42:”無法”の体現者(4)
荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めであるとされる
「ゲダム」なるプレイヤーを探して”悪人街”と呼ばれる場所へやってきた。
そして掃除屋なる組織に加入して彼を探していたが
ある日、悪人街に賞金稼ぎたちから総攻撃が掛けられてくる。
同時にゲダム本人からメールが送られ、この攻撃を防げば姿を見せてくれるという。
ラクは依頼を完遂する道を選び、まずは「K.K」というプレイヤーと合流する為
戦闘地域へと赴くが―――
(文字数:11455)
現実世界と同じく、ファシテイトの中の横浜は早朝の状態となっている。
電想世界の中に職を持っている人間なども居る為、普段ならファシテイトの中とはいえ、この時間帯は多くの人が行き交っているのだが、今の横浜に人はまばらだ。
何故なら、横浜全域が戦闘状態へと突入してしまっている為である。
「この辺か……」
ラクは掃除屋のアジトにて、手に入れた情報を元に、横浜のとある場所までやってきた。
場所は横浜の西部。中華街方面の手前あたりだ。
情報どおりなら、この辺りが掃除屋の「K.K」が配備されているはずである。
「ここら辺りでK.Kって人が戦ってるらしいけど、どこに……うっ!?」
ラクがある大通りに差し掛かると、道が開けると同時に、何人ものプレイヤーが地面に転がっている姿が見えた。
どれも、手足がなかったり、赤色の欠損ダメージ塗れであったりと、ひどい状態だ。
それは―――全て倒されたプレイヤーであるのが人目でわかった。
これは夥しい量の”死体”なのだ。
(ひどいもんだな……)
武装している者も見えるが、中には学生服姿だったり、スーツ姿だったりと、一般プレイヤーの服装をしている人間も見えた。
恐らくは、賞金稼ぎがやってきて、周囲へと無差別攻撃が繰り広げられたのだろう。
応戦しているうちに、一般人も巻き込まれてしまった、というところか。
ラクはその光景を見て、顔を思わずしかめたが―――
ふと、大通りの遠くに、”何かの気配”を感じて横道に身を潜めた。
(何か居る……!)
ラクが物陰からこっそりと顔をのぞかせると、通りの中央にて”一人の少年”が立っているのが目に映った。
(一般人……?)
彼は”学生服”の姿で、防具を着けているどころか、まるで手ぶらであり武装していない。
”戦場”という他ない、凄惨な街中の光景からはだいぶ浮いているように見えた。
ラクは最初、その姿を見て、単純に逃げ遅れた一般人だと思った。
もしくは、横浜が危険エリアと化している事を知らずにログインしてきてしまった学校をサボった学生か何かなのか、と。
(いや、何か違う……!)
だが、何かが違う。奇妙だ。
余りにも―――”落ち着きすぎて”いる。
(敵だ……多分)
学生服姿の少年は、周囲にある死体を適当に手で動かしながら、何かを探すように辺りを見回していた。
普通なら、こういう場に居合わせると、たとえゲームの中であっても、そして周囲に本当の血の跡などが無かったとしても、リアルな戦場の中に居るような気分になって、薄気味悪い感じになるのだが、彼は周囲の事などまるで気にせずに、淡々と作業をしていた。
その姿も異様だが、まるで表情一つ変えないのが、とても気になった。
「おっかしいなぁ……居ないのかなぁ」
学生服姿の少年が、適当に死体を放り投げ始めたとき―――
ラクのすぐ真横を通り抜けるようにして、ナイフが飛んでいった。
(ッ!)
ナイフは一直線に男子学生へと飛んでいったが、それを察したのか、彼はすぐに身をかわし、飛んできたものを避けた。
同時に、ラクの背後を抜けるようにして一つの影が躍り出ていく。
顔まで含め、全身を漆黒の装束に包んだ姿。
服の各所には何かしらの紋様のようなものが銀や紫で作られている。
頭部からは”マゲ”か”辮髪”を模しているのか、編まれた糸の束らしいものが一本だけ伸びていた。
(K.K!)
ラクはその姿を見て、探していた掃除屋の一人「K.K」である事を確認した。
だが―――遠目からでも、ある事がわかった。
(なんだ……? ボロボロじゃないか!?)
