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44:”無法”の体現者(6)

 荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めである「ゲダム」というプレイヤーを探して

 ”悪人街”と呼ばれる場所へやってきた。

 そしてある日、悪人街に賞金稼ぎたちから総攻撃が掛けられてくるのに巻き込まれるが、同時にゲダム本人からメールが送られ、そこには「この攻撃を防げば姿を見せる」という内容が記載されていた。

 ラクは依頼を完遂する道を選び、戦闘地域へと赴くが、次々に敵が現れ、戦いは苦境に立たされていく。

 なんとか打開を試みる為、ラクは盗賊ギルド達の守る中華街へと赴くが、そこには、ファイブ・スターズの一人「ギャロット」が居た―――

(文字数:14225)

 横浜中華街。

 現実世界のそれは、豪華絢爛な商店街である場所であるが、電想世界のその場所は、かつては中国人のプレイヤー達が根城を構える悪人街だった。

 現実と同じく、昼間でも夜間でも人の流れが絶える事は無く、今でも多くの外人プレイヤーが集う場所であるのは、同じである。

 そんな―――”中華街”へとラクが辿りつくと、周囲の人々よりも数段巨大な威容を持つ”騎士”が目に付いた。

 脚や腕などが鎧による防具装備によって長くなっているようで、一際大きなその姿は、少なく見ても3メートルほどはある。もし種族設定に「オーガ」だとか「トロル」だとかがあったら、丁度そのぐらいのモンスターほどはあるサイズであるように見える。

 ラクが少し前に見た「人食いゴリラ」よりは流石に小さいが、サイズ的にはいい勝負をしているかもしれない。


(アイツは、あの時の……!)


 ラクは、その鎧の姿には見覚えがあった。

 少し前に、ラクが初めて悪人街へとやってきた時。

 エクスクモが初めてここへと現れた時、彼は最後に知り合いらしいプレイヤーに連れ戻されていっていたが、その時に現れた騎士の姿である。

 余り見ない格好なので見間違えようが無い。

 ファイブ・スターズの一人であるらしい、と後で聞いていたため、ラクはその姿を見て思わず驚いた。

 ただ、同時にある事が気になった。


(一人……? 他に誰も居ないのか?)


 そう、”単独”であるのだ。

 彼はどう見ても”騎士”クラスのプレイヤーである。

 騎士のクラスは、ゲーム内のパーティの役割において、前線に立ち、高い防御力で敵側の攻撃を食い止める「壁」の役をするクラスだ。

 攻撃役(アタッカー)も兼任できる事は出来るが、基本的にチームを組んだ時にこそ真価を発揮するものである。

 単独(ソロ)では今ひとつの実力しかなく……いや、動作がかなり鈍い方のクラスである事を考えると、一人ではただの的になるだけであって、”危険”であるとすら言ってもいい。


(伏兵か……? まさか)


 もしかすると、単独ではなく、わかりにくく周囲に仲間が伏せられているのではないか?

 ラクは、そう思って周囲を確認したが、それらしいものは見当たらない。

 ただただ、前のK.Kの時のように周囲に倒れたプレイヤーの姿が見えるだけだ。

 対峙しているプレイヤー達が、本当にギャロット一人だけを向いている感じからすると、彼は正真正銘、”単独”で攻撃を仕掛けに来ているようだった。


(ま、マジで一人なのか? そんな馬鹿な……有り得ないだろ)


 ラクはその事実に目を疑った。

 一人で攻撃を仕掛けてきている、という事もだが、周囲に広がっている光景が異様であったから、だ。

 中華街の方で見た光景と同じく、倒されたのか地面に伏した人間が多く居るのである。


(全員、倒されたのか……?)


 全員、HPが非常に低くなってしまっており、戦闘不能か死亡してしまっているようだ。戦っているのはシーラ、サイモンを含めて10名ほどだけである。

 恐らくは盗賊ギルドの中核メンバーたちなのだろう。

 だが……それにしてはギャロットの体力値が余りにも減っていない。

 ほぼ9割前後は残っている。全く削られていないと言ってもいい程だ。


(こりゃあ、多分一掃されたな……)


 ラクはその様子を見て、また先ほどのK.Kのように”相性の悪い相手”を組み合わせられたのではないか、と推理した。

 仮に彼一人で周囲のプレイヤー達を一掃したとして、クラス特性が噛み合えば、十分に可能の範囲ではある。

 鈍いとはいえ騎士はパワータイプであるのだから。

 だが―――相手が”盗賊クラス”と考えると、少し難が出てくる。


(しかし一体どうやって……? 相手、相当早い奴らばっかのはずだぞ……)


