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26:重機で銃器な銃姫さま

 荒金靖樹ら三人は”ワールドマスター”の少女「マルール」を探す為、雪山で出会った

ゲームの開発者”後藤”に彼女から貰ったメールの解析を頼んだ。

 そして後藤の娘であるというコボルトの姿をした少女”ルゥリ”をパーティに加え、メール解析が完了するまでの間、北海道エリア全域で起こっている「モンスター襲撃」の件を調べる事にした。

 そんな中、靖樹はギルドでの課題を終了させるべく、一旦東京へと戻った。

 そして課題をこなすうちに出会った少女「アーネイ」に学校で再び出会う。

 彼女は言う。自分こそが学校系のギルド連合を統括するトップランカー「ディバル」だと―――

(文字数:15141)


 早朝の学校。

 電想世界上では学校エリア内も朝早い時間帯となっており、夏休み前特有のじんわりと冷えた空気が再現され、満ちていた。

 しかし今、”荒金靖樹”こと”ラクォーツ”が居る生徒会室に流れている気温は、更にに低下しており、”冷えた空気”と言うよりは”凝縮された圧力”と言う感じがした。


(魔銃戦者……!?)


 ラクが目にしたディバルのステータス表示には、見た事が無いクラスが表示されていた。

 学校中央部分の4階。今、ラクの目の前にいる少女『ディバル』は、ただただ”違反者”という事実を告げた後、何か言うでもなく、静かに立っている。

 ラクは、いつでも攻撃できるように片手を腰に下げているナイフの近場に無意識に置き、もう片手を不測の事態に対応できるように道具袋の中に突っ込んでいた。


(銃使い……だろうか?)


 いや、何か……違う。

 もし魔銃をメインにしたクラスならば、魔法の砲撃使いである『魔砲使い』と表示されるはずだ。

 それの上位クラスだろうか? しかし、銃を使用するクラスは正直言って余り強くなく、上位クラスは数えるほどしか存在していないはずだ。


(多分、銃メインじゃない。何か……魔法系の複合クラスだな)


 ファシテイト中に銃をメインで使うクラスは「ハンター」だとか「狙撃手」だとか、いくつか存在することは存在しているが、その殆どが基本的に”あまり使い物にはならない”という認識となっている。

 銃は全く使えないわけではない。

 科術道具である各種道具袋によって、銃弾は多量に持つ事ができるし、普通なら決して持ち歩けない重機関銃だとかも、サイズや道具袋の性能によっては持ち歩ける為、使い勝手は悪くない。

 そして、ゲーム的な都合によって銃弾が何故か弓矢より弱い、などと言った弱体化の憂き目に晒されている、というわけでもない。


 ただ、基本的に余り使えないのである。それらを差し引いても。

 ある一定以上の能力を持つモンスターには、高い生命力が備わっていたり、殻だとか筋肉の鎧などがあったりする。

 銃器は、そういった相手に対しては効き目が落ちてしまう。

 具体的にはDランク後半程度の相手から、銃器は目に見えて効きが悪くなる。

 数十発当ててやっと倒せる、ぐらいならまだマシな方で硬い殻や鎧などを持っている相手に対しては更に効きにくくなる。

 ”銃器の使い勝手”はスキルによって能力を上げていく事が出来るが、銃器自体の攻撃力は、上げるのにかなり念入りな改造を挟まなければならないため、非常に大きな足かせとなっている。通常の剣だとかとは違って、機構や各種部品のバランスなどに手を加える必要があるためだ。

 弱いモンスターや普通の動物オブジェクトを狩るためには使い勝手の良いものだが、ファンタジーに登場するようなモンスターに対してはやや事情が異なる、というわけだ。

 ある意味”ファンタジー世界に銃があったら?”という話を再現していると言えるだろう。


 これだけでもイマイチな状態だが、更にゲーム中には”魔法”が存在する為に―――というよりは”異能防御壁”システムが存在する為に、更に銃器は使い勝手が悪くなってしまっている。

 何故なら防御壁の中には”投擲物に対して強くなる”だとか”刃物に対して強くなる”だとか言うものが混じっており、銃弾は非常に大量の攻撃属性を持っているため、容易にダメージを軽減させられてしまう。

 複数枚を張り巡らした相手で、かつ防御力がある一定上ならば、ゼロ距離から撃っても効かない事があるほどだ。

 魔力を込めて……つまりは”魔法のエネルギーを乗せて”いれば、異能防御壁も破れるが、銃弾は基本的に小さいものである為、また源子エネルギーが滞留しにくい”卑金属”で出来ているために、大して乗せられないというのも弱さに拍車を掛けていた。

 ちなみに、弓矢では木製の部分に魔法のエネルギーを乗せる事ができる為、ここまでの問題は無い。

 魔力エネルギーを乗せられる貴金属や特殊な金属で銃弾を作ると言う手もあるが、それは余りにもコストが掛かりすぎる為に殆ど行う者は居ない。

 結果として―――対人戦などですら余り使えないものとなってしまい、”銃器系をメインで使用するクラスは余り強くない”と言う状態となっていた。


「はてさて、どうしちゃおうかなぁ」


 急速に空気が張り詰めていく感覚を感じつつ、ラクは次の手を考えていた。

 このまま―――攻撃して倒せるだろうか? と。


(武器は……)


