大根の証明
ぷにぷにぷに、もっちもちもち。
なぜかほっぺを触られながら、南の森にある検証スペースへとやってきた。検証って言っても何をするんだろう。
「こちらが検証スペースとなります。ただの森ですが、騎士団から許可を貰った上で貸し切っているので、マナー違反などではございません。その点は、安心してください」
騎士団にアポ取りって、さすが検証班。
許可を取っているなら、変な輩に何を言われても正論パンチすればいいだけだし、ほんとうにしっかりしている。私みたいに検証に付き合うプレイヤーに変な気を負わせなくて済むしね。
「早速始めていきましょうか。まず、だいこん様の声を聞かせていただきたいのですが、よろしいですか?」
コクリ。
「マンドレイクと言えば死を振りまく悲鳴が有名ですが、だいこん様のスキルはどのような効果でしょうか?」
『恐怖と混乱と鈍足の状態異常になる』
「ありがとうございます!準備はできているので、お好きなタイミングでお願いします!」
どえむ……とかではないか。
私のスキルで状態異常になったらどんな感じになるのかを確かめたいだけだよね。自分で受けてみるのが一番確実だろうし。
「あっ」
「っ!?」
私の声を聞いたと思ったら、地面に膝を着いて動かなくなっちゃった。1スタック分に留めておいたんだけど、やっぱり立っているのが辛いのかな。
「あ、10秒で終わるんですね。よかったです」
秒数を数えていたってことは、精神的には余裕がある状態なのかな?身体が上手く動かせなくなる感じなのかな?
「状態異常になるのは確定でしょうか。それとも確率ですか?」
『確定。長く声を出せばもっと重ねられるよ』
「確定で状態異常にさせる上に、あれがもっと長く続くんですか!?すごい固有スキルですね!!」
『どうだった?』
「どの状態異常も受けたことはあるのですが、三つ同時に受けたことがなかったので面白かったです!」
どえむ?
いや、検証班だしこれくらい普通か。
「対象人数はどれくらいでしょうか?」
『声が届く範囲なら多分何人でも』
「すごい……とりあえず五十人で試してみましょう」
バタちゃんはそう言うと、掲示板を開いた。検証班専用の掲示板があるらしく、そこで人員を募集したらしい。Tier1の私の検証だから、すぐに集まるとのこと。
とはいえ、人が集まるのに多少の時間はかかる。その間に他の検証を進めることになった。
「初期ステは分かりますか?」
LUKが3だったのは覚えているんだけど他はなんだったっけ……。朧気な記憶を頼りに、何とか数字を書いていく。
『だいたいこんな感じだった』
「ふむふむ、控えめなステータスですね。固有スキルが強力な種族ほど、初期ステが低くなる傾向があるんです。一方で、いくつかの機能が使えなくなる代わりに、初期ステも固有スキルも凄まじい種族もいるんですけどね」
そんな種族もいるんだ。戦闘特化みたいな感じなのかな。
「あとは……何をしましょうか。隠し特性、ステータスに記載されていない種族特有の性質を調べましょう!」
『そんなのがあるの?』
「はい!例を挙げるなら、マーメイドが淡水でスリップダメージを受けたり、犬獣人はネギやぶどうを食べられなかったりします」
そんなのがあったんだ……。
今のところ大丈夫だけど、気をつけないと。マンドレイクなんだから植物っぽい弱点があってもおかしくない。何がダメなのか、分かるといいな。
「これまで、何らかの原因で調子が良くなった、悪くなったという経験はございますか?」
うーん、どうなんだろ。特に違和感なく過ごしてたから、ないんじゃないかな。
少し悩んだ後、首を横に振る。
「そうですか……。では、手当たり次第に試してみましょうか。だいこん様……大根ちゃんって呼んでいいですか?」
『うん、敬語もいい』
「やったー!それじゃ、マンドレイクは植物系の魔物だと仮定して、植物の苦手なものを試していこう!」
マンドレイクは植物系の魔物だと思い込んでいたけど、そうじゃない可能性もあるのか。視点が違うなー。
「あ、Lv5以上?」
コクリ。
「じゃあ死なない程度にやらないと。ここに回復ポーション置いとくから、死にそうになったら使ってね」
私が頷くと、バタちゃんは目の前に回復ポーションを置いた。検証で死んでデスペナ食らったら、責任取るのは検証班だもんね。慎重になるのも当然か。
「まずは燃やすね?すぐ消せるようにしておくから安心して」
コクリ。
「じゃあ、つけるね。指を出して」
言われた通り指を出す。道具も何もないけど、フレイムモスの能力か何かで火をつけるのかな?
