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36:除名と召集

 ラクォーツこと”ラク”は”ゲダム”と呼ばれるプレイヤーと交渉を行なう為

 ”悪人街”と呼ばれる場所へやってきた。そしてラクは命懸けの戦闘や交渉の末

 なんとか生きて帰ってくる事が出来た。だがその代わりに”掃除屋”と呼ばれる

 悪人街の治安を維持する組織へと、無理矢理加入させられてしまった―――

(文字数:15028字)

 赤味を帯びた通路が続いていた。

 床に大理石が敷かれているのだが、その表面がうっすらと赤い為にまるでくすんだ赤錆色の鉄で出来た道を歩いているような錯覚を起こさせる。

 所々には、これまた紺色をした重厚な雰囲気を纏った柱が立っており、その通路はとても頑丈そうな印象を漂わせていた。

 全てが石造建築である為、そんな風になるのも無理も無い感じである。

 一見すると、とても冷たい輝きを帯びて居るのだが、通路内は非常に暑い。

 まるでサウナのような高温となっていた。


「ふぅ……ふー……」


 その通路を、一人の少女が歩いていた。

 高校生ほどの体躯で、少女らしい細身の身体をしている。

 服は大きな一枚布のようなものを身につけており、パッと見ると味気のないワンピースを着ているかのようであった。

 髪は美しいプラチナブロンドを携えており、その肌の白皙さと相まって銀色というよりも”白金の美しさ”を放っていた。

 眉は太めで、いかにも温和そうな感じの少女であったが、今は通路内の温度からか、その表情にとても疲労感を色濃く漂わせていた。


「確か、ここでいいんだよね……?」


誰かに聞くわけでもなく、少女は呟く。

 メガネをかけている為か、彼女はより暑そうに見えた。

 彼女はどこからどう見てもインドアな感じで、鍛えられている風なわけでなく、運動神経は全く無さそうに見えるからだ。

 少女の名は「スターシア」と言った。

 ワールド・マスター「レクレフ」に仕える”使徒”という立場の者の一人である。

 どうやら彼女は、人間離れした美しさもさることながら、本当にただの人間ではないようだった。

 何故なら彼女には、その類い稀なる容姿とは別に、明らかに目を引く”あるもの”があったからだ。


「暑い……アルマくんに頼んでた方が良かったかも……」


 それは”輪”である。

 頭部を覆うように、彼女はまるで神話の”天使”が持っているような”光の輪”を持っているのだった。

 酷く霊的なエネルギーを持っているそれは、一見すると光の塊が輪の形をしているように見えるのだが、近くで見るとやや波打っているような、僅かに膨張と縮小を繰り返しており、まるで脈動しているような風にも見えた。


「はぁ、はぁ……」


 息を切らせながら、彼女は延々と続く床の果てにある物を見た。

 通路の最後には大きな出口が口を開いており、その中には紅色とオレンジ色に輝くものが沢山見えた。

 いかにも高熱そうな明滅を持つそれは”マグマ”の世界への入り口であった。


■


 天空には真っ黒な雲が満ち渡り、薄暗い世界。

 だが、溶岩が一面に満ちる赤色の沼の中心部は、非常に明るい。

 そんな生物が全く存在できないだろう場所で、溶けかけている岩の海に、不自然な形をして浮かんでいるものがあった。

 細長い4つの方向に分かれたものと、もう一つの短く丸みを帯びたものがくっついた星型のもの。

 それは―――1人の人間、いや”少年”の姿だった。

 少々額が広い金色の短い髪の少年で、額に幾何学的な”鳥”を模しているのだろう紋様が刻まれているのだが、それを除けば普通の人間と言う感じの姿だった。


「ああ~……極楽だ……久しぶりに浸かると、やっぱり気持ちいいもんだな」


 溶岩の温度というのは、おおよそ1000度前後であり、この温度に達すると大半の金属が溶け始めて液体化していくような温度である。

 当然ながら、そんな温度に耐えられる生物などまず存在する筈が無いのだが、少年はいかにも気分良さそうにその中に、まるでお風呂にでも入っているかのように浸かっていた。

 やがて、少年がマグマの風呂で寛(くつろ)いでいると、何かの声が周囲に響き渡った。


「マスター。お加減の方は如何でございましょうか」


 野太い声が響き渡ると共に、巨大な、黒い”深淵色”とでも、呼ぶしかないような色のものが、マグマの中から顔を出した。

 ごつごつとしたそれは、酷く巨大な威容をしており、パッと見ると巨大な岩が浮いてきたようにも見えたのだが、やがてその一部が盛り上がって橙色の”目”らしいものが見えると、それがどうやら”頭”であることがわかった。