 何故なら、盗賊クラスというのはスピードが高い上、ある程度の万能性を持ったクラスである為、魔法や科術攻撃などの”サブ能力”を大抵は持っているからである。

 今、対峙しているシーラ達が魔法などを使う余裕がないのはわかるが、最初にプレイヤー達が迎え撃っていた時に、魔法攻撃で迎撃されなかったはずは無い。

 そこで倒せなかった……という事は、考えられる事はかなり絞られてくる。


(って事は、考えられるのは……)


 ”後からの追加攻撃を許さない”という事ができるのはただ一つ。

 「最初の攻撃で、大多数が撃破されてしまった」と考えると辻褄は合う。

 そう考えると、ラクには使われたスキルは予想がついた。


「……ッ!」


 ラクが近づいていくと、ギャロットが持っていた身体の半分ほどはあろう”大盾”を、大きく空へ向けて振りかぶったのが見えた。

 ラクはそれを確認すると、次に動作が始まったのに合わせてしゃがみ込み、力の限り飛び上がった。

 盗賊ギルドの人間も、同じように高く跳躍していく。

 転瞬―――世界が”揺れた”。


「……むんッ!!」


―――ドォォォン!!


「ぐっ……”シールド・クエイク”かっ!!」


 ギャロットが地面を大盾で殴りつけると、周囲に轟音が響き渡り、同時に”地震”が起こった。

 騎士の広範囲攻撃スキルである「シールド・クエイク」だ。

 周囲の建物が崩れていくと共に、空へとジャンプが遅れた数名が、脚部分から赤色のエフェクトを除かせて転ぶ。


「グッ、アッ?!」


 脚にダメージを負ったのだろう。

 転んだ数名は一気に体力が削られていき、そして倒れ込むと、そこを狙ってギャロットが巨大な体躯を突進させていった。

 突然、ダンプカーが最高速度で動き出したようなその動きは、彼の大きさから考えると、信じられないような速さだった。


(うっわ! 嘘だろ……ッ!?)


「おおおうッ!」


「うっ、ううおわぁっ!!」


 突進攻撃で一気に固まっていた数人を弾き飛ばし、残ったプレイヤーを盾での薙ぎ払いで撃破していく。

 剣も持っているが、ギャロットの攻撃はこの”盾”によるものが主力であるようだ。

 かなり強力な攻撃であるようで、命中すると共に、当てられた方は軽々と宙を舞っていき、同時に体力値が次々にゼロにされていく。


(あれで一気に全滅させたのか……!)


 恐らくは、あの「シールド・クエイク」と使っての地震攻撃で、魔法能力に秀でているが、耐久力の低い者たちを倒し、一気にメンバーを減らしたのだろう。

 動きが鈍い分、「広範囲攻撃」を使ってそれをカバーしているのだ。

 推測だが、単独で突っ込んできているところを見ると、他にも似たような技を持っているに違いない。


(やばいな……さっきの奴と違って隙が無い感じだ)


 丁度、ラクが5メートルほどまで近づいた時。

 ギャロットもラクに気付いたようで、話しかけてきた。


「おや……? よく見れば、あなたは前にここでエクスと戦っていましたね?」


「あ、ああ……」


「ふむ……あなたが”ラクォーツ”ですか。丁度よかった。あなたに……”出頭命令”が出ています」


「出頭?」


「はい。あなたを捕縛もしくは出頭させろ、ということで命令を受けていますので」


(なんだって……!?)


「どうも、エクスは余程あなたの事が気に入らないようです。この作戦が決まった時も、一番最初に名乗りをあげたようですし」


 ラクはここへ来て、この悪人街に攻撃を掛けられた理由がわかってきたような気がした。

 今まで、不可解であったのである。

 いくら敵対しているとは言え、いきなり組織同士で全面戦争になるわけがない。

 何かしら理由……いや「動機」があるはずである。

 それは何か?


(もしかして……俺を狙ってきてるのか?)


 最初にどういった理由でこの攻撃が決まったのか?

 本当に電想世界の区画整理であるはずが無く、そこに誰かしらの思惑が絡んでいるのは間違いない。そして組織を動かせるような人間の思惑、となると出来る人間はかなり限られてくる。


(やっぱり、どこかで漏れたのかもしれないな)


 ラクは、ここで少し前から懸念していた”スパイ”の要素を思い出し、やはり情報が漏れているのではないか? という結論を導き出した。

 あの”会議”での事が誰かによって外部へと漏れており、それを感知した政府の人間、もしくはエクスクモが自分を、重大な違反者として捕縛しに来たのでは? と。

 それならば、いきなりこんな風に攻撃が仕掛けられたのも納得が行く。

 しかし……腑に落ちない部分もあった。


(いや、待て待て。なんか変だぞ……それなら……ここまで大規模な攻撃を仕掛ける意味が無いはずだ)


