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46:”無法”の体現者(8)

 荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めである「ゲダム」を探し

 ”悪人街”へとやってきた。そしてある日、賞金稼ぎたちからの総攻撃を受ける。

 同時にゲダムよりメールが送られ、この攻撃を防げば、会ってくれるとの内容が記されていた。

 ラクは依頼を完遂する道を選び、盗賊ギルドの守る中華街方面での戦いを切り抜ける。

 そしてPKギルドにも協力を求める為、最大の領地を持つ商業地区へと入り、ギルドの人間を探していると、そこで全くの偶然からマスターである「匂坂寧(さきさかねい)」と出会う―――

(文字数:11721)


 ファシテイト内の時間は、昼前まで迫ってきていた。

 悪人街の一斉攻撃は一旦、落ち着きを見せ始めていたが、これは昼からの更なる攻撃の前触れである事を、参加していた者は誰もがわかっていた。


(こ、これがPK系ギルド最強の……リーダー……!?)


 ラクの目の前には、目の下に濃い隈を作った赤髪の少年が居た。

 細まっている目に、とろんとしたとび色の瞳をしており、一見すると酷く眠たそうな感じをまとっている少年である。

 ”茫然とした”という感じが非常に良く似合う感じだ。

 クラスは「虐殺者(ジェノサイダー)」と出ている。これも見た事が無いクラスである。


「なんだ、おいちゃんかよ」


 匂坂は、一見するとかなり弱そうに見えるが、背後にいる屈強な姿をしたギルドメンバーらしい人間は、皆一様に緊張した様子でいた。

 ガンテスが彼らに指示を出すと、他の者は周りに散っていく。

 恐らくは”周囲の警戒を”と命令したのだろう。

 指示を出すと、ガンテスが恐る恐る、と言った感じで匂坂に言った。


「ボス。勝手にどこかへ行かないで下さい……今は、大規模戦闘の真っ最中なんですから」


「あーあー、わあったよお」


 匂坂は”意に介さない”と言った様子で、ガンテスが必死そうに話すのを聞き流していた。

 その間、ラクはガンテスと共に着ていたプレイヤー達を観察していた。


(強そうだなぁ……)


 皆、かなり強そうな感じである。装備品も外見も、纏っている雰囲気もバトル専門のギルドの人間であるだけあって、相当に強力そうである。

 ガンテスは確か”副隊長”をやっているという事なので、他のプレイヤー達は全員下についている人間だと思われるが……。

 ガンテスが話している少年の方がリーダーである、と言っても恐らくは誰も信じないだろう。


(これを率いてるのが、あれなのか……)


 ガンテスが陣地に戻るように必死に諭しているのが先程、プレイヤーネームが判明した「匂坂(さきさか)寧(ねい)」。

 燃える様な赤色の髪をした彼は、PKギルド『レッド・フリーク』のリーダーである。

 悪人街にて、強さを誇るPK系ギルド。その中でも最高のもののリーダーという事は、つまりこの悪人街にて、単純な戦闘力では、恐らく「最強」と言っていい人間だろう。


「しかし……新入り。お前、何しにここへ来たんだ? ここの守りに参加にでも来たのか?」


 匂坂とある程度話すと、ラクの方が気になったのか、ガンテスがラクへと訊ねてきた。

 丁度良いので、ラクは今行われている”作戦”の件について話しておくことにした。ギルドマスターも居るので、かなり都合がいい。

 ガンテスも裏切り者である可能性はまず無いと思われる為、一気に話を進めていく。


「実は……」


 ラクは、周囲に他の人間が居ない事を確認してから、自分がこれまで戦った相手の事と、盗賊ギルドの領地であった中華街の周辺「中華街区」にて、起きた戦闘の事を話していった。


