27:重機で銃器な銃姫さま(2)
荒金靖樹ら4人は”ワールドマスター”の少女「マルール」を探す為、
雪山で出会ったゲームの開発者”後藤”に彼女から貰ったメールの解析を頼んだ。
そしてメール解析が完了するまでの間、北海道エリア全域で起こっている
「町へのモンスター侵攻」の件を調べる事にした。
この事件には、自分たちと同じようなプレイヤーが絡んでいるはずだ、と。
そんな中、靖樹は自分に課せられていた学校ギルドでの課題を終了させるべく、
一旦東京へと戻る。だが関東最強のトップランカー「ディバル」に出会ってしまい
そこである話を持ちかけられる事となった。
靖樹はその話を受けて、ディバルと共に「ジャッジ・バトル」へと臨む事にする―――
(文字数:21457)
電想世界の時間は、現在「18:30」を指していた。
”丁度夜の時間帯に入った”と言う感じだろうか。
夏休み前特有の、じんわりと湿って生ぬるい空気がファシテイトには満ちていた。
夜の時間は、どこも比較的賑やかな時間帯となる。
だが今日は熱過ぎるほどに、関東全域は賑わっていた。
「くそうっ!! 撃てッ! 撃てぇっ!!」
市街地中心部。そこでは、ライトが夜のカーテンを切り取って、幻想的な光景を作っている。しかし、普通ならば人通りが多いの街の中心部であるはずなのに、周囲は不自然なほどに人気がなくなっていた。
「効かない効かない」
市街地の大通りで、何人ものプレイヤーが銃や弓を構えて、何かへと射撃攻撃を繰り返している。
攻撃が行われる方向には、大きな影があった。
「さて、こっちからも行こうかなぁ」
攻撃を受けているのは、一人の少女だった。
キャタピラー・ベルトを腰より足先へと伸ばして、とんでもない勢いで回転させており、その動きを利用して、まるでスケートの選手のように地面を滑走している。
腰には幾重ものベルトが巻かれ、スカートのように膨らんでいて、そのベルト一枚一枚が高速で回転を行っていた。
そして、腰回りと胴体の横部分を丁度覆うように装甲が形成されている。
カラーリングは黒と黄色で、重機機械を思わせる配色だ。
彼女の右腕全体は、その全てを覆うような不自然な形状の装甲で形成されており、左腕には上半身全体を覆えるほどの巨大な車輪が、まるで盾のように装備されていた。
更に背中には、その小さな背から”はみ出る”ほどの大きなバックパックが背負われており、そこからはいくつもの小さな銃身が伸びている。どうやらどれも銃器らしかった。
「いっけぇーッ!!」
”ディバル”という名の少女は、掛け声と共に右腕を前へと構えた。
すると背中に備え付けられていた様々な銃器が、わき腹部分や腰部分へと設置されていき、その全てから銃弾が雨のように撃たれた。
「うわぁ―――ッ!!」
ディバルへと攻撃を行っていたプレイヤー達へと、まるで豪雨のように火の線が撒き散らされる。
そして、攻撃を行っていたプレイヤーは、悲鳴と共に一斉に倒れていった。
ある者は街の地形と共に装備品ごと穴だらけにされ、ある者は銃弾の威力に身体を分断されて飛び散っていく。
その光景は”一方的”と呼ぶしかなかった。
「ふぅ……」
攻撃が止むと、ディバルは周囲へと感知系のスキルを発動させた。
そして、あらゆる手段で生き残りが居ないかを確認する。
広範囲へと”生命体感知”、”武器感知”、”体温感知”、”源子感知”などを高感度で行い、全滅した事を入念に確認した。
「あとは……そこの”5人”だけかな」
ディバルが呟くと、銃撃が行われた場所から、彼女の言った通り、5人のプレイヤーが現れ、攻撃を仕掛けてきた。
現れたプレイヤー達の周囲には、薄い光の壁が張られている。
どうやら異能防御壁を構築し、銃弾を防いでいたようだ。
「爆雷槍!」
「プラズマカルテット!!」
「死ねやぁっ!!」
薄めの布を身に纏った、魔法系クラスだろう二人がその場から魔法攻撃で攻撃を仕掛け、他の接近職だろう武装した三人が武器を持ってディバルへと直接飛び掛っていく。
彼女は、それを全て受け止めた。
「なっ!?」
接近して攻撃したプレイヤーの一人から、愕然とした声が発せられた。
長剣による攻撃が、まるで通らない。
堅い装甲に、自らの剣が届いてはいるものの、全く傷が付いていなかった。
他のプレイヤーのものも、それは同様で、同じように斧や槍がディバル本人へと届いてはいるのだが、まるで影響がない。HPは1ミリたりとも削れていなかった。
魔法攻撃に至っては、届いてすら居ない。
雷を纏った炎の槍も、4つの大きな青の稲妻球も、直前で見えない壁に停止させられていた。
「うっ、嘘だろう……」
「かっ、堅っ!! なんて防御力だ……!」
転瞬、ディバルが身体を回転させ、接近して纏わりついていたプレイヤー達を弾き飛ばす。
そしてバランスを崩した所に銃撃を打ち込み、二人を倒した。
だが一人は弾かれても転倒したりせず、銃撃を回避して再び攻撃を狙う。
「クソッ! 生身の部分なら―――」
長剣を持ったプレイヤーは、今度はディバルの装甲が覆われていない部分へと、狙いを定め、突進しながらの突攻撃を行った。
ディバルは、遠隔から攻撃を狙っている魔法系クラスに気を取られているのか、まともに剣を生身の腹で受けてしまった。
だが―――
「馬鹿、な……」
剣は、刺さった。確かにディバルの腹部へと命中し、HPを僅かに削った。
だが―――めり込んでいかなかった。
表面で刃は止まっており、それから身体の奥へと抜けていかない。
まるで”限りなく金属に近い筋肉の塊”にでも刃を立てようとしているようだった。
「みんなそう考えるのよねぇ」
ディバルが右腕を覆う鎧を一時的に外し、そのまま突き立てられた剣へと振り下ろした。
すると―――剣は見事に叩き居られた。
剣の腹の方ではなく、刃が立っている方向からだが、そんな事は微塵もお構いなしの一撃だった。
「なっ!?」
「”ただ鎧を着込んでるだけ”。だから”生身の部分は弱いはず”って。その時点でもうダメ、負けてるわぁ」
ディバルの腕には、脚に巻かれているようにキャタピラー・ベルトが巻かれていた。
凄まじい勢いで回転しており、その動きはまるでチェンソーの刃のようにも見えた。
「あなたもその一人」
ディバルはそう言いながら、長剣できりつけてきたプレイヤーを腕で薙いだ。
彼は、鎧を着込んでいる腕で彼女の攻撃を防御したが、その腕ごと何も無いかのように砕かれ、切断された。
『ONE END!』
HPが一瞬で消失し、”即死”を告げるメッセージが出た後、確認できるプレイヤーは二人だけとなった。
「ひっ!!」
その光景を見ていた魔法系クラスのプレイヤーたち。
その一人が、戦意をなくしてそのまま背を向けた。
ディバルはそれを見逃さず、背中より腕元へと突き出してきたライフルで、逃げるプレイヤーを狙い打った。
だが、それを邪魔するようにまだ戦おうとするプレイヤーが攻撃を仕掛ける。
