めようとしたんだよ」
「えっ……!? こ、こんなものを売り出そうとしたんですか!?」
「違う。売るっつーよりは……詐欺みてぇーな事をやったんだよ。催眠商法ってあるだろ? 年寄りばっか集めて、羽毛布団だとかマッサージ機だとかを買わせるアレだ。アズールの奴は、コイツがあれば、もっと一気に催眠をかけられるって気づいて、あくどい商売を始めやがったのさ」
「そんな事を……」
「で、大儲けしたはいいが、当然……こんなものを使ってやったもんだから社会問題になりかけて、アイツは一気に賞金首になっちまった。大学での仕事も首になったとかいう話だ。それから……この類のプログラムは販売・作成・使用ともに禁止される事になったぁ~……今は、作ろうとしただけでも犯罪さ」
「そ、そんな人が教会ギルドに居るんですか? なんだかなぁ……」
「なんでもよぉ~、人を集めてる時に、誰かを組織に引き入れる心地よさに気付いたとかでそのままファシテイトで神官クラスを選択したらしいんだ。実際は、儲かるからなんだろうがな」
「結局、お金って事なんですかね……」
「宗教ってのは、詰まるところビジネスの世界だからなぁ~……いくら言い繕ってもよぉ。そういやビジネスっていやぁ……リリルの奴は、なんでもトレードでのインサイダー疑惑を掛けられたんだったっけか」
「インサイダー……? 確か、それって株取引とかの用語ですよね? それがなんであの人と関係が……」
「リリルのリアルプレイヤーは、名うての相場師らしいんだよ」
「相場師……?」
「要するに、”デイトレーダー”って奴だ。株取引だけで生活してるような奴。リリルは凄腕のそういう相場師で、リアルでは、とんでもない金持ちらしくてよ」
「お金持ち……そんな風には見えなかったけどなぁ」
「元手とツテがねぇと娼館街なんて作れねぇよ。金持ちとコネクションあってナンボなんだからよぉ~……」
「で、でも、それだけじゃ何でも犯罪じゃないんじゃ……? たまにニュースになってますけど、別に普通じゃあ」
「それだけじゃ、確かに犯罪じゃねぇ~……でもなぁ、取引の時は容赦なく相手の金を毟り取るから、恨みを買う事も多々あったみたいでよ。で……ある時、某国の銀行へ機械取引を仕掛けたんじゃねぇか、って容疑がかけられてな」
「機械取引?」
「取引用に作られたプログラムを使って、高速で自動売買をやるって奴だ。例えば1秒間で2千回、ある株に買い注文を入れたり、500回買って500回売る、みたいな事ができるようになる」
「え……? それが、何かまずい事なんですか?」
「禁止されてる事なんだよ。人間では考えられないようなスピードと時間で、取引をやれるから、人間が入り込む余地が無くなっちまうし、ネットワークに恐ろしい負担が掛かるからな」
「ああ……なるほど」
「リリルはそれとインサイダー……つまり内部情報を不正に取得して、銀行へある種の”金融攻撃”を掛けたんじゃねぇか、って容疑を掛けられたんだぁ~……。で、それだけならただの陰謀で済んでたんだがァ~……実際にやる事はやってたらしくてよぉ~……ファシテイトの中で、裏取引に関与してた事が次々に発覚して、めでたく賞金首になったのさ。まぁ本人は、娑婆よりココの方が面白くて気に入ってるらしいがなぁ~……」
「黒い人なんですね……やっぱり」
「ああ。腹黒いぜぇ~……あの女は。色んな意味で怖い奴だから、気をつけろよ。ホントよぉ~……」
首を横に振りながら、シーカーは言った。
前にサイモンが”あれには気をつけろ”というような事を言っていたが、本当にその噂は本当であるらしく、シーカーからしても余り関わりたくない存在のようだった。
「……」
そこで話が一旦途切れた為、ラクは訊ねた。
まだ最後のマスターの一人が、どんな罪状でここへやってきたのか、聞いていないからである。
「それで……あとは、匂坂って人は……? あのレッドフリークって所のマスターの」
「あいつか……あいつはなァ~……”祭典潰し”ってのをやったんだよ」
「祭典潰し……?」
