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43:”無法”の体現者(5)

 荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めであるとされる

 「ゲダム」なるプレイヤーを探して”悪人街”と呼ばれる場所へやってきた。

 そしてある日、悪人街に賞金稼ぎたちから総攻撃が掛けられてくる。

 同時にゲダム本人からメールが送られ、そこには「この攻撃を防げば姿を見せる」という内容が記載されていた。

 ラクは依頼を完遂する道を選び、戦闘地域へと赴くが―――

(文字数:14928)


 周囲は異様な雰囲気に包まれていた。

 煉瓦れんがや石造、木造建築ではない。

 かといって、金属がふんだんに使われているわけでもない。

 何で出来ているのかがわからない、紫色の通路が広がっていた。

 強いて言えば、ひどく”肉感的”な場所に見えた。


「しかし……なんて場所だ」


 その場所を、一人の青年が歩いていた。

 毬栗いがぐりのような髪型をしており、若々しい外見をしている。

 長剣を持って、上半身に鎧を着ており、いかにも”冒険者”と言った風な格好だ。

 少なくとも、現代の人間の格好ではない。

 彼は周囲を見回しながら、何かを探して、この薄気味の悪い”迷宮”を探索していた。


「モンスター1匹居ない。こんな場所に居るのか……?」


 彼の名は「アル・メイズ・ジャーノン」と言った。

 「ダニエスタ」と呼ばれる町に住む腕利きの戦士の一人である。

 彼は、いつもは町の平和と安全を守る為に戦っていたが、今日は別件でこの場所へとやってきていた。


(マーサ……フィーナ……)


 アルは、とある人物に会う為にこうしてこの薄気味の悪い場所へと赴いていた。

 ただ、一つだけ不可解な事を彼は感じていた。

 この場所は、非常に危険な事で知られている迷宮ダンジョンなのだが、ただの一体も怪物が現れないのだ。

 行った者が誰一人として帰って来れない程の場所なのに、こんな―――”何も起こっていない”のが奇妙だった。

 人食いの恐ろしい怪物も、出会っただけで命を奪われるような危険なトラップも、何も無い。ただ、周囲の様子がとびっきり薄気味悪いだけであった。


「しかし一体、なんなんだろうか、これは……」


 石でも金属でも、木材でもない壁や天井。

 見た事の無い素材でそれらは出来ていた。

 ふと、アルはそれらが何で出来ているのか気になり、傍へと近寄って耳を当てて、適当に周囲の壁を叩いた。


「……聞こえない」


 コン、コン、という音が通常ならば響き渡るはずなのだが、壁が柔らかいモノでできている為、何も聞こえない。

 代わりに、別の音が聞こえた。


―――トクッ、トクッ


(……え?)


 規則正しく、液体が流れていくような音が聞こえる。

 まるで生命が放つようなそれは、昔、怪我の治療をやる上で教わった時に聞いた”脈拍”にひどく似ていた。

 ただ違うのは、人間のものと違って更にゆっくりで、かつ大きい音で鳴っている事だ。

 そして、壁がほのかに”暖かい”事にも耳を当てて気が付いた。

 もしかして、この壁は―――


(まさか”生きてる”……!? そんな馬鹿な……)


 ふと、アルは今立っている場所が”何かの生物の体内”なのではないかと思った。

 だが、それならば外観がちゃんとした生き物の形をしているはず。

 ここは迷宮である。何かしらの生物の体内である事はありえないはずだ。

 アルはそこまで考えると、答えを出しても仕方が無いと疑念を振り払い、薄気味の悪い迷宮の奥深くへと歩を進めていった。



 やがて―――数時間ほど歩いただろうか。

 アルは周囲が開けた場所へと出た。

 途端に、真っ白な柱のようなものが目に付くようになった。

 まるで生物の骨―――とくに天井に広がっているそれは、肋骨が広げられたようなものに見える。

 だが生物めいた形状はしておらず、かといって人工のものにしては、よく見ると歪な形状をしており、とてもこんな骨を持った生き物が居るとは思えない。

 アルがその柱を調べていると、突然、背後から声がした。


「何用でございますかな」


 全くの抑揚の無い声に、アルが咄嗟に武器を抜き背後へと振り返ると、そこには真っ黒なスーツに身を包んだ男が立っていた。

 ただ、どう見ても普通の人間ではない。

 しっとりと張り付くような形の髪、精気のまるでない目、それと相反するかのように高い鼻、そして引き締まった口元をしている。

 温度が感じられないからか、美術品のような美しさが引き立っている男性である。

 ただ―――ひとつ、明らかにおかしい点があった。


(青色……?)