 パッと見た限りでは―――ハッキリ言ってディバルは弱そうに見えた。

 道具も持ってなければ、武器が腰などの見える位置にも下がっていない。

 鎧などの防具も殆ど身につけておらず、薄そうな衣服に身を包んでいる程度だ。

 せいぜいそれらしいものは、胸部分だけを覆う金属製のプレートを付けている程度。

 見たままを言えば”まるっきり無防備”と言っても過言ではない。

 第一、道具を入れるためのストレージ・アイテム自体が見当たらない。

 つまり彼女は”持ち物すら何も持っていない”という事になる。

 これ以上なく弱そうだ。


(勝てるか……?)


 ラクは攻撃を行おうと頭の隅で一瞬考えたが、直感でそれを停めた。

 「一般的な非ゲームプレイユーザーの格好」と言えば、まさに相手の様相はそれだろう。


(いや……何か”匂う”。嫌な感じがする)


 だが―――だからこそ”普通すぎる”のが気に掛かった。

 ラクは、デアルガことミッキーが言っていた事を思い出す。


―――参加したプレイヤーはゆうに2千万を越えてたんだが、今言った”ディバル”は、その10分の1である”200万人をひとりで倒したんだよ”。


(……)


 ”模擬世界大戦”の件は、ラクも同じように耳にしている。参加はしていないが。

 だが、”そんな事はちょっと有り得ない”と聞いた時は思っていた。

 如何に強かろうと、流石に200万人ものプレイヤーを倒すなど、不可能である。

 噂には尾ひれがつき物だから、せいぜい200人ぐらいを派手な攻撃で倒して、その事が誇大されて噂として流れているのだろう。

 そう―――思っていた。


(しかし。しかし、だ……)


 だが、その言葉と目の前の弱そうな姿のギャップゆえに、攻撃できない。

 学校でのPK行為に抵抗があった事もある。

 だが絶対に倒されてはいけない以上、ラクは多少なり非道な事を行う覚悟は、おぼろげではあるが既に出来ていた。

 しかし、相手が本当に―――仮に少し低く見積もって”万単位の撃破数をマークした”というなら、間違いなく準……いや上級クラスのキャラクターのはずである。

 チートコードによるネームチェンジではなく、正式なネームマスクを使えるのだから、その可能性は非常に高い。

 そんな可能性がある以上、迂闊に仕掛けるわけには行かない。

 それに、素手であったとしても本当に相手が上級クラスのキャラならば、武器をもった自分程度では歯が立たないだろう。


(くッ、まだダメか……)


 現在、相手のステータスは名前しか見る事ができない。

 敵対判定が行われれば、レベル、名前、各種ゲージ量などは段々と明らかになっていくが、まだ戦闘モードに入っていない為、殆どの情報が表示されないようだ。

 モンスターの場合は最初から敵対状態となっているので、何らかの知覚が出来ていればすぐに情報は明らかになっていくが、対人戦ではどちらかが攻撃を行わなければ情報識別が始まらない。

 見えるのは、どんな状態でも表示される名前だけだ。

 せめてレベルが見れれば、打つ手を判断する助けにもなるのだが。


「な、なぁ……ディバル、さん」


 ラクは緊張を切らさないように身構えたまま、ディバルに話しかけた。


「ん? 何?」


「本当に時間切れなのか? 俺。今まで……期限なんか思いつきで決めてたみたいで、明確には言われてなかったのにさ。それをいきなり”ここまでが期限です”って事でやっちゃっていいのか?」


「実はギルドの規約にねぇ、”団員は365電想日時以内に、少なくとも1ポイント以上を~”って感じで書かれてるのよぉ? かなり余裕があるから、みんなあんまり確認してなかったみたいだけどね」


(ゲーム内で一年、って事は約4ヶ月以内……か)


 確かに、それぐらいの時間があればギルド内での活動は何かしらしているはずだ。

 全く獲得していない事は、そうそうない。

 たまにジャッジバトルの話はギルドの集合で耳にしていたが、どういう間隔で行われるか、までは絶対に参加しないだろうとタカを括っていた為に調べていなかった。


「さて、と。そろそろ死んでもらおうかな」


 ディバルはそう言って、胸のプレートの裏から何かを取り出し、ラクへと向けた。

 ラクは向けられたものを見て、思わず唾を飲み込んだ。

 同時に、汗が皮膚の内側からぶわっと浮かび上がってくる感触がした。


「!」


 向けられているのは―――小さなハンドガンだった。

 手にギリギリ収まる程度のサイズで、銃身の部分がさほど無い。

 弾倉つきのグリップ(にぎり部分)にトリガーと申し訳ばかりの金属筒がついているだけだ。一見するとオモチャのようにも見える。

 しかし、そこそこ距離があるにも関わらず、金属の光沢などがハッキリ確認できることから、立派な銃である事に変わりは無いようだ。独特な威圧感を纏っている。


「それじゃあ、とりあえず一回死亡で」


 どうやら、もはや話し合うことでどうこうできるレベルは通り過ぎてしまったようだ。

 逃げるべきか? それとも一気に攻撃をかけて倒すか?