■


「二人もスターズの奴等が出た……だと?」


「はい」


 中華街にて、現れたスターズの二人について話すと、ガンテスは表情を変えた。

 深刻そうな顔つきになって、考え込むように顎に手を付く。

 打って変わって、匂坂の方も興味有り気な感じになって、話に食いついてきた。


「マジ? あっち行きゃ良かったかな」


「現れたのは、ハヤトとギャロットの二人です。なんとか追い返せましたが、倒せたわけではないので……昼を過ぎたら、また攻撃を仕掛けてくるかもしれません」


「いいねぇ、それはそれで面白いじゃん」


「でも……今回、自分が来たのはそこじゃなくて”裏切り者”と”協力の件”について、です」


「さっきも言ってたが……その”裏切り者”ってのはマジで居るのか? どうにも眉唾なんだが……」


「自分は、まず確実に居る……と思っています。あくまでも推測の域を出ないのは確かなんですけど……」


 今回、ラクが商業地区へと赴いたのは、PK系ギルドに協力を仰ぐ為である。

 ”裏切り者”がどこの誰かわからない今の現状では、余り大きな動きをする訳に行かず、どうしても少数精鋭で動く必要があるからだ。

 だから、戦闘の要になる”PK系ギルド”のプレイヤーに協力してもらい、表向きには余り人数を変えないようにして、”とある一手”を打つ為、戦闘の流れをこちらへと向けようとしていた。


「しかも、掃除屋の誰か……なんてなァ」


 ”裏切り者の件”について話すと、ガンテスは眉間に皺を寄せ、苦言を呈した。

 声音からすると「友人を余り疑いたくない」と言いたげな感じである。

 元々、ファシテイト内での”ギルド”だとかに代表される組織は、ゲームとしての馴れ合いの組織か、現実世界での”組合”と言っていいもの。

 そしてれっきとした”企業”と言う感じのものの三種類ほどに分かれており、掃除屋の役割は、やや後者よりのお堅い感じのものとなっている。

 厄介事を処理する為、色々と仕事をしていく……という感じだ。

 だから、基本的には同じ活動を行う面々を「友人」というよりは、単なる「同僚」として扱うべきなのだが、ガンテスは掃除屋の面子を友人として見ているようだった。

 この辺りの”倫理観”という感じのものは、各自のプレイ・スタイルによって非常に大きく分かれる所である。


「あるんじゃあにゃいの。俺様だったら、後の事が補償されてんなら喜んで裏切るねー」


 ニヤニヤしながら匂坂は言う。

 冗談か本気なのかわからない口調だが、それが難しい事はすぐにわかる。

 まだレベルは表示されていないのだが、彼は相当に高いレベルのプレイヤーだ。

 その上で、この悪人街の中核をなしているようなプレイヤーであるので、賞金稼ぎ側が、彼を取り込むような事は出来ないだろう。

 通常ならば、悪人街の人間が外でも歩けるようにする為に無罪放免にするとか、賞金首の登録を取り消してしまったりするのだろうが、それはやっとの事でつけられている猛獣の首輪を外すようなもので、そんな免罪処置を彼に適用するのは、ほぼ不可能だからだ。


「ボス……そういうのは冗談でも止めて下さい。士気に影響します」


「わあってるって。それより……おいちゃんよ。怪しい奴って思い当たるか?」


(お、おいちゃん……?)