 肌が青いのだ。通常の人間ならば、ややオレンジもしくは赤味がかったピンク色であるはずだが、まるで海に長い間沈められていた死体か何か、と疑うほどに見た事が無い色をしている。

 周囲の雰囲気も相まって、その容姿は非常に恐ろしいものを纏っていた。

 だが、アルはダニエスタの町でも三本の指に入る力を持つ戦士だ。

 今まで多くの怪物と刃を交えた経験があり、姿だけで相手を恐れる人間ではなかった。


「……”堕落神”に用がある!」


「エズデッダ様にですか?」


「ああ! 今から1週間前……町が襲われて、たくさん人が連れ去られた。実行犯だった奴らを捕まえて、誰が首謀者か吐かせたら、その名前が出てきたんだ」


 アルの目的は、さらわれた町の人々を救う事。

 もっと言えば自分の”恋人”と”妹”の奪還だった。

 この辺りでは、度々、盗賊や獣人などが人を攫う事件があり、大抵は彼らが自分たちの住処で働かせる為に連れて行くのだが、今回ばかりは首謀者の名前がハッキリせず、それをようやく確かめたとき、出たのが”堕落神”の名前。

 ワールド・マスターである「エズデッダ」の名が出てきたのだった。


「ほう……それで、マスターを捕まえに来た、と」


「そうだ! 案内しないのなら、力付くでも……!」


「わかりました。ご案内いたしましょう」


「えっ?」


「会うべく、ここまでやって来られたのでしょう?」


「それは……そうだが……」


「あの方もお喜びになるでしょう。ご来訪者など、久しぶりですから」


 そう言うとスーツ姿の男は、迷宮の奥へと歩を進め始めた。

 その姿に、アルは一瞬戸惑った。

 何故、危害を加えようとしているのがわかっているのに、主の下へと案内するのだろうか、と。


(……わからない。でも、付いていくしかないか……)


「ああ申し送れました。私の名は”スクロック”と申します。以後は”ロック”とお呼びください」


 迷宮の中は幾重にも分かれていた為、ここまで来るのにかなりの時間を使ってしまった。

 また自分ひとりで探すとなると、どうしても辛い事になるだろう。

 アルは手っ取り早くこの迷宮の主に会うために、スーツ姿の男性についていく事にした。



 スクロックに案内され、やがてアルは周囲が開けた場所へと出た。

 天井には扇状に広がる真っ白なものが見える。

 まるで、生物の口腔内のような感じだ。

 その大きな”広間”と言う感じの場所には、地面や壁からせり出たいくつもの突起が並んでおり、そこに本だとか服らしいものだとかが置かれていた。

そして中央には、巨大なベッドらしきものが配置されており、その真ん中に一人の少女が布を被って寝転がっているのが見えた。

 アルは少女の姿を見て、息を呑んだ。


「……ッ!」


 少女は、胸元のすぐ上ほどから裸体が出ており、何も衣服を着ていない。

 両脇には彼女の夜伽の相手でもしていたのか、屈強な体格をした男性と、線の細い感じの男性が、これまた上半身裸の状態で横になっていた。

 少女の頭には円筒形の金属の”鍋”のようなものが被せられており、その姿はアルには見覚えのあるものだった。


「エズデッダ……!」


「マスター。お目覚め下さい」


「ふあぁ……何……?」


「お客様でございます」


 ロックに言われてエズデッダが目覚めると、羽織っていた毛布を剥ぎ取り、ベッドから降りた。

 案の定、上半身が裸であり、下半身もひどく薄手のパジャマを着ているだけだ。

 思春期の少女特有の、胸が僅かだけ膨らんでいるその姿は、とても無防備な感じに見える。

 健全な青年であるアルには、少々刺激が強い姿であった。


「うわっ……ちょ、ちょっと……」


「マスター。お召し物を……」


「面倒ねぇ」


 ロックがベッドの下から取り出した一枚布の服を上に羽織ると、エズデッダはアルに訊ねた。


「それで? あなた、何の用かしら?」


 面倒そうにあくびをしながら、エズデッダはアルに言う。

 その姿を見て、自分がひどく真剣な思いでここまでやってきたのを馬鹿にされているように感じたアルは、やや怒りを孕んだ口調で言った。


「エズデッダ! ここに、ダニエスタの町から連れてこられてた人たちがいる筈だ! みんなを解放もらおう!」


 アルはそう言うと、持っていた長剣をエズデッダへと向けた。

 断るのなら力付くでも、と最初から決めていた事だったからだ。

 相手がか弱い少女でも、それは関係ない。

 見た目こそ少女だが、れっきとした”神”の一人であるのだから。

 アルはその事を頭に入れており、油断はまるでしていなかったが、予想しない答えが次の瞬間に聞こえた。


「ダメなら、力付くでも……」


「あら、いいわよ」


「……えっ?」


 てっきりこのまま戦闘となるとばかり思っていたアルだったが、エズデッダの思わぬ返答に拍子抜けてしまった。


(今、なんて言った……?)