「まぁまぁかな」


「もう少しお上げになりますか。プラス300度ほどならすぐにでも……」


 やがてそれは、大きな頭部を現していった。

 トゲトゲの鱗が並ぶ皮膚に、狼を連想させる形状をした鋭角的な鼻口(マズル)部。

 頭頂部の辺りからは枝分かれした巨大な角が生えており、そして―――口元からは2本の突起が生えている。

 その様子から、どうにもそれは”竜”と呼ぶような生き物の頭である事がわかった。

 かなり巨大な事がすぐにわかり、頭の上半分ほどがマグマの上から出ているだけだが、顎から僅かに漏れる牙の一本ですらも、少年の胴体の直径ほどはありそうだった。

 だが、少年はまるで恐れる様子も無ければ、警戒している風でもなかった。

 そればかりか、馴れ馴れしい声で黒き竜の問い掛けに応える。


「いや、これでいいよ。”ガイウス”。少しぬるいぐらいが僕はいいんだ。それより、最近の里の様子はどうなんだい」


「別段、目立って変わりはございません。皆、血の気が多いのは相変わらずですが」


「戦争への参加は、まだ完全禁止してるのかい? 少しぐらい参加しても、ボクとしては別に構わないんだけどさ」


「いくら許可なさっても、いざ参加するとなると中途半端では済まないでしょう。ですから、完全に参加できないのなら、完全に禁止していた方がよいのです」


「そんなもんなのかい?」


「我らは一枚岩ではありませんので……どこかが参戦となると他の氏族がまず、黙ってはおりませぬ」


「ボクの名前を出してもかい?」


 少年が尋ねると「同じ事です」と断ってから、名を口にする準備をするかのように、僅かに喉を鳴らしてから、黒い竜は言った。


「”マスター・プリブラム”の御名を出しても、そこからの問題でありますので……」


「ふぅん……」


 つまらなさそうに少年、いや―――ワールドマスターの1人である”プリブラム”は鼻を鳴らすようにして応えた。

 そして頭の後ろでプリブラムは手を組んで、何か考え事を始めようとした時、遠くから声が放たれる。


「あっ、居た! プリブラム様~~~っ!」


「はん?」


 顔に跳ねて掛かった溶岩の欠片を拭いながら、プリブラムは声の方向へと顔を上げ、視線を移した。

 一緒に居た黒色の竜もそちらへと顔を向ける。


「あれは……誰でありましょうか」


「ちょっと熱気で見辛いなぁ。真っ白な……誰だろう?」


 プリブラムはガイウスと共に声の主を見るが遠い為、中々確認が出来ない。

 少女はかなり高い入り口付近から、二人へと声を掛けていた。

 プリブラムたちを発見したのは、言うまでも無くスターシアであった。

 彼女はプリブラムへの”書状の配達”を担当していたのだった。


「えーと……この辺から……届くかなぁ?」


 彼女は少しばかり、その場で足踏みをしていたが、やがて覚悟を決めて、少しばかり集中すると、”何か”を発動させるように人差し指を立てて、空中に何かを描き始めた。


「”階段の創作”!」


 そして描き終わると―――なんと、そのまま空中に身を躍らせた。

 その姿を見て、ガイウスが僅かに動揺の声を上げた。


「なっ……!?」


 彼が驚いたのは、少女が落ちていく姿にではない。

 落ちるものかとばかり思われた少女が問題なく、”そのまま空中を歩き始めた”からだ。

 空中に真っ白な階段のようなものが、少女が歩みを進めるたびに現れていき、その上を彼女は進み始めたのだった。


「だっ、大丈夫……よね?」


 危なっかしい足取りで、スターシアは空中を歩きながら二人に下へと近寄り始めた。

 非常に不思議な光景だった。

 彼女が脚を下ろす度、もしかして見えないガラスの床でもあるのか、踏みしめた場所に白く光り輝く階段が現れていく。


「あれは……何でしょうか?」


「ああー……わかった! あれはレクレフの使徒だよ。多分」


「使徒でございますか。しかしあの技は一体……」


「理力(フォース)ってヤツだよ。ありゃ」


「フォース?」


「世界をそのまま、意思と直結させて操作する能力さ。姉さんが使ってるから、見覚えがある。確か……レクレフの使徒の中にも得意にしてるヤツがいるって聞いた事があるんだ」