「ファシテイトの中では、芸能活動やら企業活動やら色々とやってるんだが、中には国として外交をやってる所もある。ゲーム内なら攻撃されてもリアルの死人が出ないから、テロの心配とかがないんでな」
「確かにまぁ、安全っちゃ安全ですね」
「とはいえ、先進国は格式だとか今までの歴史が~だとか適当に理由をつけて、余りこの中では外交活動を表立ってやる事は少ない。基本、発展途上国ばっかが使ってるんだぁ~……」
「そう言えば……大きな国同士でのイベントとか、余り無いですね。模擬国連とかやってくれたら、見に行きたい感じですけど」
「その理由が、2年前にあった祭典潰しって事件なんだよ」
「2年前、ですか?」
「ある時―――”ファシテイトの中で、オリンピックみたいな事を出来ないか”? って話になったんだぁ~……ゲームの中なら、参加しやすいからとんでもなく人を集められるし、リアルほど町の建設費とかも必要は無い。その上、現実じゃとても出来ないような競技も行えるから、ってな」
「そう言えば……そんなイベントが昔、あったような気がしますね。でも確か……大失敗した、みたいなニュースを聞いたような」
「失敗も失敗さぁ~……何せ開催されたのはオープニングセレモニーだけだったんだからな」
「えっ? どういう事ですか?」
「その祭典の開催を祝してアメリカの大統領と、ロシアの首相がゲーム内で会う、って事になったんだ……そりゃあ、もうお祭り騒ぎさ。会場になったアラスカにある町は、ゲーム内でそんな大きな所じゃなかったんだが、このイベントのおかげで、一気にアメリカの主だった電想都市の一つにまで、一時はデカくなった。でもな……その開催式。オープニングセレモニーが執り行われた日に、”闖入者”が現れたのさぁ~……」
「乱入した人が、ですか? まさか……!」
「お前の考える通りさ。そこに現れたのがあの”匂坂”だァ~……。あいつは……その場に居た警備のギルドの人間や、ガードのNPC、そして両国の護衛をしてたプレイヤーを全員始末して大統領と首相を斬り殺したんだぜ~……」
「……!」
ラクは思わず、息を呑んだ。
いくらゲーム内とは言え、正面から国の代表者同士が集まった場所に出て行って、そこで事件を起こす、なんてのは正気の沙汰ではない。
昔のゲーム。モニターを見てやるゲームではなく、ファシテイトは完全な体感型のゲームである。
いわば「第二の現実世界」と言ってもいいものであるから、その中で暴れるというのは、まともな神経を持った人間ならば、まずやらない事だ。
そんな中で、国家規模の祭典に乱入して……というのは、流石にまともな神経であるかを疑わざるを得ない。
「で、大騒ぎになって開催は中止。行われたのはセレモニーだけだった……ってわけだ。”ジュノーの悲劇”とか言ってたっけな? その場で見てた奴等からすると、信じられない光景だったってよ」
「う、嘘でしょう? いくらなんでもガードの人間を全部倒して……なんて」
「出来るさぁ……あいつ”裂鉄刃”持ってるんだからよ」
「”裂鉄刃”……? どっかで聞いたような」
「”鉄破壊剣”って奴の一つさ」
「あっ! 思い出しました。知り合いに、欲しがってる奴が居ましたよ」
『鉄破壊剣』
それは、”金属に対して強力無比”な特徴を持つ武器の事を言う。
武器自体の強さも相当なものであるのだが、それに加えて鉄や鋼を初めとする”金属物質に大ダメージを与えられる”武器であり、通常使用する装備品の大半が悉く役に立たないという恐ろしい武器だ。
かの有名な『斬鉄剣』を初めとして、ゲーム内に固定された数しか存在しない。
全てEX級のアーティファクトな武器であり、入手は死ぬほど難しいアイテムである。
ミツキが欲しがっている剣で、今は王銀剣を狙っているのだが、最終的には鉄破壊剣が欲しい、と言ってるのを昔聞いたことがあったのだった。
「そりゃ、欲しがるだろうさ。剣使いが最後に持つだろう武器なんだからよ」
「有名な最強クラスの剣ですよね。メタルイーターも確かこれだった筈……」