「ファイア・クリエイト」
バタちゃんの指先から火が出て、マッチのように燃えている。【火魔法】が取れなかったから火に弱いかもしれない。そんなことを今更ながらに思い出す。
火が私の指先に触れると、少しずつダメージを受け始めた。しかし、思いのほか燃え広がることはなかった。
「ウォーター・クリエイト」
バタちゃんの手のひらに水の塊が生成され、私の腕にかけられる。ジュォォォと音を立てて火が消えていった。燃えたにもかかわらず、HPは二割ほどしか削れていない。
ファイア・クリエイトは【火魔法】だと思ってたけど、ウォーター・クリエイトもあるってことは生活魔法かな?
『二割くらいしか削れてない』
「意外と削れなかったねー。中まで火が通りにくいってことなのかな?その見た目なのに、火に弱いってわけじゃないんだね」
あれかな、人参は火に通さないと硬くて食べられないのと同じようなものかな。
「じゃあ、次は海水をかけてみようか。一滴だけ指にかけるね」
バタちゃんはインベントリから、海水の入った容器を取り出す。私が手を差し出すと、ポツンと一滴海水を垂らした。
「っ!?いたっ、痛い……」
「……っ」
海水が指に垂れた瞬間、なんとも言えない痛みが襲いかかる。
なにこれ、痛い。ポーション……あれ、治らない。
慌ててポーションを飲んだけど、痛みは全く減ってくれない。そこで私は、ホルスターからナイフを取り出して指に当てる。
───サクッ。
まるで大根を切ったかのような音を立てて、指を切り落とした。そしてようやく痛みが消える。
AWOは痛覚にかなりのフィルターがかかっていて、今指を切った時もグリーンハウンドに噛まれた時も大して痛くなかった。それなのにさっきの痛さはなんだったんだろう。
もう一度回復ポーションを飲むと、指がぐんぐん生えて元通りになった。その後しばらくして、跪いていたバタちゃんが起き上がった。
「ごめん大根ちゃん!あんなふうになるとは思ってなくて!」
『なんであんなに痛かったんだろう』
「ちょっと外部サイトで調べてみるね」
バタちゃんが探してる間はすることがないし、私も一緒になって検索することにした。ゲーム内からでも外部のサイトに繋いで検索をかけられるから、いちいちログアウトする手間がなくて便利だ。
大根、海水っと。
塩水につけると身体から水分が出ていって、しなしなとした食感になる……ね。大根に起こる現象が私にも起きたってことは一旦置いといて、身体から一気に水分を持ってかれたからあんなに痛かったんだ。
バタちゃんも同じような結論に至ったみたいで、しばらく海エリアは控えることにした。
そうしていろいろ分かったところで、協力してくれる人たちが集まったみたい。
「ここから半径50メートル以内の場所にランダムで人員を配置するから、用意ができたら合図するね。マナポーションがあるから限界まで叫んじゃっていいよ」
コクリ。
そんな長時間叫んだことないから、どうなるか楽しみだ。何スタックか重ねたら重症化するシステムとかあるのかな。
「いいよー!」
深く息を吸い込む。そして、思い切り声を上げた。
「キャァァァ───────────」
叫んでいる途中、近くにいるプレイヤーが地面にうずくまるようになっている。それを見て、私の中の何かが刺激された。もっと叫んで苦しませたいとか、全然思ってない。
「──────────────────っ!!」
残りのMPがギリギリになったところで、声を止めた。
MPが50くらいしかなかったから15秒で抑えたんだけど、それがなければもう少し叫べそう。ただ、最後の方は少し声が小さくなっちゃったから、一番離れている人には聞こえなかったんじゃないかな。
近くで倒れているこの人たちは、2分半待たないと起き上がれないと思うけど。
……いや、さすがに強すぎじゃない?運営さん、修正とかほんと勘弁してね?
面白いと思ったら高評価、ブックマークをお願いします!




