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6.普通の学生について教えます

 入学式の会場はとても広く、すでにたくさんの学生が席についていた。

 前の方から順に席が埋まっており、後方しか席が空いていなかった。


「適当に座っていいみたいですね」


「え、でも殿下がこんな後方に座るとか、ありえなくないですか?」


「ただの生徒だから関係ないでしょ」


 トーマ様はそう言って、顔をしかめるカイル君をよそに、さっさと椅子に座ってしまった。

 トーマ様を中央にして、私とカイル君が席に着く。


「すごいな。こんなにたくさんの同世代を見たのって初めてだ」


 ワクワクした表情でトーマ様が言った。

 そっかぁ。

 学校初めてってことは、そういうことなんだ?


「たくさん友達ができるといいですね」


 何の気なしに言った私に、トーマ様は深く頷いた。


「できるといいな」


 素直すぎる返事に、思わずカイル君と目を合わせて笑ってしまった。



 そのあとすぐに入学式が始まった。


「みなさん、入学おめでとうございます。

 このリアディス王立学園とは、王国の主要な職業に就くための教育機関であり……みなさんは、国家最高峰の人材となるべく――なんたらかんたら。

 この場にいる皆さんは、狭き門を潜り抜けた大変優秀な……なんたらかんたら……」


 はーーー。

 なんで学園長先生の話って、どこも長くてつまらないのかしら。

 簡単なことを、わざわざ難しく言うんだものね。


 つまりお城で働くために、頑張って勉強しましょうってことでしょ?

 どうせなら、お城から魔術師団長であるオーウェン様を呼んで、ありがたいお言葉をいただいた方がいいと思うんだけど……。

 あぁ、今頃オーウェン様は何をしているのかしら?


 そう思いながら、隣を見るとトーマ様とカイル君は微動だにせず、まっすぐに校長を見ていた。

 ……さすが王子とその護衛騎士だわね。


 仕方なく私は、周りを観察してみたり、オーウェン様のことを思い出したりして、その場をやり過ごしたのだった。




 **********




 入学式が終わると、教室に移動となった。

 自分がどのクラスかは、春休み中に手紙で知らされている。


「トーマ様は何組ですか?私はA組なんですけど」


「僕もA組だよ。一緒だね」


 わー、よろしくおねがいします!とやりとりしていると、カイル君が口を尖らせた。


「いいなー。俺だけB組とか寂しい」


「え、カイル君は護衛騎士なのに、トーマ様と離れるんですか?」


 驚く私に、トーマ様が普通に言った。


「うん。カイルが一緒だと普通の生活が送れなそうだから、事前に頼んで分けてもらった」


「ひどいですよねー。学園は比較的安全とは言え、なんのための護衛騎士なんですか。殿下は一度決めると、即行動しちゃうから困りますよ」


 納得のいっていないらしいカイル君に、トーマ様は穏やかに言った。


「カイルも、普通の学生すればいいんだよ」


 ぴたりと動きをとめるカイル君。


「……いいんですか?」


「いいよ。僕もそうするから」


 にこりと微笑むトーマ様に、くるりと後ろを向いて小さくガッツポーズをするカイル君。

 先ほどとは一転して、彼の周りには喜びの小花が散っているように見える。


「カイル君も、普通の生活をしたいんですか?」


「したいよ。この一年ずーっと騎士団で走ったり筋トレしたり、演習してばっかりだったから」


「へぇ~。それは地獄ですね!」


 オーウェン様なんて、いっつも薬局にいたけど、あれは魔術師だからなのかしら?


「そうだろー? せっかく学生生活するんだし、この三年で彼女見つけたい」


「いいですねぇ!カイル君はすぐできそうですよ。いいなぁ。恋人のいる学園生活!私は就職してからに取っておきます!オーウェン様と職場恋愛するんです!」


 大いに盛り上がる私とカイル君に、トーマ様が呆れたように言った。


「……二人とも、勉強頑張れっていう学園長の話、聞いてなかったの?」


「聞いてませんでした」


「俺もです」


 きっぱり言う私に、同意するカイル君。


「え?カイル君聞いてると思ってたのに。真面目な顔して学園長を見てましたよね?」


「うん。無になってた。騎士団長の話し中もよくやってる」


「……カイル、それはまずいんじゃないの?」


 私とカイル君の会話に、トーマ様がため息をつく。

 トーマ様、わかってませんね?


「あのですね、トーマ様。普通の学生のほとんどは、学園長の話なんて聞いてませんよ」


「え、そうなの?」


 私の言葉に、トーマ様は心底驚いた顔をする。


「そうです。みんな全然違うことを考えてやりすごしてます」


「はははっ!リラちゃん、真面目な顔して言ってることめちゃくちゃだよ」


 カイル君が楽しそうに笑う。


「殿下、話は聞いといた方がいいですからね」


「え、結局どっち?」


 顔をしかめるトーマ様に、私とカイル君は「聞けるなら聞いた方がいいです」と伝えておいた。


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