「くっ……<魔塊/マジッククラスト>!」
魔力の純粋源子エネルギー球が、術者の前方に構築され、そこから何発もの球形のエネルギー弾がディバルへと向かって放たれた。
ダメージを与える事はできないものの、激しい爆風と共に、周囲の瓦礫をも粉砕し、激しく土煙を辺り一面に撒き散らしていった。
「こ、これで……逃げるぐらいなら……!」
攻撃を仕掛けたプレイヤーは、そう言って同じように背を向けて駆け出し始めた。
どうやら、彼ももはや戦意が失せてしまっており、最初から戦うのではなく、逃げる事が目的だったようだ。
だが―――
「<魔爆撃/メイジロケット>」
逃げるプレイヤーの一人へと、ディバルから巨大な緑色の源子弾が撃ち出される。
そして背中へと命中し、大爆発を起こした。
同時に、爆破の衝撃で強風が巻き起こり、周囲に満ちていた土煙を晴らしていく。
『ONE END!』
「あ……」
一撃死のメッセージと共に、周囲を覆っていた土煙が晴れると、身体の装甲が薄くなった代わりに大型の砲塔を右手に着けたディバルの姿が浮かび上がった。
彼女は、続けてもう一人へと砲塔を向けた。
「ひっ、ひいぃっ!!」
慌てて逃げていた最後のプレイヤーは、近場のビルへと逃げ込んだ。
そしてエレベーターへと入り、必死に上へと逃げようとボタンを押す。
「徹甲砲撃」
ディバルが呟くように言った直後―――大口径の砲身が閃光と共に火花を散らした。
そしてプレイヤーが逃げ込んだビルのドアを貫通し、さらにはエレベーターをも突き抜けて、内部で大爆発を起こした。
『ONE END!』
最後のプレイヤーのHPが、一気に吹き飛び、即死を告げるメッセージがディバルのパーソナルビューにて告げられた。
「さて、次は……あっちかなぁ」
彼女は淡々と調子一つ変えない口調で言った。
そして、次の敵を感知すると、武装を背中に集めて、再びスケートリンクを走るように道路を滑走していった。
■
関東全域が”ジャッジ・バトル”に巻き込まれて、およそ現実時間で1時間。
ゲーム内時間で3時間ほどが経った頃。
関東全域の各学校付近には、多くのプレイヤーが集まっていた。
その多くは学生のプレイヤーであったが、中には企業などからも来ている人間がいた。
違反者は学校にいる学生が半数ほどであったが、他の半数は社会人である。
だからか、一番集まりの良い学校へと集合し、これからの対策を練っていた。
デス・ペナルティを受けるか、それとも逃げ続けて生き残り、ペナルティを免除されるか。
ゲーム内で様々な活動を行うプレイヤーである彼らにとっては、積み上げた経験値や物品などの財産をデスペナルティで失うのは、死活問題である。
「ディバルの位置はどの辺りだ?」
赤神ノ宮大学。東京にある大学の中でも、トップクラスのものとして認知される大学の一つである。
関東で相当に有名であるここにも、違反者は数多く居た。
中には、ギルドリーダーさえ含まれている。
彼らは、現実では優等生そのもの、という人々であったが、その反動からかゲームの中だけは悪党ぶってみようと言う事で、課題をこなさないものが多かった。
秀才や優等生として、高い知能を持ちながらも”悪人プレイ上等”というプレイスタイルを掲げる者達である。
とはいえ、それも中途半端なものであったのだが。
「現在、関東北……茨城方面へと移動中です。早い……!」
その大学にある中央講堂。千人規模の学生が入れるかなり大きな講堂の中には、大学ギルド連合所属、赤神ノ宮大学ギルド『灰色哲学者の会合』があった。
そこには、大学内で発生した”違反者”達を中心にして、ある種の連合軍団のようなものが出来つつあった。
「エリアごとに集合しているプレイヤーを……見る見るうちに撃破していってます」
今回、違反者達には”逃走する”という手段も残されては居たが、30分ほど経ってから、それを行う人間は誰も居なくなっていた。
何故なら、ディバルはかなり強力な感知能力を持ったプレイヤーであったらしく、到達したエリアにいるプレイヤーは、その悉くが全滅させられていったからだった。
そして、やがて”違反者”側のプレイヤー達は、集まってディバルを迎え撃つようになっていった。
とはいえ―――
「信じられん戦闘力だな……」
ぽつりと一人のプレイヤーが口を開き、言った。
”違反者”側の総本部であるここ”赤神ノ宮大学”に集まっていたプレイヤーは、通信で報告されていく戦果に、ただただ恐れおののいていた。
関東エリアの広さや、違反者側のプレイヤー数を考えれば、誰だって考える。
”こんな広い場所に散らばっているプレイヤーを、たった一人で全滅させられるはずがない”と。
「千葉エリアに集合していたプレイヤーとも連絡が取れなくなりました!」
この”ジャッジ・バトル”で設けられている制限時間は、現実時間の3時間ほど。
つまり、ファシテイトでのおよそ10時間ほどであったが、ディバルはゲーム内の3時間ほどで神奈川、山梨、埼玉、群馬、栃木、茨城のプレイヤー達を次々に全滅させていき、今しがた入った「千葉エリア全滅」の報告により―――後はこの東京エリアのみ、となっていた。
「お、おい千葉まで全滅かよ……! あっちには”百人斬り”がいただろ!?」
報告を聞き、大学内に集まっているプレイヤー達の中から、動揺の声が漏れていく。
皆、最初にあった自信は一欠片も残っていなかった。
「ど、どうするんだ? 制限時間、まだ5時間以上残ってるぞ!」
「さ、散開して逃げよう! 戦って勝てるはずがない!」
「でも……逃げて生き残ってる奴、誰も居ないぞ……」
今回、大掛かりなジャッジになると噂されていた為、”違反者”達の中には”あえて戦いに加わってみよう”と名のあるプレイヤーも混じっていたが、その殆どが撃破報告に無機質に上がっていった。
つまりは倒されてしまっており、この赤大エリア側に残っていたプレイヤー達の戦意は、限りなく低くなってしまっていた。
「落ち着け低脳共」
不安げにざわめく大学中央にある講堂内で、一人のプレイヤーが、騒々しさを切り裂くように声を放った。
「皆、ペナルティを受けたくないから、こうして集まってるんだろ。集まって、ただただうろたえてるだけじゃ、どうにもならねぇ」
意見を放った者は、やや長めの青髪をしている。
痩身長躯で、高い鼻に切れ長の目をしており、眼鏡をかけていた。
いかにも”インテリの長身イケメン”と言う感じの風貌をした男だ。
背中には大きなマントをつけており、手には地面に伸びるほどの杖を持っている。
どうやら魔法系クラスのようだった。
「しかし、どうするんだ……?」
「俺に考えがある」
「考えって……どいつも殆ど一瞬でやられてるんだぜ? 対策も立てようが……」
「もしかして……あなたは”灰色のワフラーノ”じゃないんですか!?」
「えっ!?」
一人が言うと、周囲のプレイヤーがざわめき始めた。