 もうその二つしか恐らく選択肢は存在しない。

 逃げるべきだろうか? いや、それはダメだ。逃げ切るのは難しい。

 相手は銃を持っているのだから、距離を単純に離すだけでは逃げられない筈だ。

 ならば、戦うべきか―――それも正直、難しいように思える。

 実力が未知数であるのもあったが、感じる雰囲気から考えて、確実に”自分を倒す”程度の能力は持っている気がする。

 それに―――余り攻撃をしたくない外見である。

 こんな時に考えるものではないが、淡い紫髪と細身の身体は、相まって可憐な感じであり、かなり可愛い。


(……)


 ラクは狙われている時間を、とてつもなく長いものに感じた。

 いつ攻撃が始まるか、という緊張感からか、それとも極限まで集中しているからなのか。

 空気が凝縮され、止まったようなその場面で、ラクは逃げることを静かに決意した。

 そして―――銃口から火花が弾けた。


「くぅっ!」


 ラクは銃口から閃光が上がると同時に、素早く身を僅かに屈め、ナイフを抜いた。

 そして刀身で顔の半分ほどをガードし、もう片手で胴体の中央部分を守りながら、窓の方向へと走った。

 発砲は数回連続して行われ、そのうちの一つが身体のどこかに命中した。

 だが、それをものともせずにラクは駆けた。

 ディバルは、ラクが取った行動に思わず驚きの声を上げた。


「えっ!?」


 ここは4階だが―――もはや仕方ない。

 普通の逃げ方では、逃げる事はできないのだから。


「うおぉっ!」


 気合の掛け声と共に、ラクは窓を突き破って、外へと飛び出していった。

 一瞬―――遥か眼下に、湿った茶色の大地を臨む。

 より遠くへとなるべく距離を取るべく、そしてやわらかい土か砂地の地面に落ちる為に―――力の限り、飛んだ。



「ぐ!」


 ラクは、運よく花壇が再現されている場所へと落ちる事が出来た。

 だが、かなりの衝撃が身体に走り、痛みが同時に走った。


(ぐっ……まだちょっと影響があるのか……?)