K.Kの衣服が、やけにボロボロであるのだ。
バーで会った時の整ったものと違って、所々が破けたり、千切れて肌が露になっている。
そして、僅かに挙動がふらついていておかしい。
まるで全力疾走をした後のように、呼吸が上がっているように思えた。
(戦ってるのか……!)
どうやら、相当に苦戦しているらしい。やはり、あの学生服姿の少年は敵のようだ。
しかもK.Kのレベルは、確か60を超えていたはずだ。
それを相手にしているだろう筈なのに、あの少年はまるで傷一つ追っている様子を見せない。
つまり、相当に強力な相手である、という事だ。
「まだ来るの? もう面倒だから止めてよね」
「……」
少年が言うと、K.Kが素早く腕を振った。
何をしたのかラクにはわからなかったが、相手の方を見ると、いつの間にか手裏剣のような物体が頭部に突き刺さっているのが見えた。
高速での武器の投擲攻撃を行ったようだ。
だが、少年は平然としたまま言った。
「また投げモノか。これ以外何も持ってないの?」
(え……効いてない……?)
確かに投擲は頭に命中しているようだが、ダメージを受けている様子が無い。
兜などを着けていないので、防具の部分に命中したわけではない筈だが……。
ラクがそれを怪訝に思っていると、不自然なことに気づいた。
(あれ……? 刺さって、無いのか? もしかして)
学生服の少年の頭には、確かに四角い物体があるのだが―――。
目を凝らしてみると、わずかに”浮いている”ように見える。
刃の先端まで見えるので、どうも身体に刺さっていないようなのだ。
まるで、”見えない壁に遮られている”ようだ。
「全部やっつけないとダメって言われてるし……そろそろ、気合入れて掃除しないとなぁ」
少年は面倒げにそう言うと、突然、近くにあった電柱に触れた。
そして、手に力を込めると―――
「ふんぬっ!! っとぉっ!!」
(―――!?)
一瞬、ラクは目の前の光景が信じられなかった。
少年が―――”電柱を根元から引き千切った”のだ。
まるで地面に埋まっている根菜を、無理矢理抜こうとしたかのように、少年が掴んでいた部分から上がきれいに折れて、彼の手に収まった。
そしてそれを武器のように持つと、彼はそれを振り回し始めた。
「それじゃっ……消えてよねッ!!」
周囲を豪快に、少年はそれでなぎ払い始めていく。
ラクは電柱の長さなどはわからないが、どう見ても10メートルかそれ以上はあるように思える。
それを、少年は片手で振り回していた。
ややモノに身体を持っていかれているような、そんなふらついた感こそあるものの、周囲の建物や、あるもの全てを巻き込みながら、攻撃を行っていた。
とても人間技とは思えない。
(馬鹿な……! 嘘だろおい……!!)
確かに、筋力値を上げて、更に魔法などで底上をかければ、理屈の上では巨大な重量のものでも、持つことは出来る。
ただ、いくらそれでも限界がある。
本来は人が持つ事を想定されていない”規格外”な重量のものとなると、簡単にはいかない。
「……!」
K.Kは攻撃を巧みに回避していた。
丸太のような巨大な物体による突き上げる攻撃を、バク転で回避しつつ、横薙ぎの攻撃を、迫る電柱に手をつけて、跳び箱を超えるように回避する。
まるで体操選手のようなその動きは、見事という他ない。
サイモンもかなり動きが早かったが、彼は更に身軽そうな感じがする。
やがて―――K.Kは、少年の動きが大振りの後、一瞬止まったの所を狙って接近した。
「おっと!」
そして空中で回転を掛けながら、持っていた両刃の武器にて、少年へと攻撃を仕掛けた。
握る部分と対になるように刃の部分がある、特徴的なアサシンの武器だ。
少年へとそれを叩き付けるが―――またも、武器が届かない。
今度は真正面から、しかも顔面へと向けての攻撃であるのだが、片手だけで防御されてしまっている。
(片手で……いや、違う……! あれは!)
寸前で武器が見えない”何か”に止められてしまっており、それ以上進まないようになっていた。
ただのバリアーではない。非常に特徴的な”防御壁”だ。
ラクはその光景を見て、学生服姿の彼が、何のクラスについているプレイヤーかを確信した。
(”斥力フィールド”……!! ”サイキッカー”だ!!)