そしてあるプレイヤーが「誰なんだ?」とポツリと訊ねた。
すると、それを待っていたかのようにワフラーノの名を呼んだプレイヤーが言う。
「策略家として有名なプレイヤーですよ。”大いなる知恵者”の通り名で呼ばれてて、今まで大規模な戦闘に何度も参加して作戦を立ててる人間です」
「そう言えば、聞いた事が……」
「あなたが居るなら心強い!」
「それで、作戦ってのは……」
講堂内の雰囲気が変わり、ワフラーノへと視線が集中した。
周囲の期待の眼差しを受け、斜に構えていたワフラーノは得意げに鼻を鳴らす。
そして眼鏡の位置を中指で直してから、彼は”作戦”を話し始めた。
「いいかよく聞け。俺達の力じゃあ、正面からぶつかってディバルを倒す事は、まず出来ない」
「全員でかかってもか?」
「同じだ。ある程度の奴が纏まってれば話は違うが、相手が強すぎる。何せアイツは上級クラスでも上位のプレイヤーで、話に聞くところでは”準高級クラス”にも手が届きかけてるとか言う噂だ」
「マジかよ……」
「だが―――どんな強い奴でも、無敵って訳じゃあない」
そう言うと彼は腹黒そうな含みのある笑みを浮かべ、続けて作戦の”キモ”を話し始めた。
「まぁ……これで勝てる可能性としては、五分五分って所だな」
作戦の概要が全て話された後。
内容を聞いた人間は皆、ワフラーノの”作戦”のとんでもなさに声を上げていった。
「む、無茶だ! そんな事できるわけない!」
「しかし……それならば、可能性があるかもしれないな」
「でも……今、この状態でやっちまっていいのか……?」
「乗る気がない奴は今すぐ自殺した方がいい。どっちにせよ、この場に居る奴等程度じゃあ、抵抗しても無駄だ。もっとも……報告には死体も残さず焼き払ってるって挙がってるから、自殺して逃げるのもやるだけ無駄だろうと思うがな」
「……」
その後、集合したプレイヤー達で話し合いが続けられた。
だが、ディバルを倒す具体的な策を誰も出せず、ワフラーノの策が採用される事となった。
ワフラーノはにんまりと勝利を確信した笑みを浮かべ、作戦の概要を集まっているプレイヤー達に指示した。
「それじゃあ……陣形を俺の言う通りに組んでもらう」
■
ディバルは、東京以外の関東エリアに居るプレイヤーを全滅させ、茨城方面から千葉を経由して、東京エリアへと向かっていた。
彼女は、背中に背負った各種火器や、肩から腕全体にかけて伸びている装甲などで、かなり巨大な装備となっているが、脚部全体に広がっているキャタピラーベルトを使って、猛スピードで道路を移動していた。
どうやら、彼女はモチーフとなっている戦車のように、凸凹が激しい悪路でも問題は無く、更に急な坂となっている場所や、果ては”ほぼ直角の壁”すらも楽々と駆け回る事が出来るようだった。
(さて、後は……東京だけねぇ。あそこは……時間を掛けないと)
ディバルが東京エリアを最後にした理由はひとつ。
それは「時間を掛けて攻略する為」だった。
何故なら―――
(これ以上はちょっと修復用の予算がねぇ……)
”東京は高額な建物や土地が密集しているから”だった。
無論、電想世界の首都で破壊行為が行われても、現実世界で起こった場合の被害と比べれば断然に小額の復旧費用で済む。
しかし、それでも他のエリアよりも攻撃した場合の費用は高額だ。
今まで散々、建物などを破壊してきた為、復旧の為の費用がなかなかに積み重なっている。
なのでディバルは、なるべく建物を破壊しないよう時間を掛けたいがため、ここを最後にしていたのだった。
「だいたいこの辺からね。エネミー・カウンターは……2300ぐらいかな」
ディバルは、電想世界の江戸川を再現してある場所までやってきた。
ここを越えれば、東京エリアである。
敵の数を表示するカウンターを確認し、装備がちゃんと動作するかを、僅かな時間だけチェックした。
その全てが終了すると、彼女は腰を僅かに落として、スキージャンプに臨む選手のような姿勢となった。
「それじゃ……行くかなぁっ!」
声を上げると同時に、キャタピラーが凄まじい勢いで回転した。
そして、彼女は強い力に引っ張られるかのように首都方面へと入っていった。
■
やがて、ディバルが首都内へと突入すると、彼女と”違反者”側とで戦闘は始まった。
だが―――やはり今までと同じく、まるで勝負にはならなかった。
「そらそらそらぁっ!」
ディバルが咆哮に似た叫び声を上げ、道路を走破していく。
そして通りかかる付近に居るプレイヤー達を、次々と撃ち抜いていった。
それは”異能防御壁”を張っているプレイヤーであろうとなかろうと、関係なかった。
「く、クソッ! なんで壁を……ぐあぁっ!!」
ディバルは身につけている”鎧”の力で、自らが放出する源子エネルギーを何倍ものパワーで凝縮し、打ち出していた。
更に通常の火器だけを装備しているわけではなく、メインで使う銃は”魔銃”であった為、異能防御壁をも充分に破る事が出来ていた。
鎧自体を駆動させる高出力のエネルギーも、彼女自身から出力されているが、膨大なエネルギー・キャパシティを持つ彼女は、それをものともせずに戦闘を行っていた。
「無駄よぉ。あんたらじゃ、”膜”が薄すぎるわぁ」
ディバルは、硝煙と火薬の匂いが吹き荒ぶ街の中を、戦闘を楽しみながら駆け抜けて行った。
やがて―――全ての敵を撃破し、残るは関東最大の学園エリアである”赤神ノ宮大学”のみとなった。
「あとはここねぇ……」
敵の総数を表すエネミー・カウンターは、あと僅か”400”程度となっている。
ディバルは、愚痴を零しながらキャタピラーを止めて”最後ぐらいは”、と徒歩で赤神ノ宮大学エリアへと入っていった。
「ここっていつも違反者が多いのよねぇ。責任者誰かしら? 今度絞ってやらないといけないわねぇ」
ディバルは、そう言って門を開いて中を見た。
すると大学エリアの中には―――
「ディバルが来たぞっ!!」
彼女が現れると、リーダーらしい男性型プレイヤーの檄が飛んだ。
赤神ノ宮大学エリアの内部には、門からだいぶ離れて、プレイヤー達がずらりと身構えて待ち構えていた。
前衛型のクラスであろうプレイヤーが装備を固め、強化効果だろうエフェクトを僅かに身体に帯びている。
そしてその後ろ側に防具が薄い代わりに、大きめの射出系武器を持ったクラスが隠れるようにして居座っている。
あちらは恐らくは遠隔型なのだろう。
「……随分普通のフォーメーションねぇ」
”代わり映えがしない”と言う感じだった。
前衛に壁役を置いて、それから後ろ側に遠隔型のキャラクターを配置する。
それは非常に安定している防御型の陣形だが、使われすぎているため、面白みのない形である。
しかし―――何か妙な感じがするのに、ディバルは気付いていた。
リーダーだろう役をするプレイヤーは複数見えるのだが、それを取り纏める”大将”役が見当たらないのだ。
(……大将がいない……?)