 通常、痛みの再現はゲームプレイに支障が出る為に、あえて中途半端なものとなっている。

 ラクは、それが”あの事件中”を境にやや緩くなっている状態となっていた。

 全く制限が無かった状態から、あの”パッチ”を使って元の姿に戻ると共に、だいぶ軽減されたが、事件の前ほどには戻っていない。

 だからこうして、高所から飛び降りるのにもかなりの勇気が必要だった。


「いてて……クソ、逃げないと……」


 幸い、地面が柔らかかった為に、痛い事は痛いが、何とか立ち上がって歩く事は可能なようだった。

 ラクは数瞬だけ歩けるかどうか確認すると、すぐさま物陰へと向かって、そして学校から離れるべく、駆け出した。


「待って! 止まって!」


「……?」


 落ちた近場にあった高めの校門の影へと隠れると、4階部分からディバルが声を上げた。

 上からの物言いでなく、頼み込むような感じの言い方だ。

 ラクはそれをやや怪訝に思いながらも、僅かに目の部分を影から出した。


「今の……ペイント弾よ。良く見て」


「えっ?」


 言われるがまま、ラクが自分の身体を見ると、赤い染みのような”欠損表現”が横っ腹付近に薄く広がっていた。

 だが、確かに痛みはあまり無い。


「ペイント弾だって?」


 ラクが手で欠損表現部分を拭ってみると、赤く点滅していた部分が指に付着して剥がれた。

 確かにこれは作り物のようだ。HPも、よく見てみると余り減っていない。


「な、なんでこんなもの……」


 ペイント弾が存在する事に驚いていると、校舎の上からディバルは飛び降りた。

 そして、ラクと同じように窓から飛び降りて、地面へと着地した。

 ただ自分がやったようなギリギリの着地ではない。

 ふわりと、まるで猫のように全身のバネを無駄なく使ったしなやかさで、綺麗に着地していた。


「今、直接あなたを処分する気は無いわ」


「でも……さっき、タイムオーバーって……」


「説明するわ。また生徒会室まで来て」



 再びラクは生徒会室へと戻り、ディバルに促されるまま、持っていた銃弾を課題を入れるアイテムボックスへと放り込んだ。

 そして浮かんでいる仮想パネルに自分の名前を打ち込むと、ギルドポイントが加算された。


「とりあえず……収めるだけ収めておくか」


「それじゃあ、本題に入りましょうか」


 後ろからディバルが笑みを浮かべて近づくが、ラクはすぐに警戒して距離を離した。


「さっきのは……どういうつもりだったんだ」


「ちょっとした冗談よぉ」


「……」


 ラクがどことなく納得しない風に、小さく鼻息を漏らす。

 するとディバルもそれを察したのか、付け加えるように言った。


「……ごめんねぇ。ミーちゃんからあなたの事聞いて、どんな人間か試してみたかったのよ」


「ミーちゃん?」


「この前の北海道エリアでの防衛戦の時、後から来たでしょぉ?」


「……まさか、エルミラさんの事を言ってるのか!?」


「そーよ。一昨日にあった全邦ギルド会合で、ミーちゃんが私に”君の所は面白いのが居るな”とか言うから、気になって見に来てみたわけ」


 ラクはディバルから話を聞いて、思わず呆気に取られてしまった。

 あれだけ動揺したのはなんだったのか、と思わず顔を右手で隠す。

 ディバルはその様子を見て、小さく笑う声を発してから言う。


「でも……あたし、本当にあなたに興味が出てきちゃったぁ」


「っ!」


 ディバルは一気にラクへと近づいていった。

 ラクは警戒の度合いを高め、再びナイフの柄に手を掛けるが、ディバルはそんな事を全く気にせずに目の前へと立った。


「あなたが纏ってる雰囲気―――もの凄く”真に迫ってる”もの。いつでも攻撃できるように武器に手を掛けてたり、想定外の事態にも対応できるように、ストレージの中に手を突っ込んでたり……」


 そしてラクの頬に手を当て、言った。


「まるで……”本当に命が懸かってるみたい”。今まで会った人の、どれとも違う反応だわ。大抵は―――観念するか、適当に流そうとするのに」


 ディバルは、ラクの目の前まで顔を近づけてきた。

 微妙に”とろん”とした垂れ気味の目つきと、何かを懇願するような雰囲気に、ラクはその場で魅了されてしまいそうな感覚を感じ、思わず唾を飲み込む。


「……い、今、死亡ペナルティを受けるわけにはいかないんだよ。ただそれだけだ」


 名前を名乗った先程もそうだったが―――

 彼女は、外見は清楚で可憐な容貌をしているが、信じられないぐらい妖艶な雰囲気を持っている。これは一体なんなんだろうか。

 大人でもこんな風な雰囲気を持っている女性は、中々いそうにない。


「ふぅん……」


「ところで……君は、本当にあの”ディバル”なのか? 一応聞きたいんだけど」


「疑うの? あなたは”偽名”と”騙り”がどういう違いか、わかってるでしょう?」


「……そりゃあ、わかってる事はわかってるけど」


 ゲーム中において”偽名”を使うことに基本的に制限は掛かっていない。

 システム的に、余り名前を偽れない事もあるが、ゲームプレイ時にはそもそも本当の名前を名乗らなくても大抵は問題がない為だ。

 だから名前が表示されていても別名を名乗っていたり、余り良くない事だがチートコードを使って名前を一時的に変えている場合も少なからず存在する。

チートの使用自体は明らかなファシテイトの利用規約違反行為であり、厳しい罰則が設けられてはいるものの、黙認されている部分もある事はあるのだ。

 ただし―――”誰かの名前を勝手に使うこと”。つまり”騙る”事はいかなる場合においても厳格にタブーとされている。

 名乗られた側には、大抵はマイナス要素しかない為だ。

 なので、その場合は所属ギルドなどから厳しく罰せられる。

 名乗る人間の社会的地位が大きいほど、また名前を騙って発生した責任や損害が大きいほど罰は重いものになっていく。最悪の場合は、事実上のキャラクターアカウント停止措置を取られる事もある。


「……」


 改めてディバルの方を見るが―――可愛い。

 だが、とても”200万人のプレイヤーを倒した強者”には見えない。

 見た目のままでは、ゲームプレイ時に神官プリーストだとかの服装に着替えて、後衛の回復役でも担当していそうな感じだ。

 本当に彼女がディバル本人なのだろうか?


「それとも……あたし、そんな馬鹿な感じに見える? 何も考えずに成りすましをするような感じに見える?」


「いやそんな事は無いけど……イマイチ信じにくいって言うかなぁ」


「……」


 ラクが疑惑の視線を向けていると、それに気付いたディバルは、突然、掌を窓側へと向けて広げた。

 丁度、ラクが破って飛び出した方へと、だ。

 そして―――


「うッ!」


 ”ガォン”という何かが破裂するような音と共に、教室の窓側が”全て”吹き飛ばされた。

 まるで、教室の窓全てに爆薬が仕掛けられでもしていたようだった。


「な、なんッ……!?」


「……これで信じてくれるかなぁ」


「あ、ああ……信じるよ」


 ちらりと視線だけを攻撃らしきものが行われた方へとやると、信じられない光景が見えた。

 一瞬にして―――生徒会室の”三分の一”ほどが無くなってしまった。

 まるで、ここだけ”間違って屋上を凹ませて建てた”と言っても今なら信じられるかもしれない。


「まぁ、どうせ後で修復が必要だし、ちょっと大きく壊れててもいいかなぁ」


(なっ、何をやったんだ……!?)