「なるほど……しかし、危なっかしい動きですな」


「一応、連れて来てくれよ。ここはもう僕の領域だから。何かあったらレクレフに合わせる顔が無い」


「はっ……直ちに」


 巨大な竜が身体を動かすと、その震動でマグマの海全体が揺れたような気がした。

 それが、いけなかったのかもしれない。

 このマグマの沼は、丁度”壺”のような形になるように周囲を外壁に覆われているのだが

、ガイウスが動いたその震動によって、握り拳大の石が天井から剥がれ、いくつかスターシアの方へと降り注いだのだった。


「きゃっ!」


 彼女は、いち早く異物が落ちてきた事に気付き、身をかわしたのだが、その事によって、階段を作っていたと思われる”理力”に乱れが生じてしまった。

 早い話が―――転びそうになってバランスを崩してしまったのだ。


「あ、あっ―――!」


 彼女がバランスを崩し、落ちてしまうと、階段は出現せず。

 そのまま真っ逆さまに、溶岩の海へと共に落ちていってしまった。


「しまった!」


 悲痛な叫び声が響き渡り、慌てて”ガイウス”と呼ばれた竜は、溶岩から黒く巨大な腕を伸ばすが、時既に遅く。

 鈍い水飛沫が上がる音のような、卵が高い場所から落ちて割れたような音と共に、スターシアの身体はマグマの中へと消えていった。


「……」


 もはやどうしようもできず、言葉を失くしてガイウスが呆然としていると―――


「……!?」


 丁度、少女が落ちてしまった辺りが、何故か白銀に輝き始めた。

 その光景に、慌ててガイウスは距離を取った。


(一体何が……?)


「あーりゃりゃ。こりゃまた別のを発動させちゃったな」


 不意に背後からかけられた言葉に、ガイウスが振り向くと溶岩の沼の上を歩いて、プリブラムが近づいてきているのが見えた。

 彼は、少女がマグマの中へと落ちてしまったのを目の当たりにしても慌てる事無く、言った。


「ガイウス~、面倒だろうけど連れて来てよ」


「連れて……? しかし、溶岩の中に落ちてしまっては……」


「大丈夫だって。死んでないさ」


 その言葉に、ガイウスは仕方なく少女が落ちた場所へと移動する。

 すると彼は、光っている場所の内側に、信じられない光景があるのを目撃した。


「湖……!?」


 少女が落ちた場所を中心に―――マグマが全て”水”へと変わっているのだ。

 高温のマグマと清水がせめぎあって蒸発しており、神秘的な光景が広がっていた。

 まるでその場所だけ、切り取られた別の世界が存在しているような光景だった。


「何故こんな事に……」


 黒き竜がその現象の中心部を見ると、水の上に浮かんでいる一人の少女の姿が見えた。

 気絶しているのか、全く動き一つしない。

 竜はその少女へと、溶岩の中から手を伸ばした。

 すると―――


「うむっ!?」


 黒い色の、尖った岩石の塊のような手が伸びると、表面から見る見るうちに表面にある鱗が剥がれていく。

 やがて、自分の肉体表面へと影響が到達し始め、慌ててガイウスは手を引いた。


「これは……」


 引いた手は、まるで巨大な人間の手のように変わってしまっていた。

 ピンク色の外皮が覆う、”ただの巨人の腕”と言う感じに。

 その様子を見て、遠くからプリブラムがアドバイスを送る。


「あー、”人間体”じゃないと多分、まともに手を伸ばせないぞ」


 その言葉を聞いて、ガイウスはしばらく考えるような素振りを見せていたが、やがて決心したように僅かに喉を鳴らすと、身体を大きく震わせた。

 すると彼の身体が、見る見るうちに縮んでいく。

 やがて―――巨大な黒色の竜は、大柄な人間の姿へと変わり、溶岩の上へと降り立った。

 短く刈り上げられた黒髪に、蛇のように瞳孔の細まった金色の目をした男性の姿。

 それが”ガイウス”と呼ばれた竜の人としての姿のようだ。

 間違いなく屈強だが、筋骨隆々と言うほどではない。しなやかな、しかし盛り上がりを確かに感じさせる程度の肉体をした豪胆なる男性の姿だ。

 ただ―――やはり、人間とは少し違う。身体の所々に、竜の鱗塊が脱ぎ忘れた騎士鎧の装甲のように残っていた。


(さて……これならば、どうか?)


 溶岩の上を、粘つく泥の沼を歩くようにガイウスは進み始めた。

 そして、突如として水が広がる場所へと足を踏み入れた瞬間

 足元から激しく水蒸気が噴出した。


(冷たい……!)