こういった大集団での戦闘では、必ずいくつか存在するポジションがある。
例えばモンスターで言うならば”リーダー”と”ボス”の役割をする者達である。
モンスターの場合は群れを成しているだけで、存在しない場合もあるが、プレイヤーの場合は違う。
兵士のような極限まで高められた集中力を持っているならまだしも、大抵のプレイヤーは集団戦の中であっても、深く思考し、そして自己判断を行う。
だから、必ず一人ないしは複数の指揮官が必要となる。
今まで、こういった数百人規模の攻撃態勢は見た事があったが、”リーダー”役だけが居るというのは、余り見た事がなかった。
「まっ、いいか。全部やっつけちゃったら同じだしっ!」
ディバルは砲塔を構えて、炎に包まれた拳大の弾丸を発射した。
―――榴弾だった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
ディバルは、攻撃と共に赤神ノ宮大学エリア内へと突入した。
グレネードが炸裂すると同時に、悲鳴が上がり、何人ものプレイヤーが吹き飛んだ。
だが、前衛がガードを固めていたため、思ったほどは被害が出ない。
ディバルは相手の動きが遅いと見て、砲塔に円形型の銃口を複数取り付け、更に実弾の束を接続した。
そして、あたかも”大型の重機関銃”という容貌となった砲塔を使い、弾丸を雨のように撒き散らし始めた。
相手は防護壁で身体を固めているが、豪雨のような攻撃に段々と膝を折り、倒れていった。
「アハハッ! いっけぇぇーっ!!」
防御を固めていた壁役のプレイヤーが半分ほど倒れると、それを待っていたかのように”違反者”側は動き出し始めた。
散らばって隠れていたらしい人間が現れ、様々な方向からディバルに取り付こうとする。
動きを止めるためか、それとも接近戦でならば勝機があると思ったのか。
「!」
雄叫びと共に背後から切りかかられ、ディバルはキャタピラを咄嗟に動かす。
そして急速前身し、斬撃を回避するが、周囲は既に囲まれていた。
(なるほど……掃射用の装備に切り替えるのを待ってたってワケね)
どうやら”重い武装となって動きが鈍くなった状態なら、接近戦で分がある”と思っているようだった。
ディバルはそれを察すると、突然、武装の半数ほどを解除した。
そして、小さめの武装した重機を構築すると、言った。
「レイダー。あっちは頼むわぁ」
ディバルから声が掛かると、重機はキャタピラを動かしながら、先程までディバルが掃射攻撃を行っていた壁役プレイヤーの方向へと走っていった。
そして、離れていった重機は、銃撃を行いながら壁役プレイヤーを倒していく。
後にはディバル本人のみが残された。
彼女は、キャタピラーのベルトで構成されていたスカートが、重機側に持っていかれたためにやや小さくなり、ミニスカートになっていた。
全身にキャタピラーのベルトが張り巡らされている姿となっているが、銃火器は殆ど残っていない。
周囲にいた武装した接近型のプレイヤー達は、突然の相手の弱体化に戸惑っていた。
そのうろたえる様子を見て、ディバルは柔和な、しかし妖しい笑みを浮かべた。
「ほら、来なさい。今、私武器殆ど無いわよぉ」
挑発のような、誘うような声を掛けられると、攻撃を戸惑っていたプレイヤー達は、スイッチが入ったように攻撃を開始した。
だが―――
「ぎゃあッ!!」
斬りかかった一人のプレイヤーが、ディバルの腕に薙ぎ払われると、悲鳴を上げて倒れた。
斬りかかったプレイヤーは、持っていた大型の両手剣が破壊され、胴体には逆袈裟切りの軌道を描くように赤い欠損表現が張り付いていた。
「ふふ……”戦者”の本領は、実は運動能力の方にあるのよぉ」
それからは、一方的な戦いとなった。
動きの鈍い壁役、またその後ろに控えていた遠隔型のプレイヤーは、一人で自動攻撃を始めた重機によって掃討された。
そしてディバルの本体と戦っていたプレイヤーは、彼女の動きに全く付いていけなかった。
チェーンソーのような全身に張り巡らせたキャタピラーで、攻撃を防御され、武器はあっけなく破壊された。
さらに、そんな状態の腕から繰り出される迫撃を受けると、冗談のように鎧は砕かれ破壊され、身体は簡単に両断されていった。
一撃死の山が築かれ、”違反者”側のプレイヤーはどんどん数を減らしていった。
■
やがて―――エネミー・カウンターは”2”の状態となった。
「こんなもんかなぁ? 後は……誰が残ってるんだっけ」
ディバルがキャラ名を確認しようとすると―――
突然、地面が揺れ動き始めた。
「!」
大地全体が揺れ動くような、激しい震動が起こる。
そして、遠くの赤大本部棟の方から、何か”巨大なもの”が現れた。
パッと見ると”人型”のようだが、どう見ても5メートル以上はあるように見える。
何せ、建物の2階部分を突き破って現れたのだから。
「何あれ……?」
ディバルは、その姿が近づいてくるのつれて、”それ”の正体を確認した。
そして思わず、感嘆の声を上げた。
「”ミスリルゴーレム”……!」
明るい緑色の中世の騎士鎧。
それを、そのまま巨大にしたようなそれは、紛れもない”ゴーレム”だった。
特殊な金属で出来ており、見た目は鈍重な感じだが、意外に動きは遅くない。
その背後からは、プレイヤーらしき人間が、高笑いをしながら歩いて来ていた。
「どうだ、ディバル!! コイツのランクは”B++”! いかにお前とて、単独では歯が立つまい!」
プレイヤーの名前欄には”ワフラーノ”と表示されていた。
どうやら、彼が大将であるらしかった。
「……もしかして”それ”、”MPK”用に保存でもしてたの?」
”MPK”とはモンスターを用いたプレイヤー・キルの事である。
通常、モンスターは敵役として特定のフィールドにしか出現しないが、それを攻撃したいプレイヤーの前まで誘導して、間接的にPKを行わせる事だ。
「違う、コイツはあくまでも大学の研究用だ。エネミーロジック観察用として、昔捕獲されたものだ。こうやって使うのは初めてさ。今じゃあ仕様変更が重ねられて、こんな風に捕獲はまず無理だがな」
「別にMPKやるのは止めないけどぉ、町中でMPK認定されたら”民事”ものだよぉ? いいの?」