”斥力”というのは、重力の一つで、引力の逆のもの。
つまり”跳ね返していく力”の事である。
例えばこれによって地球と月とは、付かず離れずの距離を保っている。
引力しかなかったならば、月は地球に衝突してしまう。
基本的にこれは物理的な現象の一つであり、恣意的に発生させることなど不可能なのだが
ファシテイトの中では、とあるクラスの技能の一つとして存在しているのだ。
それが”斥力フィールド”と呼ばれるスキルである。
(ってことは、やっぱりアイツに全員やられたのか……!)
これを持つのは、魔法系クラスではなく科術系のクラスである「サイキッカー」である。
早い話が”超能力者”だ。
彼らは、魔法能力を全く使うことが出来ない代わりに、様々な超常現象を自らの精神力を使って発生させる事が出来る。
その中の一つが”斥力フィールド”だ。
これを使用されてしまうと、あらゆる物理現象が対象者を中心にして、阻害されて通らなくなってしまう。
特に投擲武器などの重量の軽いものでは顕著で、例えボウリングの玉を投げつけられても
この防御壁はビクともしないといわれている。
ただ、この能力を使うには相当な修練が必要であるらしいので、使える人間は非常に少ない。
”超能力者”のクラスをメインにして使う人間自体が少ない為、これを使えるのは本当に一握りの人間だけと言っていいだろう。
「さて……終わりだっ!!」
攻撃が止められている中、少年の手がK.Kの胸元へと伸びていく。
(ッ! まずい!)
ラクはそれを見て、ハッとなると同時に、腰の道具袋から銃の形状をした武器を取り出した。
様々な投擲用の物体を、相手へと高速で飛ばす「アイテムランチャー」だ。
ラクはそれに”真っ白なボール”を即座に込めると、少年へと向けて発射した。
(発射!)
「……うん?」
そして、K.Kの胸元へと手を向けて、今まさにトドメの一撃を放とうとしていた少年へと、ラクが放ったボールは命中し、周囲に真っ白な粉を散乱させた。
これは”煙幕玉”だった。
ラクがいつも常備している道具の一つで、相手の視界を奪う為、逃げる為に使用する道具だ。
「うわっ! な、なんだこれ!」
一旦、少年はK.Kから離れて、慌てて周囲を払った。
そして面倒だと見ると、超能力(PK)を使い、周囲に風を起こして煙幕を吹き飛ばす。
周囲にあった白い煙のカーテンが全て消えた時、もうK.Kの姿は無かった。
「あれ……? 逃げた?」
■
少年との戦闘場所から、少し離れた場所にて。
ラクは背中に抱えていたK.Kを下ろし、回復用の滋養ドリンクを飲ませていた。
そして同時に、傷の回復を回復魔法で行い、体力の方を道具で充填させていく。
これは、ある程度の経験を重ねたゲーマーなら知っている”高速回復法”のひとつである。
「ギリギリだった……」
ラクは煙幕による攻撃で、一時的に相手の視界を奪いつつ、K.Kをすぐさま背中に抱きかかえる様にしてその場を離れたのだった。
接近するのは正直、かなり危険な行為だったが、あのままでは確実に倒されていた為、仕方が無い。
「しかし、こりゃひどい。よく動けてたもんだ」
ラクがK.Kの体力を確認すると―――彼のHPバーは既に赤色の危険域を示していた。
既に限界値を超えており、もはやHPが1割ギリギリという状態になっている。
もう少し救援に来るのが遅ければ、あの周囲に散乱していた死体の仲間入りを果たしていただろう。
決して彼は弱くは無い筈だが、相手はそれ以上に強力だったという事である。
「相手は誰だったんだろうか……レベル60クラスの相手を倒せるんだから、それ以上って事か」
ラクが呟いていると、やがて体力がある程度戻って気が付いたのか、K.Kが面を上げた。
そして、ラクの服を掴んだ。
「え? な、何ですか一体?」
ラクがそれに気づくと、K.Kは両手を合わせて感謝の意を示した。
どうやら、助けてくれた事に感謝しているようだ。
そして立ち上がると、すぐさま戦闘を行っていた場所へと行こうとする。
ラクはそれを慌てて止めた。
「ちょっ! ちょっと待った!」
ラクが服を掴んで止めると、怪訝そうにK.Kはラクへと顔を向けた。
慌てて、ラクはこのまま行っても無駄である事を説明した。
「もしかして戦いに行く気ですか? 無理ですって! 今行っても、絶対に勝てない!」
ラクが言うと、K.Kは片手の人差し指と親指の間を広げる形を作り、その下にもう片手で輪の形を作った。