 どうやらガンテスは声の感じと同じく、中の人は本当に中年男性であるようで、匂坂は彼を「おいちゃん」と呼ぶようだ。

 掃除屋では考えられない呼ばれ方だが、ガンテスはそれに慣れた感じで応える。


「……思い当たる奴が居る事は居ます。余り大きな声では言えませんが」


「なら、とりあえずはそいつに気をつける事にするか」


 匂坂はそれだけ聞ければ十分なようで、「誰だ?」とは聞く事は無く、そのままラクに訊ねた。


「で、それで……作戦の方をもっと詳しく教えてくれよ」


「あ、はい。えーっとですね……」


 ラクは盗賊ギルドの領地にて、話し合って決めた「とある作戦」の事を匂坂とガンテスに話した。


「―――時間ギリギリに総入れ替えをする?」


「はい。入れ替えをやるとして……そして、裏切り者が居るとして、そう考えるとこれがベストじゃないかな、と思いまして」


「どういう事だ?」


「”敵を騙すには、まず味方から”……って言う言葉があるじゃないですか。あれですよ。つまり……”味方ごとペテンに掛ける”んです」


「”上の奴等だけ作戦を知ってる状態”にして、あとは下のやつらに、戦闘が始まったら上からの命令だ、っつって強引に納得させるって事かぁ?」


「そんな感じです。最初は、なるべく少数精鋭でやろうとしてたんですが、この方法なら邪魔されないかな、と思いまして」


「他の領地の奴等にはなんて言ってるんだ? 下っ端の盗賊ギルド員には、伝えてるんだろぉ?」


「いえ。”シエラさんと通信を確保して欲しい”とだけ伝えるようにお願いしてます。それで、直前まで作戦がわからない状態に……と」


「なるへそぉん……」


 ラクの考えた作戦はこうである。

 まず、盗賊ギルドのメンバーを使って、連絡網を新しく作り直す。

 まだ領地を守れているマスターと、何処かへと避難しているマスターへの連絡用の回線を新しく確保。その状態にして昼を過ぎた辺り、総攻撃が始まる直前に、ギルドマスター達を通じて、メンバーの入れ替えを半強制的に行う、というものだ。

 ”途中に幹部などの命令系統を挟まない”というのがポイントで、マスターが直接命令を行って、即時の入れ替えが行われるため、この手ならば情報の漏洩が発生する事は無い。


「それで……ここにも協力要請って訳か」


「はい。まず、戦闘力に長けてるここに協力してもらわないと……」


「どうしますか、ボス」


「ん~、別に他ン所がやられても、俺様知った事じゃにゃいんだけど、このままだと、ここが最後に一点集中でやられそうだしにゃ~」


「じゃあ、協力してくれるんですか!?」


「協力っつーか、恩を売ってやるだけさぁ。後で何かと使えそうだしにゃあ」


「では、どうします? 配置のほうは」


「今、攻撃されてるのはこんな感じみたいです」


 ラクは、K.Kから貰った戦況を記載されている地図を見せた。


「基本、物量にプラスアルファって所か。まぁ定石の範囲だにぃ」


 ラクは協力を取り付け、安堵の溜息を吐いた。

 だが、それを見越したかのように、匂坂が呟いた。


「でもよ。この作戦……ちっと気になる事があるんだよなぁ」


「え?」


「いやさ、もしもだよ? この作戦、どっかのマスターの誰かが、その”裏切ってる奴”と繋がってたらやべーんじゃねぇかにゃーって思ってさ」


「どっ、どういう事ですか?」


「例えばだよ……俺様がもし、裏切ってるとするぢゃねーか。それでよー、この作戦だけ先に知ってたら、逆にこれでこっちにトドメが刺せるんだよ」


「えっ……!? ど、どうしてです?」


「簡単な事さ、この情報を使ってこっちを先に裏切り者にしちまえばいいんだ。そうすれば、街は大混乱。指揮系統なんて一発でメチャクチャさぁ……そうだろ?」


「うっ……そ、それは……」


「俺様、余り作戦とか考えるほうじゃねーけどよぉ。代わりに”嗅覚”っつーか直感は働くから、断言するわ。この作戦―――これ一枚じゃ、失敗すると思うよん」


「……」


「確かに……ボスの言う通り、なんか危ねぇ感じはするな。綱渡りっぽい感じで」


(そうか……単独じゃなかった場合を考えてなかった)