フィールドでのPK行為には、批難の目が向けられる事こそあれ、それまでである。
街中とは違い、批難される事ではあるが認められている事だ。
だが街中にモンスターを呼び寄せる行為は、公共機関にもダメージを与える事が可能である為、ファシテイトにRPGゲーム要素が加えられて少々経った後、法律で禁止される行為となった。
「今日はイベントのおかげで、町中には野次馬しかいない。巻き込まれたら自業自得さ。それより……お前を倒せれば、それだけでプラス収支になるってものだ」
ワフラーノは、ディバルの咆哮を指差して言う。
「貴様の鍛えられた装備を手に入れられれば、それだけで上位ギルドに上がれる」
「君には多分、使いこなすの無理だと思うけどなぁ」
ディバルが呆れていると、ミスリルゴーレムはどんどん近づいていく。
ワフラーノが操っているわけではないようだ。
恐らくは”思考ルーチン”の違いを利用しているのだろう。
(確か……あの手の機械っぽい奴は、高レベルの方から攻撃しに行くんだっけ……)
ギルドのグランドマスターであるディバルと、一般プレイヤーでしかないワフラーノでは、当然ながらレベルにはかなりの差がある。
そこで”高レベルを狙いに行く”モンスターを間に挟めば、実質的には”レベルの高い方しか狙わない味方”の出来上がりと言うわけだ。
呆れるような溜息を吐いてから、ディバルはどうするかを考えた。
(……面倒だし、ここなら……)
やがて、彼女が周囲の状況すべてを確認すると、自らの重機「レイダー」を呼び寄せる。
そして再び着装し、全身を鎧に包むと、砲塔を構えた。
ミスリルゴーレムはそれを確認すると、急に動きを早め、拳をディバルへと叩き付けた。
「ッ!」
ミスリル合金製の巨大な質量が腹部へと叩きつけられ、ディバルは吹き飛ばされた。
射撃をしようと無防備に構えていた為、直撃を受け、装備の一部が破壊され、周囲に飛び散る。
「くっ!」
なんとか体勢を立て直したディバルへと、続けてゴーレムから拳が連打された。
一撃一撃が、まるビル解体用の鉄球のように巨大かつ硬く、まさに”圧巻”と言うほか無い威力だった。
今は攻殻体を着込んでいる為、何とか耐えれているが、これを生身で受けたら、確実に一撃で倒されているだろう。
ディバルは、そんな巨大なる明緑色の拳を受け流しつつ、距離を取ろうとする。
だが―――
(―――逃がさない)
「!」
一瞬、そんな声が聞こえたかのように思えた。
ミスリルゴーレムの目元に、緑色の魔力源子の光が瞬くと、離れようとしたディバルを狙い澄ましたように掴んだ。
どうやら、高ランクである為、ただの機械や魔法生物型モンスターではないようで、かなりの知性と戦闘センスを兼ね備えているようだ。
離れれば武装での攻撃を受ける為、分が悪いと理解しているようで、ディバルを逃がさないように組み合いに持っていこうとしている。
こうなると純粋なパワー勝負になるが―――
(くっ……強い……!)
元々、ゴーレムは非常に強化しやすいモンスターだ。
機械としても、魔法生物としても作りやすい為、様々な亜種が存在する。
そして、そのどれもがかなりの高パワー持ちで、基本的に組み合ってしまっては勝てない。
通常のゴーレムは、動きが鈍い上に思考力を余り持ち合わせていない為、そう組合になる事はないのだが―――
「く……うっ、ぐぅっ……!」
目の前にいるミスリルゴーレムは、ミスリル製である為に身体がかなり軽く、その上魔法生物的な方式で作られているのか、知性をちゃんと持ち合わせているようだった。
そして軽いのだが、とてつもなく強靭なボディを持っていた。
「くくく、いい眺めだ」
壁を背に、ディバルはやがて追い詰められた。
そして、再びゴーレムと組み合いの構図となった。
アサルト・ボディは部分的にかなりの損害を受けており、何度もパンチを受け続けた為に、武装の大半が壊されて外れてしまっていた。
「どうですか? グランド・マスター。ご感想は」
「感想……? なんのっ、事かな……ぁ……」
「これから”負ける”感想ですよ。俺の作った最高の策謀にね」
「……君、ワフラーノ、でいいん、だっけ……」
「おや、俺の名前を言ってくれるんですか? 俺みたいなちっぽけな一般プレイヤーの名前を、まさかグランドマスターがお呼びになってくれるとは」
皮肉めいた口調でワフラーノは言う。
既に勝ちを確信しているのか、その表情は口元を吊り上げてにやけたものとなっていた。
「これさぁ……この後、どうすん、の……?」
「この後?」
「私居なくなったら……標的、そっち……でしょ」
「ああ、タゲがこっちに行くだろ、って事ですね。それは問題ありません。俺は適当に外側へ移動して、野次馬の方にタゲを向けますから」
「……―――アンタ、根っこから”屑”みたいね」
突然―――ミスリルゴーレムが爆発した。
「うッ!?」
ゴーレムの腹部が吹き飛ばされ、周囲に破片が飛び散る。
そして、ゴーレムは力なく膝を地面に付き、そのまま倒れた。
「なっ……! 何を……!?」
ディバルの砲塔部分は既に折れてしまっている。
武装も殆どが破壊されて外れてしまっており、銃火器を使った反撃はできないはずだ。
ならば一体―――
「……ふぅ、一日に二度は流石に疲れるわぁ。これ」
ゴーレムが倒れた後に見えたディバルは、ただただ、掌を広げていた。
それだけで、他には何も見当たらなかった。
彼女は、だいぶダメージを蓄積した外部武装を解除し、地面に降り立った。
「なっ、なっ、何を……やったんだ……」
「”至近猟撃”ってスキルよ。私ねー、ほんのちょっと前に”準高級”になったのよ」
「な、なんだって!?」
「だから、サブ職に”大口径魔砲使い”ってのが使えるようになって、こういう事もできるの」
ディバルは、尻餅をついて立てなくなっているワフラーノへと近づいた。
そして、キャタピラー・ベルトが幾重にも巻かれている掌を、ワフラーノの頭に置いた。
「知ってるぅ? この状態でねぇ、キャタピラーを動かすと―――”綺麗に頭だけバラバラ”になるのよぉ。真っ赤な欠損ペイントだらけになって、点滅するネオンの花が咲いたみたいになって綺麗なの」