「ただでさえ強い奴が、更にとんでもない武器を持ってるんだから、誰も対抗できなかったんだろうなぁ~……。その場には300人ぐらいの腕利きのプレイヤーを揃えてたらしいが、全員やられたって話だ。奴の体力を半分も削れなかったとか言うぜぇ~……」
「……信じられないなぁ」
PK系ギルドの人間である上、その中でもトップクラスのギルドの、更に所属者全てを束ねるマスターなのだから、強い事は強いのだろうと思っていたが、まさかそんなにまで強いとは思わなかった。
「面子を完全に潰された格好になった両国は、プレイヤーが誰かを突き止めて、それからやっぱり、こっちにとばっちりが来て、国同士の外交問題になっちまったんだぁ~……。で、苦肉の策で賞金首指定にした、ってわけだ。俺の時と同じだな。それからぁ~……あの気まぐれは何度も似たような事をしでかしてよぉ~……どんどんその度に賞金の額が膨れていって、奴に掛かってる賞金額は今では”30億5千万キャッシュ”だ」
「さっ、30億……!?」
「倒したらそれだけでビルが建てられるかもしれねぇな」
■
「まぁ……大体こんなところか。あいつらの経歴っつーか、ここに来た理由はよ」
「なんていうか、凄いですね。罪状がどれも……」
「こんな事を言うのもアレだが、俺を含めてここが消えたら、どいつにも行く場所はねぇだろうよ……悪人街は大阪と福岡のエリアにもあるが、どっちも友好なんて言葉とは程遠い状態だからなぁ~……」
「だから、絶対に裏切りは無い。と」
「いや、もし誰かが……”政府とのパイプ”でも持ってるなら話は変わってくるぜぇ~……どんな物事にも絶対はねぇよ」
「政府とのパイプ?」
「賞金をかけてる側と、だぁ……もし―――”裏切って奴等が勝てるように仕向けられたら、後で賞金首を解除してやる”、なんて持ちかけられてたら、100パー裏切らないとは言えねぇ。ただ……そんな事は無理なんだよなぁ~……ここに来た理由が理由だからよぉ」
「そりゃ……そんな免罪なんてしたら、今度は通常プレイやってる人たちが黙ってませんよ。やるだけやって、後で作戦に協力したから許される、なんて」
「まぁ……だからこそ裏切りの確率はかなり低いとも言えるんだぁ~……安心……ってのはなんか、変な言い方だがよぉ~、ある程度は、その辺の心配は無く戦える。幹部連中まではわからねぇが、少なくともマスターが裏切って瓦解……なんて心配はねェだろうぜ~……」
「それじゃあ、作戦自体は問題ない……ですかね?」
「ああ。ちなみに……どういう作戦なんだ?」
「えーとですね……」
ラクは今、自分が立てている作戦の事を話した。
恐らくは掃除屋の中に裏切り者が居る事。昼頃から攻撃が始まる事。
それに合わせて、マスターの人達に協力してもらい、大幅な配置換えを行って、相手の出鼻を挫く事、などだ。
計画の概要を粗方話すと、シーカーは腕組みをして考え込む素振りを見せた。
「ううむ……」
「ど、どうですかね……?」
「なるほど。匂坂の奴が”足りない”と言った意味がわかった気がするぜぇ~……」
「えっ? どうしてです?」
「その計画には、”スターズ”の事が計算に入ってないだろう」
「あっ……そう言えば……」
「スターズというか、有名な賞金稼ぎの奴等が出てきたらどうするか、と言う感じだなぁ~……パワーバランスと、裏切り対策はされてる、いい作戦だと思うがよぉ~……イレギュラーな要素に対応しきれてない。まぁ、65点って所だな。点数つけるならぁ」
「……」
厳しい採点を受けて、思わずラクは肩を落とした。
考え抜いた作戦だと思ったが、やはりわかる人間には穴がわかるようだった。
落胆する中―――突如、警報が鳴り響いた。
「っ!」
甲高い反響音。緊急を示すだろうコールが鳴り響き、周囲にどよめきが走る。
「なんだ? 一体どうした?」
シーカーが言うと、モニターを見ていた一人が言った。
「大規模なプレイヤーの移動を検知しました! どうやら、本格的に攻撃準備に入ったようです」
(勝負を掛けに来たな……!)