 確かに―――裏切っている人間が、本当に単独だとは限らない。

 てっきり、裏切りなので、単独で行われているとばかり思っていた。

 街全体を巻き込んでいるといっても良いのだから、どこかのリーダーと繋がっている可能性も、絶対に無い訳ではない。


「協力自体は別にしてやってもいいけどよー、せめて、もうちっと複雑な作戦にした方がいいんぢゃねーか? 後で別の手に切り替えられるような感じのよう」


「です……かね?」


「ああ。特に……”シーカー”の野郎がもし裏切ってたりなんかしたら、こんな作戦、一発で逆にこっちがお陀仏にされちまうわぁな」


「シーカー?」


「情報系ギルドのトップに立ってる奴さ。頭がちょいとおかしい奴。でも、この街で一番モノを知ってる野郎だよ。その作戦、やる前に一回、シーカーんトコ持ってって話した方がいいんじゃないかぁ? あいつが”シロ”なのか確かめる目的でもよー」


 匂坂から言われ、ラクは考え込んだ。

 そして、やはり一度シーカーやアズールなどにも出来れば会っておくべきだと思った。

 この作戦は、全ギルドマスターの協力が無ければ、どうしても難しいのだから。

 今なら、まだ少々時間がある。


「……そうですね。とりあえず、そのシーカーって人に会って来るだけ会って来ます」


「ま……こっちも準備だけは整えとくよ。作戦自体は面白そうだしにゃあ」


「お願いします。それじゃあ、自分は……ちょっと情報ギルドの領地の方へ行って来ますんで」


 そう言って、ラクは匂坂達と別れた。

 時間が余り無い事もあって、すぐに動かなければならないからだ。


「あれが掃除屋の新入りかぁ? おいちゃん」


「はい、そうです。頭の回る奴みたいなんですが、どうにもちょっと上下関係に疎い感じでして……」


 ガンテスは、どうやらラクの話し方が目上の人間に対してのものとしては、余り適当ではないと思っていたようで、弁解するように言った。

 だが、当の匂坂は余りそんな事は気にしていないようで、にやついた感じでガンテスへと言う。


「別に何も気にしてねーよ? 俺様、久しぶりに面白い展開になってきてるから、今めっさ気分いいぜ~」


「それは何よりです」


 二人は周囲を警戒していたメンバーを集め、PKギルド「レッドフリーク」の陣営へと戻っていった。

 その後ろ姿を―――”白衣を纏った者”が見つめていた。


■


 ラクは商業地区から素早く離れると、次にシーカーに会う為、横浜公園付近にある「公園周辺区」を目指した。

 なるべく、建物の影に隠れながらである。


(居るなぁ……)


 かなり素早い動きであるのでわかりにくいのだが、周辺には斥候らしきプレイヤーが何人も見えるのだ。

 恐らくは昼からの攻撃の為に、この辺りの情報を探っているのだろう。

 偵察をやっているだけなので、攻撃をしてくる事は無いだろうが、絶対に無いとは言い切れない。

 見つからないに越した事は無いだろう。


「えー……確か、K.Kさんに貰った地図だと……」


 K.Kに貰った地図を頼りに、ラクは進んでいた。

 彼は、かなり詳細に地図を書き込んでくれているようで、危険そうな場所にはマーキングがしてあり、かなり頼りになった。

 とはいえ……やはり全てを調べ切れている訳ではないようで、情報系ギルドの陣営がある位置までは、正確にはわからなかった。

 「多分このあたり」という但し書きと共に、公園の東方に赤色の円が描かれているだけだ。


(この辺、って事か……確か、横浜スタジアムの近くだな)