 温度がまるで違うのだ。てっきりマグマから高温の温水へと、徐々に切り替わっていくかと思われたが、マグマに接している透明度の高い”水”は、紛れも無く”冷たい”。

 ただの水ではなく”清水”であるのだ。

 ガイウスはそれに最初ぎょっとしたが、すぐに順応するとそのまま冷水の湖へと入り込み、泳いで少女の元へと急いだ。

 そして明滅する赤銅色のマグマの中にある、不似合いな湖の中心にて、水の中に浮かぶ少女を抱き上げ、ガイウスはそのまま背から翼を広げた。

 コウモリの翼ような―――と形容するに言うにしては、余りにも強靭なかつ異形の”それ”を広げて


「はァッ!!」


 檄を上げると共に、その翼を大きく振り薙いで、ガイウスはそのまま冷水の中から上空へと飛び出していった。


■


 少女を抱き抱えた男は上空へと飛び上がり、やがて溶岩の沼のほとりにある神殿のようなつくりの場所へと降り立った。

 そして、そこにあった真っ白な台座へと少女を置いた。

 その傍らでは、プリブラムが待っていた。


「ご苦労」


「勿体無きお言葉でございます」


 腕組みをしたままだが、先ほどまで竜であった”ガイウス”はプリブラムへ会釈した。


「いや、助かるよ。僕だとちょっと近づくのに手間取りそうだからさ」


「そのような強大なエネルギーの”場”なのですか?」


「そりゃあ強いよあれは。何せ周囲の世界を直接書き換えてんだから、近づくやつが強ければ強いほど、変質の力場が強くなるはずだ」


「そんな事をやっていたのですか……この者は」


「ただの女の子じゃない。”鉑皇冠(はくおうかん)”の種族さ」


「鉑皇冠……?」


「レクレフの”寵族”の一つだよ」


「マスター・レクレフの、ですか……? あの方は寵族を持っていなかったのでは」


「表向きは居ないように見えるだけさ。何せ……全部で6人しか居ないんだから」


「たったの6人……ですか」


「ああ。だが皆強いよ。”業竜”の君でも問題なく相手にできるレベルの奴等ばかりさ」


「ほう……それは興味をそそられますな」


 ヒゲの代わりに鱗に覆われた顎を摘んで弄りながら、ガイウスは興味有り気に応えた。


「ん、んん……」


 僅かに呻くような声がスターシアから漏れると、彼女は瞼を見開いた。

 同時に、頭を丁度覆うように白銀の輪が輝き始めた。


「こ、ここ、は……?」


「やぁ、起きたか。レクレフの使徒」


 起き上がり、軽く頭を震わせると、スターシアは頭を二人へと向けて言った。


「プリブラム様?」


「ああ。僕がプリブラム。”ダメな弟”の方のワールド・マスターさ」


 スターシアの目の前には、腕組みをした大柄な男性と、どこか生意気そうな口調の少年が立っていた。

 金髪の少年の方は、額に鳥がモチーフらしい幾何学的な紋様があり、服装はそれに合うような厚手の布のものを身につけていた。

 背丈としては少年の方は小柄で、小学生か中学生ほどの身長しかない。

 その割りに、不似合いな大きなネックレスや腕輪を身に着けているので酷くアンバランスな格好になっている。

 まるでどこかの”リッチな遊牧民”とでも表現できるような格好だ。

 しかしそのアンバランスさが、逆に異様な感じを引き立たせており、少年の身分の高さを容易に見て取れるようにしていた。


「す、すみません……! もしかして、私、溶岩の中に……」


「礼ならこっちに言うといい。君を助けたのはこっちのガイウスの方さ」


「あ、あの……どうも、お初に、お眼に、掛かります……私、”スターシア”って言います」


「気にしなくて構わんよ。君を助けたのは我がマスターの為。そして我が種族の為でもある」


「はぁ……」


 ガイウスは余り気にしていないように言った。

 溶岩の中を自由に歩ける側からすれば、大した事でも何でもない事だったからだ。

 プリブラムがスターシアの”冠”へと触れようとしつつ、訊ねる。


「君、レクレフんトコの使徒……だよね? 頭に輪っかなんてある種族はここじゃ殆ど見たこと無いしさ。”角”とか”鱗”持ちなら見慣れてるけど」


「はい。私はマスター・レクレフの使徒……という事でお仕事をさせてもらってます。今日は、えっと……手紙を届けて欲しい、って言われて来ました」


「手紙?」


「はい。これです」


 スターシアは、持っていたポーチの中から全く錆びていない銅のような色をしたピカピカのカード片を取り出した。

 どうやら高熱でも簡単には解けないよう、金属で出来た手紙を用意していたようだった。

 プリブラムはそれを受け取り、ガチガチに固まっているそれを開いた。

 ギギギ、と軋むような音がして手が見開くと、中には薄っぺらい金色の紙が入っており、それに用件が書かれているようだった。


「これは……」


 プリブラムがそれを受け取り、読み始めて行くと、急に表情が真剣そうなものへと変わった。

 そして全てを読み終えてから、言う。


「”エクステンド”の報せ……かぁ。そうか、こうやってやるのか……本当は……」


「あの……それで、マスターからの言伝、なんですが、できれば、その場でお手紙のお返事を貰ってきて欲しい、と言われていて……」


「返事? ああ、う~ん……そうだねぇ」


「マスター。お手伝いできる事があるのならば、是非とも私にご用命をば……」


 ガイウスが腕組みをしたまま言う。

 だがプリブラムはそんな彼には目もくれずに、考え込んでいる様子で応えた。


「いや……君じゃあダメだ。”コスト”が掛かりすぎる」


「コスト?」


「手紙にあるんだよ。”大きさとレベル”でコストが決まっちゃうらしくて、お前みたいにデカくて強いのはそう送れないんだ」


「”送れない”……?」


「”エクステンド”さ。君じゃ、ちょっとな……」


「?」


 考えるような仕草を続けながら、プリブラムは手紙に書かれていた内容について、その対応を考えていた。

 どうやら、その内容はかなり面倒な事であるようで、彼はうんうんと唸る声をしばらく呟いて考え事をしていたが―――そこに別の訪問者が現れて、その思案は終わりを告げた。


「神よ。ただいま戻りました」


 その場に現れたのは、先ほどのガイウスとよく似た姿の”竜が人の姿を取ったような人間”だった。

 ただ全身の所々が漆黒の鎧のような鱗に包まれているガイウスとは違い、その者は手足だけが満遍なく鱗で包まれており、肘まで、または膝までの胴体部分が全て人間の形だった。

