6.普通の学生について教えます
入学式の会場はとても広く、すでにたくさんの学生が席についていた。
前の方から順に席が埋まっており、後方しか席が空いていなかった。
「適当に座っていいみたいですね」
「え、でも殿下がこんな後方に座るとか、ありえなくないですか?」
「ただの生徒だから関係ないでしょ」
トーマ様はそう言って、顔をしかめるカイル君をよそに、さっさと椅子に座ってしまった。
トーマ様を中央にして、私とカイル君が席に着く。
「すごいな。こんなにたくさんの同世代を見たのって初めてだ」
ワクワクした表情でトーマ様が言った。
そっかぁ。
学校初めてってことは、そういうことなんだ?
「たくさん友達ができるといいですね」
何の気なしに言った私に、トーマ様は深く頷いた。
「できるといいな」
素直すぎる返事に、思わずカイル君と目を合わせて笑ってしまった。
そのあとすぐに入学式が始まった。
「みなさん、入学おめでとうございます。
このリアディス王立学園とは、王国の主要な職業に就くための教育機関であり……みなさんは、国家最高峰の人材となるべく――なんたらかんたら。
この場にいる皆さんは、狭き門を潜り抜けた大変優秀な……なんたらかんたら……」
はーーー。
なんで学園長先生の話って、どこも長くてつまらないのかしら。
簡単なことを、わざわざ難しく言うんだものね。
つまりお城で働くために、頑張って勉強しましょうってことでしょ?
どうせなら、お城から魔術師団長であるオーウェン様を呼んで、ありがたいお言葉をいただいた方がいいと思うんだけど……。
あぁ、今頃オーウェン様は何をしているのかしら?
そう思いながら、隣を見るとトーマ様とカイル君は微動だにせず、まっすぐに校長を見ていた。
……さすが王子とその護衛騎士だわね。
仕方なく私は、周りを観察してみたり、オーウェン様のことを思い出したりして、その場をやり過ごしたのだった。
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入学式が終わると、教室に移動となった。
自分がどのクラスかは、春休み中に手紙で知らされている。
「トーマ様は何組ですか?私はA組なんですけど」
「僕もA組だよ。一緒だね」
わー、よろしくおねがいします!とやりとりしていると、カイル君が口を尖らせた。
「いいなー。俺だけB組とか寂しい」
「え、カイル君は護衛騎士なのに、トーマ様と離れるんですか?」
驚く私に、トーマ様が普通に言った。
「うん。カイルが一緒だと普通の生活が送れなそうだから、事前に頼んで分けてもらった」
「ひどいですよねー。学園は比較的安全とは言え、なんのための護衛騎士なんですか。殿下は一度決めると、即行動しちゃうから困りますよ」
納得のいっていないらしいカイル君に、トーマ様は穏やかに言った。
「カイルも、普通の学生すればいいんだよ」
ぴたりと動きをとめるカイル君。
「……いいんですか?」
「いいよ。僕もそうするから」
にこりと微笑むトーマ様に、くるりと後ろを向いて小さくガッツポーズをするカイル君。
先ほどとは一転して、彼の周りには喜びの小花が散っているように見える。
「カイル君も、普通の生活をしたいんですか?」
「したいよ。この一年ずーっと騎士団で走ったり筋トレしたり、演習してばっかりだったから」
「へぇ~。それは地獄ですね!」
オーウェン様なんて、いっつも薬局にいたけど、あれは魔術師だからなのかしら?
「そうだろー? せっかく学生生活するんだし、この三年で彼女見つけたい」
「いいですねぇ!カイル君はすぐできそうですよ。いいなぁ。恋人のいる学園生活!私は就職してからに取っておきます!オーウェン様と職場恋愛するんです!」
大いに盛り上がる私とカイル君に、トーマ様が呆れたように言った。
「……二人とも、勉強頑張れっていう学園長の話、聞いてなかったの?」
「聞いてませんでした」
「俺もです」
きっぱり言う私に、同意するカイル君。
「え?カイル君聞いてると思ってたのに。真面目な顔して学園長を見てましたよね?」
「うん。無になってた。騎士団長の話し中もよくやってる」
「……カイル、それはまずいんじゃないの?」
私とカイル君の会話に、トーマ様がため息をつく。
トーマ様、わかってませんね?
「あのですね、トーマ様。普通の学生のほとんどは、学園長の話なんて聞いてませんよ」
「え、そうなの?」
私の言葉に、トーマ様は心底驚いた顔をする。
「そうです。みんな全然違うことを考えてやりすごしてます」
「はははっ!リラちゃん、真面目な顔して言ってることめちゃくちゃだよ」
カイル君が楽しそうに笑う。
「殿下、話は聞いといた方がいいですからね」
「え、結局どっち?」
顔をしかめるトーマ様に、私とカイル君は「聞けるなら聞いた方がいいです」と伝えておいた。