 ”横浜公園”は、横浜スタジアムにくっつくような形で存在する公園である。

 その周辺には、銀行やら大規模な企業やらが立ち並んでおり、さしずめ都会の中にあるオアシスのような場所だ。

 地図によるとその公園の東側にある、ビルが立ち並ぶ場所のどこかに情報系ギルド最大手である「ビッグツーリスト」があるという。

 シーカーがマスターを勤めている紛れも無い”ハッカー集団”と呼べるギルドだ。


「とはいえ……ひどいなぁ、ここら辺も」


 ファシテイト内の建造物は、現実世界よりも高くなる傾向にある為、この辺りの立ち並ぶビル郡も、現実の横浜よりも高く、壮観な眺めの場所であったのだが……。

 やはり攻撃を受けたためか、無事に建っている建物は余り無かった。

 生き残っている高層ビルも、攻撃の余波を受けて所々が欠けていたりして、痛々しい外観となっている。

 この辺りも、もし修復するとなると、途方も無い時間が掛かりそうだ。


「……ん?」


 歩いていると、自分の目の前に、いきなり仮想ウィンドウが開いた。

 四角い枠の中に、いつも使っているデスクトップ画面が表示され、テキストエディタが勝手に起動された。

 そして、エディタの画面に文字が表示されていく。


『見ている そのまま 左の道へ入れ』


(……!)


『斥候 気をつけろ 一応 ルート 指示する』


 ラクは周囲を見渡すと、壊れたコンビニの上方部分にある「監視カメラ」が自分の方向へと向いているのに気が付いた。

 どうやら、監視カメラ・オブジェクト越しにこちらを見ているようだ。

 ラクは斥候を行うプレイヤーに見つからないように、画面の指示に従って、公園周辺の道を歩いていった。


(流石ハッカー……って感じだな)


 やがて、20分ほど何度も同じ道を回ったりしつつ、指示された道を進んでいくと、半壊した商業ビルの入り口へとたどり着いた。

 どうやら、ここがハッカーギルド「ビッグツーリスト」の根城らしい。


『地下に 行け』


「ここがアジトか……?」


 ラクは周辺に追っ手が居ない事を十分に確かめてから、ビルの中へと潜り込んでいった。


■


 ビルの中は、外からの攻撃を受けたのか、やはり廃墟のようになっており、寸前まで使われていたのだろう、オフィス用品やら使用感のある机などがそこらかしこに散乱していた。

 ラクは、一階を回って奥の方にあった階段から地下へと降りていく。


「元は……どこかの企業テナントでも入ってたのかな」


 どこもかしこも、こういう風に被害を受けているのだろう。

 悪人街へと攻撃が始まって、ファシテイト上で活動をしていた人達は、みんな逃げていってしまった。

 ここまでやれば、攻撃を仕掛けた側である賞金稼ぎたちの印象が悪くなるのは、まず間違いない。こんな強引な事に賛同できる人間はまず居ない。

 そこまでして、悪人街を潰したかったのだろうか?

 それとも……これをやるほどの価値がある”理由”があったのだろうか。


「……わからないな」


 ふと、呟くと階段が終わり、地下の開けたへと入った。

 だがそこで、ラクは足が止まってしまった。

 何故なら―――


「えっ、あれ……? 行き止まり……?」


 コンプレッサーが動いている音が響く地下の部屋。

 そこは高さはあるが、せいぜい6畳半程度の大きさしかなく、端に大きな機械が見え、その周りから伸びるいくつものパイプが、更なる地下へと部屋を貫いて続いているのが見えるだけだった。

 どうも、水道か何かの調整する為の機器ぐらいしか置かれていないようだ。

 他の場所へと続く扉らしいものは、何も見えない。

 扉どころか、トンネルなどの空洞すらまるで無い。


(……こりゃ、何か仕掛けかな? また)


 掃除屋のアジトに入る為に、ロッカー型の小型エレベーターを使ったりしたが、あれのようなギミックが恐らくはこの周辺にもあるのだろう。

 普通に入れるようにしていたら、とてもアジトとして存在は出来ないのだから。


(と言っても……どれだろ)