 そして、背中にはやはり巨大な翼を持っていた。

 コウモリの翼に鱗をすっぽりと被せたような、恐ろしく堅固そうな形状の翼だ。

 それを見て、弾けるように面を上げたプリブラムは言った。


「あっ! ギュラード! いい所に来てくれたじゃないか!」


「はっ? な、何か……?」


 プリブラムから声を掛けられて、慌てて”ギュラード”と呼ばれた青年は跪き、応える。


「丁度良かった。君に決めよう。これですぐに返事が言えそうだ。君、スターシアって言ったよな? 確か」


「え? あ、はい。そうです」


「レクレフに僕の”返事”を伝えておいて欲しい。ボクからは―――」


いかにも自信たっぷり、と言った笑顔になってからプリブラムは続けて言った。


「”ワイバニアンを出すよ”ってさ」


■


 現実世界の時間は、おおよそ「12:25」となっている。

 悪人街から無事に戻る事が出来た次の日。

 学校の保健室に靖樹は居た。


「……まぁ、起きてた事は、こんな所さ」


「おいおい。それ、マジなのか……ディバルに、悪人街の奴等とか、にわかには信じられねー内容だな」


 昼休みとなって靖樹は保健室にて、弁当を持ってきて食べていたのだが、食べ終え始めた辺りにやってきた御津貴に、昨日起きた”事の顛末”を話していた。

 何故、こんな所で昼食を取っているかと言うと……それは止むを得ない事情あっての事だった。


「昼になって教室からすぐに出て行っちまうから、よほど踏んだり蹴ったりだったんだろうなと心配してたんだが、杞憂ってヤツだったか」


 御津貴に事の次第を話している理由は、学校で会ってから掴み掛かからんばかりの勢いで「昨日の件は、何があったんだ?」と迫ってきたからである。

 靖樹はこの件の全てが終わるまで、話すのは止めておこうと思っていたのだが、御津貴の余りの迫力に、つい根負けてしてしまい「絶対に他の奴には話さないでくれよ」と念を押して、話を始めてしまっていたのだった。


「踏んだり蹴ったりなのは間違いない。何せ、いつ呼び出しが掛かるかわからないし……学校ギルドからは除名喰らうし……」


 学校へ来て―――靖樹は色々と散々な目に会っていた。

 来て真っ先に早々に喰らったのは、学校の所属ギルドからの”除名処分”を告げる連絡だった。


『本日を以って、公立幾島情報高校の校立ギルドは、メンバーである”荒金靖樹(キャラクター名:リランデ・ルバー・ラ・クォーツ)”を、学校からの権限で2週間のギルド員資格停止処分とし、更にその後はギルドからの権限で永久的な除名処分とする。この発令を以って以降、彼はこちらとは何の関係も持たず、またあらゆる保証も対象外とする』

以上。


「まぁ……予想はしてたよ。単純にチートをおおっぴらに使用する時点でヤバイってのに、それを寄りにも寄ってジャッジで使わなきゃならなかったんだから」


「俺だったら絶対に断るな。美少女とも戦いたくはねーが、チーターの汚名を着るとか、流石にそこまでの度胸っつーか、とても勇気はねぇぜ。賞金首になって、街中でいきなり攻撃されるかもしれねぇとか、心臓に悪すぎる」


