7.友達ができました
今日から毎日更新します。11:40です。よろしくお願いします。
教室のある南棟までやってきた私達。
A組の教室の前で、カイル君がトーマ様に念を押し始めた。
「殿下、うまい話と怪しい話に乗ってはいけませんよ?
それから、お金の貸し借りをしてはいけません。知らない人についていかないようにしてください。万が一呼び出されることがあったら、俺も行くんで教えてくださいね!?」
うちの母と同じことを言ってるなぁと思って見ていたら、トーマ様が言った。
「……カイル。僕子どもじゃないんだよね」
「知ってます。でも世間知らずという意味では、子どもと同じです」
「……すっごい傷つくなぁ」
「大丈夫ですよ、カイル君!トーマ様は私がちゃんと見てますから、任せてください!」
私が胸を張ってそう言うと、彼らはこちらをじっと見て黙り込んだ。
……なんですか、その沈黙は。
何とも言えない表情をする彼らに、私はにこりと笑って見せる。
するとため息をついてから、カイル君が言った。
「まぁ仕方ない。リラちゃん、殿下をよろしくね。俺もなにかあったらすぐ駆けつけるから」
「はーい」
「リラに頼るくらいなら、たぶん一人でもやっていけるよ」
「遠慮しないでください!トーマ様は、本当の意味でピカピカの一年生ですからね!ほら、教室行きましょう!ついてきてください」
歩いて案内しようとする私にトーマ様が言った。
「リラ。どこ行くの。教室ここだよ」
カイル君の「うわー、人選ミス!」と呟きが聞こえてきた。
どうも信用されていないみたいだったけれど、教室に入るくらいなんでもないのよ!
私は堂々と教室に入って行った。
しかし、トーマ様は入口で立ち尽くしてしまった。
緊張してるのかな?
きっと不安だよね、と思いつつトーマ様を見ると、彼はワクワクした様子で目を輝かせていた。
「これが教室……!」
そうか、教室も初めてなんだ。
初めてづくしの彼に、私もなんだか新鮮な気持ちになる。
「イメージ通りですか?」
「わかんない。けど、なんか人生変わりそうなくらいの衝撃」
「教室が?」
「こんな狭い空間に、たくさんの同世代が集まって、みんながそれぞれ違うこと考えてたり、同じ勉強をするなんて、信じられなくない?」
「……私には当たり前すぎて、全然感覚がわからないです」
「そっか。すごいことだと僕には思えるよ」
静かに、でも熱を帯びた声でトーマ様は言った。
青い瞳がキラキラと輝いている。
お城しか知らない彼には、本当に衝撃のようだった。
「トーマ様、とりあえず席に座りましょう。なんか指定されてるみたいです」
「わかった」
私の席は教室の中央、トーマ様の席は窓側の後ろの方だった。
あたりをぐるりと見回してみると、知り合いとおしゃべりしている子、席について寝ている子、本を読んでいる子、じっと動かない子、様々だった。
学園生活が初めてではない私も、新しい環境であることに変わりはない。
トーマ様のように新鮮な気持ちになる。
オーウェン様の話とかしてる人いないのかなぁ?
そんなふうにキョロキョロと辺りを見ていると、隣の席に一人の学生がやって来た。
「隣の席だね。私、アイナ・ミラー。よろしくね」
にこりと微笑んだ彼女は、茶色い髪の毛を肩のあたりでふわりと揺らしながら席に着いた。
「リラ・ファルケです。よろしくお願いします」
「ファルケさん、まっすぐで綺麗な銀髪だね!うらやましいなぁ」
「そうですか?」
「うん。まさに正統派美少女って感じだよ。私は、ほらちょっとくせ毛だから、ストレートヘアに憧れてるの」
彼女は自分の髪に触れながら笑う。
とても感じの良い人だ。
「でも、アイナ・ミラーさんの髪の毛も、優し気な雰囲気がとても似合ってると思いますよ」
「ありがとう。アイナでいいよ」
「アイナちゃん。私のこともリラとお呼びください。実を言うとですね、私は黒髪に憧れているんです」
「え、黒髪?どうして?」
首をかしげるアイナちゃん。
よくぞ聞いてくれました!!