 しかし、今度ばかりはどこを弄ればいいのか、皆目見当が付かない。

 適当に配電盤の蓋を開いてみたり、開けられそうなものを開けて確認するも、レバーなどが沢山あって、どれを操作すればいいのか、ラクには全くわからなかった。

 やがて迷っていると、再びウィンドウが目の前に開き、文字の羅列が出てきた。


『排気レバー下 後 配電盤の トイレ 二階東 ビル南口電灯 三階オフィス中3 切 最後 自販機』


 どうやら、この通りにスイッチなどを操作しろ、という事のようだ。

 ラクは表示されている通りに、排気口の開閉を行うレバーを下げ、それから配電盤を開いて指示されたものだけ、ブレーカーを下げていく。


「えー……ブレーカーを、トイレと二階の東、ビル南口、三階オフィス真ん中3番を……切る」


 全ての指示された内容を終えると、最後に”自販機を”というのだけが残った。


「これは……どうすればいいんだ?」


 ジュースの自販機は確かに、地下の中央付近に存在している。

 どうやら階段のすぐ上がオフィスである為、ここに社員の為に置かれているようだ。

 だが―――部屋の中央にある為、裏手に扉などが存在するわけでもない。

 これをどうにかしないといけないようだが、その指示だけが無かった。

 自販機は壊れていないようで、ぼんやりとした光を全体的に浮かべながら、ただただ、地下の薄暗い中で光っている。


「ひとまず……何か買ってみるか」


 ラクはとりあえず、何か操作をしてみようと近づいていった。

 そして目の前に立ってお金を入れると―――何故か、押したジュースが出ずにルーレットがいきなり回り始めた。


「え……っ?」


 ルーレットが回り終わると……”大当たり”にカーソルが止まった。

 通常ならば、ここでもう一本サービスとなる”あたり”だ。

 だが、表示はすぐに”ご招待”と変わり、自販機の扉が開いた。

 その中には―――機械は入っていなかった。

 代わりに、何故か”道”が続いていた。


「え……あ、はぁっ……!?」


 すぐ背後には何も無い空間だけのはずだが、別の場所に繋がっているかのように、自販機の内部から全く違う光景が広がっていたのだった。


「やぁ……君が隊長の言っていた人間か?」


 やがて、そこから一人の人間が顔を出した。

 全身を何故か武者鎧で覆っており、顔の部分を深く隠している。

 だが帯刀などをしておらず、丸腰の状態だ。


「え……あ、はぁ。掃除屋のラクォーツって言います。えーっと……シーカーさんに、会いに着たんですが……」


「なら間違いないか。入るがいい。ちゃんと扉は閉めてくれよ。隊長は、そういうのにはうるさいから」


 ラクはそう言われると”自販機の扉”を抜け、しっかりと閉めた。

 そして、そのまま別の場所へと続く道へ入っていった。


(サーバ……かな)


 ”別の場所”へと続くその道は、機器が所狭しと並んでいた。

 配線がまるで樹木の蔦のように天井や壁にいくつも配線されており、機械の剥き出しになっている接続部へと繋がれている。

 学校にあったパソコンルームのような感じである。

 それを非常に複雑なものにしたような、そんな感じだ。

 設置されている機器は、どれも現実世界のものと同じように、ちゃんと稼動しており、何かしらに使われているようだった。


「ここ……一体、何なんですか?」


 ふと、ラクは自分を案内している人間に訊ねた。

 案内役の武者鎧姿の者は、得意気に言った。


「”前のフロアー”ですよ。消去されてない、ね」


「消去されて……ない?」


「そうだな……例えば、ゲームとかでチートコード使ったりしたら、”消されて無い部屋”ってのに行ける事ってあるだろう?」


「”開発部屋”みたいなものですか?」


 ”開発部屋”というのは、早い話が”デバッグ用のエリア”の事である。

 ゲームを開発しているプログラマ達が、開発中に、便宜上作るテスト用のエリアの事で、色々なデータやプログラムを、そこでは試す事ができるようになっている。

 基本的に、製品版のゲームでは消されているか、入る事が出来ないのだが、チートコードを使えば入る事が出来てしまったりする。

 ゲームの中には、おまけとしてこの開発部屋を開放して、その中にスタッフのメッセージなどが残されていたりするものもある。


「まぁ、そんな感じのものだな。ファシテイトには、使われてなくて、かつ消されていないデータ領域が結構あって、そこには”あるコマンド”や”プログラム”を走らせれば、入る事が出来るようになってるんだ。ここは、そこを改造している基地なんだよ」