ワフラーノは、ディバルが言った言葉を耳にすると同時に、震え始めた。
「やっ、や、や、やめろ……止めてくれ……そんな死に方をしたら……」
単純な欠損ダメージもともかく、そんな確実にトラウマになるような攻撃を受けたら、どれ位のおぞましいオーバー・キルダメージになるかわからない。
まず間違いなく自分の能力と財産の3割~5割は確実に失ってしまうだろう。
そうなったら、悲惨どころの話ではない。
「この死に方、イヤ?」
ワフラーノは首を僅かだが、激しく縦に振り、肯定の意を必死に示した。
「なら―――後で、所属ギルドの他のメンバーについての情報を送りなさい。どうやらここは、ギルドの運営からしてダメになってるみたいだから、そろそろメスを入れさせてもらうわ」
「わっ、わかりました! わかりました……!」
そう言うとディバルは掌を胸の方へと移し、何かを小さく呟いた。
すると掌から小さな火花が起こり、ワフラーノの胸を貫いた。
同時に小さな悲鳴が上がり、それと共に彼のHPはゼロを割った。
それから彼はそのまま地面へと倒れ込み、ディバルの背後の倒れたミスリルゴーレム同様、動く事は無かった。
「さて。これで……ゼロね」
ディバルはそう言ってエネミー・カウンターを見た。
そして、驚愕の声を上げた。
何故なら―――
「……えっ!?」
カウンターはまだ「1」になったままだったからだ。
全ての”違反者”側プレイヤーを倒したはずなのに、表示がゼロにならない。
「なんで……? モンスターは別計算って事……!?」
ディバルは、それから関東エリア全体にサーチをかけた。
どのエリアにどの程度、人が残っているのかを調べる為だ。
だが、どこにいるのかわからない。
「隠れたの……?」
詳細な位置を掴めないものの、逃亡したというわけではないようだった。
最後の一人が残っているのは、間違いなく東京エリアのどこかだ。
しかし―――ディバルがいくら感知系の能力を発動させても、見つける事が出来ない。
反応がどこにも存在しない。
(範囲が足りない? そんな事は無い筈……)
ディバルが最後の一人を探し、方々を走り回り始めると、見物人達も不審に思い始めた。
やがて、東京中を駆け巡るだけで1時間ほどが経って―――
見物人の一人が言った。
「……もしかして、チートを使ってたりして……」
誰かが言ったのか、その一言をきっかけに、周囲が噂を始めた。
これだけ探しても見つからないのだから、何か”普通ではない手”を使って隠れているのではないか、と。
やがて見物人が噂をしているのがディバルにも届き始めると、彼女は東京の中央地区にて動きを止め、通信を行った。
すると―――程なくして、再び早渡のアナウンスが関東地方全体に流れ始めた。
『今……グランドマスターから提案があり、ここでこの”ジャッジ・バトル”は終了とする』
「すげぇな、生き残れた奴がいたのか」
『執行者側であるマスター・ディバルが、ただ一人残った者を見つけられない故、これ以上はバトルを続行しても意味がないと判断された。残ったプレイヤーは、出てきて名乗りを上げること』
「まさかあのグランドマスターから逃げ切るとは……」
野次馬、見物人たちがただ一人残った”最後の生き残り”に感心する言葉を放つ。
しかし早渡は、余り間を置かずに続けて言った。
『ただし―――マスターはこうも言った。”チートを使用している疑いがある”と』
「えっ!? ち、チートだって!?」
『今、この関東全域と近接エリアには”チートコード判定プログラム”が最高の判定強度で流れている。もし……今から20分以内に名乗りが挙がらなかった場合、最後に生き残った者は、”チーター”とみなし、ブラックリスト登録処分を行う! 最後に残っている者は、即刻名乗りを上げる事!』
周囲が騒然となる中、名乗りが挙がるかどうかを野次馬達が探すが、誰も名乗りを上げない。
やがて時間が5分、10分と経ち、遂に―――
『……時間だ。逃亡もしていない、撃破もされていない。しかし、この状態で堂々と出て来れないという事は、生き残りは不法な手を使用していたようだ。よって―――最後の生き残りを”チーター”としてブラックリスト登録とする!』
「ち、チーターだったのかよ……!」
「道理で、グランドマスターから逃げ切れるわけだ」
「名前、なんて言うんだ?」
『プレイヤー名は……』
早渡が生存者のリストを上から確認し、死亡状態となっていないプレイヤーを探した。
すると―――彼の双眸が突如として見開かれ、僅かに彼は息を漏らした。
声こそ上げていないが、どうやら相当に驚いたようだった。
『プ、プレイヤー名”リランデ・ルバー・ラ・クォーツ”……』
(何ッ!? う、嘘だろッ!?)
観戦していたミツキも、名前を聞いて驚きの声を上げた。
生き残っていたのは―――どうやらラク、つまり靖樹だったようだ。
(アイツ……まさか、”あの機能”を使って隠れてやがったのか!?)
確か、あの変身コマンドを使用してモンスターの姿になった場合、アイコンの表示上は 敵モンスターとしての”赤”表示になる。
これを利用して、例えば公園辺りで、適当な野生動物のフリをしてやり過ごせば、見つかる事は無い。
街には基本的にモンスターが出てくる事はないが、野生動物や一部の弱小モンスターが生息しているエリアもある事はある。
だから、できない事では無い。
これならば、確かに逃げおおせる事は可能だ。
だが―――いざ戻ろうとして、”チートコード”を見破るプログラムを流されてしまい、戻れなくなった、と言う所だろうか。
(クソ! 馬鹿じゃねぇのか……)
チートコードを判定するプログラムは、常時オンラインには流れている。
街中では特に強い強度で流れており、チートを使用しての不正は誰も行えない。
とはいえ、今まであの姿でも大丈夫であったので、それを利用しようとしたのかもしれない。
(……待てよ)
ミツキは、そこまでを考えて靖樹を批難していた。
だが、ふと思い出した。
昼間、靖樹が何か意味深な事を言っていたことに。
―――これから多分、3日ぐらいは向こうに戻れないと思う。
(もしかして……何か、朝方にあったのか?)