 どうやって攻撃を行ったのか、全くわからない。

 彼女は何も身につけていないし、装備だって簡素な見た目の防具が一つだけだ。

 ”スキル”だろうか? しかし威力が大きすぎる。

 あのアリの町で少しばかり火薬の多いグレネードを使用したが、あれと同じぐらいの威力があるかもしれない。


「何をやったかわかる? 今のはねぇ……」


 ディバルはラクへと掌を向けて言った。


「い、いや大丈夫だ。わかったよ充分」


 ラクはそれを見て慌てて両手を振り、否定の言葉を返した。

 するとディバルは、無邪気な表情をしたまま掌を下へと下げた。


「そう?」


 恐ろしい少女だ。心の底からそう思う。

 もし―――あの時、血迷って攻撃する選択肢を選んでいたら、これを直撃させられていただろう。

 そしたら……恐らく何も残らずに消し飛ばされていたに違いない。


「ところで、君は……俺の顔を見に来ただけなのか? エルミラさんから話を聞いてさ。参加するのか? ジャッジ・バトルには」


「あ、いい所に気付いたねぇ。参加するわよ、私」


 ディバルからの回答を聞いて、ラクは思わず顔を手にうずめた。

 ”ジャッジ”に巻き込まれることになってしまうかも、とは予想はしていたが、それだけならまだしも、ミツキが言っていた通り、まさか本当にディバル本人が参加してくるとは思わなかったからだ。


(こりゃ、今度こそ終わりかもしれないな……)


 思わぬ障害が立ちはだかった事に狼狽していると、それを見ていたディバルは目元をにやけさせながら言った。


「あなた、どうしても死亡ペナルティ受けたくないのぉ?」


「……ああ。今、ちょっと立て込んでる事情があって、どうしても倒されるわけには行かないんだ」


 その回答を待っていたかのように「なら」とディバルは言った。



 ラクが電想世界へとインしてからしばらくが経った。


「うーっす……って、誰もいねーかぁ」


 現実世界にて。

 早朝を過ぎ、朝のほどよい時間がやってくると、一人の男子生徒がとある教室へと足を踏み入れた。

 教室内には誰も居らず、彼は自分が一番乗りである事を知る。

 そして鼻唄を歌いながら、自分の席へと着いた。


「今日も俺が一番乗りだな!」


 生徒は頭の形に沿ったやや長めの黒髪をしており、全体的に痩身の体躯であったが、顔だけは何故か程よい肉付きになっている。

 そして少々出っ歯な感じで、とても口やかましそうな感じだ。

 温和な感じも漂わせており、いかにも人当たりが良さそうである。

 実際に、彼は学校一の人気者かつ、お調子者として名高い男子学生であった。

 彼の名は”田倉芳明たくら よしあき”と言った。


「ん? あら? ヤスじゃんか」


「あ、ああ……田倉か……」


 田倉が机の中にある物を整理していると、教室の中へ一人の男子学生が入って来た。

 荒金靖樹である。

 彼の表情は暗く、げっそりとした感じで、いかにも元気が無さそうな様子だった。


「どうしたんだ? なんか疲れた感じでよ」


「いや、ちょっとな……」


 靖樹は、ディバルに言われた事を思い返していた。

 そして言われた”ある事”を思い出す度、頭が重くなる気分を味わっていた。


(……安請け合いは、やるもんじゃないな……)


 やがて、段々と生徒が登校し始めてくるとミツキが教室へと現れた。


「うぃーっす。……ん? どうしたんだヤス?」


「朝からずっとこうなんだよ。なんかファシテイトであったらしいとか」


「……!」


 田倉の言葉に敏感に反応したミツキは、普段通り靖樹の隣に座り、小声で訊ねた。


「……おい、何があった? まさか、朝方に”違反者通告”でも受けたんじゃないだろうな?」


 その言葉に、靖樹は思わず双眸を開いて身体を揺らした。

 そして、観念したように言葉を捻り出して応える。


「……ミッキー。唐突だけど、これから多分、3日ぐらいは向こうに戻れないと思う」


「?、なんじゃそりゃ?」


「ちょっと立て込んだ事情が出来たんだよ。それが解決するまでは……ちょっと戻れない。3日じゃなくてもっと長くなるかもしれない」


「ちょ、ちょっと待て。言ってる意味がわからん。何があったんだ?」


「ちょっとその辺は話せないんだ。とにかく、少し遅くなるから。二人にもそう伝えておいてくれ」


(??、どういう事だ……)