 聞こえた言葉が余りにも予想外であった為、それを疑うアルをよそに、エズデッダがロックに指示を出していく。


「ロック。捕まえてるの、全部元に戻しておきなさい。ただし……”アレ”は別に持ってきなさい」


「了解いたしました」


「な、何が目的なんだ? 一体……」


 アルは思わず、エズデッダへと訊ねた。

 目的は何なのか、と。

 そう言うと、突然、エズデッダの声音が変わった。


「さぁて、なんでしょう?」


 一言だけだったが、その声は明らかに先ほどと違っていた。

 先ほどまでの”少女”という感じのあどけなさが全て喪失し、一気に大人びたような口調になったような、妖艶な雰囲気を帯びたものとなっていた。

 アルはその声を聞き、冷や汗を流した。

 どんな強力な相手を前にしても、恐れなどしないアルだったが、声だけで恐怖を感じたのはこれが初めてだった。


「ふ、ふざけるな! 町が襲われた時に、何人も犠牲者が出てるんだぞ!! お前は……あれを遊びか何かだったとでも言うのか!」


「別にふざけてなんてないわよぉ? あたしはいつだって真面目よ?」


「何……?」


「アルフ……って言ったわね。あなた。ねぇ……あなたならどうして、って思う?」


「どうして……?」


「あたしが、本当に何の理由もなく、こんな事をしたと思う? それとも、別に何か理由があったと思う?」


 アルはその問いかけを投げられて、思わず言葉を濁した。

 ”本当に理由がわからない”からだ。

 気まぐれで町を滅ぼそうと、攻撃を仕掛けたのだろうか?

 しかしそれならば直参の者が現れるはずで、今回のような夜盗や山賊の類を使って行う事ではないはずである。

 そもそも、もし適当に攻撃でもやりたかったのならば、誰かを動かす必要すらないはずだ。

 彼女はれっきとした”神”である。一つの町を用意に潰すぐらいの力ならば、持っているはずだ。


「理由……」


 気まぐれではない。それならば、町ひとつ適当に破壊しつくすだけのはずだ。

 では―――理由があるならば、それは何だ?

 町を適当な夜盗たちを使って襲って、それで、自分がここへとやってきて、町の人間が来た瞬間に解放された。

 自分が来た瞬間に……だ。


「……誘き寄せ……られた? まさか」


 アルがその答えに辿り着くと、エズデッダの口元が吊り上ったように見えた。


「も、目的は……まさか、俺……?」


「そうよぉ……あたしが欲しかったのは、そこら辺の男とか、メスでもないの。ましてや、ガキとか年食ったジジババでもない」


 薄気味の悪い声を響かせながら、エズデッダは言う。


「あなたみたいな、精悍な男の子なのよぉ……」


 その言葉が放たれた時、アルの背筋に悪寒が走った。

 とてつもない恐怖が周囲に充満し、一気にアルの緊張が高まっていく。


「ば、馬鹿な……なんで俺なんかを……!?」


「フフ。そんなもの、構えても無駄よ」


 エズデッダは長剣にまるで怯む様子も無く、ずかずかとアルへ近づいてくると、彼が構えていた剣の切っ先に触れた。

 その瞬間―――彼女が触れた部分から、剣が黒ずんでいき始めた。


「うっ!?」


「こんなもの、私にとっては木の枝とおんなじ。いえ……それ以下かもね」


 剣がどんどん”錆び”付いてしまっている。

 信じられない現象だったが、見る見るうちに剣は先端からどんどん黒くなっていってしまっていた。

 アルはエズデッダから慌てて飛びのき、距離を取る。

 だが錆び付いてしまうのが極まった時、剣は今度は先端からボロボロと崩れていっていた。

 まるで、生物が腐りきって崩れていくような、そんな恐ろしい”腐食”の魔力だ。


「な、なんだこれは……! ザトラ鋼鉄の剣が……!?」


 メインであった武器が一気に破壊されてしまい、アルは慌てて予備の武器を構える。

 だが、既に戦意は折れ始めていた。

 戦ってすらいないのに、力の差が圧倒的過ぎることがわかるのだ。

 まるでアリが象に立ち向かっていくような、そんな無謀さが対峙して痛いほどにわかる。


「くっ、くそ……!!」


 エズデッダは必死に抵抗を試みるアルを前にして微笑みを浮かべる。

 まるでペットになるのを嫌がる小動物を、どうやって懐かせるか。

 食べられる事から必死に逃れようとする小魚などを、どうやって調理するか。

 そんな”いかにして篭絡するか”というのを考えているのが、アルにはすぐわかった。


「あなた、そんなに私の下僕になるのが嫌?」


「当たり前だ!! 俺は……ダニエスタの警備守護隊の人間だ! お前の奴隷になるつもりは一切無い!!」


「いいわ……いいわよ。自分から進んでここへ来るのもいるけど、あなたみたいな活きのいいのの方が私は好みだわ」


「くっ……」


 エズデッダを前に、アルは逃げ出そうと周囲を見る。

 来た道は憶えている。背後の方にある通路からやってきたのだから。

 アルは自分がこの部屋へと入ってきた通路へと逃げ込もうと、ちらりと視線をやったが、そこで自分の目を疑った。


(……っ!? 無い……無いッ!?)