ラクはそれが何の真似か一瞬わからなかったが、やがてよく見ると「?」のマークになっている事が理解できた。
彼は「何故?」と恐らくは言っているのだろう。
どうも彼は本当に一言も喋らないようで、こうやってジェスチャーのみで会話を行うようだった。
「何故? って事? そりゃあ、当たり前ですよ! 相手が”サイキッカー”だからです」
K.Kはその答えに首を傾げるような素振りで返した。
どうやら、彼はサイキッカーについてよく知らないようだ。
「えーと、いいですか。サイキッカーってのは、要するに超能力者なんですけど、高レベルの相手だと、物理的な攻撃に物凄く強いんです。飛び道具とか、刃物とかが効かなかったのはそのせい。何故なら、”斥力フィールド”って言う、強力な物理型の防壁が張り巡らされてるからです」
「……」
ラクが話し始めると、K.Kは身体をラクの方へと向け、彼の話に聞き入った。
どうやら、このまま向かっていってもダメである事はわかってもらえたようだ。
「だからですね、この場合は相手の防御を破るか、影響を受けないもの、特に”魔法”タイプの攻撃が使えないと、ちょっと不利すぎるんですよ。このままアンタ一人で行っても、まず負けます! 多分、何十人も束になって最初は掛かっていったんでしょう? 今行っても、それの二の舞を踏むだけですよ」
ラクがそういうと、K.Kは戦闘を行っていた方向を指差した。
そして次に、手で空中を切るような素振りの後、ガッツポーズ。
それから、最初にやっていた「?」マークを手で作った。
「”戦う”、”勝つ”、”どうすれば”……?」
ラクが言うと、K.Kは首肯した。
どうやら、彼に逃げる気は更々、無いようだ。
「難しいですよ。あれを倒すのは……第一、あれは誰なんですか?」
ラクが訊ねると、K.Kは掌を広げてから、そこに星型のマークを描いた。
その行為の意味を理解すると、ラクは戦慄し、言った。
「まさか……! ファイブ・スターズの一人って事ですか!?」
K.Kの返答は言うまでも無く、肯定の返事だった。
どうやら、ラクはいきなり大当たりを引いてしまったらしかった。
■
「嘘だろう……!? まさか、いきなり……」
ラクが戦いていると、K.Kは懐から、何か手紙のようなものをペンと共に取り出して素早く書き、ラクへと手渡した。
そこにはこう書かれてあった。
「”エド・ハヤト”……? アイツの名前、ですか?」
ラクが訊ねると、K.Kは頷いた。
そして続けて、向こう側を指差してガッツポーズ、そしてその後に「?」の文字を手で作る。
倒す方法が何か無いのか、と訊いているようだ。
「倒す方法って言われても……」
ラクは口篭った。何故なら、相手のレベルなどが一切わからない以上、こちらから仕掛けるのは危険でしかないからだ。
例えば、相手のレベルだとかがある程度わかっているのなら。
そして体力がもう半分ぐらいしかない、などがわかっているのなら、特攻を仕掛ける事も、できなくはない選択だが、それがわからない以上は、どんな手を取った所で自殺行為でしかない。
だがK.Kはどうしても戦いたいらしく、何か手が無いものか、と次の言葉を待っているようだった。
「なんでそんな、戦いたいんですか? 相手が相手だし、逃げた方が……」
ラクが言うと、K.Kは地面を指し、そして自分を指してから両手を上げて、ファイティングポーズを取った。
ラクはそれを見て、言う。
「”ここ”、”おれ”、”戦う”……? いや、”守る”?」
ラクが言うとK.Kは首肯した。
どうやら、ここが自分の割り当てられた防衛場所であるので、どうしても逃げたくは無い、ということのようだった。
「う~ん……手があるにはあるけどなぁ……」
ラクが言うと、両肩を突然、K.Kが掴んで揺さぶった。
どうやら”教えて欲しい”という事のようだ。
「いや、ある事はありますけど……危険だし、倒せるか補償は無いですよ? というか、多分倒すにはちょっと難しいと思います。相手が相手だから……」
ラクが言うと、K.Kはラクのほうを指差してから片手で”○”の形を、そしてもう片手の中指と薬指を器用に曲げて”K”の形を作った。
”それ”、”OK”と言っている様だ。
ラクが「それでもいいから?」というと、K.Kは激しく首肯した。