 事情が全くわからず、怪訝な表情をするミツキだったが、靖樹の真面目に考え込んいる姿を見て、ひとまずは時間を置いてみる事にした。

 課題の期限はどうだったかについて訊ねるつもりであったが、結局、話す事はできなかった。

 何故なら、その日の放課後に”事件”は起こったからだ。



「さて、帰るか……」


 月曜日の憂鬱な時間を終えて、ある生徒は下校を。

 そして靖樹やミツキは学校でのサークルへと向かおうとした時―――突然、その声は校内に響き渡った。


『これより―――”ジャッジ・バトル”を開始する』


「ッ!」


 ミツキは、その言葉を聞いて思わずスピーカーの方へ顔を向ける。

 そして、急いで自分のパーソナルビューを立ち上げた。

 そこには、学校ギルドのリーダーを勤める「早渡」の顔が映っていた。

 彼は、ギルドリーダー兼サークルの部長であると同時に、学校の生徒会の副会長でもある。


『突然の緊急放送を失礼する。だが、今回のこの”ジャッジ”は、かなり前から決まっていた事でもあるので、粛々と進めさせてもらう』


「こっ、この放送があるって事は……」


 ミツキは靖樹の姿を探した。

 だが、近場に彼の姿は見えなかった。


「まさか、アイツ―――!」


『ギルド員は僅かでも規約に目を通していればわかるだろうが、学校ギルド内において違反者を処罰する”ジャッジ・バトル”は、一人も違反者がいなければ起こらない。我が校のギルド員の殆ども、課せられたノルマの最低ラインを確保していた』


 早渡は”だが”と短く切って、一息を吐いてから言った。


『今までは……これで我が高は通ってきたが、今回―――情けない事に”一人”違反者が出てしまった。その者には、これから始まる関東地帯全域を対象とした”裁定戦闘”に出てもらう。これに参加できれなれば強制的に除名処分であり、拒否権限は存在しない』


 校内が放送を聞いてざわめき始める。

 ”違反者”となるほどに課題を行わなかった学生など、今まで居なかった為である。


『それでは違反者名を発表する―――2-B、調達部所属”荒金靖樹”! 今よりゲーム外時間1時間以内に、電想世界の中央校庭まで出頭せよ!』


「……マジかよ。あいつ、結局間に合わなかったのか……」


 ミツキは、放送された内容に思わず絶句した。

 だが、次に放送された言葉に、更に驚く事となった。


『尚、今回の”ジャッジ・バトル”は関東エリア合同で行われる為、極めて広範囲での市街地内戦闘となる。既に、付近一帯には外出を控えるよう通達がなされている。校内生徒、及び学校付近にいる生徒も、ファシテイト内にインするのならば、デスペナルティを受ける事を覚悟していく事』


(……要するに、野次馬やりてーなら死ぬ覚悟をしていけって事か)


 苦い顔をしてミツキはオンライン回線を開いた。

 そして、バトルの配信が行われている動画サイトを一つ開いた。

 基本的に町中で戦いが起こる場合、こうして誰かが記録を取っている為、適当な動画サイトを開けば、その様子を見る事が出来る。

 こういった大掛かりな戦闘は、注目度も高いので多くのサイトが中継を行っていた。

 ミツキは、できれば直接行って靖樹を問い詰めたかった。

 だが今、彼のアバターの位置は北海道エリアに固定されている為、ここからオンラインにインしたとしても、北海道の方へと出てしまう。

 この事態を、何よりもミツキは懸念していたのだった。


「えーと……」


 関東地方全域の学校で開始されるからか、中継している人数も桁違いのようで、中継動画はたくさんあった。

 ミツキはその中から、自分の居る”公立幾島情報高校”を選択し、配信を見る。


「居た!」


 ウィンドウが開いて映った映像には、校庭の中心で待つラクの姿があった。

 武器の手入れを行い、時折、道具袋の中へと手を入れては目の前で何かを操作するような動きをしている。

 恐らくは、中身の確認と整理を行っているのだろう。

 その動作の所々から、どことなくそわそわとした、落ち着きがない様子が垣間見えた。


(あのバカ……参加する気か!? まさか!?)


 何故、靖樹が逃げないのか、ミツキにはわからなかった。

 今、死亡状態から元に戻れるかわからない以上、下手な戦闘は避ける必要がある。

 それをなにより、靖樹はわかっているはずだ。

 レベルが下がっている以上、明らかに不利である事も充分にわかっているはず。


(なんでだ……!? そりゃ、逃亡したら除名処分だろうけどよ……流石に危険すぎるぜ)


 ミツキは必死に連絡を取ろうと、靖樹の通信アドレスにコールを行うが全く応答がない。

 どうやら、靖樹の側から通信を拒否する設定になっているようだった。

 やがて、放送で言われていた時刻になると、再びアナウンスが校内とパーソナルビュー内に響き渡り始めた。


『では、時間だ。今回のジャッジ・バトルのルールを説明する。大半はこれまでと余り変わらない。基本はペナルティを執行する”執行役”と違反した”違反者”側とに地区毎に分かれ、どちらかが全滅するまでが試合の運びとなる。戦闘の全工程を終えるまでに逃亡した場合、別にペナルティが課せられ、違反者側は生き残る事ができればデスペナルティ免除となる』