「来たか……おい、通信回線を開け」
「ハッ!」
シーカーの指示で壁の巨大モニターの画面が、丁度4つに分割された。
そしてその中に、見慣れた顔ぶれが写り始めていく。
「ん、なんですか? ……あなたは……どうして一緒に居るんですか?」
「!」
出てきたのは、漆黒のローブに金色のサークレットを着けた司祭風の姿の男性だ。
最初に悪人街へとやってきた時、出会ったギルドマスター達の一人「アズール」である。
悪人街の教会ギルドを束ねる”邪悪なる神官達の長”と言う所だろうか。
本を読んでいる途中だったのか、片手には本を持っていた。
どうも監視カメラか、ウィンドウに持っているSNSツールなどを介して映像を出しているようだ。
ハッカーならではの通信の仕方、と言う感じである。
「ん……? あ~~~っ、あなたは……!」
「おっ、どうやら首尾よくいけたみたいだね」
アズールの姿が映りこむと、続いてリリルとシエラの顔も映り始めた。
どうやら、シーカーが指示を行ってリーダー達全員へと回線を開いたようだった。
既に匂坂とは話していた為、ラクは三人が映り込むと先に計画の話を始めた。
周囲で誰も話を聞いていない事を確かめて貰い、リーダー達を直接通じて、配置換えの指示をしてもらう話を、全員へと伝える。
「……わかりました。確かにその方法しか無さそうですね」
「じゃ、あたしの所からは屈強な子を送っとくね。今は、ちょっと隣に退避してるんだけど、そこそこ兵力は残ってるから」
「それじゃま、適当に港の方にやっておくよ」
マスター達は決して互いに馴れ合っていたりなどはしないようで、フレンドリーな会話とはならなかったが、完全に敵対をしているわけでもないので、特に問題なく構成変えの話は終了した。
スピードに秀でる盗賊ギルドからは、全体的に動きが遅い教会ギルドの方へ。
商人ギルドからは重武装した兵士を分散させて、そこに教会ギルドの方の魔法能力に秀でた人間を入れ、足りない分を更に教会と商人から盗賊ギルドの方へと流していく。
これで後は、PK系ギルドの方と話を着ければ、ひとまずは終了だ。
「ひとまず、構成の話はこれぐらいです。あとは……スターズの件ですね」
「こちらが聞いた報告によると……リリルさん。貴方の所にスターズの誰かが現れた、と言う報告が出ていたのですが」
アズールが訊ねると、リリルが言う。
「私が戦ったわけじゃないんだけど、多分ナルミちゃんだねー。剣の攻撃じゃなかったらしいし、盗賊に二人、あとPKの方に一人だから、残ってるのはナルミちゃんとスパイダーだけだし」
「そっちにもエクスクモは出てないんですか?」
「うん。直接は見てないんだけど、報告じゃ一人だったって」
(なんでだ……?)
ラクは不安な予感が急激に増大してくるのを感じた。
確かにエクスクモはスターズの中で最も高い戦闘力を持っている。
だから温存しておいて、ここぞと言う時に参加をしてくるというのは、別に変な事ではない。
それはわかっているのだが―――いくらなんでも、出て来て無さ過ぎる。
姿すら見せないのは、おかしい。
「……妙ですねぇ。いくらなんでも、ここまで姿を見せないものでしょうかね?」
「確かにね。アイツは出たがりじゃないみたいけど、戦う時は基本、前に出てくるタイプだからね。こういう時は先頭切ってどこかを攻めてる筈なんだけど」
「……シーカー。貴方の意見を聞きたいのですが、どう思いますか?」
シーカーは、顎に手をつけて深く考え込んでいたようだが、その言葉に、手を離してから言った。
「……考えられる事は、大体二つだなァ~……一つは、単純に参加していないのかぁ」
「そんな事が有り得ますかね?」
「俺は、それは無いだろうと思うぜぇ~……参加できない事情があるなら、そもそもスターズ自体が動かんはずだからなぁ~……リーダーが動くか動かないか、でこの作戦が始動するかどうかが決まってる筈だぁ。じゃねーと他の賞金稼ぎの奴等がついてこねぇ~……」
「もう一個は何なのぉ?」リリルが訊ねる。
「もう一つは……何かしらの”事故”が起きているか、だぁ」
「事故? 事故って?」
「内容まではわからねぇ~……ただよぉ、何か参加できない理由が発生したかもしれねぇ、ってのが今までの攻撃の仕方からわかる。すっげーわかる……恐らくだが、”リーダーが不在の状態”なんじゃねぇか、と思うぜぇ」
(不在……!?)