「……わかりました。じゃあ一応、やるにはやってみます。けど……俺は直接、攻撃には参加しないですよ? ちょっと死ねないから」
両手を激しく振って”早く”という意思表示をするK.Kに、ラクは渋々、自分が知っているサイキッカーへの対処法を教え始めた。
■
「逃げた……かな?」
K.Kを見失ってから少し経って―――学生服の少年「エド・ハヤト」は、逃げられた獲物を探して周囲を探索していた。
電柱を持って、周囲を漁りながら、だ。
傍目からすれば、恐怖の光景以外の何者でもない。
「いちおー全滅させてから制圧連絡しないと、あんちゃん怖いからなぁ……」
「……」
「おや……?」
死体を適当にかき回している中、ふと、ハヤトが気づくと―――
離れた瓦礫の山の上に一人の影が立っているのが見えた。
探していた「K.K」だ。
「逃げずに来たかい。どうやら、負ける覚悟が出来たみたいだね」
周囲に死体が散乱する中、二人は戦闘のため、身構えた。
K.Kは両手にアサシンの武器を構え、ハヤトは持っている電柱を振り上げて肩へとかける。
(ん……? 体力が回復してる? 何か使ったのかな)
この時―――ラクは周囲にあるビルの屋上へと上っていた。
実の所、ハヤトは”K.Kを見つけた”のではなく、彼は”二人で待ち構えていた”のである。 とある作戦の為だ。
「それじゃあぁっ、いくよぉぉっ!!」
「……」
K.Kは、再び振るわれ始めた電柱での攻撃を避けつつ、僅かずつ接近していった。
その中で、彼はラクから提案された作戦を頭の中で反芻していった。
『いいですか。超能力者ってのは……俺もそこまで知ってるわけじゃないんですけど、明確な弱点が一つあるんです。それは……』
「そりゃっ、そりゃっ! そりゃあぁぁっ!!」
振り回す攻撃が、建物を巻き込み、周囲に瓦礫を散乱させていく。
K.Kは、ハヤトがラクが潜んでいる建物を狙わないよう、また相手へと攻撃する為に、良い場所へと陣取れるよう、なるべく周囲が開けた位置へと移動していく。
決して作戦を気取られぬように。
「……ッ!」
K.Kは何度か手裏剣を投げつけるが、どれもやはりハヤトには命中してもダメージを与えられない。
予想以上に強力な斥力フィールドに守られているようだ。
「……」
聞いた話の通りだ、とK.Kは妙な安堵感に包まれた。
今まで、全く攻撃が効かないのが不思議であったのだが、その理由が判明するだけでこうも安心するのか、と感じた。
(なんだ……落ち着いてる?)
ハヤトは戦っているうちに、相手の様子がおかしいと感じた。
前と違って、焦っている様子が、余り無いように思えたからだ。
前は、恐らくは自分の能力の正体がわからなかった為か、どこかこちらの弱点を探さなければ、そして効果的な一撃を与えなければ、と急かされているような感じがしたのだが、それが今度の相手からは感じられない。
(感づいたかな……)
ハヤトのその様子を、建物の屋上から伺っていたラクも気づいた。
先程までと違って、攻撃が大人しくなり始めたからだ。
だがこれも推測の範囲内である。
そこを狙って、K.Kは”作戦”通りの攻撃を仕掛けていく。
『櫛風』
「……う!?」
低音のシステムメッセージが響いた後、ハヤトの視界からK.Kの姿が消えた。
そして気が付くと、背後からダガーが突き立てられていた。
「……!」
(危ない危ない……喋らないから、技名が後から聞こえるのか)
命中はしたものの、斥力フィールドがあるため、K.Kの攻撃は通らない。
だが、もしこれがなければ、勝負はこちらがかなり不利になっている事だろう。
電柱を持って振り回したりしているものの、超能力者は能力的には魔法使いに近いステータスである。
能力を抜いた時の武具の扱いだとか、至近距離での殴り合いなどには余り強くない。
今、ハヤトはレベル67。相手のK.Kは64で僅かにハヤトが上回っているものの、クラス特性もあって、筋力などのステータスは遥かに劣っているはずだ。
(とはいえ、これがある限りは負けないけどね……)
(多分、そんな風にでも考えてるんだろうな)
ラクは、そんなハヤトの思考すらも読み切って作戦を立てていた。
対戦型ゲームの基本とは、相手の行動を読む事にある。
例え高レベルプレイヤーであっても、ハヤトのような特定の能力に頼っている相手は、その弱点を突かれた時、非常に崩れやすくなる事を知っていたからだ。
―――ガッ! ガガガッ!!