「それは、私の想い人であるオーウェン様とお揃いだからです」
「……オーウェン様??」
「え!!ご存じありません!?天才魔術師のオーウェン様です!!」
「あ、もしかして、今の魔術師団の団長?オーウェン・ブルー?」
ポンと手を叩くアイナちゃんに、首がもげるほど頷いた。
「そうです!!」
「あー、そうなんだ!あの人、雰囲気あってカッコいいもんね。
確か、私達が十歳くらいの時に団長の就任式があったと思うんだけど、それまでの魔術師団長って、カッチリして真面目な印象が強かったじゃない? それとは全然違うイメージで出てきた人だから、すっごく覚えてるの」
わかってらっしゃる!!!!
彼女の言葉に、体中がぐわっと熱くなった。
アドレナリンが大放出中なのが分かる。
「そうなんですよ!!オーウェン様って、規則に縛られるのがあんまり好きじゃないんです!自由人で飄々としていて、でもその実力で周りが放って置かないというか……もう全てにオーラがあってすごいんです!!」
身を乗り出す私に、アイナちゃんは少し体を引きつつもこう言った。
「私、本物見たことないからわからないんだけど……リラちゃんは、オーウェン団長のファンなのね?」
「いえ、愛です!いつか、結婚したいんです!!」
「……そう。年上が好きなんだ?」
「オーウェン様が好きなんです!」
きっぱりという私。
「へぇ……。リラちゃんて、見た目と違ってなんていうか……勢いがあるのね」
「よく言われます。私って、そんなに元気なさそうな顔してるんですかねぇ?」
「うーん、そういう意味じゃなくて……気取ってなくていいね」
彼女が考えながらそう言った時、先生が入ってきたので、この話はここで終わりになった。
感じの良い人だ。
なんといっても、オーウェン様の就任式を知っているんだから、これは素敵な仲間を見つけてしまったわね!
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窓側の席に座ると、僕は教室をゆっくりと見渡した。
同じ制服を着て、思い思いの過ごし方をしているクラスメイト達。
これが学校かぁ。
同世代ばかりで圧倒されてしまう。
大人に囲まれていた自分は、おそらく本当に特殊なんだろう。
ふとリラを見ると、隣にやって来た女生徒と話を始めていた。
こういう時は何を話すんだろう?参考にしよう。
そう思って見ていたら、リラが急に興奮気味に話を始めている。
まさかと思っていると、黒髪がどうとか、魔術師がどう、などと聞こえてくる。
あぁ……オーウェン話か……。
初対面の人に、いきなりオーウェンの話をしているリラ。
参考にはならないけれど、すごくおもしろいな。
相手が理解ある人でよかった。
一歩間違えたら、ドン引きされるやつだ。
リラは学園でも、オーウェン一色なんだな。
リラを見ながら、しばらく周りを観察していたけれど、ふとあることに気づいた。
リラの容姿は人目を引くらしい。
女生徒も彼女をチラチラ見ていたけれど、男子生徒の視線は明らかだった。
へぇ、なるほど。
おもしろいなぁ。
彼女はちょっと変わった面白い子、という認識でいたのでまるで気づかなかった。
本人もあんな調子なので、全く気付いていないようだけれど。
うん、絶対気づかないだろうな。
オーウェンしか見えてないから。
そんなことを考えていたら、前の方からこんな話が聞こえてきた。
「知ってる?なんかさぁ、今年の1年生にリアディスの王子がいるらしいよ」
ドキリとして見ると、悪気なく普通に話をしている三人の生徒がいる。
「え、そうなんだ?王子って確かすごい病弱って話じゃなかった?」
「そうそう。小さいころから病弱で、全然表に出てこないよね」
みんなよく知ってるなぁと感心してしまう。
「どんな人なんだろうね?」
「青い顔してふらっふらの人かな?」
「病弱で甘やかされてるから、とんでもないわがままだったりして」
「えー、やだなぁ」
なるほど。
世間のイメージはそれか。
一応自分では元気だし、甘やかされた記憶もない。
わがまま……?
これはちょっと人に聞いてみないとわからないけれど。
とりあえず、顔を知られていないのはちょうどいい。
しばらくは普通の学生として生活したいし、このままでいい。
いずれバレるだろうし、変に隠すつもりもない。
その時はその時だ。
そう考えながら一人、教室の椅子に座るのだった。