ミツキは複雑な胸中のまま、観戦を終えた。
これ以上は、どうする事もできない。
もはや、靖樹を信じて待つしかなかった。
■
ラクはその時、既に関東エリア内の”とある場所”へと向かって歩き出していた。
逃げながら、ラクはディバルとの会話を思い出す―――。
「あなた、私の依頼を受ける気、ない?」
「依頼……?」
「実はねぇ……今、”ある事”を頼めそうな人を探してたのよ」
「ある事?」
「今、北海道エリアの方で色々面倒事が起こってるでしょ?」
「ああ、あの”襲撃事件”のことか……」
「そうそう。あれのせいでねぇ、インフラとかも使えなくて苦情が官公庁の方に来てるらしくてさぁ。なるべく迅速にあれを排除しなくちゃならなくなったの」
「そりゃあそうだろうけど……そんな事を俺に言われても……」
「いいえ。あなたにじゃないとできない事があるのよ」
「俺に……?」
「そう。あなたみたいな行動力のある人、ピッタリだわぁ」
ディバルは微笑を浮かべたままの顔で、囁くように言った。
ラクはその仕草に、何となく”嫌な予感”を感じた。
「今ねぇ……人員が足りないのよ。そこそこの強さのモンスターと戦うってなるとね。だから、あなたに―――”悪者街”へ行ってもらいたいの」
「悪人街」―――それは、”悪”のプレイヤーたちが集まるゲーム上の街である。
無論、現実の横浜や電想世界上の横浜エリアは、普通の街として機能している。
ただ、それは表面上の事であり、”悪人街”とされる場所には、”他の場所では決してセーブポイントを作れない”ようなプレイヤーだとか”チートを公然と使っているような”イカれた連中が、人目に付かない様に集まっているのである。
例えば”悪人としてもロールプレイを行う者”、”クラス上の成長の為”、また”ギルドで悪行を行う事を課せられた者”。
そして電想世界を通じて”麻薬の取引”だとかで代表される”現実と繋がる犯罪行為を行う者”など。
そんな”悪クラス”や”本当の外道”のキャラが事実上集まってしまっているエリアを”悪人街”と呼ぶわけだ。
「ヴィラン……? この近く、って事は……まさか―――”横浜”へ行けってのか!?」
「そうよ。あそこへと入って”あるプレイヤー”と話をしてきて欲しいのよ。”戦うのに手を貸してもらいたい”ってね」
「”あるプレイヤー”って……」
「横浜の有力者の一人”殺戮者ゲダム”よ。戦闘系プレイヤーの多くを従えてる人間だから、協力を得られれば、かなり楽に北の戦闘を収められるわ」
ディバルがそう言うと、ラクは戦慄の言葉を漏らすと共に後ずさった。
「げっ!? ゲダムと……!? むっ、無理無理無理! 無理だそんなの!! ゲダムって確か―――」
殺戮者ゲダム。それはラクも耳にした事があるプレイヤーだ。
通算で10万人になるプレイヤーを人知れず殺害した、と言われている記録を持つ”ある意味”で伝説のプレイヤーである。
「ちょっ、”超危険なPK常連プレイヤー”じゃないか!!」
「丁度良かったわぁ。あたし達じゃ悪者街へ入れないし。でも、あなたなら顔も手配されてないし、レベルが低いから疑われずに忍び込めるはず。それに……さっきのあの行動で、咄嗟の判断力もあるってわかったから、適任だわ」
ラクは必死に首を振って否定の言葉を並べるが、ディバルはもはや気にしていないようで、話を続けた。
「ミーちゃんもいい人を紹介してくれたものねぇ」
「かっ、勘弁してくれよ! いくらなんでも……」
「でも、今のままじゃ私と戦う事になるわよぉ? それでいいの? 手加減しないわよぉ?」
「うッ……! そ、それは……」
ディバルから間延びした声で事実を告げられ、これから起こる”ジャッジ・バトル”の事を、思わず想像してラクは身震いした。
どうやら―――選択の余地はないようだった。
悄然としたラクをみかねてか、それとも単純にもっと弄りたいだけか、ディバルは目を細めて楽しげな表情をした。
「それにねぇ、もしやってくれるなら……それなりのモノ、あげちゃうんだけどな~」
「それなりのモノ?」
「これ」
ディバルはそう言って胸のプレートの内側から何かを取り出し、ラクへと放った。
ラクは受け取った物の名前表示を見て、腰を抜かしそうになった。
「うえっ!? こっ、こっ! これは……!!」
「”★アクア・サーバ・セイバー”だっけ?」
ディバルが名前を呼称した時には、ラクはナイフを柄から抜いて刀身を見ていた。
現れたナイフの刀身は、中心にある石英のような白濁色の鉱物を中心にして、まるで水塊が宙に浮かんで纏わり付いているようになっている。
それは、不定形でありながらも一定した形を保っていた。
「み、水で出来た魔法のナイフだ……!!」
「結構なレア品みたいだけど、あたしもギルド員達もみんな、ナイフ使いじゃないからね~。あなたにあげる」
「ほ、ホントですか!?」
ラクはディバルのその回答に、思わず元気良く応えた。
語気はいつの間にか調子よく、そして敬語になってしまっていた。
「余ってるものだから遠慮なく持ってっていいわよぉ。しかも、前金って事でね。それで……話が成功したら、更に”一つだけお願いを聞いてあげる”」
「お願い……?」
「お金とか、何かの助力とか、そういうものよ。あんまり大した事は出来ないけど、出来る限りの範囲でなら、何かやってあげていいわ」
「……何でも、か……」
「ふふ、またデートしてあげてもいいわよ?」
ディバルが顔を近づけて、生暖かい吐息をラクへと吐きかけながら言った。
ラクはそれを受けて頬が上気してしまうが、顔を振って思考を正常に戻した。
「いっ! いいですよ、それはもう……」
「ふふ……」
ディバルから離れて、ラクは数拍の間目を閉じた。
そして、少しばかり考えを纏めた後、言った。
(ま……やるしかないか。どっちにしろ)
「どう? やるの? やらないの?」
「やります。受けさせていただきます」
「やってくれる? ありがと!」
ラクが依頼を受けると伝えると、ディバルは笑顔になってはしゃぐような声を発した。
これだけを見るなら本当に愛らしい。明朗快活な、溌剌な印象を与える感じの少女、と言う感じだ。
「でも……どうやって悪人街へ行けばいいんですか? 横浜まではそりゃ行けるけど、あの街は奥に入るには”悪クラス”とかじゃないとダメなんじゃ……?」
ラクが不安げに訊ねた。
悪人街には、普通のプレイヤーは入る事が出来ない。
表面上の街エリアとして入って、さまざまな施設を利用する事は可能だが、ラクが今、入って行かなければならないのは”裏社会”である。
当然だが、一般的なプレイを行っている”健全”なユーザーは、彼らにとっては”取引”の相手ではあっても、”信用”するには到底値しないプレイヤーだ。
一般プレイヤーからすれば、まず悪人は憎むべき敵であり、排除されるに越した事は無いのだから。
悪クラスのキャラはその辺りの事情を周到に弁えているため、決して善性のプレイヤーを信用はしない。
そんな場所へと入るには、通常では有り得ない”何か”が無くてはならない。
「適当に誰かをPKするとか、そういうのですか?」
「それじゃあダメ。それだけだと信用してもらえないわ」
「それじゃあどうやって……」
「あなた―――”チーター”になりなさい」
「……へっ?」