 もし、ターゲットが自分だけならば、全面対決に持っていくのは何か変である。

 腕利きの賞金稼ぎを、こっそりこっちへ送り込んできて始末すればいいだけだ。

 向こう側にスパイが居るのならば、それ位大して難しくは無いはずだ。むしろ、

スパイが居るのならば逆にその手段を選ばない方が変に思う。

 ここが悪人街であり、攻撃を仕掛けにくいという事を差し引いても、やはり何かおかしい。

 まだ、自分の辿りつけていない”思惑”がある、とラクは思った。

 ただ―――この段階でも、一つだけ言える事がある。


「悪いが……出頭する気は無い。何をされるか、わかったもんじゃないからな」


「ならば……力づくでも連れて行くしかありませんね。少々、辛いことになりますが……ご了承願いますよっ!」


(どっちにせよ、やられるわけには行かない……って事か)


 ギャロットが足踏みをすると、周囲に僅かな地鳴りが響いた気がした。


「何キロあるんだ? 一体アンタ……」


「鎧の全重量は”8トン”あります。それ以外は口外は控えます」


 8トントラックと同じとか嘘だろう、と思いつつ、ラクは右手にバトル・ナイフを。そして左手にアイテム・ランチャーを構えた。


■


「るおおおおっ!!」


 ギャロットは、攻撃を仕掛けてくるシーラなどの盗賊ギルドの面々を、全く気にすることなく、ラクへと突っ込んできた。

 そして接近すると、持っている大型の騎士剣と盾を交互に振り回しつつ、ラクへと攻撃を仕掛け始めた。


「う……わっ!」


 車などの物体を巻き込みつつ、周囲を薙ぎ払う攻撃は、さながらトロルやオーガなどの大型の人型モンスターと本当に見紛(みまご)うような光景だ。

 確か鎧の重量が”8トン”あると言っていたが、一体どれだけパワーがあるのだろうか。

 ラクは、振り回しの攻撃を身を翻しつついなしていたが、突如―――


「……しゃああッ!!」


「―――危なッ!」


 僅かにギャロットの姿勢が傾いたかと思うと、”キック”が放たれた。

 巨大な体躯を支えている脚は、先が平らで、まるで鋼鉄で出来た象の足のようだったが、その鈍足そうな形状からは予想できない鋭いキックである。

 ただでさえ重量がある相手から、こんなものを喰らったら一撃で倒されてしまうだろう。


(とはいえ……見えるッ!)


 時折放たれるキックやパンチなどの攻撃は、高速かつ高威力ではあったが、サイモンとの対戦を経て、そして掃除屋で鍛えられたラクには決して反応できない動きではない。

 確かに高速ではあるのだが、盗賊クラスが繰り出す攻撃ほどではなく、ラクにはギリギリ反応が出来るレベルである。回避自体はさほど難しくなかった。

 ある程度―――ラクは攻撃を仕掛けた後、一旦距離を取った。


「ほう……なかなかやりますね。チーターと聞いたのですが……」


 ギャロットが感心した風に言った。


(やっぱり……”決め手”が無いんだな、これは)


 攻撃していてわかるのだが―――”堅い”。

 騎士クラスなので当然と言えば当然なのだが、防御力が極めて高く、その上でかなり高レベルである為、鋼鉄の塊か何かと間違えるほどに堅いのである。

 まさに名前の通り”要塞”のような騎士だ。


(ならば―――)


 先ほどまで呟いていた呪文を完成させ、ラクは目の前で手を組んだ。

 両手の中心部が三角形になるようにして、発動の台詞を放つ。

 物理攻撃が効かないのなら、魔法攻撃によるダメージを与える為である。


「ワイズクラッ……」


 だが、魔法攻撃を放とうとした時、サイモンの声が響いた。


「止まるなッ! 避けろっ!!」


 ギャロットが突然、盾を構えて、こちらへと向かって打ち鳴らした。


―――ゴォォンッ!


 ラクはその瞬間、”ぞわり”と嫌な予感が走った。

 それ何なのか、というのは上手く説明できない。

 だが、強いて言うならば、命を掛けて戦っている為に感じる「直感」というものだろうか。

 普段ならば、絶対に感じることの無い”嫌な感覚”が背筋に伝わった。

 ラクはその瞬間、魔法の発動を放棄して真横に転がった。

 次の瞬間―――背後にあった建物の一部が、破壊された。


「な……ッ!?」


 何か飛び道具を撃たれたのだろうか? とラクはギャロットの方を見るが、見た目には何かをやってきているように見えない。

 ただ―――”盾”をこちらへと向けているだけだ。

 銃を向けているでもなく、道具でも、魔法攻撃を使った感じでもない。


「おや……? 初見でかわしますか。中々やりますね」


(な、何をやったんだ、今?)