「ゲーム内より、リアルでの影響の方がヤバイよ……気軽にシステムにインするのも勇気が要る」


「オレだったらもう街に入れねぇな……」


 本当に気の毒そうに御津貴は靖樹に言った。


「しかしよ、ホントにディバルから依頼を受けたのかよ? 未だにちょっと半信半疑なんだが」


「ああ。報酬のセイバー持ってたらすぐにわかるんだけど……生憎、やっちまったからなぁ」


「いや、やっぱ話の内容だけでも充分すぎるぜ。レベルが3も上がってるしな」


 靖樹の持ちキャラである”ラクォーツ”は、あれからサイモンとの戦闘の中で更にレベルが1上がって現在は”25”となっていた。これで一日に一気に3上がった事になる。

 これはレベル帯にも寄るがかなり異様な事で、一日に3上げるのなら、相当無理なイベントをこなさなければならない。

 そのデータだけでも、靖樹と同じようにゲーマーである御津貴には、起きた事の激しさがわかったようだった。


「ああ……まぁその辺はな」


「しっかし、まさかあの”ディバル”がリアル一致で女だったなんてな。その上、本人から直々に依頼を受けるなんざ、大役にも程が有るぜ」


「そうかぁ?」


「無報酬でも名誉の為に受けたい奴が掃いて捨てるほど居るレベルだぞ。間違いなくよ。真相を知ったらウチの学校の奴等、”復帰願”でも持ってくるんじゃねーのか」


 謙遜すると、羨ましがるようにミツキは言った。


「ホント大冒険だったなぁ。ちっくしょう、オレも参加したかったぜ」


「あんなもん、俺は二度とゴメンだ。生きた心地が全然しなかったよ。ホントにゲームならいいけどさ……死ぬのが本当に、今は怖い」


「お前も痛覚の設定って直ってないのか?」


「ああ……って言うか、”も”ってどういう事だ?」


「いや……実はオレもよ、というか”オレら”も同じなんだよ。その辺」


「キッチェもルゥリも同じ……って事か?」


「ああ。と言ってもキッチェだけで、あのコボルト娘の方は違うらしい。モンスターの姿のままだった時は現実感が無かったから痛みがあっても、そこまでは気にしなかったんだが……流石に何度か人間キャラと行き来してると気になってきてよ。”あれ? なんか前と違うんじゃね?”ってな」


「これ、どういう事なんだろうな」


「わかんね。ただ……一つだけ間違いないのは、”死んだら絶対にヤベェ”って事だ。これだけは本能っつーか直感でわかる。間違いねぇぜ」


「……まぁ、それはなぁ」


 前の”ゲーム”であった時のファシテイトでも、痛覚は無かったわけではない。

 ダメージ表現の為、傷が深ければそれに応じて段々と痛みはエスカレートしていった。

 死亡したりすれば、全身に衝撃が走って痺れるような感覚を受けたりもしたほどだ。

 無論―――これはゲーム的な演出であり、痛覚を適当に再現しているだけ、だと思っていた。”今まで”は。

 だが……今では、靖樹達はダメージ時の痛覚は強くなっていた。

 無論、あの完全にモンスターであった時のような、”本当に現実の肉体とリンクしているのではないか”と思えるほどではないのだが、それでも”ゲームである事を疑う”には充分な強さだ。

 これでもし、”死の感覚”が身体を襲ったなら、どうなるかはわからない。

 本当に意識が死を迎える可能性も、ゼロではないように思えた。


「と言っても、もう今更ファシテイトから逃げるわけにもいかねーしな。あんな事を聞いちまったら……」


「ま、やりたくなくても電想世界を完全に切り離して生活って、まず無理だしな。ユニオンデバイスを外して生活するって事だし」


「下手すると電車にも乗れねぇじゃねぇか……」


「昔は”切符”って言う硬紙のチケットみたいなものがあって、それを使って電車には乗ってたんだってさ。今でも探せばあるんじゃないか?」


「改札エリアで読み取ってくれるのか?」


 現在の電車改札は、ユニオンデバイスから情報を読み取って乗客を選択するものとなっている。

 昔あったような、”柵”型の改札は存在せず、特定エリアを歩いていると切符代金の徴収を示す警告音が鳴り響く。それで電車に乗ると、後でデバイスの使用料金に自動で上乗せされて乗車料を請求される、というような形になっていた。


「さぁ? 駅で言えば何とかなるんじゃないか」


 それから御津貴の方でも北海道エリアの事で調べを進めている、という事を聞いたが、特段、目新しい報告は出てこなかった。

 あれから―――というよりは、昨日、丁度靖樹が悪人街へと入り込んで行った頃に御津貴たちもファシテイトへとログインし、北海道エリアの探索を行ったらしいのだが、奥深くへと進んでいく事はやはりできなかった、という事だった。


「途中から一気に敵が強くなる?」


「ああ。ある程度は問題なくフィールドを進めるんだが、途中からいきなりD++ランクの敵とかが現れ始めて、逃げるのも難しいような感じになってたぜ」


「D++……か」


 モンスターのランクはGからSまでの8ランク×5段階で計40ランクがあるのだが、その中でD++というのはフィールドで出会うザコ敵としては、かなりの高レベルに該当する。