「へぇ……だから、一見何も無い空間の先にあるんですね」


「ああ。ここは……一昨年に取り壊されていて、本当なら存在していない領域なんだ。でも、空間を構成するデータだけ残ってるので、使わせてもらってる、と言う訳」


「凄いなぁ。バグ技使ってるみたいだ……」


「隊長はファシテイトの構成プログラムを調べている人間なんだけど、調査をするにつれて、こういった”妙な空間”というのがいくつもある事を知ったらしくて、それを利用して何かできないか、と思ってこういうものを作ったらしい」


「こんな入れない……りょう、ッ!」


 ラクは途中までを口にしてから、思わず動揺してしまった。

 余りにも、そっくりであるのだ。

 自分がキャラチェンジ・コマンドを使用した後の状況と。


(……まさか、な……)


 モンスター化した後に、通常の状態では入れないエリアへと入っていった事と、これは関係しているのではないだろうか? とラクは思った。

 そして”入れるエリア”というのは、もしかするとこういった街中にも沢山あるのではないだろうか? と。


「?、どうしたのか?」


「い、いえ……何でもないです。ちょっと見慣れない物に興奮しすぎちゃって」


 ラクは、内心ではひどく焦っているのを適当にごまかしつつ、そのまま案内役の人間の後を着いて行った。


■


 やがて、開けた場所へと出た。

 そこにはモニター上の機器が多く並んでいた。

 特に目を引くのは、天井近くに設置されている巨大なディスプレイで、まるで都会の交差点にでもありそうなぐらいに大きい。

 多数のギルド員らしい人間が、そこらかしこの机に座っては、目の前のモニターを見ている。


(なんか……アレみたいだな)


 SFアニメとかで見た光景だな、と思った。

 ロボットアニメなどで、戦艦に乗って旅をしたり、戦いながらのストーリー展開を行っていくものがあるが、その戦艦の司令室に似ている。

 いわゆる”ブリッジ”のような場所であるな、と思った。


「来たか……迷える子羊君よぉ~」


 ラクがその場所へと入ると、上部の方から司令官らしい人間が近づいてきた。

 迷彩パターンの衣服で全身を覆っていて、所々に見慣れない形状のプロテクターを身に着けている。”近代的な兵士”を連想させる格好だ。

 目の部分には、大きな偵察用の視覚補助装置(スコープ)がついていて、まるで”外国の特殊部隊”それも”斥候部隊の隊長”という感じのいでたちである。

 あのマスター達の会合でも見かけた姿だった。


「シーカー……さん、ですね」


「あぁ~……そうだぜ。自分がそうだ、”シーカー”だぁ……」


 ラクはここまで話して、僅かに眉をひそめた。

 話し方から、既に危険な感じがするのである。

 匂坂が「頭のちょっとおかしい奴」と言っていたが、本当に狂人なのかもしれない。

 無論、ただのキャラ付けの為に行っている可能性も十分あるが、ギルドマスター達の会議所で、壁に頭を打ち付けていたあの光景を思うと、到底まともそうな感じには見えなかった。