 ラクは何をされたのかわからず、うろたえていたが、魔法攻撃を使う事は中止し、代わりに科術攻撃へと切り替えた。

 手に持っていたランチャーを構え、球形のアイテムをギャロットへと向けて放った。


「火薬玉!!」


 ラクが爆薬の塊をギャロットへと向けて放つと、彼は盾を掲げて、防御の構えを取った。

 そして―――正面から爆弾を受け止めた。


―――ドッグッォン!


 小規模の爆発が周囲を走り、僅かに地面がうねった様な気がした。

 全く回避を行わず、直撃したようだ。

 しかし―――煙の中から現れたギャロットは、殆どダメージを受けていなかった。


「む、無傷……!?」


「効きませんな……その程度では。火竜のブレス以下です」


(防御力が高いとは思ってたけど……やっぱ正攻法じゃダメか)


 ある程度は予測していたが、ここまで効かないとは思わなかった。

 自分が今持っている最高の破壊力の攻撃であるのに、これではどうしようもない。

 どんな攻撃をしようとも、歯が立たないのがわかったようなものだった。


「くそっ……!」


「全員下がりな。後はあたしがやる」


 打つ手が思いつかない中、盗賊ギルドの面々の中から、赤毛のやや縮れたミドルヘアの少女が前へと出た。装備品が貴金属で彩られているのが印象的であり、一目で彼女が高いレベルを持ったプレイヤーである事がわかる。