 いくら見回しても、相変わらず薄気味の悪い部屋が広がるばかりで、この部屋へと入ってきた通路が見当たらない。

 周囲の生物のような地形が膨らんだのか、それとも何かしらの理由で壁が埋められてしまったのか、来たはずの道が塞がってしまっていた。

 僅かに穴のようなものが残ってはいるものの、とても人が通れる大きさではない。


「あら、帰る道はもう無いわよ。私を倒さない限りね」


「う、うう……」


「ふふ、あなたねぇ、プレゼントがあるのよ」


「な、何?」


「お持ちいたしました」


 壁が一瞬だけ開くと、ロックが通路から現れた。

 相変わらず、表情を一切変える様子が無く、淡々とエズデッダから受けた仕事をこなしている。

 彼は黒い布切れを被った人間を連れていた。

 中背ぐらいで、全身を覆う布で身体の殆どが隠れており、足首の辺りだけが見えているのだが、見た感じでは女性のように見えた。

 アルは背丈が知っている女性と同じである事をすぐに見抜き、思わず叫んだ。


「まさか……マーサ!? それともフィーナか!?」


「これはね。ここまで来れた事と、これから私の僕になるご褒美よ」


「……お前の持ち物になるつもりは無い! それに、二人ともだ! 二人とも返せッ!!」


「あら、そこに”二人”とも居るわよ? 何を言ってるの?」


「えっ……?」


 エズデッダに言われ、アルはロックの方を見るが、どう見ても彼を除けば立っているのは一人しか居ない。


「な、何を言って……」


「あなた、妹に恋されてたって知ってた?」


「えっ? フィーナが……!?」


「そうよぉ。あなたって罪深い男なのねぇ」


「そっ、それが何だって言うんだ……第一、今回の事とは何も関係が無いはずだ!」


「あら、関係あるわよ。私ねえ、愛ってものが物凄く好きなの。誰かを狂おしく思う気持ち……とても素敵じゃない?」


 その言葉を聞いて、アルは恐ろしい予感がした。

 彼は、エズデッダが言葉を発するたびに、心臓に小さな針を打ち込まれるような、そんな感覚を感じていた。

 その刺される針が、段々と深くなっているのを感じる。


「だからね。あたし、二つの愛を独り占めしてるあなたが羨ましくなっちゃってね……」


 自分の命そのものを、やがて奪おうとしているそんな”悪意”が発揮されようとしているのを感じた。

 アルはいつの間にか、歯の音が噛み合わなくなっており、それをどう止めようとしても止まらなくなっていた。

 そして、そんなアルの”恐怖”がピークに達した瞬間を狙うように、ロックが連れていた人間に被せられていた布を取った。


「だから―――”くっつけちゃった”」


 アルの双眸が見開かれた。

 その視線の先には、確かに助けようとしていた恋人と妹が立っていた。

 だが―――その目に映ったのは、そのどちらでもなかった。


「馬鹿……な……」


 長い金髪を携えた怜悧な少女マーサと、あどけない感じを振りまいていた天真爛漫な少女フィーナの、その”半分”ずつがその人間にはあった。

 右側にはマーサの、そして左側にはフィーナの身体が繋げられている。

 まるで―――二人の人間が縦に裂かれて、その”半分ずつ”が、ぴったりと接着されているような姿だった。


「う、嘘だ……嘘だ……」


『アル、よく来てくれたわね……』


 二人の声が、両側から響いていく。

 まるで二人の人間が全く同じ場所で話しているようなその姿は、アルにとって今まで見た事が無いものであり、信じたくない光景だった。

 こんな姿をした人間が居る、なんてのは嘘でも聞きたくなかったからだ。


『お兄ちゃんが来てくれて、あたし、とても嬉しいわ』


 アルはその光景を見て、発狂しかけていた。

 異形の姿と化した自分の恋人と、妹の成れの果てに。

 目の前の現実自体が、悪夢なのであるのではないか、と信じられなくなっていた。


「うあ……うわああああああああああ!!!」


 近づいてくる”二人”にアルは耐え切れず、剣を抜いて切りかかった。

 その刃が届こうとした時、”何か”が剣を止めた。


「うっ……?」


 慌ててアルは周囲を見る。

 止めているのは、目の前の異形の生物ではない。

 かといってロックや、エズデッダでもない。

 何故か、自分の手が止まっていた。


「なっ、なん……!?」


「フ フ フ。あなたは、もう―――おしまい」


 エズデッダが言い放った時、不思議な感覚がアルを支配した。

 周囲が無音となり、時間がひどく、ゆっくりになったように感じたのだ。

 1秒が数十秒にまで引き伸ばされているような、そんな感覚だ。


(なんだ……これは……)


 アルはその現象に戸惑ったが、その中で一つの事に気づいた。

 視線を”二人”へと向けると―――何かが見えるのだ。

 丁度、身体が半分にくっつけられているその”裂け目”から、何か”黒いもの”が伸びてきている。

 一見すると、黒い蜘蛛の糸のような、針金のように細いものだ。

 どうやら、これに武器を止められてしまった……ようだ。


(糸……? いや……何か……違う……!!)