 そして、少しばかり息を吸い込んでから、言った。


『ただし……今回は少し趣向が異なる』


「んん?」


 ミツキは、その台詞を聞いて不吉な予感を感じた。


『通常は執行役側か違反者側のどちらかが全滅するまで続けられるが、今回は時間制限が設けられている。なので、違反者側は執行役を全て倒す事ができずとも、制限時間内を生き残る事ができれば、ペナルティは免除される。そして今回、執行役は”一人”しか居ない。つまりその一人を倒せれば、もしくは逃げ切る事ができれば、そこでこの”ジャッジ”は終了だ』


【なんだよ、たった一人かよ!】


 突然、ウィンドウが一つ開き、顔を歪めたプレイヤーが一人映った。

 自分を強く見せる為だろうその顔は、彼自身の印象をとても軽薄そうな感じにしていた。

 どうやら、オンライン回線を通じて、招集されている”違反者”の一人が早渡の通信に割り込んできたようだった。

 それに続いて何人もプレイヤーが回線を開き、早渡に言葉を放つ。

 そのどれもが、相手を嘲笑する類の言葉だった。


【おいおい、”関東全域”なんだぜ? たった一人でやるとかバカじゃねーのか?】


【よほど人手不足なんだなぁ、中央はよ】


【こりゃあ今回は楽勝だな】


 早渡は、言葉を聞いて呆然とした感じで瞼を閉じ、溜息を吐いた。

 そして”やれやれ”と言った風に頭を振ってから、言った。


『余裕ぶるのは構わないが……今回、お前達の相手をするのは……いや、して”くださる”のは―――”グランド・マスター”だぞ』


 早渡が呆れたようにそう告げると、一瞬、場にいる全ての人間の動きが止まった。

 まるで、時間が止まったようになった。

 それから、茶化すように回線を開いていたプレイヤー達の顔が、どんどん引き攣っていった。

 これから何が行われるのかを少しずつ理解してきたのか、段々と怯えるような表情になっていく。


【えっ……ぐ、グランド……って……】


【まさか―――ディバル!? あの”ミリオン・キラー”なのか!?】


『そうだ。今回の”ジャッジ・バトル”担当者は、電想世界本州エリア郡主体統制ギルド連盟”ミズホ”のメインプレイヤーの一人にして、国際遊撃手ギルド”ビフロスト・ストライカーズ”のリーダー、”マスター・ディバル”だ』


「お、おいおい冗談だろ……」


 ミツキは、画面を眺めながら思わず呟いた。

 たった一人ではあるが―――確実に上級クラス以上のプレイヤー。

 どう考えても絶対に勝てない相手だ。


「クソッ、なんで繋がらねぇんだ……!」


 ミツキは何度も靖樹への通信をコールする。

 だが、何回やってもやはり反応がない。


(逃げ切れる算段でもあるのか……?)