 盗賊ギルドのマスター「シーラ」だった。


「やっとマスターとのタイマンですか」


「ま……してやられたって感じだよ。まさかいきなり、アンタみたいなのを突っ込ませてくるなんてね。誰の入れ知恵だい?」


「回答しかねます。少々、戦略的に重要すぎる事なので」


「ま、そうだろうね。じゃあ……」


 言うが早く、シーラは肉薄していく。


「ボロ雑巾にしてから、ゆっくり聞くとするよッ!!」


 盗賊ギルドの他のメンバーが、一斉に離れると共にシーラの攻撃が始まった。


「おおおおうっ!!」


「おっと」


 体格的には数倍の差があるものの、攻撃が始まると、シーラの受け流しの巧みさから、余りそのサイズ差を意識させない戦いとなった。

 巨大な一撃が何度振るわれようとも、その攻撃はシーラには届かない。

 受け流し、身をかわして、木の葉のようにギャロットの攻撃を避けていく。

 やがて、距離を僅かに取ってシーラが手を前にかざした。


「ッ!」


 そして、握り込む動作と共に、言い放つ。


「空気奪(エアロ・スティール)!」


 シーラが言葉と共に腕を振るうと、何故かギャロットの周囲が暗くなっていき、彼は動きを止めてしまった。

 そして、周囲に強風が起きた後、ギャロットの体力が僅かに減少した。


「おやおや? これも耐えるのね?」


 周囲にあった自動車が、ぐしゃぐしゃに潰れてしまっている。

 どうやら―――”真空”の空間が、先ほどのスキル攻撃によって発生したようだった。

 ギャロットは防御を固めて耐えたようだが、それでも僅かにHPが減少していた。


「伊達に……”ファイブ・スターズ”ではありませんからね。あなたのデータも頭に入っていますよ」


「へぇ……それは楽しめそうねぇ」


 ギャロットの鋭い視線を受けるシーラだったが、彼女のその表情は、格好のおもちゃを見つけた子どものような無邪気さに満ちていた。


■


 シーラを除く盗賊ギルドの面々は、二人が戦っている様を離れた場所から見ていた。

 彼女が”一人”で戦う事を選択している以上、他のメンバーにはそれを止めることは出来ない。

 仮に援護に向かうとしても、あのクラスのプレイヤーが本気で戦う、という事は周囲にも影響が及ぶような強力なスキルを使い始めると言う事である。

 その状態で援護を行うのならば、同レベルでなくてはならない。

 低いレベルで向かっていっても、攻撃に巻き込まれてただ無駄死にしてしまうだけなのだから。


「クッソ……! 不甲斐ねぇぜ……」サイモンが苦々しく言う。


「先輩、大丈夫ですか」


 シーラが戦う中、ラクは戦闘中の二人を迂回して、生き残っている盗賊ギルド員達の元へとやってきた。


「あン? その声は……お前か。一体何の用だ? 他の所の援護要請とかなら、今受けらんねェぞ」


「いえ、そういうのじゃありません。今まで……どうなってたんですか? この辺は」


「どうもこうのねぇよ、アイツがいきなり30分ぐらい前に突っ込んできて、騎士クラスだから集中して叩けば……って意気揚々と攻撃してたらこのザマだ」


「盗み攻撃とか、魔法攻撃は……」


 ラクが訊ねると、近場の別のギルド員が言った。


「効かなかった。魔法攻撃も最初のうちは当てられてたんだが……どうも、呪文詠唱を感知する能力を持ってるらしくて、使おうとするたびに次々に狙い打ちされてやられた」


「魔法感知……」


「こっちにもそこそこ、遊撃手は居たんだが……」


 サイモンが続けて言う。


「止まってると”震動弾”で狙われるからしかたねぇよ。しかも相当の使い手みてぇだし」


「震動弾?」


「さっきおみぃにも撃ってきただろ、あの”空気の弾丸”だ」


「空気……? もしかして、盾を使って空気を振動させてるんですか?」


「ああ。戦士系クラスの持ってる技の一つらしい。基本、余り攻撃に回らないから、騎士で持ってる奴は少ないらしいんだが……」


(なるほど……)


 どうも、あのギャロットの攻撃技のメインは「空気」であるようだ。

 属性で言うと「轟音」と「風」、「大地」と言う辺りか。

 広範囲攻撃が多い上に、初見で回避しづらい技ばかりとあっては、突っ込まれた方がこうも壊滅させられるのも無理は無い。

 無対策では、全滅しなかっただけ幸いと言うものだろう。


「盗みも効かなかったんですか?」


「ああ。盗み攻撃も全然意味がねぇ。というか……あの野郎、最初から補助アイテムとかを殆ど持たずに来たみたいでよ」


「えっ? どういう事です?」


「いや、アイテムの盗み自体は姐さんとかが成功させたんだが、レベルの低い回復薬とか、そこら辺で売られてる兜とか肩当てとかしか出てこねぇんだ。鎧とかは剥ぎ取れねぇし、もう盗むもんもねぇ」


「最初から……盗まれてもいいようなものしか、持ってきてなかったと」


「多分な。騎士タイプってのは前衛とはいえ、もっと色々持ってるもんかと思ったが……」


「かなり厚く装備をまとってるようで、隙間に差し込む程度では急所も狙えんし、これでは本当にどうしようもない……」


 そこまでを聞いて、ラクは思った。

 もし―――最初から配置を知っていたのなら、それを”逆手に取れないか”と。


(……)


 一対一での戦闘になった事で、シーラは強力なスキルを使い始め、勝負自体は対等なものになったが、これでどれぐらい消耗するのかがわからない。

 シーラもギャロットも、体力値自体はほぼ全快の状態だが、能力的な適正を考えると、かなりの長期戦になるはずだ。

 そうなると……どうしてもこちらの方が不利になるような気がした。

 戦闘中は、どうしてもこちらの防衛ラインを固める事が出来ないからだ。


(なんとか……一気に勝負を付けられないかな)


 騎士タイプのプレイヤーを一気に倒す方法、というものがあった場合は何があるだろうか?

 ラクは頭をフル回転させて、その方法を考えた。


(防御が滅茶苦茶高い、完全武装しててクリティカル狙いは無理、体力もある、レベルも高い、魔法攻撃はやり辛い、おまけに突進技まである……そして、持ち物が無い……いや”最初”から何も持ってきてない……ってことは……)


 そして、持っている知識を総動員させて、ある事を思い出した。

 それは学校ギルドでの戦術訓練において、聞いた”とある話”だ。

 ラクはそれを思い出すと―――じっくりとギャロットを観察した。


(……もしかして……)


 そして、ギャロットの”ある事”に気づき、一つの作戦を考え付いた。


「先輩。作戦があります。協力してくれませんか?」


「作戦?」


 ラクは、自分が今しがた思いついた”ギャロットの撃退策”をサイモンへと話した。

 サイモンはその内容を聞くなり、声を張り上げた。


「ばっ……! て、てめェ、本気で言ってんのか!? オリにそんな”捨て身の策”をやれってよう……!」


「それしかないんです! 今、戦力が残っている内にやってこそ意味がある。シーラ隊長の体力が残っている今しかありません!」


「~~~……そんなんでよう、本当にアイツ、撃退できるのか……!?」


「そこは……俺の予測を信じてもらうしかないです。でも、今言った事が全て上手くいけば、かなり高い確率でアイツを撃退できます。俺と先輩だけじゃ、どうやっても無理ですけど、隊長や他に人が居ますから」


「なんだ? どういう作戦なんだ?」


 近くに居たギルド員たちも耳を傾け始め、ラクは同じように内容を話した。

 すると、同じように驚きの声を上げたが、何人かはその内容に納得し、サイモンへと言う。


「サイモン。俺からも頼む。近接戦はお前の方が上手いしな」


「グッ……マッタさんまで……」


「しかし、他に手が思いつかん以上は、やる価値はあるだろう」


 ギルド員の人間も、打つ手が他に思いつかないようで、ラクの作戦を聞き、肯定する人間こそ分かれるものの否定する人間は居なかった。


(クソ……なんかイマイチ踏ん切りがつかねェが……確かに、策がどうしても思い浮かばねぇ。ここは一つ……賭けて見るか)