 周囲の時間がゆっくりと流れる中、その黒い糸は、段々と”二人”の身体から染み出ていき、やがてそれは糸から縄へ。

 そして縄から人の手のような形状へと変わっていった。


(……っ!!)


 アルは、その手が自分めがけて伸びてきている事を知って、この”時間がゆっくり流れる現象”の原因がわかった。

 手が伸びてきているのは、自分の胸……心臓部の辺り。

 ”攻撃”を受けているのだ。ならば、これは―――


―――ザグッ


 アルの身体に、強い衝撃が入った後、彼の身体からは体温が急激に失われていった。

 何故なら、人間の体温を作り出す部分が、身体の外へともぎ取られていってしまったからだった。


「……が、はっ……」


 アルが感じていたものは”死の感覚”だった。

 絶対に来ないと思っていた敗北と、そして狂気に触れかけていた自分の精神。

 それと死の未来が重なり、まるで死の瞬間に人が走馬灯を見るが如く、周囲の時間がゆっくりであるように見えていたのだった。

 段々と、世界が薄暗くなっていく中、アルは”二人”を見た。

 涙を流し、必死に身体を後ろへと下げようとしているその姿を。


(あ、あ……)


 その時アルは知った。きっと―――彼女達は、抵抗していたのだ、と。

 それを知った時、力が及ばず、二人を助けられない自分をアルはとても情けなく思った。


(……すまない……マーサ、フィーナ……)


 アルの意識は、そのまま闇へと落ちた。

 全身から力が抜けて、彼がぐったりとすると”二人”も力なく、地面に倒れこんだ。

 それを見て、エズデッダが哄笑を響かせた。


「アハハハハ! いい! いいわぁっ! これぞ愛の究極の形って感じ! 最高だわッ!!」


「……」


 傍に立つロックは、表情一つ変えずに俯いていた。

 次の指示をただただ待って、まるで機械のようだった。

 だが―――そんな彼が、何かに反応するように、眉を動かした。


「……!」


 そして慌てて立ち上がると、まだ哄笑を吐き続けるエズデッダの前に立った。

 まるで、何かに備えて主の身体を守るが如く、だ。

 彼が立ち塞がった次の瞬間―――壁がいきなり、吹き飛んだ。


「意外に面倒な構造をしているな、ここは……」


 どうやら、この迷宮の壁は、分厚い肉の壁となっているようで、破壊する事自体は可能であったようだ。

 そんな、通路となった場所から出てきたのは、筋骨隆々の男だった。


「お前は……確か、マスターレクレフの……」


「まだ、お取り込み中だったかな?」


 そこに居たのは、どこかライオンを思わせる金髪の威容を持った闘士。

 縦に半分だけ割れた黄金の仮面をつけた男。

 レクレフの使徒「ライフォス」だった。



「何の用ですかな? わざわざ使徒が別の領域までやってくるとは」


 ロックが訊ねる。先ほどまでの淡々とした素振りからは考えられないような口振りで、彼はライフォスへ弁を向けていた。


「所用だ。だがその前に……これは一体どういう事ですかな?」


 ライフォスは目の前に倒れている一人の青年と、異形の姿と化している”もう一人”へと視線を向けて、言った。


「お前には関係の無い事だ。これはマスターの……」


「お前には聞いていない。スクロック」


「……!」


 ライフォスが言った台詞を受けて、スクロックはエズデッダを見た。

 今の言葉は、ワールドマスターである彼女に向けられたものであった。

 ただの使徒にしか過ぎないライフォスが、こんな事を言うのは異例の事であった。

 ライフォスに訊ねられたエズデッダは、面倒そうにそれに答えた。

 吊り上っていた口元は、もう引き締められていた。


「確か……ライフォス、って言ったわよね? あなた。逆に聞きたいんだけど”どういう事とは?”というのはどういう事かしら? 私が私の領域の住人を、どういう風にしようと、それはあなたには関係ないのではなくて?」