 ラクは、なるべく早く彼の前から立ち去りたかったが、そんな訳にも行かない。

 悪人街の形成を盛り返すのには、どうしても彼の力が必要だからだ。


「お前ぇ、どうしてこんな所に来たんだぁ~……?」


「いくつか、話したい事がありまして……」


「裏切りィ~者の件、かぁ……?」


「えっ!?」


 慌てて周囲をラクは確認する。

 メンバーに聞かれてしまえば、大騒ぎになってしまうだろうからだ。

 だが、周囲に居る者は特に耳を傾けるわけでもなく、作業を続けていた。

 周囲を見るラクにシーカーは言う。


「おいおぃ……そんな心配する必要はねぇぜぇ。ここの奴等は、もう知ってるからよ」


「知ってる、って……」


「俺ぃはよ~……最初から、ずっと街全体の形勢を見てたんだぁ~……それでよ? 出てくる奴等が、変な構成だってのには、始まって1時間経つか経たないか位には、気づいてたんだぜぇ~……あんなのは、内部にスパイでも居ねぇとダメだってなぁ~……」


 どうやら、シーカーはハッカーとしての技術を生かして街全体を監視カメラなどを通してみているようで、最初から街への攻撃が妙な感じであった事には、気づいていたらしかった。

 そして内通者が、恐らくは街の中にいるだろう部分にまで、推測をしていたようだった。


「多分、その件でぇ~……俺ぃに、話があんだぁろう~……? それとも、俺自体をぉ……疑ってるか~……?」


 全てを見透かされているようで、ラクは何も言えなかった。

 正直、ただの頭がおかしいだけの人間なのでは? と勘繰っていたが、どうにも違うようだ。話の仕方はおかしいが、内容自体はかなりの切れ者である感じがする。

 色々な人間が”彼ならばわかるはず”と言っていた理由がわかったような気がした。


「フゥ~……どうやらぁ……その通りみたぁい~だなぁ~……」


 シーカーは、ラクが何も言わないのを”肯定”と受け取ると、そのまま話を続けた。


「いや、わかるぜぇ~……わかる。スンゲェ~よくわかる。マスターの誰かが、もし裏切ってたら……手の打ちようがねぇんだからなぁ~……」


 手首を曲げて音を出しつつ、言う。

 まるで、こちらへと無言の圧力を掛けてきているようだった。

 ラクは何も言う事が出来ず、ただ黙って聞いていた。

 やがて、シーカーが言う。


「まぁ……安心しなぁ~……俺ぃはよぉ~……裏切ってるとか、そういうのはねぇからよぉ~……ッ」


「……」


 本当なのだろうか? とやや疑っていたが、それも見越しているかのように、続けて彼はやや鼻で笑いながら言った。


「まぁだ、疑ってるなァ~……?」


「い、いえ……そんな事は……」


「いいんだよぉ~……それが当然だァ~……失敗したらぁ~、ヤバイ”作戦”をやろうとしてるんだろうぅ~……でもよぉ、俺ぇを含めてぇ~、裏切りは有りえねぇんだよ」


「裏切るのが……有り得ない?」


「お前、誰から聞いて”裏切り者がいるかも”って思ったんだァ~……?」


「えー……レッドフリークの、匂坂さんから……」


「ああ、アイツかぁ~……なら、そんな風に考えるのも、無理はねぇなぁ~……」


「どうしてですか?」


「お前~……ここのギルドマスター達がよォォ~……なんでこの街にいるのか? って、知ってるかぁ~……? つまりは、マスター達が、どんな”罪状”だかよぉ~……」


「マスター達の、罪状……?」


「当然だが、ここに来る奴ってのには、ちゃんと理由があるんだぁ~……どういう事をやったから、シャバに居れなくなった、って理由がなぁ~……それが何か……わかってりゃあ、裏切りなんてあるって思わないはずだぜぇ~……」


「それは……知らない、ですね。余りそこまで突っ込んで話を聞かないので」


「匂坂の奴は、ここに入ってそこまで長いわけじゃないから、知らないのかもしれねぇなぁ~……丁度いいから、お前に話しといてやるぜぇ~……”なんでここに俺たちが居るのか”ってのをなぁ……」


 シーカーはそう言うと大型ディスプレイを見つめ、悪人街のギルドマスター達の事を話し始めた。

 この場所へと来る事となった各人の”理由”を。

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