「じゃあ……俺から連絡します」ラクが言う。


「いやいい。オリから言う。おみぃはすっこんでろ」


 サイモンは通信用のウィンドウを開き、戦っている最中のシーラへと言う。


「姐さん、聞こえやすか? 返事はしなくていいです。そのままで聞いてくだせぇ」


 シーラから返事は無い。

 ただ通信自体は聞こえているようで、相手の攻撃を流しながらも、サイモンの方をちらりと見て確認した。

 聞こえている、と判断してサイモンは続ける。


「これから、きっかり30秒後にこっちから攻撃を仕掛けやす。その瞬間だけ、一旦離れてくだせぇ」


 そこまでを言うと、シーラは再びこちらを向いた。

 どうやら、伝わったようで、サイモンは懐から「アクア・サーバ・セイバー」を抜いた。

 ラクと他の数人も同じように武器を構え始めていく。


「これを持ってください」


「わかった」


 ラクがアイテム袋から、黒く、平たいものをメンバーに配っていく。

 金属質な感じが見えて、どうも爆弾か何かのように見える。これで攻撃を行うようだ。

 ギャロットはシーラを戦いつつも、その様子を観察しており、何かを始めようとしているのには気付いていた。


(爆弾……ですかね? しかし、先ほど火薬玉を使ったので、殆ど意味が無い事がわかっているはずですが……)


 剣での打ち合いが続く中、ラク達は速やかに準備を完了させ、約束の30秒後―――攻撃を一斉に仕掛け始めた。


「すらぁっ!!」


「おっと!」


 サイモンが突っ込み、水の剣による攻撃を仕掛けていく。

 だが、ただでさえ堅い騎士クラスのギャロットにそれが通じるはずも無く、盾の跳ね飛ばし攻撃によって、すぐにサイモンは弾き飛ばされた。


「まだ~~~まだぁッ!」


 サイモンは弾かれても、離脱はせずに執拗に攻撃を加えていく。

 殆ど効いていないのだが、これはあくまでも陽動である。

 ギャロットもそれには気付いているようで、余りサイモンの方に意識を割かずに、周囲に散らばっていくラク達のほうへと目を光らせた。


(何をする気ですか……?)


「どこ見てやがるッ!!」


 諦めずに攻撃を続けていくサイモンに、僅かに気を取られた瞬間―――ラクが一気に接近して、足元に”何か”を仕掛けた。

 それに反応し、ギャロットはラクを押し潰そうと、盾を振り落ろした。

 だが―――ラクはすぐさま、バックステップで攻撃をかわした。

 どうやら、足元へと近寄ったのは、ただの見せ掛け(ブラフ)のようだった。


「むっ!?」


 ラクが狙っていたのは、ギャロットが盾を振り下ろしてしまった後の”身体を下げた”この瞬間だった。


「今だっ!!」


 ラクの掛け声で反応して、周囲に居た盗賊ギルド員たちが、一斉に動きが止まったギャロットの身体へと張り付き、素早く「黒いもの」を貼り付けた。

 ギャロットはすぐさま身体を振り回して、張り付いていた人間を振り落とすが、身体に貼られたものは、しっかりと接着されているようで、剥がれ落ちない。

 これが、先ほどラクから配られていたもののようだ。


(な、なんですかこれは……?)


「着火!!」


 ラクが持っていた”細長いもの”の先端部を押し込むと、ギャロットの身体に貼り付けられていたものが、一斉に火を噴いた。


「ぐっっ!?」


 ギャロットの身体は炎に包まれていき、やがて全身を隙間無く覆った。

 どうやら―――貼り付けられたのは”炎の地雷”であったようだ。

 一気に焼き殺す為に接着を行った、という所か。

 ギャロットは身体を振り回して消火を試みるが、長い間燃え続けるアイテムである為、火がまるで消えない。

 やがて、ギャロットの動きが止まった。


「やった……!」


「いや、まだだ!」


 3分ほど、炎が勢い良く燃え続けた後、全身の鎧が十分に加熱され”赤銅色”となったギャロットが現れた。

 だが―――体力は、それでも1割ほどしか削れていない。


「これが奥の手、ですか……」


 うんざりしたような、がっかりしたような呟きを漏らし、ギャロットは再度、戦闘の構えを見せた。効く事は効いたようだが、体力があるために、致命打にはなっていない。


「こんなものでは……!」


「効くなんて思ってねぇよッ! ボケがッ!!」


 上方から聞こえた声に、ギャロットが気付き、盾を構えると上空からサイモンが攻撃してくるのが見えた。

 だが、防御が遅れたせいで、盾で防御することが出来ず。

 兜へと、一撃を喰らってしまった。


(くっ……! ですが、その程度では……!)