 レベル50ほどの中級の熟練プレイヤーが、ソロで倒せる限界がおおよそ”DN”のモンスターと言えばその強さもわかるというものだろうか。

 基本的には、プレイヤー側が多数で掛かる事を想定されているようなモンスターである。


「C-の”オーガーグリズリー”とかまで見かけた時には、流石に肝が冷えたぜ」


「そ、そんなのまでいたのか……”ミドル・ボス”レベルの敵じゃないか」


「なんつーかよ。”山に居たモンスターが、全部降りてきて軍団を形成してる”って感じだ」


「軍団か……ますますキナ臭いな」


 少しばかり靖樹はそのことに付いて考えていたが、やがて思い出したように御津貴に訊ねた。


「そういや、三人一緒にやってるのか? まさか探索」


「いいや。そりゃ危なすぎる。基本はオレとあのコボルトだ」


「二人でやってるのか」


「ああ。最初だからキッチェの方は不参加で、復活できるヤツとオレとでだ。キッチェの方は……何をしてたか知らんが、戦うな、とだけは言っておいたぜ」


「それはまずいな」


「え?」


「いやさ、彼女の性格は知ってるだろ? なんとなくさ。一人でやらせてると、何をやるかわからないって言うか……」


「ああ、そういやまぁ、そうだが……」


「悪いけど、探索は完全にルゥリの方に任せて、レベル上げとかをやっててくれないか?」


「ええー!?」


 当然ながら、不満の声を御津貴は上げたが、靖樹は悪人街で起きた事を交えながら、これからはどうしても戦闘力がないとダメである事を伝え、御津貴を説得した。


「モンスターの時は、装備を揃えたりとか、細かい事がし辛かったから放置してたけど、やっぱりこれからファシテイトの中で探索を進めるなら、どうしても戦闘力は必要だからさ。頼むよ」


「……わかった。確かに、仕方ねぇな。あーあ。初心者のレベリングなんて今更やりたかねーんだがなぁ」


「まーお礼に何か珍しい武器をゲットできたら、今度持っていくからさ。”ブラックマーケット”とか言うのがあるらしいから、そこに行けば掘り出し物が見つかるかもしれないし」


「……マーケットか。悪人街、オレも行ってみてぇなぁ、また」


「また?」


「あー、いやオレも昔さ、レアな剣装備を探しに行きたくなって行った事があるのさ」


「ブラックマーケットにか?」


「そうだ。”王銀剣”が売られてることがあるって聞いてよ。作るってなると面倒だから売られてるモンを買おうかと金持って行ったんだよ。そしたら見事に”ボ”られたって訳さ」


 「☆王銀剣」。錆びなければ、折れる事も無い剣士垂涎の武器だが、この武器は作成に特殊な鉱物と、高レベルの鍛冶スキルを必要とする上、専属(エクストラ)フラグと言うものを持つアイテムで、最初に手にしたプレイヤー以外には、持つ事が出来ないと言う特徴を持っている。

 つまり、譲渡や売買が不可能もしくは極めて難しいアイテムであるのだ。

 その為、需要に対して供給が全く追いついておらず、入手したいのならば、高い鍛冶スキルを持つプレイヤーに作成を頼むか、自分で作成する以外には道が無い、と言う状態になっている。

 何せ必須アイテムである「王鉑の塊」というアイテムを持っているのがレベルの高いモンスターである為、素材を手に入れるには高い戦闘力が必要だが、実際に入手するには生産系スキルが必要という状態となっているからだ。


「ボッタくられたって、詐術師ってヤツか?」


「いや……普通に話術だ。ありゃ。剣を買おうと思って言ったら、いつの間にか具足を勧められて、買わされちまってよ。実を言うと、今着けてるのはそれなのさ」


「あれって悪人街で買ったヤツだったのか……」


「ああ。使えないわけじゃないんだが……お前も気をつけろよ。悪人街のプレイヤーってのは……いや、”悪党”ってのは多分殆どがそうなんだろうが、意外に”人を見てる”から気をつけろ」


「”人を見てる”?」


「”観察してる”って事さ。騙されてわかったんだけどよ。例えば、物を盗む時とか、相手をハメる時とか必要なものって何だと思う?」


「そりゃあ……相手の隙を見つけること、とか? あとはスキルとか、そういう能力が向いてるとか……」


「そうだ。そして、そういう物は……アイツらは普段から見て探ってやがるのさ。”獲物になる人間すらも、知らない”ような”無防備な隙”を探す事。それが恐らくは、”悪人”ってものが持ってる癖っつーか習性なのさ。恐らくはな」


「本人ですら知らないような隙……かぁ」


「ま、オレが言いたいのは、悪人街の奴等はどんなのであっても油断するなって事さ。例えレベルが低くても、ステータス的に弱くても、厄介なヤツってのは沢山居る。あそこには特にな」


「わかったよ」


■


 その後、昼休みが終了すると共に靖樹はクラスへと戻ったのだが―――


「えっ……ど、どういう事ですか? 授業に出れないって」


 もはや事実上の”犯罪者”扱いとなっている靖樹へ、様々な視線が注がれる中、授業が始まって早々に、靖樹は”教室から出て行って欲しい”と伝えられた。

 誰からでもない、入って来た”教師”からである。


「ちょっと、少し来て欲しい」


 教師は靖樹を教室の外へと連れ出して、事の経緯を説明した。

 ”電想技術リテラシー”の教科担当である”若松”は言った。


「いや……実はさ、学校のセキュリティシステムの仕様にあるんだ。安全性を高める為に、”部外者”はシステムを使用できないってさ。それで君は……その、それを解除する為の手続きが必要なわけで、その解除は早くとも明後日ぐらいまでは掛かって……」