 まさか勝てるとは思っていないはずだ。

 靖樹は前にも同じような絶対に勝てないだろう相手―――

 ワールドマスターを一度退ける事が出来てはいるが、

 あれを再現できると思っているほど、思慮の浅い人間では無いはず。


「……ダメか」


 やがて、ミツキは通信がどうやっても行えない事を悟ると、手を止めてジャッジ・バトルの行く末を見守る事にした。



 放課後の公立幾島情報高校エリアは夜の時間帯に入っていた。

 所々に夜のネオンが瞬き始め、夜にしか活動しないプレイヤーが、ファシテイト内にログインし始めていく。

 そして、基本的に学校や居住区系のエリアは比較的暗めに設定されている。

 だが今日は、大規模な戦闘が行われる為に、学校エリア内はライトアップされていた。


「……」


 ラクは落ち着かない”フリ”をしながら、学校エリアの屋上付近にまでやってきていた。

 前の対プリブラム戦で粉々になった屋上は、朝方にディバルが破壊した部分を除いて、ほぼ完全に修復されていた。


「それじゃあ、”依頼”の方よろしくねぇ。ラクくん」


 そして屋上の隅へとやってきた時、声が掛かった。

 丁度、映像取り込みの範囲外へとやってきた所で、ディバルが話しかけてきたのだ。

 ディバルは、中継に移りこまないように屋上の塔屋(屋上に突き出ている小屋部分)内に居た。


「……もし、俺が失敗したらどうするつもりなんだ?」


「大丈夫よ。あなたは失敗しなさそうだし」


「裏切るかもしれないじゃないか。なんでそこまで俺を信用してくれるんだ?」


「昨日、あなたに道案内されてる時に思ったのよ。あっ、この人”優しい人”だなぁって」


「そんなんで選んだのか? 別に誰でも……」


「誰でも良かったわけじゃないわ。それより……」


「ああ、わかってるよ。やる事はちゃんとやる」


「頼んだわよぉ」


 のんびりと間延びした声でディバルは言った。

 二人は”朝方”に予め話し合っていた件についての意思確認を行っていた。

 やがて―――話していると、アナウンスがパーソナルビュー越しに二人に響いた。


『それでは……そろそろ開始時刻だ。参加者は用意せよ』


「そう言えば……昨日のお礼。まだしてなかったね」


「道案内のお礼? いいよ別に……あんなのは。ゲームの初心者には快くする……なんていうか常識みたいなもんさ。俺が最初にやってもらったみたいに」


「そう言う所よ。あなたを選んだ理由は」


「えっ?」


 ディバルは、垂れ気味の目元を更に緩ませて、ラクに笑いかけながら言う。


「見せてあげる。私の”攻殻体アサルトボディ”」


 ディバルは、塔屋から屋上の方へと出て行きながら言葉を虚空へと放った。

 彼女は、顔を隠す為か目元だけを覆うマスクのような物を身につけている。

 更に、胸にあった金属製のプレートを、何故か頭に被っており、まるで”時代劇の風来坊”を上っ面だけ真似たような感じになっていた。


「来なさい、レイダー」


 彼女がそう言うと同時に―――


「うわッッ!!」


 学校に轟音と共に震動が走った。

 まるで”とてつもない質量の物体”がぶつかるような、そんな聞きなれない音だ。

 ラクは何事かと慌てて屋上の端に走り、校舎の下を見下ろした。

 そして―――”原因”を発見した。


(なっ、なんだアレ!?)


 何かが、校舎の壁に体当たりをしていた。

 全体的にゴツゴツしており、とても長い先端部分を振り回しながら校舎へ衝突を繰り返している。

 体当たりしている本体の部分だけならば、大きさは人間の2、3倍ほどだろうか。

 見た感じはどう見ても重機である。”小さめショベルカー”とでも言う感じだ。

 ただ、ショベルなどが付いておらず、代わりに何か円筒形のものが多数見えた。

 とても工事用の物に見られるような、土木作業用ではないようだ。

 やがて重機は、無理矢理壁にキャタピラを接続し、壁を高速で登り始めた。

 そして屋上へと到達し、そのままディバルを襲うように飛び掛った。

 だが―――


着装アーマードブレスト―――”レイダー・カリウス”!!」


 ショベルカーのような重機は、ディバルに体当たりする直前に、空中で分解した。

 そして、そのまま彼女の身体へと絡みつくように集合していく。


「まさか、君は―――」


 ラクの目の前には、重機をそのまま鎧のように着込んだ少女の姿があった。

 両足にそれぞれキャタピラーが纏わりつくように巻かれており、

 ベルトは腰部分に何重にも巻かれ、キャタピラーのスカートになっていた。

 恐らくは腰部分で回転を行って、足部分のキャタピラを駆動させる、という機構になっているのだろう。

 全身には金属の鎧が着込まれており、特に右腕は信じられないような大きさに変わっていた。

 背中には大型のバック・パックを背負っており、分解されて生成されたであろう、様々な形の円筒形状をした、恐らくは銃器であろう装備がいくつも背中から飛び出ていた。


「それじゃあねぇ」


 ディバルは、キャタピラー・ベルトを纏った足を、地面にとてつもない力で打ち込むと、その反動を利用して屋上から飛び出して行った。


「”鎧操騎士”だったのか。アサルトボディって事は……そう言えば、いくつかバリエーションがある、とは聞いてたけど……」


 ”鎧操騎士”とは、TRPG「XYZ」における文明の一つである『機械と科学の世界カトレシア』において主に半機械化人が使う全身を覆う鎧状の武装のことである。

 操作者の戦闘能力を始めとした様々な能力を拡張する為に作られたもので、源子を燃料として動作するため、操るには生物が生み出す膨大なエネルギーを必要とする。


「道理で、何も身につけてなかったわけだ……あれを動かすなら、ゲージの上限が一番重要になるんだから」


 ゲームにおける”強さ”というものは、大きく分けて三つの要素からなる。

 一つ目がプレイヤー自体が持っている”操作の能力”、つまりはプレイヤースキル。

 二つ目が能力の基本値などの、要するにキャラクター自体の”パラメータ的な強さ”。

 そして最後が”装備品の強さ”だ。

 基本的に、RPGなどは「積み重ね」の行動にウェイトが置かれている為、普通はキャラ自体のパラメータと装備品を強化する事に重点が置かれている。

 逆に、格闘ゲームやスポーツゲームなどの競技的な意味合いの大きなものは、プレイヤースキルの方に重点が置かれている。

 ”鎧装騎士”はこの内の前者で、装備品扱いのものとなっていた。


「あれがOKなら、いつか個人用のロボットとかも実装されたりするのかな」


 どうやら、ゲーム内でもその機構は再現されていたようだ。

 だが、動かすにはかなりのエネルギーが必要だったはず。

 あれぐらいの本格的な戦闘用のものを、自由自在に扱えるという事は、彼女はとんでもない源子保有量を持っているのだろう。

 そして、あくまでもあれは”能力を拡張するもの”だから、技構成も恐らくは特化したものになっているに違いない。素手でもかなり強いはずだ。


「さて、それじゃ……俺も行くとするか」


 ラクは、先程のディバルのジャンプで大きく陥没した場所を一瞥すると、誰にも見られないように、学校エリアから離れていった。


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