―――ジュゥゥゥゥ……!


「ッ!?」


 ギャロットは、聞き慣れない音がする事に戸惑った。

 サイモンから攻撃を受けた場所から、蒸気が噴出する時のような音がなっていくのだ。


(な、なんですか……? これは?)


「うおおおおおっ!!」


 激しく飛び回りながら、サイモンは力の限り、ギャロットを攻撃していく。

 兜、具足、肩当てと、部位をばらけさせなら、全身を攻撃していく。

 その光景に、ギャロットはふと、”違和感”を覚えた。


(あの剣は……?)


 先ほどまで、水の塊であったサイモンの水色をしたナイフが、今は”真っ白なもの”へと変貌しているのだ。

 それだけではなく、白い蒸気のようなものを周囲に撒き散らしながら、その剣は形成されている。

 どこかで、見た事があるような現象をまとった剣だった。

 ”蒸気”というより、単純な”もや”という感じのそれは―――


(……ドライアイス?)


 スーパーなどでたまに見る”ドライアイス”が放っているものにそっくりであるのだ。

 それが剣の形をしている。見た事の無い状態だった。

 やがて、異様な音と共に、剣がサイモンの手から離れた。


―――ピキッ、バキッ


「ぐっ……う、うぁっ……!!」


 サイモンが痛みの声を漏らすと、ナイフを持っていた方の”手”が、まるで氷が砕けるように壊れていき、地面へとナイフごと落ちた。

 その瞬間、ナイフは水の剣へと戻り、慌ててサイモンは残った腕でそれを拾った。


「グッ……クッソ、これで……いいんだろチクショウッ!!」


(な、なんだ……あの現象は……?)


 ギャロットがその現象を不審がっていると、”何か”の音が響いた。


―――ピシッ


「うっ、なッ……!?」


 ”身体”から、奇妙な音がしたのに気づき、ギャロットが手で触れて鎧の状態を確かめると、篭手越しでもわかるほどハッキリと”肩”の部分と、”兜”の前面部分に大きなヒビが入っているのが確認できた。


「どうだ……”液体窒素の剣”の味はよう……!」


 どうやら―――先ほどの攻撃はアクア・サーバ・セイバーの能力の一つ「液体窒素」によるものであるらしかった。

 急激な温度変化を何度も加えられた為、兜などが脆くなってしまい、ヒビが入れられてしまった、と言う訳だ。


(しっ、しまった……!)


 ギャロットは、シーラの方をちらりと見た。

 彼女も鎧が壊れたのに気づいたようで、口元が不適に吊り上がっていくのが見えたからだ。

 ギャロットは、それまでどんな攻撃にもまるで動じずに戦闘を行っていたが、ここへ来て、初めて額に冷や汗を滲ませた。

 自分の能力は、防御と広範囲攻撃特化の組み合わせであり、壁役としてはこの上ないものである。だが、これは自分の装備による助力があってこそのものだ。

 もし―――防具に、これ以上ダメージを受けてしまった場合、一気に不利になるのは想像に難くない。

 相手がサイモンや、あの新入りのプレイヤー程度ならば、まだ戦えるのだが、高レベルのプレイヤーが相手では、分が悪すぎる。

 いくらレベルが高い騎士といえど、頭部などの急所が露出してしまった状態では、とても高レベルキャラの相手をすることはできない。


(くっ……)


「あれあれ? なんか装備の調子がおかしいみたいだねぇ? あたしが診てやろうか? 剥ぎ取ってからさ」


「いえいえ、これぐらい何とも……」


 ギャロットが言うと、ラクがそれを遮るように言った。


「いや。俺の考えが正しいなら、相当致命的なダメージのはずだ」


「!」


「前に……知り合いのタンク役から聞いたことがある。騎士ってのは相手の攻撃を受け止めるのが仕事だから、部位によっては破壊されやすい装備があって……その部分だけは、あえて壊れてもいいもので固めてる時がある、ってな」


「……っ!」


「装飾でわかりにくかったけど……ギャロット、アンタの装備は”兜と肩当て”だけ、レベルの低いものだ。装備品の調達を何度もやってきた俺にはわかる。だから、この”焼入れ”の攻撃が効いた。恐らく―――アンタはその部位を重点的に防御に使うから、どうしても壊れやすくなってるんだろう?」


「……」


「そして……シーラ隊長たちが、盗み攻撃で取った肩当てやら兜やらは、恐らく、”替えの装備”なんじゃないのか? いや、多分間違いないはずだ。現に効いているんだからな。これが一定レベル以上の装備なら、今やった程度じゃ、ヒビは入らないはず。だから……あと、アンタを守ってるのは―――正真正銘、今持ってるその防具だけで……それをぶっ壊せば、頭と肩が露出するはずだ!」


