9.王子様?ただの知り合いです
入学式から三日後――。
朝のホームルームが終わったとたん、アイナちゃんが私を見た。
「リラちゃん、クイズラリーのグループどうする?」
「……なんですか?それ」
クイズラリー??
首をひねる私に、アイナちゃんが目を丸くした。
「今先生が話してたやつだよ。『学園探検クイズラリー大会』。あさってやるって言ってたじゃない」
「え、そうなんですね?私、今オーウェン様への手紙を書いていたので、全然聞いてませんでした!」
早く会いたいから、今度遊びに行きますねって書いてたところなんだけど……。
「メモを取ってるのかと思ってたら、手紙書いてたんだね……」
アイナちゃんが私に説明をしてくれたところによると、四、五人で一グループとなり、クイズを解いて学校を回るらしい。
学園見学を兼ねた、一年生の恒例行事のようだった。
「なるほど。私とアイナちゃんと、あと二人必要ということですね」
「うん。誰かに声かけないとね」
「それなら、知り合いに早速聞いてみます」
というわけで、私は窓際のトーマ様の元へとずんずん歩いていく。
後ろの席の男子と話していたトーマ様は、私に気づくと穏やかな笑顔を向ける。
「あぁ、リラ。どうしたの?」
「トーマ様。クイズ探検、私達と一緒に組みません?」
「クイズ探検じゃなくて、クイズラリーだね。うん、いいよ」
「ありがとうございます。もう一人誰かいますか?」
「あ、俺入る」
トーマ様と話していた赤毛の男子が、手を上げてくれた。
感じ良さそうな人なので良しとしよう。
「ありがとうございます。じゃ決まりってことで」
「うん、よろしく」
さっと手を上げると、彼らもさっと手を上げてくれたので、私はアイナちゃんの元へと戻った。
「決まりました。トーマ様と、その後ろの男子です」
「あ、うん……ありがと。……っていうか、すごいね。勇気あるね」
「え、勇気?」
呆然とするアイナちゃんに私が首をかしげていると、わーっとクラスの女子が集まってきた。
「ファルケさん、窓際の王子と知り合い?」
「え?王子って……」
もしかしてやっぱりバレてる?
トーマ様がリアディスの王子だってこと。
「なんかもう雰囲気が王子って感じだよねー!」
「うん、佇まいとか、振る舞いとか、なんか違う!イケメンだけじゃ説明つかないのよ」
「あぁ、そういう意味ですか……。びっくりした」
さすがに入学して三日でバレないか、と胸をなでおろす私。
「で、知り合いなの?」
「そうですね、知り合いです」
「いいなー!あんなにあっさりオッケーもらえるんだね!」
クラスメイトにそんな緊張するものなのかしら?
そりゃあ、相手がオーウェン様だったらドキドキするけど……。
「ファルケさん、付き合ってないよね?」
突然そんなことを言われて、私は驚きつつも素直に答えた。
「え?私は残念ながら、まだオーウェン様に振り向いてもらえてないんですけど……」
「オーウェン様?? じゃなくて、あの窓際の王子様だよー!」
「えぇ!?私がトーマ様と?ないですよ!ありえないです!」
びっくりして思いっきり両手を振って否定すると、クラスの女の子たちがほっとしたような顔を見せる。
「そっかー。よかった!ファルケさんと窓際の王子が並んだら、お似合いすぎて太刀打ちできないって思ったから」
「お似合い?ありえません!私にはオーウェン様しかいないですし、知り合いというだけでそんなことを言われてしまったら、トーマ様にもご迷惑です」
私がそう言うと、彼女たちは「窓際の王子にしばらくは夢をみられる~」と喜んでいるようだったので、「それはよかったです」と返しておいた。
「リラちゃんて、いろんな意味で強いよね」
アイナちゃんが呟いていた。
*************
一方の窓際席――
リラを囲む女子を遠目に見ながら、ロイが楽しそうに言った。
「トーマ、あの銀髪美人に思いっきり振られてるぞ」
「あははっ!リラらしいな」
「あんなにはっきりと『ありえない』って言われたらちょっとは傷つかない?」
「え? 僕だって絶対ありえないと思うから、全然気にならない」
にこにこ笑うトーマに、ロイが「ふぅん」と頷いた時だった。
ガラッと教室のドアが開いたかと思うと、背の高い一人の男子生徒が飛び込んできた。
教室内の生徒は一斉に彼を見たけれど、そんな視線などお構いなしで、窓際へ一直線に向かっていった。
「殿か……じゃなくてトーマ様!クイズラリーしますよね!?」
トーマの机にドスンと両手を乗せてそう言ったのは、彼の護衛騎士であり、隣のクラスのカイルだった。
「するけどなに?どうしたの?」
「俺も一緒のチームにしてください!そうじゃないと落ち着かなくて!!」
「同じクラスの人とやったほうがいいんじゃないの?親睦も兼ねてるんだろうし」
「いや、ダメです!とりあえず初回の行事くらいは、ご一緒させていただきます!!」
突然やって来たカイルの勢いに、ロイが目を丸くしている。
「……えーと……お前、トーマの舎弟とかそういうの?」
「舎弟⁉ ウケる!違いますよ!でもまぁそんな感じです!」
「舎弟ってなに?」
首をかしげるトーマに、カイルが「護衛騎士って言っていいんですか?」と耳打ちする。
「えぇと、じゃあ舎弟で」
「……マジで?」
意味も分からずとりあえずそう言ったトーマに、ロイが顔をしかめる。
カイルが楽しそうに大きく頷いた。
「そうそう。俺はトーマ様の舎弟のカイル・クラウザー。よろしくな!」
「ロイ・フォールだけど……お前ガタイ良くない?」
「鍛えてるんで!」
「へぇ~すっごい!どういうことしてるの?」
急に筋トレ話を始める彼らに、トーマはただ一人「舎弟ってなんだろう?」と首をひねる。
こうしてリラとアイナの知らないうちに、クイズラリーのメンバーが、一人追加されているのだった。