連続でK.Kが刃を振るうが、見えない壁に虚しく木霊し、跳ね返されていく。
それがあるからか、ハヤトは殆ど防御行動を行わず、持っている電柱を振り回しながら、まるでじゃれつく小動物でも払いのけるかのように、大振りでK.Kをいなしていった。
ラクは一定時間が経つと、そろそろ”予定の時間”である事を確認し、屋上から手を一瞬だけ広げて”サイン”を送った。
「……」
K.Kは、その合図を見て、次の攻撃が”本命”である事を確認すると、一旦離れた。
そして突然、ハヤトへと人差し指を向けた。
「……ん? 何の真似だい?」
K.Kは直撃こそ避けているものの、ボロボロの状態となっている。
だが、ヤケに自信たっぷりに見えるその姿は、どこか滑稽な風に見えた。
やがて、K.Kは首を掻っ切るパフォーマンスと共に、再びハヤトを指差す。
「”次の攻撃で決める”、かな? 面白いじゃないか」
それを見て、ハヤトはどうやら彼が余裕を持って戦っていたのではなく、単純に捨て鉢になっていたのだ、と結論付けた。
それも、ラクの作戦のうちだった。
(さて……それじゃ、俺も構えるか)
ラクは、”とあるもの”を込めて、アイテムランチャーを構えた。
結論から言うと、”同時攻撃を仕掛ける”というのがこの作戦だ。
単純な、しかし―――その効果は絶大な作戦である。
『絶技』
「―――っ!」
一直線にK.Kはハヤトへと接近していく。
両手にアサシン独特の武器「ジャマダハル」を構えて。
そして、至近距離まで肉薄すると、嵐のような袈裟切りの連打を放ち始めた。
『鋼嵐!』
目にも留まらぬ、凄まじい切り攻撃の連打に、思わずハヤトは防御の姿勢をとった。
電柱で防御しようとするが、それすらも一気に削り取られて破壊されていく。
”嵐”の名を冠するにふさわしい、とてつもない連続攻撃だ。
だが―――それでも、斥力フィールドは破れない。
強烈な連打に、流石に削り取られてはいるのだが、ハヤトが強力な超能力者である為、余りにも防御壁が頑丈であるのだ。
「ハッ、頑張ってるみたいだけど……」
(”轟音弾”、発射ッ!)
シュポッ、という少々気の抜けた音と共に、ラクがアイテムを発射した。
音が小さい為に、またやや離れた位置から発射した為に、それにハヤトは気づかなかった。
「それじゃあ、こいつは破れ―――」
超能力者の能力に最も重要なものは、”集中すること”である。
何故ならPKなりESPなり、使用するのは、どちらも”感覚”のステータスであるからだ。
だから、集中を乱される事は、そのまま能力の発動自体に影響が及ぶ。
”味覚”、”触覚”、”聴覚”、”視覚”、”嗅覚”。
超能力者、というのはこの五感の内のどれかが乱されてしまうと、発動中の能力がいきなり消えてしまったりするのである。
どの”五感”が弱点であるか、というのは個人差があるのだが、大抵の能力者には”聴覚”での攻撃が非常に効果的となっている。
―――ガオオオオオォォオオォォオオン!!