「攻撃の仕方で……って、どういうことだい?」
「フム……では、説明してやるかぁ~……全員、地図と攻撃された地点を良く見てくれや。できれば、マーキング機能を使って塗り潰してみると、わかりやすくなると思うぜぇ~……」
シーカーが言うと、ラクを含め5人は仮想ウィンドウを開き、地図データを呼び出した。
そして攻撃を受けた地点を、各々が塗り潰しの機能などでマークした。
当然だが、ほぼ全ての横浜エリアが攻撃されているので、員のマップが塗りつぶされるような格好になった。
「マークしたが、特に何もわかりませんが……」
「色が変わっただけ、だよねぇ?」
「こんなので何がわかるってんだい?」
(一体、どういう事なんだ……?)
誰もが意図がよくわからない状態なのを確認すると、シーカーはその反応を見て、やや首肯してから言った。
どうやら、反応を楽しんでいるらしかった。
「だろうな。これだけじゃ、何もわからねぇ~……だが……こんな感じにしたら、どうだぁ?」
シーカーがウィンドウに操作を加えると、全員の地図上の表示が変化した。
ただエリアがマークされていたのが、細かい点に変化していき、その一つずつが、別々に明滅するようになった。
「何ですかこれは?」
「俺が監視カメラとかから得たデータを使って、攻撃された地点と、その強度を分けてみたんだ。光の明滅が激しい場所ほど、戦力が投入されているんだぜぇ~……」
「これは……」
先程までと違って、攻撃された地点がよくわかる。
特に明滅が激しい光点は、最初に攻撃を受けた都市区(駅~都市部側)と、スターズが二人やってきた中華街区(中華街の周辺)に集中していた。
丁度、横浜の端と端の部分のような感じになっている。
「これが、どうしたってんだい?」
「これを見て全員よぉ~……どう思う?」
「え? そりゃ……両端から攻撃してるってことなんじゃないの? 横浜って港側を壁にしたら、丁度細長い感じになるし」
「なんで、そんな事をするのか、疑問に思わねぇかぁ~……?」
「え? それは……」
「どっちから攻撃してきているのか、俺は知らねぇ~……多分、一番点が光ってる駅側から攻撃を掛けてきたんだろうなぁ~……。だったら……スターズを二人、攻撃開始地点からかなり離れた”中華街区”に投入してくる理由ってのは、何だろうなぁ? そしてよぉ~……駅側の方に戦力を集中させてないのは何でか?」
「それは……裏切って情報を流してる奴が居るからじゃ? さっき言ってたけど」
「いいや……それなら尚の事、確実に潰す為に戦力を集中させるはずだぁ~……どれぐらいの比率で戦力が分けられているのか、わかっているはずなんだからな。こうやって半壊状態で止まってるのが……俺が今回よぉ~……リーダーが不在なんじゃねぇか、って疑ってる最大の理由なんだぜぇ~……」
(言われてみると……)
「……確かに、変ですね。そう言えば。ここでスパイダーが現れていれば、中央地区と都市区とだけでなく、更にもう一つ二つ、落ちたかもしれません。そうなると一気に王手が掛かります。後はもう作戦もクソも無い」
「出し惜しみしてるんじゃないの? 全部壊滅させてから、PKの方に投入したいんじゃ?」
「それはねぇだろう~……時間が経つほど、奴等にとっては不利になるはずなんだからよぉ」
「何? どういう事だ?」
「今よぉ、福岡と大阪の方から、こちらに援軍がやってきてるんだ。あのクソヤクザと、ドチンピラの奴等がよぉ~」
「援軍……? なんだいそれ。聞いてないよ」
「丁度、ハンターの奴等が攻撃を始めてから、動きがあったんだぜぇ~……恐らくは、スターズを討伐する為に寄越してきてるんだろう~……名のある賞金稼を始末すれば、箔が着くからな。そして……チャンスがあれば、そのまま横浜一帯も制圧できる、とでも踏んでるんじゃねぇか」
「ハイエナみたいですね……」
ラクが思わず呟くと、シーカーが指差して言う。
「それ、面と向かって絶対に言うんじゃねぇぜぇ~……? 悪人って奴等にとっては褒め言葉だからな」
「は、はぁ……」
アズールがどこか安心した感じになって言う。
「しかし、それなら時間稼ぎに徹すれば良いというですね。敵が増えてくれるなら」
「こっちからすりゃあな。あいつ等はもうわかってるだろうが、あっちは逆に、短時間で作戦を完了させちまわないとまずいんだぜぇ~……」
■
全員の認識を一致させた所で、大方の作戦の取り纏めは終了した。
後は、実際に防衛のために動くだけ、である。
「さて……まぁ、大体この辺か。話しておく事は」
「ですね。敵の攻撃も近いようです。人の入れ替えもあるし、早急に行動に移りましょうか」
(……あれ……?)
