プレイヤーズ・マーケット
遊牧民の集落でログインした私は、そのままファストリアへワープした。グリーンハウンドの毛皮の納品と、換金をするためだ。なにせ手持ちが7ゴールドしかない。
受付で納品を完了すると、5000ゴールドを受け取る。そのまま換金所へ行きドロップアイテムを提出すると、だいたい3500ゴールドの稼ぎになった。
とはいえ、MPを10回復する低級マナポーションが一本3000ゴールド。これじゃあ二本しか買えない。おかしなレートだよ。
プレイヤーがこの世界に来てまだ三日目ってことで物価が安定していないからだろうけど、第二エリアに行く人が増えれば、少しずつ安くなっていくのかな?
さて、これで一応まとまったお金ができたし、もう一度街を見て回るのもいいかもしれない。初日とは違った食べ物が売られているかもしれないし、レベリング前のチルタイムってことで。
そういえば、昨日掲示板を見ている時に気になる場所の話が出ていた。
ファストリアがプレイヤーたちを受け入れるにあたって、南西エリアの通りを更地にしたらしい。そこに異世界人の交易所、プレイヤーズ・マーケットを開いたみたい。
プレイヤーが入手したり作成したアイテムを好きに売ることができるようになっている。場所は早い者勝ちで、空いている場所に勝手に陣取っていいとのこと。何万ものプレイヤーがいれば、面白かったりユニークなプレイヤーもいるだろう。
面白そうだし行ってみようかな。掘り出し物みたいなのがあるといいけど。
◇◇◇
途中で購入した焼き芋を食べながら、プレイヤーズ・マーケットを散策する。食べ歩きとつまみ食いは、食への最高のスパイスだと思う。
プレイヤーズ・マーケットは仕切られた範囲内で自由に場所を取って販売し、飽きたら片付けて撤収。そして空いたスペースに、また次の人が入っていく。そんな形式になっている。
ただ、売り手がプレイヤーってことで活気があまりない。試しに売ってみようだとか声を出すのが恥ずかしいだとか、鍛冶師見習いのように生活がかかっているわけじゃないから、やる気のない間延びした声がそこかしこから聞こえてくる。
売り物を見ても大概だった。そこら辺で入手した石やら水やら。試しにやってみたいのは分かるけど、もう少しマシなものを出して欲しい。
「ゴブリンの爪となんかいいもん交換してくださーい」
「ヒーラー@1」
「なんかくれー」
そして聞こえてくる声はこんなもの。ただの乞食もいるし、どさくさに紛れてパーティー募集をしている輩もいる。激レア!とか、今だけ大特価!とかいうPOPを作っている人もいるけど、確実に分かる嘘はやめた方がいいんじゃないかな。
そんな感じで歩き回っていると、やけにたくさんのプレイヤーに囲まれた場所を見つけた。さすがに気になって近づいてみる。
「はーい、ここは検証班のエリアだよー!情報の提供や検証に付き合ってくれれば、それに見合うものと交換するよー!」
どうやら検証班の売り場らしい。そりゃ人が集まるわけだ。
まだサービスが始まって三日目だけど、AWOの検証班に対するプレイヤーの信頼は厚い。
この手探り要素の強いAWOの世界で、スキルやアイテム、政治や歴史について検証した結果をたびたび掲示板で共有している。私も何度もお世話になったし、既に信頼度は上限に達していると言ってもいい。
検証班のプレイヤーたちは、全員がランダムクリエイトでアバターを作成している。もちろん、いろいろな種族について考察するためだ。
だから、私の情報をあげたら結構な見返りを期待できるんじゃないかな。かなり面白い性能をしていると思うし、喜んでもらえると思うんだけど。
「おやおや!?あなたはTier1の方じゃないですか!!」
「っ!?」
声がしたのとほぼ同時に、横からグンッと顔が伸びてきた。思わず叫びそうになったけど、焼き芋を勢いよく口に突っ込んで叫ぶのを防ぐ。食べる直前だったことが幸いして、事なきを得た。
「焼き芋がお好きなんですか!?あ、申し遅れました!私、検証班のButterflyドリームと申します!フレイムモスという種族です!どうぞ、バタちゃんとお呼びください!」
い、勢いがすごい。
バタちゃんと名乗ったこの元気な女性は、背中からオレンジ色のちょうちょの羽が生えていた。頭には触覚のようなものがあって、ゆらゆらと揺れている。
「こちらにいらした、ということは検証班に興味が?」
コクリと頷く。
するとバタちゃんは周囲をちらりと確認して、私の耳元で囁くような話し方にシフトした。
「話せない、もしくは話したくないという認識でよろしいですか?」
コクリ。
「あなたの種族はマンドラゴラですか?」
はいかいいえで答えるより、筆談でやり取りした方が楽そうだな。インベントリからノートとペンを取り出す。プレイヤーズ・マーケットに来る道中、雑貨屋があったから買っておいたんだ。
『マンドレイクだよ』
「AWOはマンドレイク派……と。叫び声でなくとも、呪いのようなものが発生するのですか?」
コクリ。
「では、どのような……失礼しました。一方的に質問するのは良くないですね。こちらに来たということは、情報や何かをお求めですか?」
別にこれくらいなら話してもよかったんだけど、検証班のポリシーとは違うみたい。私の中の検証班への信頼度がどんどん上がっていく。
というかポンポンと質問することが出てくる感じ、何となく私の種族が分かってた感じだよね?さすが検証班、情報を集めるのが早い。
『検証するようなことがあれば付き合うから、対価として何かが欲しい』
「検証に付き合っていただけるのですか?」
コクリ。
「ありがとうございますっ!!私たち検証班は珍しい種族のプレイヤーたちをマーキングしておりまして、あなたはTier1、つまりどうしても話を伺いたいプレイヤー筆頭なんですよ!!」
そんな目で見られていたとは思わなかったけど、悪い気はしないね。私はTier1、ふふっ。
「あ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?あと、都合のいい日時はございますか?」
『だいこんっ!!って名前。時間はいつでも大丈夫。なんなら今からでもいいけど』
私がそう言った瞬間、バタちゃんは検証班のブースの方を振り返った。他の検証班の人たちと、ハンドサインでやり取りしている。普通に話し合った方が早い気もするけど、言うべきじゃないよね。
しばらくやり取りした後、最後にリーダーっぽい人がグーサインを出した。それを確認したバタちゃんは、ニコニコで私に声をかけてくる。
「許可が出たので、今から向かいましょう!南の森に検証スペースがあるので、そちらでいろいろ検証させていただきます!」
まだ北の森にしか行ったことないから、どんなふうになってるのか楽しみだ。検証スペースって言うくらいだから、専用の設備でもあるのかな。
そんなことを考えていると、バタちゃんは私の手元に視線を落とした。
「これは報酬でもなんでもないのですが、まだお芋を食べたいのなら買いますけどどうします?」
私は乞食だから、くれるって物はありがたくもらうよ。でも今は喉が乾いてるんだよね。
『飲み物が欲しい』
「分かりました。南の森へ行くまでの通りに炭酸もどきがあるので飲んでみます?」
コクリ。
「ふふっ、ほっぺ触ってもいいですか?」
コクリ。
……ん?ほっぺ?葉っぱじゃなくて?別にいいけどさ。
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