ラクが訊ねると、ディバルは微笑みながら言った。
「これから行われるジャッジ・バトルにてねぇ、あなたに試合の終了時刻まで隠れてて欲しいの」
「え……は、はぁ。それでその、チーターって……もしかして……」
「それでねぇ、試合が終わるまで、私が”どうやっても見つけられないフリ”をするからねぇ、その後に”賞金首”になって移動して欲しいのよ」
「まさか―――”チート使いの汚名を着ろ”と言ってるんですか!?」
”チーター”とは、地上最速と言われる豹に似たネコ科の動物である。
ただしゲームにおいての”チーター”とはこの動物の方(cheetah)ではなく、チートコード(cheat code)と呼ばれる”ゲームに影響を及ぼすデータ”を、直接ゲームプログラムへと打ち込んで、ゲームの情報を改変する者(cheater)を指す。
「全ステータス最大最強値!」、「所持金無限!」、「ダメージを絶対に受けない!」、「透明化! 壁すり抜け可能!」、「攻撃力25倍化!! 獲得経験値・お金50倍化!!」
こんな文句で、昔はゲームに情報を打ち込む機器が流通していた事もある。
チートの意味が「ズル」だとか「イカサマ」である、と言えばどんなものかは想像がつくだろう。
「そうよぉ。こんな大規模ジャッジでまさか”チートを堂々と使う”なんて普通は思わないわ。それぐらいの汚名を着れば、疑り深いヴィラン達にも、少しは信用してもらえるはず」
チートの使用は”ずるい事”ではあるが、決してそれ自体が”悪”と言うわけではない。
意地悪な製作者が作った”時間がやたらと掛かるゲーム”を短縮するために使用されたり、普通のプレイならば絶対に目にする事が出来ない事を実現する為に、開発者側の方でチートの使用を認めている場合や、ゲームによっては隠し要素などと言った名目で、公式に解除していたりさえする。
ゲームにおける”無限大の遊び方を提供する”と言う意味では、あっても問題はないものであるのだ。
ただし―――これは、あくまでもネットに繋がない「オフライン・ゲーム」に限る事である。
誰にも影響を与えない、誰にも迷惑をかけない一人で行うゲームならば、自己責任であって、行う事に問題は何もない。
「じょっ、冗談じゃないですよ! そんな事をしたら……」
だが―――これが「オンライン・ゲーム」となると、性質はまるっきり変わってくる。
「オンライン・ゲーム」はプレイヤーが複数存在する為に、明確なルールが必要となってくる為だ。
例えば通貨の価値や、その世界に生きる人々や生活、戦いの面白さを再現する為のシステム。
その中でルールを無視するような”チート”は悪行の代名詞と言ってもいい。
もし―――通貨が流通している世界で、お金を無限大に増殖して好き放題に使っているプレイヤーが居たり、もし―――時間や手間を掛けてキャラのレベルを上げて強くなるシステムがあるのに、一人だけ1分も掛けずに最強状態。更には攻撃がどんな強敵でも一撃で抹殺する、ダメージすら受けない。本人は汗一つすらかいていない。ボスだろうが人間プレイヤーだろうがお構いなし。
こんな状況が存在してしまったら、ゲームは成り立たないだろう。
そして、そんな状態を実現しているのが”ずるい手”であったとしたら、納得するプレイヤーはまず皆無だ。
「俺、何時間まともに生きていられるか……」
であるからして―――”チーター”というのは、オンラインゲームでは最も忌み嫌われる存在である。
初心者狩りをする性質の悪いプレイヤーや、プレイヤーを殺す事(PK)をただただ面白半分に行うもの。
性的な嫌がらせ(セクシャル・ハラスメント行為。いわゆるセクハラ)。追い回し(ストーキング行為)、アイテムを始めとした様々なデータの転売、執拗な罵倒などのイジメ。
そして、現実世界と結びつくような犯罪行為。
ゲーム上で行われる様々な悪質行為の中でも”チート使用”というのは、それら全てを越えた最悪のものとして認識されている。
当然ながら、使用した事で大きな影響が出た場合、考えられうる最大最悪の罰則が適用される。
それが”賞金首登録”。通称―――「ブラックリスト登録」と呼ばれる物だ。
「そこは工夫するしかないわ」
「工夫って……どうしろってんですか。レベル20ぐらいしかないってのに」
―――ブラックリスト。
それは、恐ろしく悪質なプレイヤーが登録される特殊なプレイヤーリストである。
これにもし登録されてしまった場合、プレイヤー間で作られている「プレイヤーモラル監視協会」なるものに”賞金首”として登録され”公式PK許可”が降りる。
そうなると”賞金首”となったキャラクターを攻撃し、死亡させる事が合法として認められてしまう。
結果―――街中だろうがフィールドだろうが、そのプレイヤーは命を狙われ続ける事になってしまう。
倒した側には何のペナルティもない所か、倒せば倒すほど利点があり、ギルドへの評価ポイントが出たり、協会から出される褒章を受け取る事などが出来る。
死亡報告さえ行えば問題ないため、どんな攻撃をしても、どういう状態にしても構わない。
そのため”他人を殺害したい”だとか”誰かをいたぶりたい、拷問したい”という欲求を持つ、それ専門のとんでもなくヤバいプレイヤー達に命を狙われる事になるのである。
このブラックリスト登録は、登録されたプレイヤーに設定された損害報告が上がるか、協会を通して被害プレイヤーに和解を提案する以外での登録抹消方法がない。
なので、”事実上のキャラアカウント停止”の状態になってしまう、と言ってもいいだろう。
何せこれに登録されるまで悪事を働いたプレイヤーは、ほぼそのキャラで積み上げたもの。
能力だとか経験値、所持しているアイテムやお金などの財産のほぼ全てを失うまで殺害され続けるのだから。
「わかってるわよ。だからご褒美もいいんじゃない。横浜エリアまで”賞金首”になったまま移動しなきゃいけないんだから」
「キッツいなぁ……」
「仕事が終わったら賞金首の件は、なるべく早く取り消しといてあげる。頑張ってねぇ」
「……あの、ついでに聞きたいんですが」
「ん? なぁに」
「その”ゲダム”ってどこに居るんですか? おおまかな位置とか、どこどこの建物にいるとか……」
「わからないわぁ。たまに情報を引き出しに、使いを行かせてるけど、”ヴィラン・フィールドの奥”って意味じゃ、誰も行った事ないし、ゲダム本人には誰も会った事ないのよねぇ」
「……」
どうやら、また微妙に面倒くさい事に首を突っ込まなくてはならないようだった。
■
東京を南下していくラクは、大規模な戦闘区域設定が解除されて、人通りが増えていくのを確認すると、不安で胸が一杯になった。
いつ自分が攻撃されるか、わかったものではない。
だが、このままでは”違反者”として、あのディバルと戦って勝つ必要がある以上、生き残るにはこれしかない。
(もっとやりようはあった、かなぁ……)
銃を突きつけられたあの場で、一か八か、復活できる可能性にかけて、大人しく一度死んでみたほうがまだマシだったかもしれない。
レアアイテムの誘惑につられて、そして美少女の誘惑に負けて、思わず安請け合いをしてしまった自分を憎らしく思いつつ、ラクはなるべく目立たないよう、”横浜エリア”へと歩を進め始めて行った。