腕を組み、エズデッダは言った。


「それとも……気に食わないという理由だけで、他人の持ち物に、あなたは口を出すのかしら?」


 彼女は僅かにライフォスが怒っている事も見抜いていた。

 恐らくは、今しがた起きたことをライフォスはわかっているのだろう。

 それが気に食わないので、こうして食って掛かってきているのだ、と彼女は見抜いていたのだった。


「……確かに、口を挟む道理は無いですな。だが―――私はあなたを”心配”しているので、進言したのですよ」


「……心配?」


 思いもよらない言葉が出てきたので、思わずエズデッダは聞き返した。

 ただの個人の感情を振りかざしているだけの事であるはずなのに、何故そんな言葉が出てくるのか。

 ライフォスは、彼女と同じように腕組みをして、言った。


「エクステンドが行われていない今の世界に干渉する事は、なるべく控えるように。との通達が我がマスターより以前、行われておりました。それは、知っていますな?」


「それ位は知ってるわ。でも、そこまで厳密に守る必要は無いはずよ」


「その通りでございます。あくまでもこれは守られれば良い”基準”であって、厳密にそこまで守るべき”規則”ではありません」


「そこまで知っているのなら、何故ダメだと言うの?」


「私は遠くから騒動を見ておりました。そして……そこの者らが恋人同士であることと、兄と妹の関係である事も知っております。私はこれを誰かに訊ねられたならば、報告しなくてはなりません」


そこまでを言うと、ライフォスは数拍空けてから言い放った。


「もし―――こんな事をアレク様やアイザイア様が知ったら、どうなりますかな?」


 ライフォスが言うと、エズデッダの僅かに息を呑んだ。

 今まで、全く何事にも怯んだり、恐れる様子を見せなかった彼女だが、別のマスターの話になってくると、態度が変わった。


「だから? あなた……あたしを脅すつもりかしら?」


「マスター・エズデッダ。くどいようですが、私は貴方の御身を心配して言っているのですよ。もし―――そこの”妹”とされるものが、仮に”姉”であったならば。そしてそれをレクレフ様が知ったりしたならば、どうなる事か」


「……!」


「私は……あの方がお怒りになった所は一度しか見たことがありません。その時は、アイザイア様とジーク様、フレイ様、ソーンダイク様が4人掛りでお止めになられましたが、それでもすぐには止められず。大陸が”二つ”、沈みました」


「あの時ね……」


「それでもあの時はまだ本気ではありませんでした。もし本気で怒ったならば、どうなっていた事か……と。だから私は先程のように進言したのですよ」


「……」


 ライフォスが淡々と告げると、エズデッダは口元に手を当てて考え込んだ。

 余程、彼に”痛い所”を突かれたのだろう。

 それから数分間、彼女は何も言わずに周囲を無言で歩き続けた。

 その姿に溜まらず、スクロックが進言する。


「マスター。悩む必要などございません。あなたは……」


「黙りなさい」


 通達な一言。ただそれだけだったが、エズデッダが言うと、周囲の気温が数度下がったように思えた。

 いつの間にか、彼女は爪を噛みながら、考え事をしていた。

 どうもライフォスが言った言葉が、相当に効いているらしかった。

 やがて―――5分ほど経って、考え抜いたのだろう答えを彼女は言う。


「ロック。そこの二人を中央心室に連れて行きなさい」


「……はっ?」


「中央心室に連れて行きなさい。三度目は言わせないで。そして”蘇生”と”剥離”の処理をして、両方とも元に戻すのよ。今は、リインカーネイト・システムも止まってるから、そんなに難しくは無いはずよ」


「しっ、しかし……蘇生となるとお時間が掛かります。少なく見ても2年ほどは……」


「いいから―――やれって言ってんだろ!! 何度も言わせるんじゃねぇ!!」


 エズデッダの怒声が響いた時、周囲の時間が止まったように思えた。


「……っ!」


 スクロックは、エズデッダの荒々しい口調に追い立てられるかのように、地面に横たわっていたアルフとマーサ、フィーナの”二人”を急いで抱きかかえた。

 そして慌てて、逃げるように部屋を後にしていった。

 彼が出て行った後、部屋の中にはエズデッダとライフォスの二人が残った。


「……さて、それじゃあ、あなたの方の用件を聞こうかしら? 私の楽しみを邪魔してくれるだけのものではあるんでしょうね?」


 ライフォスはエズデッダに言われると、その場にひざまずく。

 そして、肩のプロテクターの辺りから、持っていた薄い一枚の紙を取り出した。

 どうやら、”手紙”のようだ。


「……? 何よ、それは」


「お手紙でございます。レクレフ様より、直々に配達をせよ、と命じられまして」


「手紙ぃ? 何よ一体……こんな紙切れ一枚。”メール”のコマンド辺りで送ってくればいいじゃないの」


「なんでも、非常に重大なご命令であるそうで、必ず直に会って届けろ、と。そして可能ならばその場で直接、返事を貰ってくるように、と命じられております」


 ライフォスが言うと、エズデッダは苛立ちを隠さずに、叩くようにして、彼から手紙を取り上げた。

 そして、いかにも惰性でやっているような感じで開いて、中身を見た。


「……」


 開いて彼女が内容を見ると、段々と口元から笑みが零れていく。

 やがて、感心するように一声呟くと、彼女はライフォスに言った。


「へぇ……面白いじゃない。とうとうやるのねえ。”エクステンド”」


(……エクステンド)