「うう”ッ!?」
とてつもない至近距離で、耳を劈く音が轟いた。
まるで、数十メートルは直径のあるシンバルが耳元で鳴らされたような、骨の髄までが直接痺れさせられるような、金属の超高音。
K.Kは音への耐性が高い”布製装備”で身体を覆っている上、この作戦をやるので、あらかじめ”耳栓”をラクから渡されて着けていた為、大して影響は受けなかった。
だが、ハヤトは違った。
至近距離でモロに受けてしまった為に、フィールドを維持できなくなってしまった。
そして”壁”が消えた瞬間―――
―――ザクザクザクッ!!
「ぐっ!? う”、う”う”ッ!?」
当然ながら、壁が無くなれば身を守るものは何も無い。
彼が着ているのは、PKの補助の為に作った学生服だけだ。
これは、PK能力の補助と、他のステータスを底上げする為の細工がなされているが、防具としての”硬さ”は、当然ながら普通の学生服のレベルでしかなかった。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
まともにK.Kの嵐のような絶技を受け、ハヤトは大きく吹き飛ばされた。
HPは一気に削られていき、同時に、ラクにも表示が確認できるようになる。
(効いた!)
「ぐ、ぐぐ……」
「……!」
今まで全く効かなかった為、K.Kはハヤトがあっさりと吹き飛ばされたのを見て、やや固まっていたが、すぐに今が攻撃のチャンスである事に気づくと、追撃を行った。
矢のようなスピードで肉薄し、再び―――
『夜葬』
相手を飛び越しながら、十字に交差するように斬りつける攻撃。
それは無防備なハヤトに、面白いようにモロに直撃し、再び一気にHPを削る。
この攻撃で、一気にハヤトの体力値は3割近くにまで減っていた。
更にK.Kは攻撃をかけようとする。
だが、動揺から復帰したハヤトが、それを止めるように指を振り上げて、言い放った。
「パイロ・サーベル」
指から突如、真紅の線が伸びていき、それが真横に振るわれると、横一面に火炎が放射されていった。
K.Kは素早くその攻撃を身を屈めて回避する。
その隙にハヤトは身を翻し、空中へと飛び上がった。
「ぐっ、う、うう……どうやら、一人だけじゃ……無かったのか」
空へと浮かび上がると、建物の屋上に居たラクの姿を確認し、ハヤトは攻撃を掛けようとする。
だが―――指を向けた途端、身体がぐらつき、落ちそうになった。
どうやら相当に深手を負った為に、戦闘続行がもう難しい状態であるようだった。
(ぐ……これ、以上は……)
「く、来るかっ!?」
ラクはランチャーに毒針弾を込め、ハヤトが攻撃してくるか様子を伺った。
「お前、だな……妙な作戦を立てた、のは……」
ハヤトからのその問いに、ラクは武器を構えたまま答えた。
「何が……”妙な作戦”だよ。サイキッカー対策として当たり前の戦法だ。それだけボロボロになったのは、単にお前が油断しすぎてただけだよ」
「……ふん、確かに……まぁ、そうかもしれないね」
話す度にふらふらとハヤトはぐらついている。
余程K.Kの攻撃が効いたのか、それとも飛行するのは、元々エネルギーを多く要するからなのか、浮いているのもやっとのように見えた。
「”ラクォーツ”ね。憶えておくよ……次は……お前から始末してやる……!」
やがてラクの名前が表示されたのを確認したのか、ハヤトは皮肉めいた口調で捨て台詞を残すと、街の外へと飛んでいった。
嫌な汗をかいたラクは、激しくなった呼吸を整えながら建物を降りて、K.Kへと合流した。
降りてラクの姿を確認するなり、K.Kは空を指差す。
そして指を振って、その指し示す先をどこへ向ければよいのか、というジェスチャーをする。
おそらくは”どこへ行った?”と言っているのだろう。
「あいつは街の外に逃げて行ったよ。一旦、退却したんだろう。あれだけ深手を負わせてれば、回復にも時間が掛かるはずだから、しばらくはこっちには来ないはずだ」
ラクがそう言うと安心したのか、K.Kはその場で身体を折り曲げるようにして膝に手を着いた。
どうやら、彼もかなり今の戦闘で疲労したらしい。
無理も無い。相手が相手だったので、精神的に相当キツかったはずだ。
「……とはいえ、休んでる暇はないか」
ラクは一息を着いたK.Kを見て、少々気の毒かも知れない、と思いつつも、自分がこれからやろうとしている”更に大きな作戦”を話す為、近づいていった。