話にある程度、終わりが見え始めて―――ふと、ラクは不自然さを感じた。
マスターは全員集まるはずのこの会議に、一人だけ現れない者が居る。
いつまで経っても、4分割された画面の一つに、ノイズが掛かったままなのだ。
PK系ギルドの代表者である”匂坂”が画面に現れない。
「あの、シーカーさん。ちょっと訊ねたいんですが
「ん? なんだぁ~……?」
「今、恐らくマスターの人達全員に繋げるようにしてますよね? 匂坂さんも含めて」
「ああ。奴も当然含めてる。出ないのは……恐らくお前から話を大方聞いたから、面倒臭いんじゃないのかぁ~……? 奴の方にも後で連絡をやっておくから、問題は……」
「なんか気になります。探したり出来ないでしょうか」
「気になる? なんだ突然よぉ~……」
「嫌な予感がするというか……上手く言えないんですが、さっき見た感じだと、こういう集まりには顔を出しそうに思うんです。あのままだと。それで出てこない、ってのが気になって」
「フム……わかった。おい、誰か―――」
シーカーが指示を出そうとしたその時、再びけたたましく警報音が鳴り響き、思わずラクは身体が跳ねた。
先ほどのよりも、更に音量が大きい。
「なっ、なんだ!?」
「中央地区に不審な影を確認しました」
報告が行われると、中央の巨大モニターが切り替わり、カメラの映像らしいものが映し出された。
それは何度も切り替わって行ったが、どれも悪人街のどこかである事、そして映っている人間が外からやってきた事は、間違いないようだった。
「中央地区に……? なんでまた」
「臭いな。もっと集中して調べろ。いや……俺がやろうか。全員、ソースを空けろ」
シーカーが言うと、部屋に居たギルド員らしい者達が
一斉に手を止めて、シーカーの方を向いた。
そして彼が目の前にウィンドウを出して、何かの操作を始めると、モニターが全て中央地区のほうへと切り替わっていった。
(え……な、何だこれ……!?)
どうやら部屋の中にある機器の全て使って映像ソースに映っている人影をピックアップしているようだった。
だが、次々に映像が切り替わっていき、一部のものだけが途中で停止していく。
どうやら先程言っていた”怪しい人影”だけを選んで、残していく処理を行っているようだ。
「何をやってるんですか?」
「ただの検索さ。ただ……ちょーっと面倒な計算を使ってやってる、な」
「面倒な計算?」
「”カオス理論”って奴さ。力学の一種だぁ~……スパコンで天気の計算とかやる時に使う奴なんだが、俺はそれにちょいと工夫をして、人間の流れをある程度読めるようにしてるんだよ。無論、力学と違って、人間の流れは一つが変わったからって言ってよぉ、全部動きが変わるわけじゃねぇからよ。ちょいと曖昧な部分を入れなきゃいけねぇんだがなぁ~……」
「??、ど、どういう事なんです?」
「わからねぇならわからねぇでいい。俺も適当にやってるだけで、そこまで効果あるものなのかわかってねぇんだからよ。ただ……そこそこ、効果があるような気がするから、使ってるだけさ」
よくわからないが、凄い事をやってるな、とラクは思った。
こういう事を出来るのが「ハッカー」なのだろうか。
確かに、ただのチートコードで遊んでいるだけのチーター等とは、根本的に違う人間のようだ。
「……ん!? 誰だ、コイツ……!?」
やがて、モニターに一人の人影が映し出された。
金髪のポニーテールに、白衣を着た少女の姿だ。
見た感じは”いかにもな科学者”と言う感じで、清潔そうな見た目をしている。
埃とゴミに塗れた悪人街には、とても居ないような感じだ。
再び3人のマスターが映し出されると、アズールが言う。
「……”ナルミ”ですね。スターズの一人です」
「この人が……!?」
「どうやら……次の攻撃目標は中央地区みてぇだなぁ~……レッド・フリークを先に潰す気かぁ」
「う、嘘でしょ!? あそこは確か一番強いはずじゃ……」
ラクが戦いた声を漏らすと、シエラが言う。
「今ならどこも攻撃に打っては出ないから、好機と見たのかもね。こっちを叩くんじゃ無くて壊滅させるのが目的の筈なんだから、一番邪魔なのはあそこだろうし」