 ライフォスはその言葉をレクレフから伝えられ、聞いてはいたが実際にどんな事を行うのか、という事までは知っていなかった。

 ただ、これからこの世界に起こる”大いなる変化”であるという事だけを聞いていた。


「それにしても……ガングくん。中々面白い事を考え付くものねぇ」


 読み終えると、彼女が持っていた手紙は見る見るうちに風化していきやがて、粉のようになって霧散してしまった。

 そして、何かを探すようにエズデッダは周囲を見る。


「えーっと……どうしてやろうかしら……」


「マスター。あの、今日のご采配を……」


 突然、壁の一部分が崩れ、二人が居る部屋へと一人の少年が入ってきた。

 毬栗頭で、背丈は少々低めの、中学生ぐらいの少年だ。

 スクロックと同じように黒いスーツに身を包んでおり、青色の肌をしている。

 格好こそはスクロックと同じく、執事のようにピシッとしているが、どこか未熟さが残っている感じである。

 このエズデッダの居る場所で働いている”見習い”といったところだろうか。

 彼を見て、エズデッダは”あっ”と声を上げて指を刺した。


「え? な、何ですか?」


「”ザーノート”。丁度いいわ。貴方にしよっと」


 そこまでを言って、彼女はライフォスへと向き直って言う。


「ライフォス。返答が決まったから、伝えておいて頂戴。私は―――”マモン”を出すって」


「了解いたしました」


 ライフォスは”マモン”という言葉が何なのかが気になったが、彼の役目はメッセージを伝える事であり、そしてその返答をレクレフへと持って帰ることである。

 彼は余計な事を気にせず、エズデッダからの”返答”を心に刻み込んだ。



 ラクはK.Kに”ある事”を頼んだ後、彼と別れて街中を移動していた。

 次の戦闘に参加するためだ。


「さて……連携の為のスピードはまず、確保できた。次は指令系統をなんとかしなきゃな」


 ラクが次に行おうとしていたのは、全員への”指令系統の確保”だ。

 その為に、ガンテスかシーラを探していた。

 電想ウィンドウを開いて、連絡を取る事を試みるが、誰もまともに画面を開く事すら行わない。


「……ダメか」


 先程から、何度か通信回線を使って連絡を取ろうとしていた。

 戦闘状態ではあるが、ここはフィールドではなく街中であるので通信回線を使う事は可能だ。

 だが―――何度やっても繋がらない。

 最初は、画面を開くぐらいの事はされていたはずなのに、今ではノイズが掛かるばかりで、映像すら見えなくなっていた。

 恐らくは誰しもが戦っているため、または横浜全体に妨害の処理が行われている為、ウィンドウ画面を開けないのだろう。

 ならば、直接言って連絡を取るほかない。


(そろそろ……遭遇してもいいはずだが)


 現在、ラクはK.Kに「周囲の状況」を探ってきてもらっている。

 何故か? その理由は単純な事で、これから「対戦相手の交換」を行うためだった。


(今のままじゃ、まず負ける!)


 ラクが見た限りでは、悪人街のプレイヤー達は、全員、相性の悪い相手とばかり戦っていた。

 例えば、余り魔法系の能力が充実していないのに、戦士型と魔法系の複合能力を持つクラスと、などである。

 先程のK.Kとサイキッカーの対決などが良い例だ。

 あれは、魔法系のプレイヤーがK.K達のチームに混じっていれば、ある程度は対処が出来ていたはずなのである。

 ただでさえ、数で押し負けている。このままでは、こちらが形勢を盛り返せずに押し切られてしまうだろう。

 だが―――何かおかしい。


(しかし……なんでこんな、全員が全員不利に……?)


 戦闘が開始されて当初、ラクは少しでも形成を有利にするため、なるべく多くのチャンネルを開いて、戦闘の形成を見ていたのだが余りにも”全員”が不利過ぎているのに気づいていた。

 確かに、クラスや戦闘スタイルの相性、またパーティ編成によって、対戦相手に有利、不利が出てきてしまうのは仕方のない事だ。

 しかし、それでもここまで一様に全員が不利になってしまうわけがない。


「……まさか……」


 もしかして”配置”を把握されているのではないか? と当初、ラクは思った。自分達に送られてきたあのメッセージの事を考えると、こちらの情報が盗聴などされているのでは、という可能性は捨てきれない。

 だが、盗聴などを防御するため、最初に通信用のリンク・アドレスを新しいものにしたはずである。

 それ以降も布陣は変更を何度か掛けている為、ここまでピタリと相手の有利不利の相性を合わせられるわけが無い。


(それでも……この状態だって事は、もしかすると……)