 話し辛そうに、事の用件を説明する若松の言葉を遮るように靖樹は言った。

 全てを話す前に、言いたい事の内容がわかったからだ。


「つまり……”教室の中に一人でも部外者もしくは対象外の人間”が居ると、ファシテイトへ入れないから、俺が出ていかなきゃまともに授業ができない、と」


「まぁ……そんな所だ」


「ギルド員の停止処分だから、俺、学校自体の部外者扱いされてるって事ですか? そんな無茶苦茶な」


「そう言われても、学校のシステム自体に認証を弾かれてるんだからどうしようもない。どうかわかってくれ。あくまでも”出席停止”で、欠席処分にはしないようにしておくから」


「あの……これから午後の授業なんですけど……もしかして全部同じ様な事になってたりします?」


「ああ。今日はとりあえず、全て出席停止だ」


 そこまで聞いて、靖樹は思わず口を開けっ広げにしてしまった。

 言われている事がとても”学校”で更には”教師から”聞かされている事だと、正直信じられない。

 そこまで自分は、重大な犯罪を犯してしまったのだろうか、と思わず靖樹は自問した。


「私は、それを代表して伝えに来たんだ」


 まとめると、事実上の犯罪者扱いの靖樹はどうやら学校の”部外者”という判定がされてしまったらしく、ネットワークから完全に締め出されてしまったのだった。

 そして学校で行われる授業の殆どは、ファシテイト・システムを利用してのものである為、セキュリティの問題から、一人でも致命的な問題があると接続を弾かれるようになっている。

 だからこのままでは全員ワールドインできない為、またユニオンデバイスの機能も大きく制限される為に”自動的に欠席扱いとするように”と学校側からの通達が来たのだった。


「明日も……ですか?」


「わからない。少し経てば、出席ぐらいは出来るだろうけど……今日はまだ日が浅いので、厳しく判定されてるのもあって、何ともいえないんだ。少ししてギルド員の資格停止処分が一旦解ければ、出席自体は出来る筈だ」


「正式に除名されるまでは……”サボリ”をやるしかない、と」


「まー、言い方は悪いがね。どうする? 君が嫌なら、残る事も出来ないわけじゃないけど」


「いや……いいですよ。残って誰もまともに授業できないなんて、そこまで恨みを買う度胸は無いです。今日は俺は、早退します……」


「わかった。私から後で申請はしておくよ」


「お願いします」


 靖樹は授業を真面目に受けるのを美徳とするとか、そういう意識を持っているわけではないのだが、かといってサボるのをよしとする人間でもない。

 こういう不可抗力による出席停止、というのはなかなかに慣れない事であった。


「こんな事初めてだな……出なきゃいけないのに出れない、だなんて」


 ―――『メールが届きました』


「ん?」


 荷物をまとめて学校から早退しようとした時、靖樹の耳元でシステム・メッセージが鳴り響いた。

 メールらしく、「また何かの悪い通知か?」と悪い予感を漂わせながら靖樹はそれを開いた。

 すると―――


「……”通常召集”?」


 アドレスは昨日、掃除屋の集会所へと案内された際に自動で追加されたメールアドレスで、差出人は”掃除屋組合”とあった。そして件名は”通常召集”。

 どうやら、掃除屋が人を集める為に投げているメールが入ってきたようだった。


「これが、サイモンの言ってた”通常召集”かな?」


 サイモンが言っていた”自由参加”と言っていた召集はこれのようだ。

 何かしらのイベントの為に、人員を募集しているのだろう。


「どうせもう授業は出れないし、行ってみるか……」


 靖樹は図書館へと入り、そこで大きめの椅子へと座り込んだ。

 ただ座る為のものではなく、ファシテイトも問題なくプレイできるように設計されている大きな背もたれのあるものだ。倒すと簡易的なベッドにもなるタイプである。

 靖樹はそのまますぐにワールドインを行おうとしたが、一つ、思い出した。


「……”緊急”じゃあないよな」


 一応、確認をしておく。サイモンが言っていた”召集”には2種類あった事を。

 一つは”緊急”。文字通り緊急事態のときの拒否できない召集だ。

 今掛かっているのは、自由参加の方である”通常”の召集である。

 自由という事は緊急性の低いものである筈だから、余り危険な任務などが割り当てられている事は無い筈だ。

 なるべく命懸けの戦闘に出たくはない靖樹としては、その辺りの事は死活問題である。

 流石にもう悪人街に入り込んだ時のような事態に直面するのは、出来る限り避けたいからだ。


「よし、これならいいか」


 安全(?)を確認すると、靖樹は椅子を倒して簡易ベッドのような形状にして、ワールドインを行った。

 ユニオンデバイスを操作した後、コマンドを実行させると段々と強い眠気が脳内に満たされ、世界と意識が分断されていく。


「……」


 人が殆ど居ない為、閑散とする図書館内。

 靖樹は一人寂しく、電想世界へと入っていった。


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