「今確か、アイドルの子も行ってるでしょ~? やばくない?」
「……いや、それはこちらも同じようだぜぇ~……」
「え? どゆこと?」
「検索しててよぉ、大規模なプレイヤーの移動を一緒に検知した。中央地区へ攻撃するのに併せて、他の所にも攻撃が行われるようだぜぇ~……」
「ええ~!?」
「さて……本気で来たみたいだねぇ」
「こんなのどうすれば……」
「いやぁ、これはチャンスだと思うぜぇ~」
「え?」
「今、奴等には時間が無い。グズついていると、敵が増えていくからなぁ~……そして更に、今まで攻撃に参加していた賞金稼ぎではない一般プレイヤーの奴等が居ねぇ。つまりよぉ~……ほぼ賞金稼ぎのプレイヤーのみで構成されている、と言う事だぜ。この作戦自体を動かしている中核のプレイヤーだけが、恐らくは参加してる。つまりよぉ~……」
「……ここで逆に相手を壊滅させれば、一気に作戦を失敗させられる……?」
「そういう事だぜぇ~……奴等も焦っているに違いねぇ」
「こっちもピンチなのは間違いないけどね~」
「ひとまず、配置換えはこのまま行う事でいいだろう。作戦自体は悪くは無い。ただ……やはり中央地区の状態がどうなっているか気になるなぁ~……。手の余っている掃除屋は居るか?」
「余ってるのは……そこに居るソイツだけだね」
「はっ!?」
シエラがこちらへと向けて言った。
思わず、ラクは自分へと指を向けてその言葉を疑った。
「ならば、援護に向かってもらう事にしよう」
「いやいやいやいや! 俺が!? 無理ですって! こんな高レベルの戦闘、参加なんてとても無理です!!」
「だが他に手の空いている者も居ません。ここは貴方が行くのがベストでしょう」
出来るならば、行きたくは無い。
PK系ギルドのいる場所を攻撃しているのだから、どれだけ相手も強いのかわからない。
だが―――か言って、逃げ出せるような雰囲気でもなかった。
「~~~……わかりました。やるだけはやってみます。でも、スターズの誰かとかが出てきたら、どうしようもありませんよ。俺は多分、逃げます」
「時間稼ぎと、連絡経路の確保だけがとりあえず出来れば問題ねぇぜ~……。恐らく……向こうの戦力は、そこまでは無い筈だ。一般のプレイヤーが今、殆ど抜けてしまってんだからなぁ~……」
「数は前よりも減ってる、と」
「ああ。それは間違いねぇ~……それで、中央地区の壊滅に注がれているから、他の所にはあくまでも”仮止め”というレベルでしか戦力を投入していない、と俺は見てる。進行してきた奴等を始末でき次第、他の地区の者全員で中央地区へ向かうのが良いと思うぜぇ~……」
「了解しました。ではその方向で行きましょうか」
「それじゃ、バトりに行くとしますかね」
「面倒臭いけど、仕方ないかなぁ」
次々に通信が切れていき、やがてモニターは最初の状態へと戻った。
瓦礫が目立つ街が映し出され、その中には先程とは違って動く人影が増えていた。
「……行かなきゃいけない、ですかね。やっぱり……」
「ああ。それが掃除屋ってのの仕事みてぇだしなぁ」
「……」
「こいつを渡して置こう」
「何ですか? これ……」
「俺のアドレスだ。これでいつでもこっちと連絡が取れる。何かまずい事態になったら、こちらにとにかくメッセージを飛ばせ。あとはこっちで出来るだけの援護はしてやるからよぉ~……」
「まずい事態……ですか」
「あそこは強い野郎ばかりだから、まず面倒な事にはなってないとは思うがよぉ、恐らくはこの攻撃が最終になるだろうから、スパイダーが追加で出てくる事も十分に考えられる。その時に一番怖いのが、連絡が遅れる事なんだぜぇ~……」
「わかりました。妙な動きがあれば、連絡します」
「頼んだぜぇ。俺達もこっちに投入されてる奴等を排除でき次第、援軍に行ってやるからよぉ~……」
(……しかし、どうなるんだろうな、これは……)
ラクはシーカーからアドレスを受け取り、そのまま彼らの本拠地である”バグ領域のアジト”から出て行った。
次の戦闘は、恐らく―――この防衛戦の最終決戦となるだろう。
そんな予感を感じつつあった。