 どこかのギルドに、こちらの情報を流している”裏切り者”がいるのかもしれない。

 もっと言えば―――最初にあの掃除屋のアジトに集まった”誰か”だ。

 この”不利”の状態は、戦闘の開始からずっと続いている。

 初期配置から知っているのは、あの場に集まった人間しか居ないのだ。

そして、全ての配置をあの後から知る事ができる人間も、掃除屋の人間以外には居ないはずだ。

 悪人街の人間は、ほぼ全てのプレイヤーが持ち場を与えられて動いているので、通常なら、街中を飛び回る事ができないからだ。


(通信ウィンドウを開いての連絡は使えないな……)


 もし―――通信を聞いている人間の中に、もっと言えば”掃除屋の誰か”に裏切っている人間がいた場合、自分の所属が掃除屋となっているおかげで、話す事が全て筒抜けになってしまう。

 それだけは避けなければならない。それを許してしまった場合、本当におしまいだ。

 これ以上、態勢が崩れるのだけは避けなければならない。


(K.Kは……大丈夫かな)


 先程、連絡を取ったK.Kの方は、少なくとも裏切り者ではないだろう。

 最初からこちらをハメるために戦っているフリをしていた、というのは考えにくい。

 アサシンも念力使い(サイキッカー)も、感覚の値が高いため、周囲を感知する能力は高いが、こちらをあの時は感知していなかった。

 だからこそ、自分は倒されずにK.Kを救えたはずのであるし、K.Kは誰も頼らずに、あそこまでボロボロになるまで戦っていたのだ。

 小細工を挟む余裕は無かったはずである。

 無論、疑えばキリは無いが……。


(ひとまずは、”シロ”と考えておこう)


 今、必要な事は……まず、戦力を補強する事である。

 その為には、なるべく強いプレイヤーに余裕が出てきてもらう必要がある。

 そうなって初めて、他の場所へと援護を入れたりする余裕が出てくるからだ。

 だからラクは、知っているプレイヤーの中でも、一際強力である二人を探していたのだった。

 あの二人の手が空いてくれれば、かなり”何か”をする余裕が出てくるはずであるから。


「この辺が……中華街のはずだけど」


 ラクはK.Kと別れた後、ひとまず中華街手前の守りを残った人間に任せておき、中華街の方へと入った。

 防衛ラインは、大まかに言うと6領域ほどに分かれている。

 まず、横浜駅からランドマークタワー手前程度までの海岸側である「中央地区」。

 そして駅から逆に都市部側である「都市区」。

 少し離れ、海岸のみなとみらい周辺の「港地区」。

 横浜公園を中心とした「公園周辺区」。

 中華街の周囲に広がる「中華街区」。

 都市区より関内駅を挟んで広がっている「商業地区」。

 おおまかにはこの6つである。

 そして、その周辺に2、3人ほどの掃除屋の人間とその場所をテリトリーとしている人間がまばらに居る、という形となっている。


(まぁ、俺のレベルでどれだけ手助けできるかわからないが……)


 中華街方面の担当者は、手前にK.Kと盗賊ギルドと暗殺者ギルドの中堅クラスのプレイヤーが配置されており、その奥に防御の要という事で、シーラとサイモン達の盗賊ギルドの中核の人間が控えていた。

 彼らをまず支援して”手が空いた”状態にしておきたい。

 その為にラクは中華街の方向へと向かっていたのだった。


「お、居た……!」


 ラクはやがて、中華街の大通りへと出た。

 そして人が大勢居る方向を見ると、その奥にシーラやサイモンらの姿が見えたことに気付き、安堵して近づこうとする。

 しかし―――ふと、足を止めた。


「う……あ、あれ……もしかして……!!」


 周囲に居る人間は、またしても倒れ込んでいるものばかりだった。

 ここもまた、強敵と戦っているのだ。

 しかも―――その姿には、見覚えがあった。


「くっ……面倒だねぇ……このクラスになると……!」


 シーラとサイモンらの前には、巨大な空色の鎧を着た騎士の姿があった。

 薄蒼く、潔癖さを感じさせるその鎧には、白地で何かしらの植物らしい紋様が描かれている。

 その様は、ラクが前に持っていた「アクア・サーバ・セイバー」をどこか彷彿とさせる感じだ。


「かってぇ……畜生、どうすりゃいいってんだコイツ……!」


 鎧は身体の外側をかなり厚く覆っているようで、パッと見ると背丈が3メートル超ほどはありそうな人間に見える。

 しかし、僅かに見える顔の部分から、彼が単純に巨大な鎧を着込んでいるだけなのがわかる。

 やや伸びた黒髪を携えた、作りの整った顔立ちの青年。

 それは―――ラクが最初にエクスクモと会った時、彼を連れ戻しに現れた騎士だった。


「続けて二人目、だってのか……!?」


 ラクが思わず、戦く声を上げると、それを待っていたかのように相手のプレイヤー・ネームが表示された。


≪要塞騎士 『ギャロット・ビクワークス』 -Fortress Knight-『Garrot Vicworks』≫

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