「へぇ……どれ、じゃあ確かめてみようかねぇ?」


「……その必要はありませんよ。退かせてもらいます」


 苦々しい歯切れの音を僅かに漏らし、ギャロットが言う。

 どうも、先ほどの”まだ戦える”という”フリ”はハッタリであったようだ。

 ラクが言った事が、そっくりそのまま、当てはまっていたというわけである。


「ラクォーツ、と言いましたね。あなたは……本当にチーターなのですか? ただの違反者にしては……戦い方が余りにも巧み過ぎます」


「……違う! 俺はチーターなんかじゃない! ”ゲーマー”だ!」


 ラクの言葉に、ギャロットは返事はしなかった。

 自分の状態を見抜かれ、形勢が悪くなったギャロットは、捨て台詞を吐き捨てるなり、背を向けて重機のように移動を始めた。

 その後姿を見て、サイモンがシーラに訊ねた。


「姐さん、追撃しやすか?」


「諦めな。もうダメだよ。ああなっちゃ、追い付いても止めるのは至難の業さ」


 シーラが言うと、追撃を始めようとしていたギルド員も足を止めた。

 どうやら彼女の言葉は相当なものであるようで、周囲の一癖も二癖もありそうな盗賊ギルドのメンバー達でも、全員動きが止まっていた。


「さて……それにしても皆、よくやってくれたね。特に……サイモンと新入りの二人」


「は……はいっ!」


 シーラから声を掛けられると、サイモンは緊張しているのか、声がやや上ずった感じになり、頭を掻いた。

 照れているのだろうか。


「あんたら二人には助けられたよ。あのままやってたら、あいつを殺(と)れても、後が続かなかったかもしれない」


「いえいえそんな事は……」


「それより……聞きたいことがあるんですが」


「?、何だい?」


「ここへ、さっきのスターズの一人がやってきた時の事をもうちょっと詳しく聞かせて欲しいんです。少し、気になっている事があります」


「オイ! おみぃ誰に向かって口を……!」


「いいじゃないか。みんな! ちょっと話してやりな」


「了解しました」


 ラクは、それから手短にここへとギャロットがやって来た時の事をシーラとギルド員たちより聞いた。

 そして、やって来た時の事を聞いて、思わず首を傾げた。

 彼らの言う分には、こうである。


「誘導されてきた?」


「ああ。そんな感じだったな」


 まず、30分ほど前に偵察部隊らしいプレイヤーが何人か現れた。

 それをギルド側で先に発見し、各個撃破していたのだが、彼らを倒すと新手がすぐに現れ、それを相手しているうちに”その中を縫うようにしてギャロットが現れた”というものだった。

 そして彼がここへとやってきたら、他の人間は彼にその場を任せて全て退却してしまったらしい。だからまるで”ここで大暴れをさせるため、誘導してきたようであった”と。


(って事は……ここに本陣があるって知ってたって事だ)


 ラクは、ますます”奇妙である”と思った。

 今言った事だけを聞くと、こちらの戦力を削る為に、敢えて強力なプレイヤーを送り込んできた、と考えられる事も出来る。


(なのに、さっき……確かK.Kの居た辺りは、敵が余り居なかった)


 だがここは、先ほどの”中華街手前”を抜けた場所にある。

 いわば盗賊ギルド達の”防衛ライン”を突破した先にある場所なのだ。

 だから、まずは突破した場所、つまり先ほどK.Kが居た辺りにまず地盤が固められ、それからここへと攻撃が行われるのが普通の筈である。

 それを全て無視して、いきなり突っ込んできて”本陣へ攻撃”を加えるというのは、この場所に防衛ラインの中心部がある、つまり”こちらの配置を把握している”という前提がなければ、成立し得ない事である。

 しかも、ギャロットが有利になるような盗賊クラスの本陣が、である。


(って事は……やっぱり……)


「なんだぁ? 深刻な顔してよう」


 ラクは、ちらりと周囲を見た。

 丁度、都合の良い感じでシーラとサイモンだけが近場におり、他のギルド員たちは周囲の警戒と、負傷者の処理のために離れていっている。

 シーラは指示を出す為、そしてサイモンは腕を直す為の魔術陣を使用するため、中央部に残っている。

 ラクは、他のギルド員たちと距離が十分に離れているのを確認すると、二人を手招きした。

 そして、他の人間には聞こえないよう、ボソボソと呟くような声で言った。


「あの……ちょっといいですか」


「?、何だよう。オリは手、治さねぇといけねぇんだぞ」


「何さ? 急に、改まっちゃって」


 この二人ならば信用できるはず、とラクは再度確認しつつ、自分が直感している”最悪の事態”と、そしてそれを何とか打破する為の打開策を話し始めた。


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